新TSの方程式 パターン1


ビーービーービーー

『起きろー、異常だべー』
「うーん、あと5分・・・」
激しい警告音が鳴り響くが、それを手探りで止めようと手を伸ばす。
『目覚ましじゃないんだから、ほれ起きろ』
「うー」
コールドスリープから強制解除をされる。目は覚めたものの、気分が悪い。
「何なんだよ」
『密航者がいるらしいで。よくわからんのやけど』
船内コンピュータがスクリーンに地図を出す。生体反応を示す赤い点が、ここブリッジと、もうひとつ、貨物室に浮かび上がる。
「うえー、面倒なことになったな」
『そう言わんと、さっさと見に行きゃー』
もはや何弁かわからないコンピュータの言葉に、しぶしぶ服を着る。

人間が移植可能な惑星を探す探検隊が、いろいろな星系に旅立っている。そんな中、ある星の探検隊から緊急信号が地球に送られた。未知のウィルスに感染し、現地の医療設備だけではワクチンを作れず、このまま全滅してしまうかもしれない、ということだった。送られてきたウィルスの遺伝子情報から、すぐさまワクチンが作られた。しかし、それを送るための宇宙船が旧式の船しかなかったのが運の尽き。その惑星に到着するためのぎりぎりの燃料しか搭載できず、余分なものは食料さえも積むことができない。僕は、パイロット兼医師として、このオンボロ船で現地に赴くのであった。

「うわーん。ごめんなさーい」
密航者は、何と少女だった。年齢を聞くと15歳という返事。しかし、もっと幼いようにも見える。
「とにかく、この船の場合、助けてあげることもできないんだ」
「そ、そんな。助けてください、お願いします」
「こんな緊急任務の場合、本来なら命すら保証されないんだよ」
僕の言葉に、少女の目には涙が浮かぶ。
『あんさん殺生やなぁ。どうにかしてやんさいな』
「しかしなー、どうしろっていうんだ?」
『なーに、60Kgほど質量を減らせばいいねん。簡単じゃろ?』
「むちゃ言うな。余分なものは一切無いんだぞ」
『あんさん、体重60Kg以上あるばってん・・・』
「お前の言いたいことはわかった。しかし、僕は死んでもいいっていうのか?!」
『まぁ、女の子の方が好きじゃからのう』
「わたしもできれば、その方が・・・。少女の命を救うため、自らの命を投げ出すなんて、かっこいいですよね」
コンピュータと少女の二人(?)から言い寄られる。
「あのなー、僕だって自己犠牲の精神がないわけじゃないぞ。だけど、探検隊数百人の命を助ける必要があるんだ。そのためには僕がいないとならない」
『だーいじょうぶ。方法はありまっせ・・・』

「記憶と人格を移植するだって!?」
コンピュータの提案は、とんでもないもののように聞こえた。
『必要なのは、あんさんの知識と技術。もちろん人格も保護できます。ばっちりやんけ』
そう言われると、反論できない。探検隊の命を救うためには、僕の体を捨てなければならないことは確かなのだ。だったら、その方法を選択するしかない。
「・・・わかった。すぐやってくれ」
『ほいなー』

『すぐ済みますよって』
僕と少女は、いろいろなコードが繋がっているヘルメットをかぶせられた。
『ほな、行くぜよ』

・・・ばちばちばち・・・

コンピュータの言葉とともに、頭に電気が走ったような衝撃が伝わってくる。しかし、それも一瞬だけで、すぐに止まってしまった。
「おい、失敗か?」
『何言ってるん。成功したっぺ』
だが、別に何も起きたようには思えない。少女のほうを見るが、きょとんとして、こちらを見ている。しかし、その口から飛び出したのは衝撃的な言葉だった。
「あれー、僕がいるぞ」
「なっ?!」
『そりゃそうやね。人格が女の子に移っているわけだからして。ま、二重人格っちゅうことになるから、女の子と交互に表に出なはれ』
コンピュータが、少女の方に状況を説明している。
「って、ちょっと待てー! これはどういうことだ!」
『あぁ。そりゃ記憶をコピーしただけですもん。コピー元とコピー先がおるのは当然だべ』
「だ、だ、だだだったら、この僕はどうなる・・・」
「まぁ、船外投棄だろうな」
『んだ』
コンピュータはともかく、少女の僕に言われるとは思わなかった。
「僕は、何て自分勝手だったんだろう・・・」
「ま、今度は自己犠牲の精神を存分に発揮してくれ。任務は僕がきっちりと成し遂げるから」
「とほほ・・・」
こうして僕は宇宙に放り出された。

「くふふ。旧い僕には悪いけど、女の子になるのは悪くないねぇ。胸なんかもんじゃったりして・・・」
しかし、幼い少女のふくらみは、ほとんど無いも同じだった。
「うぅ。いいもん。こっちで楽しむから・・・」
そう言って、あそこに手を伸ばす。しかし、それはコンピュータに止められてしまった。
『ごほん。楽しみたい気持ちもわかりますが、酸素も減ってきましたんで、コールドスリープしにゃーとだめぜよ』
「そうか、それは仕方が無い」
ま、少女と僕は文字通り一心同体・・・おっと、二心同体だったか。とにかく、これからいろいろ楽しめるのだ。

僕は再びコールドスリープについた。