新TSの方程式 パターン2


ビーービーービーー

『起きろー、異常だべー』
「うーん、あと5分・・・」
激しい警告音が鳴り響くが、それを手探りで止めようと手を伸ばす。
『目覚ましじゃないんだから、ほれ起きろ』
「うー」
コールドスリープから強制解除をされる。目は覚めたものの、気分が悪い。
「何なんだよ」
『密航者がいるらしいで。よくわからんのやけど』
船内コンピュータがスクリーンに地図を出す。生体反応を示す赤い点が、ここブリッジと、もうひとつ、貨物室に浮かび上がる。
「うえー、面倒なことになったな」
『そう言わんと、さっさと見に行きゃー』
もはや何弁かわからないコンピュータの言葉に、しぶしぶ服を着る。

今回の任務は、地球から遠く離れた開拓星にワクチンを届けることだ。何でも感染の進行がとても早く、1ヶ月以内にワクチンを届けないと、現地の開拓民および探検隊が全滅する可能性もあるという。
しかし、救援要請とウィルスの遺伝子情報が緊急通信で送られてきたとき、運の悪いことに星間航海可能な船が一隻しか残っていなかったのだ。しかも、さらにまずいのは、旧式のオンボロ船のため、片道ぎりぎりの燃料を積むことすらままならず、乗員は1名、食料や酸素供給器も搭載できず、1ヶ月程度の航海ながらコールドスリープ航法というとんでもないもの。
そして最悪なのは、そのパイロットに任命されたのが、この僕だということなのだ。

「うわーん。ごめんなさーい」
密航者の少女は、大声で泣き出してしまった。年齢は、15歳ということだが、しかし、もっと幼いようにも見える。開拓星の父親を心配するあまり、乗り込んできたということだ。発見が早かったから良かったものの、食料も無く、酸素もぎりぎりだから、2、3日後だったら、発見されるのは死体だっただろう。
それでも、問題は別のところにある。
「とにかく、この船の場合、助けてあげることもできないんだ」
「そ、そんな。助けてください、お願いします」
「こんな緊急任務の場合、本来なら命すら保証されないんだよ」
「うわーーーん」
僕の言葉に、少女の目から再び涙がどわっと流れ出してきた。
『あんさん殺生やなぁ。どうにかしてやんさいな』
「しかしなー、どうしろっていうんだ?」
問題は燃料がすでに不足しているということだ。少女の質量分の加速をするために、停止するのに必要な分の燃料まで使ってしまったのだ。そのため、質量を減らさなければならないのだ。
『なーに、60Kgほど質量を減らせばいいねん。簡単じゃろ?』
「むちゃ言うな。余分なものは一切無いんだぞ」
『あんさん、体重60Kg以上あるばってん・・・』
「お前の言いたいことはわかる。しかし、僕は死んでもいいっていうのか?!」
『まぁ、女の子の方が好きじゃからのう』
「わたしもできれば、その方が・・・。少女の命を救うため、自らの命を投げ出すなんて、かっこいいですよね」
コンピュータと少女の二人(?)から言い寄られる。
「あのなー、僕だって自己犠牲の精神がないわけじゃないぞ。だけど、数百人の命を助ける必要があるんだ。そのためには僕がいないとならない」
『だーいじょうぶ。方法はありまっせ・・・』

「アンドロイドに記憶と人格を移植するだって!?」
コンピュータの提案は、とんでもないもののように聞こえた。この船に搭載されているアンドロイドに、意識を移すということらしい。
『必要なのは、あんさんの知識と技術。もちろん人格も保護できます。ばっちりやんけ』
そう言われると、反論できない。開拓星を救うためには、僕の体を捨てなければならないことは確かなのだ。だったら、その方法を選択するしかない。
「・・・わかった。すぐやってくれ」
『ほいなー』

『すぐ済みますよって』
僕と、いろいろなコードが繋がっているヘルメットをかぶせられた。
『ほな、行くぜよ』

・・・ばちばちばち・・・

コンピュータの言葉とともに、頭に電気が走ったような衝撃が伝わってくる。しかし、それも一瞬だけで、すぐに止まってしまった。
「おい、失敗か?」
『何言ってるん。成功したっぺ』
だが、別に何も起きたようには思えない。少女のほうを見るが、きょとんとして、こちらを見ている。しかし、その口から飛び出したのは衝撃的な言葉だった。
「・・・お、お姉さんになっちゃった・・・」
「なっ?!」
『そりゃそうやね。女性型のアンドロイドだからして。ま、ぼでーは旧くても性能はばっちりや。サイコロの積み上げから、夜のお相手まで何でもできまっせぇ』
コンピュータの言葉がやけに遠くに聞こえる。というより、耳に入ってきたが、意識が別のほうに向いていた。
僕は、自分の胸についている二つのふくらみを、震える両手で支えていた。
「ちょっと待てー! これはどういうことだ!」
『あぁ。だから今言いましたけろ。「女性型」って』
「な、な、なな。そんな話は聞いてなーい!!」
『そりゃー、聞かれにゃーもん』
「ええ。そのような質問はしていませんでしたよ」
コンピュータと少女、両方から指摘され、僕は自分の愚かしさを呪った。
こうして、僕はアンドロイドとはいえ、人間の女性とまったく変わりない体になってしまったのだ・・・ん?

「なあ。ひとつ聞くが」
僕は、とあることに気がついた。
『何や?』
「このアンドロイド。重さはどれくらいだ?」
コンピュータの、聞こえるはずの無い、ぎくっ、という声が聞こえたようだった。
『そ、それはいくら何でも普通の人間よりは、お、重い・・・はずです』
急にコンピュータはしおらしい声に変わる。
「何Kgだ!!?」
『100Kgほどですぅ』
「ぐわっー! だったら、始めからこんなもん捨てちまえば良かっただろうに。っていうか、今すぐ捨てろ。僕の意識を戻せ、さっさと」
僕は、コンピュータに掴みかかった。
「・・・お兄さんの体、息してません!!」
そのとき、僕の体を覗き込んでいた少女が、鋭い悲鳴を上げた。
「な、なにぃ!?」
確かめてみるが、確かに、心臓は確実に停止していた。
『脳のスキャンをするとな、細胞ぐっちゃぐっちゃになるんだ』(「なるんだ」は、なまってる発音で)
「ふ、ふざけるなーーーーーーーー!!」
こうして結局、僕の体は宇宙に放り出された。

「元気出してください。きっといいことありますよ」
小学生みたいな少女に慰められた。しかし、もちろん元気なんか出っこない。
『こほん。ま、なってしまったことは仕方ねーっぺや。・・・ってことで、酸素も減ってきましたんで、あんたはコールドスリープしにゃーとだめぜよ』
コンピュータが少女をコールドスリープルームへ導く。僕はごくわずかの酸素でも活動できるため、コールドスリープをする必要が無いらしい。
『コールドスリープ装置が一つしかなかったんだし、ちょうどいいわいな。ははは・・・』
最後の笑いは機械のようだった。

『さてと。では、子供さんは眠ったことだし、二人だけのお楽しみと参りますかな』
ブリッジに戻ると、コンピュータが意味不明なことを言い出した。
「何言ってるんだ、お前は?」
『言いましたでしょ。そのぼでー、夜のお相手もできるんですよ。私、久しぶりなんで、ちょっと興奮してまっせ!!』
言い終える前に、四方の壁やら天井やら、床からも椅子からもチューブが伸びてくる。それはチューブというより触手、いや先端はまるであれのようなではないか。
「おい、や、やめろ・・・」
すでに手足を触手に絡め取られてしまい、身動きできない僕は、自分が人にはありえない怪力を持っていながら、心の中は、外見と同じくか細くひ弱な女性になっているのを感じていた。
「ぅひーーー!」
触手の一本が、服の上から胸をなで上げた。その感触に思わず奇妙な声を出してしまった。
『感覚も、人間と一緒。いや、それ以上じゃからのう!』
「いらん。そんな機能、いらないー!」
しかし、コンピュータは僕の言葉に耳を貸そうとしない。
『へへへー。ではいただきまーすぅ』
「うわーーーっ!!」
そして、コンピュータの喜ぶ声とともに、淫らな触手が僕の体に襲い掛かってきた・・・