金貨が欲しいの


あるところに、貧しい男の子がおりました。
お父さんもお母さんも死んでしまい、住んでいた家も追い出されてしまいました。
男の子に残されたのは、なけなしの遺産だけでした。
それは、一枚の金貨でした。

その金貨は、男の子のお母さんが大切にしていたものでした。
お母さんが生きていたときに、とても大切だと聞かされていたので、住むところがなくなっても、けっして手放したりはしませんでした。

男の子は頼る当てもないので、野原をとぼとぼと歩いていました。
しばらく行くと、女の人に会いました。

「お腹がぺこぺこです。その金貨を恵んでください」
男の子は困ってしまいました。
これは大切な金貨です。おいそれとあげるわけにはいきません。
しかし、男の子はとても心が清らかだったので、目の前で困っている人を見捨てることもできません。

すると、女の人がいいました。
「それでは、あなたの髪の毛を私の髪の毛と交換してください」
女の人は、髪の毛が肩までしかありませんでした。
髪の毛を鬘用に売っていたのです。

男の子は、貧しいので髪の毛が伸び放題でしたが、髪質は良くてさらさらヘアーでした。
金貨はあげられないけど、髪の毛ならば。
男の子は女の人と髪の毛を交換しました。

森の入り口まで行くと、薪を拾っている女の子に会いました。
「樵のおじさんにこき使われています。お金があれば家に帰れます。その金貨を恵んでください」
男の子はまた困ってしまいました。

「それなら、あなたの手と私の手を交換していただけますか」
女の子は枝を拾っていましたが、斧を振るえるようになれば、仕事が楽になると言いました。
男の子は、貧しいけれども力はそれなりにありました。
手を交換してあげると、女の子は拾った薪を担ぎ上げ、喜んで帰っていきました。

森に入ってしばらくすると、切り株に座って泣いている女の子に出会いました。
「どうか助けてください。その金貨があれば、助かるのです」
またまた、金貨です。
男の子は、女の子に理由を聞きました。
「悪い男に狙われています。胸が膨らんで大人の女になったら、襲われてしまいます。遠くへ逃げたいのです」
女の子の胸は膨らみかけており、後半年もすれば、立派に女になってしまうでしょう。

男の子は一生懸命考えて、あることを思いつきました。
「僕の胸を交換してあげましょう」
男の胸ならば、いつまでたっても膨らむことはありません。
二人は胸を交換しました。

それからしばらく行くと泉が見えました。
男の子は水浴びをしようと、服を脱いで泉に近づきました。

「何者だ!」
泉に入ろうとすると、突然背中に剣を突きつけられました。
男の子はびっくりしてしまいました。
まさか、強盗ではないだろうか。
手にもった金貨をぎゅっと握り締めました。
そして、声のした方に顔を向けました。

「こっちを見るな!」
首に剣を向けられたので、慌てて元の方に向き直りましたが、男の子ははっきりと見てしまいました。

それはびっくりするくらい美しく凛々しい女の子だったのです。
女の子は剣を持っている以外は裸でした。
先にこの泉で水浴びをしていて、男の子の近づいてくる気配に、剣を手にしたのでしょう。

「見たな・・・この姿を見たからには死んでもらう」
男の子はその言葉にびっくりしました。
「金貨をあげますから、どうか命ばかりはお助けください」
大切な金貨ですが、殺されてしまったら元も子もありません。

その女の子は、金貨など要らないといいました。
男の子は少しほっとしましたが、殺されることには変わりないと、とても怖くなりました。
しかし、女の子は、男の子の体をじっと見つめていました。
「・・・お前は男なのか」
男の子は体中が女になっていましたが、たった一つだけ男の子の部分が残っていました。

「私はこの国の王子として育てられた者だ。父王様が亡くなり、位を継ぐことになったが、大臣の裏切りにあい、城を逃げ出してきたのだ」
女の子の突然の告白に、男の子はただ呆然とするばかりです。
「大臣を討ち、国を取り返したい。しかし、実は女であるとばれたら、誰も私の味方にならないだろう。それどころか殺されてしまうかもしれぬ」
すでに剣はしまわれて、二人はお互いの顔をじっと見つめていました。

女の子が再び口を開きました。
「お前のそれを、私にくれないだろうか」
男の子は、その申し出を既にわかっていました。
「はい、喜んで」
こうして貧しい男の子は、すっかり女の子になってしまいました。

男として育てられた女の子は、本当の王子様になって、国を取り戻す戦いを始めました。
それから数年後、悪い大臣を退けて、王子様は王様になりました。
多くの国民が、王宮の広場へ集まり、新しい王様を祝いました。
しかし、国民へのお披露目は、それだけではありません。
新しい王様の隣には、美しい女性が一緒でした。
王様は、この人を妃にすると、国民の前に誓ったのです。

それから二人は国を良く治め、とても幸せに暮らしました。
男の子が持っていた金貨は、こうしてより一層に大切なものとして、二人の子供へと受け継がれていったのです。

めでたし、めでたし。