タイムマシンはTSマシン?!


20XX年、ついにタイムマシンが完成した。
ウェルズが最初にタイムマシンを考えてから、実に150年以上もの時が経っていた。
しかし、僕の本当の夢は、タイムマシンじゃないんだ・・・。

僕は、昔から女性に憧れていた。それは、自分が女性になりたかったということである。僕はTSを自分の力で手に入れようと一生懸命勉強したが、TSマシンは作れなかった。しかし、僕の才能は、タイムマシンを生み出したのだった。これではTSできないように思えるが、うまく利用すれば何だってできるのだ。今から何百年もの未来では、TSは日常的になっているかもしれない。
僕は、タイムマシンのセッティングを100年後に設定した。すでに各種動物実験も終了し、時間を超える能力があることは証明済みである。これを発表したら大ニュースになるだろうが、TSだけが僕の夢なので、そんなことはどうでも良かった。TSマシンの開発・研究費をいただくために自分自身だって売った。何せ、このタイムマシンの開発だって、上司がしたということにしているくらいだから。

・・・女性になれれば、何だっていいんだ・・・

自分自身の人体実験も成功した。つまり、僕は現代よりも100年未来にいたる・・・はずだ。
この時代ではすでにTSは行われているのだろうか。とりあえず情報収集をしなければならない。僕は本屋を探した。
ある文明についての情報を、怪しまれずに入手するには本屋がいい。風俗、歴史、科学、政治、何だってわかるのだから。図書館でも良いかもしれないが、利用制限のある恐れがある。
「・・・おかしい・・・本屋どころかまともな店も無いぞ」
僕はちょっと焦っていた。街の様子は、現代とあまり変わっていないように見えるのだが、どこを見てもビルともマンションともつかない建物が多く、商店街は見当たらない。数百メートルに1件はあるコンビニも無い。
もしかすると、通信販売が発達して、商品はすべて直接自宅へと送られるのかもしれない。そうだったら、ちょっとまずいな・・・。
「あ、あそこで聞いてみるか」
僕はようやく交番を見つけた。デザインこそ違うものの、すぐにそこが交番であり、その人が警察官だとわかった。
「すいません」
「はい、なんでしょうか?」
やけに丁寧な口調で、その警官が言う。サービス業化しているのかもしれない。
「ここら辺に本屋はあるでしょうか?」
「本屋・・・ですか? ポールならそこにもありますが・・・?」
その警官は不思議そうな顔をして、近くのガードレールを指差した。僕はすぐに状況を理解した。この時代では、すでにユビキタスコンピューティングが常識であり、街路でも電子本を購入できる状態になっているのだ。
「あ、いえ・・・紙の本を買いたいのです」
「珍しいですねぇ?」
ここでへたなことを言うと、怪しまれてしまう。趣味ということにしよう。
「はい。古書集めに凝ってしまって、紙でないと読んだ気になれないんですよ・・・」
「ははあ。それはそれは。ええと、本屋はですね・・・」
僕は交番を後にした。教えられた道を行くと、奇妙な彩色の店があった。しかし、見た目はあまり本屋らしくない。
「イラッシャイマセ」
中は意外と広く、他にも数人の客がいた。しかし、それは文房具や手帳類のコーナーの話であり、書籍コーナーはちょっとさびしい感じがした。
実はまだこの時代が本当に現代の100年後の日本であることを確証できなかったので、いくつかの本を手にとって、奥付を確認する。これで、タイムマシンが本物であることはわかった。
それから、科学技術の本を読み漁ったが、TSが実用化されたという話は無いようだった。そうとわかればこの時代に用は無い。次は一気に300年後に行ってみよう。

結論から言うと、300年後はだめだった。
まず、景色が違っていた。辺り一面、田畑が広がっていた。うっかり300年前に来てしまったのかとも思ったが、所々にロボットがいたり、白いポールが立っていたりするから、どうやら環境改革が行われたに違いない。人間はどこか別の場所で生活し、地上では動植物をなるべく自然な状態で生育させるのだろう。
30分ほどして初めて人間に出会ったが、言葉が違った。確かに一部分は日本語らしいのだが、英語も混じっているようであり、別の国の言葉のようでもあった。もしかすると、戦争でも起こるなどして、文化が変わったのかもしれない。
僕は、この時代以後でTSを成し遂げることをあきらめた。

未来に行ってもだめならば、過去で何とかするしかない。
親殺しのパラドックスなど、過去に行くことによる危険性は、回避できるということが、すでに実験によって判明している。過去での致命的な行為も、「時の流れ」というものがまるで意思をもっているかのように、現代にあまり影響を残すことなく、修正してしまうようなのだ。
僕は、ついに自分自身に直接手を下すことで、目的を達成しようと考えていた。

・・・手段はどうでもよい。目的が果たせるものならば・・・

人間の基本形は女性である。妊娠10週目から12週目に、ホルモンが正常に分泌されない場合、Y染色体を持ち遺伝的に男性であったとしても、女性になるのだ・・・。
僕は、僕が生まれる前の時代に行き、僕の母親に対して、それを実行した。これで生まれてくるのは、女の子になるのだ・・・。

僕は、いや、私は現代に帰る頃には、女性になっていた。
感動して、声も出なかった。ついに夢が叶ったのだ。私は興奮のあまり、ソファーに倒れこんでしまった。うつ伏せになると、胸が圧迫されるのが感じられた。その感触は、記憶にはあったが、新鮮に感じられた。
私は、すぐさま自分の体の探索を開始した。性の体験だけが、女性になる目的ではないが、やはり最もやりたいことのひとつであることは確かなのだ。

「入るぞ」
「あっ」
ノックもなしに部屋に入り込んできたのは、例の上司だった。私はこの男から、自分の研究室と研究資金を手に入れたのだ。それと引き換えにしたのは、タイムマシンに関するすべての権利、そして・・・
「何だ、一人で。そういう時は、わしに言え」
上司はそういうと、私を抱きかかえた。そう、私は自分の体も、この男に売っていた。男の時には、さすがにそのようなことはなかったが、女である私は、そうでもしないと、研究の機会を与えられなかったのだ。
「お前はすごい女だ。タイムマシンなんてものを作ってしまうとはな。だが、わしにとっては可愛い女に過ぎん」
そういうと上司は私に挿入した。準備は整っていたので、それはすんなりと入ってきた。
「ああっ!」
知っているのに、初めての快感。私は、もう何も生み出すことはできないだろう。夢は果たしてしまった。
「いいっ、もっと。あ、う、あああっ」
しかし、そんなことはどうでもよかった。夢のためなら体だって提供するような私だが、今以上の喜びなんて、考えられないのだから。