「彼女」

作:吹田まり


俺には付き合い始めてから2年ほどになる彼女がいる。
自慢になっちまうが、結構美人だ。

2年前のある日、俺が本屋で探していた雑誌を手に取った時、同じようにその雑誌に手を伸ばし、俺と手が触れ合ったのが彼女で、「あ!・・・すいません・・」などと会釈したら、
「あの・・・、あなたもこういう本、ご趣味なんですか?」と笑いかけてきた。
その笑顔はやさしく、どこかうれしそうな表情で、俺は意外と美人だった彼女を目の前にして
「え?! ・・・あ。は、はい。そうなんスよ。 ・・・あなたもこれが?」とうろたえてしまった。

その後、近くの喫茶店に入り、本について、趣味について、いろいろ話をしているうちに、俺たちはすっかり意気投合してしまった。
初めて会ったというのに、彼女には全く「距離感」というものを感じない。まだ知り合って数時間しか経っていないのだが、まるでずっと前から付き合っているような、妙な親近感を感じる。彼女と一緒にいるのがごくあたりまえのような・・・。
彼女のほうはといえば、俺との会話をニコニコと楽しそうに話し、まるで初対面の男と話しているようには見えない。
・・・・・以前どこかで会ったっけ? いや、こんな美人に会っていたら覚えているはずだ。
彼女は俺のアパートからそう遠くないところに住んでいて、普段はOLをしているという。
俺たちはその後夕飯を一緒に取り、お互いの電話番号を教えあい、再びデートの約束をして別れた。


こうして俺と彼女の付き合いが始まったわけだが、彼女はほんとに俺と気が合う。
映画の好みも同じ。食事もどちらかが「きょうは○○が食べたいナ」と言うと、大抵「あ。それ食べたいと思ってた♪」と合意する。

その後、彼女の部屋に遊びに行った事があるが、きれいに片付いていて、ぬいぐるみがたくさんあったり、ピンクのカーテンだったり、いろんな化粧品が揃えてあったりして、これぞまさに「女の子の部屋!」という感じだった。その上いい匂いがする・・・♪
・・・・・・・・・だが何だろう?今まで女の子の部屋なんてもちろん入った事はないし、この部屋に来るのも初めてなのに、なぜか懐かしい気がしてしまう・・・。 一人暮らしの女性の部屋なのに、空気、というか、どこか雰囲気に懐かしさを感じる。
「・・・ん?どうしたの?」
と笑顔で紅茶とお菓子を運んできた彼女が聞いてきた。
「ん〜・・・。何だかさぁ、初めてお前の部屋に来たのに、妙に懐かしい気がして・・・。なんでだろう?」
「そ、そう?!  あ、・・・もしかして、いろんな女の子の部屋に行ったことあるんじゃないの?!」
その時の彼女は、ちょっと困ったような怒ったような顔で微笑んだ。これは彼女のやきもちだろうか?
「そんなことないよ!女の子の部屋なんて入るの初めてだしさ!」
「え〜〜、ホントかな〜〜??」
彼女が俺に詰め寄る。だがあせっているのを誤魔化すため俺に攻め寄っているような気がするのだが?
すっかり俺に近づいた彼女の顔は、俺を問いただしている割に、どこかさみしげなところがあった。
その表情を見たとき、俺は彼女を愛おしく思い、近づいて来た彼女を思いっきり抱きしめキスをした。
彼女は驚いたようだが、すぐに眼を閉じ俺に身を預けてきた。
そして・・・・・・・・・・・・・・・。


いまや俺達はすっかり恋人として付き合う関係になっていた。
お互いの部屋に泊まる事もたまにある。

そんなある日、二人で飲んで盛り上がった後、あまり酒に強くなくてすっかり酔ってしまった彼女を俺の部屋に連れて行き
「今夜は俺のとこに泊まっていけよ」というと、
「ふぁ〜い!そうしまぁ〜す♪ ありがとね。○○君」と酒で真っ赤になってニコニコしながら俺の頬にキスしてきた。
ふっ、しょうがねぇなぁ・・・。と思いつつ、俺もこいつがかわいくてしょうがない。
ベッドに彼女を寝かせ、服をゆるめようと背中に手をまわした時、何かがあたった。
ファスナーかボタンかな?
とりあえず彼女をうつ伏せに寝かせ直し、背中を見ると、そこには確かにファスナーがあった。
ただし、それは服についている物ではなく、「彼女自身」に付いていた!!
そう、ちょうど首筋の上あたりだ。 だが以前彼女と寝た時にはこんな物なかったはずだが・・・。
ファスナーがゆるんで開いてきたのか・・・って、そういう問題じゃないだろ!?
ファスナーの上のほうは少し開いているが、首筋から下は全くごく普通のからだだ。
触ってみてもファスナーがあるとは思えない。そこで少し引き下げてみた。
「ジジジ・・・」
少し開いた!やはりファスナーは続いているようだ。

俺は部屋にちゃんと鍵が掛かっているのを確認して、彼女の服や下着を脱がし裸にすると、彼女の背中のチャックをつまみ、恐る恐る開けてみた・・・。
やはり中に誰かが入っている・・・・!
彼女の「着ぐるみ(?)」を脱がせていくと、中にいたのは高校の時引っ越していった幼馴染の親友(もちろん男)だった!

・・・しばらく唖然として、酔い潰れている裸のあいつと「彼女の着ぐるみ(?)」を見ていたが、その内、どうにも「ムズムズする感覚」に捕らわれ、俺はおもむろに裸になると「彼女だった着ぐるみ」を着込んでみた。

彼女の身長は俺より頭半分くらい低い。しかもモデル並み・・・とまではいかないが、結構いいプロポーションだ。
果たして俺に着る事が出来るのか? 不気味な風船人形みたいになるんじゃないか? と変な事を考えたが、「着てみたい」という衝動は今更抑えきれるものではなく、そのまま着てしまった。

背中のチャックを苦労しながらなんとか閉めると、急に身体全体が締め付けられる感覚があり、それが収まった時には「何かを着ている感覚」はなく、ただ裸でいるような感じがして、あれ?と思い手を見ると、自分の手のはずなのだが、細くて白い、紛れもない「彼女の手」だった!
そして胸には今まで感じた事のない重みがあり、目をやるとそこには女性のおっぱいが!
えっ!えぇっ?!  ・・・・おもわず揉んでみた。確かに「自分の物」を揉んでいる感覚が・・・。
顔を撫で回してみると、自分の顔を触っている感覚はあるのに、ヒゲなど全くなく、すべすべでしっとりしている。
髪もサラサラのストレートヘアだ。もちろん引っ張れば痛みも感じる。
「・・・一体どーなってるんだ?!」と驚いて出た俺の声は彼女のいつもの声・・・!


「うぅ・・・う〜ん・・」と裸のまま酔いつぶれていた親友のあいつが目を覚ました。
「あれ?どうしてアタシがそこにいるの・・・?」と寝ぼけまなこで言ったのだが、まるでオカマだ。
あいつの声は、聞き覚えのある懐かしい親友の声だった。(言葉遣いを除けば・・・)

「どうして裸のアタシがいるの・・・? あれ?アタシもはだ・・か・・!!!」
と自分の身体の異変に気付いたあいつは、目を見開き、その辺にあったもので身体を隠すと俺に向かって「あ、あんた誰っ?!」と言ったが、部屋の様子を見回すと、
「ま、まさか・・・・・・・・○○君?!」と俺の名を呼んだ。


あいつの話によると、転校した後、高校を卒業し就職していたが、最近勤めていた会社が不況の煽りで倒産し、新しい就職先を探して時、たまたまインターネットで偶然見つけたサイトで「リアル着ぐるみ」という物を見つけ、興味本位で買ったら、着る事によって全く体型をも変える事が出来、しかも声自体も女性のものになっているのだそうだ。
その上、いわゆる「着ぐるみを着ている」という感覚はまるでなく、着ている時は自分の身体そのものなのだという。
そしてこっち方面にあった就職の募集を見つけたとき、あいつは俺の事を思い出し、その時いたずら心でも起きたのか、ダメもとで「女性として」その就職先に応募してみたら、採用されてしまったのだという。
しばらく悩んだ末、他のいくつかの募集に落ちたこともあって、その会社に女性として勤める事にしたという。
「化粧」やら「婦人物の下着・服」その他いろんな事をネットで調べたり、購入したりして、とりあえず就職までに普通の女性として通じるようにしたという。 女性としての戸籍も、ネットの闇ルートで手に入れたそうだ。

女性として再びこっちに引っ越して来たあいつは、俺をからかうつもりで、偶然を装って俺に近づき、彼女になったそうだ。
でも、もともと幼馴染の親友で気があっていた俺たちは、しばらく離れていたせいもあるのか、今まで以上に親密になり、あいつもいつしか俺を驚かすという目的はどこへやら、女性としてそのまま「俺の彼女」という立場にどっぷり浸たり、俺と一緒にいる事がとても心地よいものになっていたみたいだ。  そう。親友時代のそれとは少し違う感覚で・・・。
こっちに引っ越して来てから、何度か「着ぐるみ」を脱いで男に戻っては町を散歩していたあいつも、俺と付き合うようになってからは、すっかり着ぐるみを脱ぐ事もなくなり、ずっと女性のままで過ごしていたという。

どうやら「女性の着ぐるみ」を着続けていたことで、あいつ自身さえ意識していなかった心の遥か奥底にあった「女性としての心」が、すっかりあいつを支配(?)して、今後の人生を女性として生きていくことに決めたようだ。



それから半年後。
「俺」と「彼女」は結婚した。
彼女はあまりやりたがらないが、時には俺が「彼女」になって「あいつ」とデートを楽しんだり、女の喜びを味わったりしている・・・・。(笑)


・・・そうそう。あと5ヶ月もすると、俺達の子供が生まれてくる事を報告しておこう♪