「男親なんてものは」
作:吹田まり
妻を早くに亡くし、俺が大事に大事に育ててきた、我が愛しの娘。
どこの馬の骨とも分からん奴なんぞに嫁に取られてたまるものか!!
・・・とは言うものの、やはり娘には幸せになってほしい・・・。
娘が本当に愛した男へと嫁ぎたい、と言うのであれば、『嫁になんぞ行くなッ!』とは言えるわけなかろう?
ましてその相手の男が俺の部下で、仕事もかなり出来るヤツとくれば、『あんなヤツは絶対ダメだ!!』とも言えん。。。
そんな時、俺のような悩みを持つ世間の男親はどうしただろうかとネットでいろいろ調べたら、
偶然たどり着いたサイトで不思議なモノを見つけちまったんだ・・・!
「ボディジッパー」?とかいう、まるでB級SF映画にでも出てきそうないかにも胡散臭いシロモノだが、
その時の俺はどうかしてたのかな? ついそいつを買っちまった・・・。
「人の身体に貼り付けると、貼り付けた相手がまるで『着ぐるみ』ようになって着る事が出来る」という・・・。
・・・な?普通こんなの信じるほうがおかしいよな?(苦笑)
だが「そいつ」は届いた。ご丁寧な事にちゃんと説明書まで付いてた。
「裸に直に貼らないと効果がない」とか、
「貼る時は相手が眠っているか、意識のない時に貼る事」とか、
「相手の身体のサイズ、それを着る者の身体のサイズは関係ない」とか、
「ジッパーを閉めたあとは目立たないほどに小さくなる」など、
怪しさてんこ盛りの商品の割りに、説明書は実にまじめな物だった。
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そしてきょうは俺は、娘とあいつの何回目かのデートに「娘として」来ている。
いそいそと出掛けようとしていた娘に、商品のオプションとして付いていた「瞬間催眠スプレー」なる物を吹き付け一瞬で眠らせ、
娘には悪いと思いつつ、あいつの本性を調べるべく「娘の身体を着込んで娘としてデートしてみよう」というわけだ。
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初めて「これ」を試したときは、本当に驚いたものだった!
娘が寝付いたあと夜中に起き、こっそり娘の部屋に入り、念の為あのスプレーをかけておいて、
ゆすっても叩いても全く起きない事を確認して、間接照明だけがついている薄暗い中、
俺はドギマギしながら娘のパジャマと下着を脱がした。
そしていろんな感情が入り混じった中で、背中にあのジッパーを貼り付けたんだ・・・。
本物だった!こいつはまぎれもなくそういう商品だった!!
貼り付けた途端、娘の身体は「ペシャ」と空気の抜けた風船のようにつぶれてしまった。
気が動転してわけが分からなかったが、なんとか自分を取り戻しジッパーを開けてみた。
いくら「着ぐるみ」とはいえ、俺よりずっと小さな身体つきの娘を、俺なんかが着れるのか?!
とりあえず裸になって、いざ着てみようとしたものの、「自分の娘の着ぐるみ」を着るという行為に、俺の頭は爆発寸前だった・・・!
こいつは驚くほど伸びて以外にスムーズに着る事が出来たが、やはり体格は俺そのままだ。
・・・とりあえずジッパーを閉めてみる。
一瞬めまいがしてクラッとしたが、何とかもち直すと・・・ん?何か変だ?!
最初その違和感が何か分からなかったが、すぐにそれが視界の違いである事が分かった。
俺と娘とでは、頭一つ半ほど身長が違う。
さっきまで俺が見ていた部屋の中の視界が低くなったのだ。これが娘の視線で見ている部屋なのか。。。
・・・まさか!!
俺はあわてて鏡を探した!
部屋の灯りをつけた時はまぶしかったがすぐに目が慣れ、姿見を見つける事が出来た。
恐る恐る鏡をのぞいた俺の目に映ったものは・・・、
そこにはとても驚いた顔をした、まぎれもない俺の娘の姿があった!
俺よりずっと低い身長。綺麗な長い髪に、女性らしい身体つき。まさに娘本人だ・・・!
『こ、こんな事がありえる・・・の・・・?!!』と驚いた俺の声もまた、娘の声そのものだ!
しばらく唖然としていた俺だが、やがて姿見の前でいろんな角度で身体を写してみたり、
笑ったり怒った顔をしてみたりと、自分の今の姿を堪能していた。(照れ笑い)
調子に乗った俺は、鏡に向かって『お父さん、あんまり私の身体で遊ばないでよね!』と娘になりきって言ってみた。
ちょっと怒ったような照れたような、頬を少し赤らめた、たまに怒った娘が見せる顔がそこにあった。
そのとき俺は気がついた! 今、娘のしゃべり方を真似したものの、全く違和感がなかった事を。
『・・・今あたし普通にしゃべってた・・・。?!あたし?!』
心の中では「俺は」と言ったつもりが、口に出るときは「あたしは」と、いつもの娘のしゃべり方になっている・・・!
・・・へくちょん!((>。<))
ふいに娘特有のかわいいクシャミが出た。
そういえば娘の姿になってから、ずっと裸のままだ。
このままでは娘の身体に風邪をひかせてしまう!
とはいってもこの身体で何を着たらいいのやら・・・。
・・・ん?分かる。分かるぞ!
女性用の下着の付け方から、お気に入りのパジャマの事。寝る前の肌ケアについてなんかも「自分の記憶」のように分かる。
これはひょっとして・・・?!
・・・やはりそうだ。
服の着方やメイクの事、娘の趣味についてや好きなタレント、会社や日常での事。
そして彼氏であるあいつの事、あいつに対する想いまでもが「自分のこと」のように理解できる・・・!
今までどんなデートをしてきたのか、何があったのかも。
・・・そうか。それほどあいつの事を本気で愛していたのか。。。
・・・だが、やはり俺自身であいつの本性を見極めたい! それが娘を嫁にやる条件だ!
確かに「これ」を使えば娘のふりは出来そうだ。しかし他人にバレはしないか?
・・・明日はちょうど日曜日だ。俺も大した用事はないし、娘も特に予定はないと言っていたな。
娘には悪いが、「これ」で明日一日おまえとして通じるか試させてもらうよ。
・・・ふむ。ならばさっそく今夜からこのまま「俺」が「娘」として寝ることにしよう。
下着をつけ、パジャマを着て、髪の乱れを直して・・・っと、『おやすみなさい。おとうさん♪』ははは・・・(笑)
こうして次の日曜日、「俺」は「娘」としてベッドで起きて、顔を洗い歯を磨き、髪を整えて普段着に着替え、
「おれ」の好きな和食ではなく、「あたし」の好きなパンでの朝食をとり、掃除や洗濯などの家事を終えると
出掛けるための服に着替え、メイクもちゃんとして、最後に姿見で全身をチェック。
お気に入りのバッグを持ち、それほど高くないヒールの靴を履いて『じゃあ、おとうさん、行ってきまぁ〜す♪(^o^)』と
奥に向かって「いつもの」明るい声を掛ける。もちろんそこに「俺」はいないわけなのだが。(笑)
近所の顔見知りの人たちと立ち話をしたり、よく行く店で娘の友達とばったり会ってそのまま一緒に買い物をしたり
お茶しながらいつまでもおしゃべりをしていたが、全く何の問題もなく娘として振舞うことが出来た。
なにしろ、外見ばかりではなく、声も話し方も記憶も俺の娘そのものなので、誰一人疑う者がいるわけがない。
俺自身、「娘に変装している」という感覚はまるでなく、一人の人間としてそこにいるという状態でしかないので、
何の違和感もなく一日を過ごせたわけだ。
よし!これなら、娘になりすまして「あいつ」とのデートをしても、バレる事はまずないだろう。俺はそう確信した・・・!
・・・だが俺は、家に帰ってからもなかなか「娘」を脱ぐ気になれなかった・・・!
きょうすべき本来の目的は果たしたから、すぐにでも「娘の身体」を脱ぎ、ジッパーを剥がして、娘に身体を返すべきなのは
十分わかっているのだが、何故だ?!心のどこかで「脱ぎたくない!」という叫びが聞こえてくるような気がする。。。
・・・結局「これ」を脱ぐことなく、娘の身体のままメイクを落とし、部屋着に着替え、一人分の夕飯を作り、
しばらくテレビを見た後お風呂に入り、身体を洗ったあと、何を考えるでもなく湯船で「ぼ〜〜」としながら、
「今の身体」を眺めては、『どうしたの?もう戻るんじゃないの?この身体、返さないつもりなの?』と自問自答を繰り返した。
風呂場の鏡を見ても、そこには結論を出せずに迷って困り果てている一人の若く美しい娘が写っていた。
真夜中になって、やっと俺は断腸の思いで「娘の身体」を脱ぎ、ジッパーを剥がし、元に戻った娘に下着とパジャマを着せ、
ベッドに寝かせて、自分のパジャマを拾うと、重くなった足を引きずるように娘の部屋を後にした。。。
次の日、娘は日曜日の事をなんとなく覚えていた・・・!
もっとも、あくまでも自分の意思で出掛け、買い物をし、友達と会って過ごしたと思っている。
俺は「一日中いなかった」から、朝早く出かけ、夜遅くに帰ってきた、と勝手に思い込んでいた。
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・・・話を今に戻そう。
「あいつ」とのデートを、「俺」は違和感を感じさせず「娘として」楽しく過ごしていた。
正直な話、娘がデートをするこの日を、俺はかなり待ちわびていたような気がする。
それは、建前では「あいつの本性を暴いてやるゾ!」という父親の使命感なのだが、
本音では「娘の身体」に・・・いや、「娘そのもの」になれるという想いがあったからかもしれない・・・!
だから、朝食後、洗い物を済ませ鼻歌を歌いながら出かける準備をしていた娘に「瞬間催眠スプレー」をかけ、
服と下着を脱がせてジッパーを貼り付け、俺も裸になって「娘」を着込み、再び娘の下着を着て、
脱いだままの普段着を持って娘の部屋に入ると、早速デート用の服選びを始めた。
あれこれ迷ったりしたが、ある程度は「もう決めてあった」ようで、それほど時間は掛からなかった。
あまりキツくならないように、でもしっかりと気合の入ったナチュラルメイク。きょうは髪をアップにしてみようかな?
ばっちり決まったのを姿見で何度も確認して、お気に入りのバッグを持って、さぁ、デートよ♪
「あいつ」いえ、「彼」との待ち合わせ場所にあの人がいるのを見つけたら顔が笑顔になっちゃう。
彼と話をしてても、「本性を探ってやろう!」なんて気持ちより、彼の話や笑顔を見てるのが嬉しくて♪
・・・変なの?もう本性とかどうでもいいわ。だってこうして彼といるのが楽しいんだもの。
そうして夕飯を済ませたあたしと彼は、自然の流れでホテルに向かった。
「おとうさんに連絡しなくていいの?」彼が優しくそう言った。
『・・・うん。大丈夫よ。おとうさんはちゃんとあなたとの仲を認めて了解済みだもの』
「えっ?そうなの?!まさかそんなに簡単に許してくれるとは思ってなかったのに・・・」ちょっと困惑気味の彼。
『うふふ♪父親ってそういうものよ? いつだって娘の幸せを一番に考えてくれるわ』
「う〜ん、そういうものなのかな〜?」
『えぇ。だからあたしの事、きょうも、そしてこれからもいっぱい愛してね♪(*^。^*)』
おわり?
ホテルにて。
彼は今シャワーの真っ最中。
これからあたしは「女の喜び」を体験することに♪
ちゃんとジッパーを閉めてなかったのかしら?!
・・・このままじゃ男に戻っちゃう!!
えぇーーーーーいッ!!
ジ〜〜〜〜!
ブチッ!
・・・あっ!!つまみが取れちゃった・・・!
ジッパーも消えちゃった・・・・・・・。
もう戻れないって事・・・?!
・・・あ〜あ。
しょうがない。
このまま女として行くていくしかないわね。
ごめんね。愛しの我が娘。
あたしが代わりにちゃんとあなたとして幸せになってあげるからね♪(^v^)
おしまい。