日本TSむかしばなし

 

玉とり物語

 

 むかしむかし、今の春畑地方の、山間の村にそれはそれは美しい娘が二人おった。

 一人はその村の庄屋の娘で、それはそれは美しく、天から舞い降りた天女のようだった。じゃが、その娘は、その美しさとは裏腹に高慢で、意地悪な性格で、もうすでに近郷の村には、この娘に懸想するものはおらんぐらいじゃった。もっとも、娘のほうも、近郷のものを相手にはしとらんかた。

もう一人は、このうちの下働きをしている娘で、誰にも優しく、野に咲く花のようにかわいい娘じゃった。

じゃが、この娘も、言い寄る男たちなびかんじゃた。それは、「わしは、だれとも夫婦にはなれん身体じゃ。」とゆうて、断っておった。ところが、二人には、思いを寄せる若い衆おった。それは、多湖ベェと言い、この近在で一番の働き者じゃた。

そんなある日、下働きの娘は、庄屋の使いで、山むこうの村まで行って、帰ってきた。じゃが、女の足では、日暮れまでに、峠まで来るのがやっとで、すっかり日が落ち、辺りは暗くなってしもうた。男でも、2の足を踏む夜の山越えは、明かりすらない梅には、到底できることではなかった。そこで、街道より少し入った山神様の小さな祠で、ひと晩過ごす事にした。

日が暮れるまでに帰り着くつもりだったので、下働きの娘は、昼飯も食わずと山道を歩いていたので、ひもじくて仕方なくなってしもうた。じゃが、辺りには、食い物どころか、明かりすらなく、梅は、ひもじい腹をなだめながら眠ってしもうた。

「あっそれ。どんちゃんどんちゃんどんちゃんちゃんちゃん。」

「ほれほれほれほれ、おどらにゃなんね。あ、それそれそれそ〜〜〜れそれ。」

にぎやかな合いの手と、どこから漂ってくるのかいい香りに、梅は目が覚めた。

マタギ衆だろうか。山神様の境内で、焚き火を囲んで、大男たちが、宴会をしておった。

「何か食わしてもらえる。」

そう思って、娘は、祠を出て、焚き火のそばに行った。そして、男たちを見て、梅は、あまりの恐ろしさに、ぶるぶると震えだしてしもうた。焚き火を囲んで座っておったのは、山犬より鋭い牙と、牛よりおおきな角を生やした鬼達じゃった。赤鬼や、青鬼が酒を飲み、肉をくらって宴会をしておったのじゃった。

「おい、視鬼(みおに)よ。そんなもん、かくしちょったのか。」

「いや、わしのじゃねえ。味鬼(あじおに)よ。おまえのか。」

「わしでもねえ。そうすると、鼻鬼(はなおに)。おまえか。」

「わしでのねえ、聴鬼(ききおに)や、触鬼(さわりおに)のでもねえだか。」

5匹の鬼は、首をかしげて梅を見た。梅は、ただぶるぶると震えておった。

「ごちそうだが、今夜は、熊や、猪の肉がたんとある。明日の分にとっとくか。」

「それよりも、なにか芸をやらしたらどうだ。いつもいつも、おなじものじゃあきたわい。」

「そうじゃそうじゃ。」

一人の鬼の言った事に、他の鬼たちも頷いて、娘に何か芸をさせることにした。

「おい、むすめ。何か芸をやれ。わしらを楽しませてくれたら褒美をやろう。だが、へただったら、この場で喰らうてやるぞ。」

娘は、その言葉に、さらに震えながらも、小さな声で頷いた。

「は、はい。それでは、踊りを踊ります。」

そう言うと、庄屋のうちで、祝い事のあるときに、宴を盛り上げるときに踊っている踊りを、みようみまねで踊った。

「ありゃさ、こりゃさ。おととと、こりゃこりゃこりゃさ。」

懸命に踊る娘の踊りは、間違えまいとするほどこっけいで、鬼たちは、やんややんやの喝采を梅に送った。

踊り終わった娘に、酒や、食い物を進めると、約束通りに、娘が見たこともないような宝物をくれた。そして、日が明けようとしてきたとき、鬼は、娘に言った。

「また、今度の闇夜の夜にはここにきて、踊りを見せてくれ。」

娘は、恐ろしさのあまり口が聞けませんでしたが、首を横に振りました。

「なに、こないと、それじゃあ、お前の大事なものを預かっておこう。そうじゃ、それじゃあ。そのむねのふくらみを・・・」

そう言って、鬼が、着物をはだくと、そこには、饅頭のようなふくらみはなかった。

「そりゃ、むりだ。味鬼よ。そいつは、おとこだ。」

「なに、おとこ。」

「そうじゃ。あまりにかすかな香りじゃったから、わしも気づかんじゃったが、踊ったときの汗のにおいでわかった。そいつは、そんな格好をしとるが、おとこじゃ。」

「鼻鬼がいうのじゃ、ほんとうだろう。やい、なぜ、そんな格好で、わしらをたばかった。」

「いえ、たばかったのではありません。あしは、五つまで、おなごの格好で過ごすはずだったのですが、ととさまとかかさまが、あしが、五つになる前にいんでもうて、それをしらぬ、ばばさまに、むすめとして、育てられたので、あしは、ずっと、あしのことを、おなごと思うていたのです。」

むかしは、男の子が生まれると、厄疫よけに、女の子の格好をさせていたそうな。やはり、おなごのほうが丈夫だったからだろう。

「ふむ、すると、どうしたものかのう。」

「あれをとるか・・・」

「わしはいらんぞ。」

「わしもいらん。」

「そうじゃ、いいものがあったわい。」

そう言うと、一匹の鬼が、腰にぶら下げていた皮袋から、白い饅頭のようなものを取り出した。

「大事なものを預かる代わりに、こいつをつけてやろう。」

「触鬼よ、それはいい考えじゃ。男にそれは、恥ずかしいものじゃからな。」

「そうじゃ、そうじゃ。」

他の鬼たちも声々にそういい、触鬼は、その饅頭のようなものを、娘のむねに押さえつけた。鬼が手を離すと、それは、娘のむねにぺたんと、くっついてしもうた。それは、おなごの乳じゃた。

「それは、このあいだ、あまりに下手な踊りを、わしらに見せた京下りの踊り子の胸じゃ。それが、はずかしかったら、かならず来るのだぞ。」

そう言うと、鬼たちは、一番鳥の声がする前に、姿を消してしもうた。

娘は、鬼がくっつけたむねをさすりながら、そのばに、すわりこんでしもうた。

 

なかなか帰ってこない下働きの娘が帰ってきた事に、庄屋のうちの者たちは喜び、下働き娘の話に不思議がり、娘の無事を祝った。娘は、庄屋に鬼に貰った宝を見せた。

「それは、おまえがもらったものじゃ。夫婦になるときまで大事にもっとるがええ。」

そう言って、宝は、下働きの娘が、そのままもらっとくことになった。

梅のむねが、ふくよかになったことに庄屋の娘は、面白くなかった。実を言うと、庄屋の娘も下働きの娘とおなじように、むねがなかった。

多胡ベェは、娘の無事を祝うた。おもしろくないのは、庄屋の娘じゃ。庄屋が留守のとき、庄屋の娘は、次の暗闇の夜、下働きの娘をまた、山向こうまで使いに出した。やはり、早く、帰ろうとしたが、また、峠で、日が落ちてしもうた。娘は、また、あの祠で夜露をしのぐ事にした。帰りを急いだ疲れと、ひもじさに、いつの間にか眠ってしもうた。

「あ、それ、どんちゃんどんちゃんどんちゃんちゃん。」

この間と同じ、掛け声に、娘は、目が覚めた。そこには、この間の鬼たちがおった。

「おお、むすめよ、約束どおり来たな。関心関心、まあ、一杯いけ。」

鬼たちは、この間よりも優しく、娘を向かえた。そして、酒や食い物や、山の木の実や蜂の巣などを娘に進めた。

宴もたけなわになり、鬼たちは、娘に、踊りをうながした。娘は、この間よりは怖くはなかったが、やはり、鬼たちの前では、うまく動けなかった。またそれが、滑稽で、鬼たちは、娘にやんややんやの声を上げた。

また、日が開ける前に、鬼たちは、娘にこの間より多くの宝物を授けると、また来るように言った。

「さて、今度は、どうしよう。」

「そうじゃのう。今度は、あれを、あずかろうかのう。」

「それは、いい。あれがなければ、こやつは、おとこじゃなくなるからのう。」

そう言うと、触鬼は、娘のまたに手をやると、むんずと掴み、すぽんと、それを、とってしもうた。

「これを返して欲しくば、今度は、あさっての夜にここにこい。また、あの踊りを踊ってくれたら、そのむねと、これをかえしてやろう。」

そういうと、鬼たちは、一番鳥がなく前にきえてしもうた。娘は、鬼が引っこ抜いたあとを触るとそこには、何もなかった。娘は、あまりの事に、座り込んでしもうた。

 

用事を済ませ、帰ってきた庄屋は娘の行いに驚き、家の者に下働きの娘を探し行かせた。そして、家の者は、峠の山神様の祠の前で、ぼんやりとしている娘を見つけた。庄屋は、下働きの娘の無事を喜び、詫びに庄屋は、その娘を養女にして、下働きの娘のばばさまを家に招いた。そして、下働きの娘と多胡ベェを夫婦にする事にした。鬼に、娘にされた下働きの娘は、それを、素直に受けた。

面白くないのは、庄屋の娘じゃ。庄屋の娘は、下働きの娘と同じむねになり、多胡ベェと夫婦になろうと、あの、峠の祠に隠れ、夜になるのを待った。じゃが、あまりに、日が高い内に隠れたものじゃから、庄屋の娘はいつの間にか眠ってしもうた。

「ごうごうとうるさいものじゃから、祠の中を開けてみると、こんな奴がおったわ。」

「あの娘はおらんのか。」

「つまらんのう。仕方がない。こやつに何かやらすか。」

そんな声に庄屋の娘が目を開けるとそこには、恐ろしい鬼たちがおった。ところが、高慢な娘じゃったから、驚きもせずに、鬼たちに言った。

「あしにも、あの娘のようなむねをつけろ。」

「何、あの娘のような、むねをつけろじゃと。それならば、あの娘のように何か芸を見せてみろ。」

「あしの芸か。よかろう見せてやろう。ようくみろ。」

そう言うと、庄屋の娘は、踊りを踊って見せた。じゃが、相手は鬼たちじゃ。いいかげんな踊りを踊ってしもうた。

それを見た鬼たちは、怒ってしもうた。

「なんじゃ、その踊りは。そんな踊りで、むねを付けろじゃと、お前のような奴にはこれが御似合いじゃ。」

そう言うと、触鬼は、下働きの娘から取ったものを、庄屋の娘の股にくっ付けた。それを、触った庄屋の娘は、あまりのことに、へたりこんでしもうた。

 

それから、庄屋の娘は、行方知れずとなり、庄屋は、やさしい下働きの娘夫婦と幸せに暮らしたとさ。