世界TSおとぎ話
狼と七匹の子羊
町はずれの森の近くに小さな宿屋がありました。その宿屋は若くてきれいなお母さん羊と、かわいい7匹の娘の羊たちが営んでいました。親切できれいな女将さんと、かわいくて、よく気が利く子羊たちの宿屋は、遠く大陸の端の国にも知れ渡り、何時も、お客さんで一杯でした。
そんなある日、珍しくお客様が途切れたので、お母さんは、町まで出かけて、いままで忙しくてできなかった用事を済ませようと考えました。
お母さんは、娘たちを広間に集めると言いました。
「いいかい。お母さんは、御用で、夕方ぐらいまで街まで出かけてきます。だから、おねえさんの言う事をよく聞いて、いい子で留守番をするのですよ」
そして、長女をそばに呼ぶと言いました。
「いいかい、幼い妹たちもいるのだから、決して知らない人が来たら開けてはいけませんよ。それと、外に遊びに行かせてもダメよ。今日は一日、お母さんはいないのですからね。留守の間、頼みましたよ。」
そうして、お母さんは街へと出かけていきました。長女の羊は幼い妹たちを広間に集めて、ソファーの上に坐らせると、お話を聞かせ始めました。小さな妹たちはそれでもいいのですが、少し大きくなった妹たちは、長女の言う事を聞かない妹たちもいました。外で遊びたいさかりですから仕方がないといえばそれまでなのですが、そんな妹たちも幼い妹たちの面倒を見せながら一緒にお話を聞かせる事にしました。
ですが、その中の一人がこっそりと外に出て行ってしまいました。ここに居るように言ったのですが、自分たちの部屋で遊んでいるといって、窓から外に出て行ってしまいました。出て行った後も物音がするように細工がしてあったので、姉の羊たちは彼女が外に出て行ったのに気づきませんでした。
いつのころからか、この森の奥には恐ろしい狼が住んでいて、旅人を襲うので、誰もこの森の中を通る道は通らず、遠回りになっても森の外側の道を通るようになっていました。こうして、この森に近づく者はいなくなっていました。
「あにきぃ〜どうするのだよ。今日も、獲物は無しだぜ。」
「はらへったよ〜。」
「ひもじ〜よ〜。」
森の奥にある狐の棲家の中では腹をすかせた7匹の狐たちが住んでいました。
「考えはよかったのだが、狼が出ると言う噂が遠くまで広がって誰もこの道を通らなくなってしまった。やって来るのはその狼を捕まえようとする猟師ぐらいだ。」
「その猟師の肉は硬くて、不味いしな。へたするとおなかをこわしてしまう。」
大きい狐たちはそう愚痴をこぼしました。大きな狼の皮を背にして坐っていた一番偉そうな狐が、愚痴る狐たちをにらみました。するとにらまれた彼らは、すぐに黙ってしまいました。
「でも兄貴どうするのだい。弟たちは腹をすかして泣いているし・・・」
「それで待っているのじゃねえか。もう少しはこの方法で獲物が捕まえられたのにこのバカたちが調子に乗りやがるからだめになっちまった。」
兄貴のそばに立っていた一番大柄の狐は、その言葉に黙ってしまいました。狼の皮を被り、旅人を襲う方法は、確かに、もう少しは使えそうだったのですが、調子に乗った弟達が、村人まで襲ったので噂が速く広まり、誰もこの森を通らなくなってしまったのです。
とそこへ、一匹の狐が飛び込んできました。
「兄貴、チャンスだ。母親は出かけて留守だ。いまあの宿屋には娘達しかいねえ。」
「よし、ここを焼き払っていくぞ。弟ども俺について来い。」
そう言って立ち上がると、兄貴と呼ばれている狐は狼の皮を掴むと、周りに火をつけて、隠れ家から出て行きました。その火はすぐに燃え広がり、愚痴や泣いていた狐たちは慌てて外へ飛び出しました。兄貴の狐は飛び出してきた狐たちを並ばせると叫びました。
「言いか、もう俺たちには帰る場所はない。これからこの間話した計画を実行する。もしこの事が失敗したら、俺たちは死ぬだけだ。だから、これからは俺の言う事を絶対に守れよ。聞かないと殺してやる。そうしないと他のみんなも死ぬ事になるからだ。わかったな。」
「ふん、家を焼かれたら従うしかねえだろう。その皮さえあったらまだやれるよ。」
あの皮で村人を襲った弟の狐が愚痴ったのです。
「何か言ったか。」
「ああ、兄貴は勝って過ぎるよ。俺はここで別れる。俺についてくる奴は、ついて来い。いくぞ。」
そう言っていきかけた狐の首を一番大柄な狐が右手で掴んでつるし上げました。
「俺の言う事を聞けといったはずだ。聞けぬなら死んでもらうと。こうなったのもお前のせいだ。だが、お前は反省をしてないようだな。」
「く、く、くるしい。兄貴助けてくれ。」
「お前がいたのでは統制が取れない。この責任も含めて死ね。」
その言葉を待っていたのか、大きな狐はつるし上げていた弟の狐をそばの大木に叩きつけて殺してしまいました。
「大変なのはこれからだ。覚悟して置けよ。」
「はい。」
このことで、8匹の狐たちの結束は固まりました。
「こんこん。こんこん。」
「ハイどなたです。」
「お母さんよ。開けてちょうだい。」
少ししわがれた女の人の声が扉のむこうからしました。
「お母さんの声じゃないわ。」
「帰ってくる途中で砂埃をすって喉をいためたの。だから開けてちょうだい。」
応対に出た子羊が扉を開けようとした時、3番目の羊が止めました。
「お母さんなら、扉の隙間から手を見せて。」
少し扉を開けて、手を出させました。白い毛深い手が出てきました。それを見た3番目の子羊は、すぐに扉を閉じました。その白い手は慌てて引っ込めたのですが、扉に手をはさまれてしまいました。
「わいた〜〜。」
その声に驚いて少しだけ開けて、手を引っ込めさせました。
「お母さんの爪はそんなに短くて細くはないわ。あなたはお母さんじゃない。」
そう言うと、しっかりと扉にカギをかけてしまいました。
「お〜ふ。お〜ふ。お〜ふ。」
挟まれた手に息を吹きかけながら、お母さんに化けた狐は帰ってきました。
「兄貴、賢い奴がいてダメだ。ばれちまった。」
「そうだろう。そうは思っていたのだ。じゃあ、例の作戦で・・・」
と、一番上の狐が言いかけたとき、2匹の狐が、一匹のかわいい子羊を蔦で縛り上げて連れてきました。
「兄貴。こいつがうろうろしていたので捕まえてきたぜ。どうする、俺たちのことを見られているぜ。」
一番上の狐は目をつぶり何か考えていましたが、目を開けるとその子羊と同じ位の大きさの子狐を連れて、かくれているところよりも奥のほうに隠れました。そして、すぐに叫び声と何かを剥ぎ取る音がしました。
しばらくすると一番上の狐と一緒に言った子羊が仲良く両手に何かに肉を抱えて戻ってきました。
「それでは頼んだぞ。」
「わかったよアニキ。いえ、おにいさま。」
そう言うと、子羊は宿屋の方に戻っていきました。
「さあ、これを喰って腹ごしらえをいろ。喰いすぎるなよ。あとで腹いっぱい食わせてやるからな。」
そう言いながら、一番上の狐はにやりと笑いました。
町での用事を済ませたお母さん羊は、家路を急いでいました。大人しく家で留守番をしている娘たちに持ちきれんばかりのお土産を持っていました。
宿屋につくと家の中は暗く、玄関の扉のカギも開いていました。
「無用心ね。どうしたのかしら。」
お母さんはおそるおそる中へ入っていきました。そして、ソファーの上に倒れている娘を見つけると駆け寄って抱き起こしました。
「あ、おかあさん。」
「どうしたの。みんなは・・・」
「怖かったよ〜。」
そう言うと娘はお母さんに抱きつきました。お母さんも優しく抱きしめました。ですが、抱きごこちの違いに気づきました。
「あなたは誰。娘じゃないわね。」
「さすがに親だね。アニキ、今だ。」
頭を強く叩かれ、お母さんは気を失ってしまいました。それが、お母さんが気を失う前に聞いた最後の声でした。
そして・・・お母さんは気がつくと両手両足を引っ張って縛られてテーブルに寝かされていました。動かせるのは頭だけで、身体は動かせませんでした。ふと、お母さんは口が重くなっていることに気がつきました。それに、顔の周りにも菜だかゴワゴワしたものがあります。顔を横に向けるとかわいい娘たちが何か手に一杯掲げてお母さんのほうにやってきました。
「娘たち、わたしをたすけて。この縄をほどいて・・・」
ですが、娘たちは気にも止めずに、せっせとお母さんのおなかのほうにそれを運んでいました。そして、その度におなかが重くなっていきました。
「おや、気がついたようだね。そのまま気がつかないほうがよかったのに。後悔するよ。」
それは、おなかのあたりにたって妹たちを指図していた一番上の娘でした。
「娘や。どうしたのだい。この縄をほどいておくれでないかい。」
「おやおや、そんなことできるわけないだろうに。」
「なにを言っているのだい。わたしはお前達のお母さんだよ。」
「おかあさん、お母さんはそんなだみ声じゃないよ。」
「え。」
その時お母さんは始めて気がつきました。自分の声がだみ声になっているのです。
「それに、お母さんの口はそんなに大きくないし、そんなに毛深くもないよ。ご覧この鏡を・・・」
娘が差し出した鏡を見て、お母さんは驚きました。そこには大きな口をあけた狼が写っていたのです。
「そんな。そんな。わたしが狼になるなんて・・・娘や信じておくれ。わたしは本当にお前達のお母さんだよ。」
「あら、私たちのお母さんならここにいるよ。おかあさ〜ん。」
呼ばれて奥のほうから白いエプロンをした羊のお母さんが現れました。
「わたしがいる。そんな・・・」
やって来たお母さんは、何処となくおかしいのです。そうです。お母さんがちょっとつまづきそうになって下をむいた時、お母さんの顔の皮がずれて、その下からは皮をはがれた獣の、そう、狐の顔が現れました。
「娘や。そいつはわたしの皮を被った狐だよ。騙されるのではないよ。」
お母さんは必死になってそう叫びました。ですが、娘は驚いた様子はありませんでした。
「兄貴。まだ皮がくっつかないよ。」
「血が乾けばくっつくさ。俺たちのように・・・」
冷たい笑いを浮かべながら一番上の娘が言いました。そうです。狐たちは羊たちの皮をはいで被っていたのです。それでは、子供達はどうなったのでしょう。
「あんたの子供たちは、あんたの体の中に戻れて幸せだろうさ。ずっと仲良く暮らすのだよ。狼の羊のお母さん。」
その声はまさしく一番上の娘そっくりでした。さっきテーブルに近づいた子供たちの中で最後の一人が娘の声で言いました。
「兄貴。これでおしまいだよ。」
「今日から俺たちは、羊の女の子だぞ。もっと言葉遣いに気をつけろ。」
「ハイ、お姉さま。お姉さまもね。」
嫌らしい笑いを残して出て行きました。
「さあ、おなかを閉じましょうね、狼さん。あなたが食べた狐の子たちが出てこないようにね。グフフフフ。」
数日後、この宿屋は有名になりました。恐ろしい狼のお腹から子供達を助け出した賢いお母さんと、それを時計に中に隠れて知らせた勇気ある子供のいる宿として・・・
ちなみに、裏にあった井戸は狼が落ちた井戸として狼ごと埋められました。この宿屋は、大陸中に知れ渡り、大繁盛したという事です。
時々、近くの森のあたりで、身寄りのない遠方からの旅人が神隠しに会うらしいですがね。
あとがき
元は「狼と7匹の子やぎ」らしいですが、イメージの関係でこうしました。すみません。救われないはなしで・・・