彼女の秘密

 

 僕の名前は浅見祐介、年は20歳、現在はアルバイトでなんとかやっている独身の寂しい男です。彼女もほしいのですが、顔もたいしたことないし、かといって運動が得意なわけでも頭がきれるわけでもない。特になんか得意なもんがあるわけでもないんです。平凡な人間です。

毎夜、僕はいるかいないかわからないけど、一応、恋愛の神様に「彼女ができますように、できれば、17、18歳の小柄で泣き虫で、甘えん坊で、僕の言うことは何でも従ってくれる、純粋で、でもどっか芯の強い人をお願いします。」なんて、なんて贅沢な注文なんだと思う。

 

 そんな、願い事をしていると、ある日のこと、突然バイトの帰り道に誰かに呼び止められた。それは、17歳か18歳前後で自分より頭一つ小さくて、茶髪ともとれそうなセミロングの女の子が立っていた。

「あの?なんですか?」などとしらじらしい言葉で返すが、内心では(キタキタきたよ~、マジで理想どおりじゃん。ってか、まてよ。これは僕が毎日、神様にお願いしていたことがついに叶ったってことじゃないか、すげ~)なんてことを考えつつも彼女返答を待つことにした。

 

 しばらくモジモジしている。なんか言いたそうなんだけど、恥ずかしいのか。

「どうしたの?僕になんか用かな?」とちょっと冷たくあしらってみる。

(やべ~ちょっと、冷たいかな、これで帰られたらどうしよ~)

なんて考えていると、彼女のほうから「あの~、これから、ちょっと、私とお話ししてくれませんか?」と

(うお~きたよ~マジやばくね~、でも、待て、ここはすぐに答えると軽いやつに思われるぞ)

「え?でもさ、君と僕は今日、ここで初めてあったわけでしょ。いきなりいわれてもね。」とさらに引きはなす。

「あ・・・ご、ごめんなさい・・・わたし、かってに、さよなら。」

少女はそのままどこかへ走りさってしまった。

 

 (ええ~、マジで、ちょっと、冷たすぎたかな、あ~あ、いっちゃった・・もう、会えないのかな)

そんな後悔の念をいだきつつ帰宅した。部屋は朝、出たときのままで、布団は敷きっぱなし、ゴミは玄関の隅にたまっている。台所には洗わないまま放置された食器が乱雑に置かれている。祐介はそれを気にすることもなく、冷蔵庫からビールをとりだして、買ってきたつまみを食べながらテレビのリモコンをとりスイッチを入れる。予約していたビデオを見るのだ。

 

 それから数日後、朝、祐介がアパートから仕事にでかけようと玄関先をでようとしたら、この間の女の子が立っていた。

「あ?君、こないだの?」

特に急いでいるわけではないので、立ち止まって話しを聞くことにした。

「こないだはごめん、ちょっと冷たかったよね。なんか僕に言おうとしてたんでしょ?」

すると少女はモジモジしながら「え?あ、はい、実は、先日、お伝えしたかったんですけど、どうしても勇気がでなくて。」と、かなりいい展開になってきていることを感じる祐介。興奮しているのを悟られまいと冷静に振舞う。

 

 「そうなんだ。で、今日は言える?」と、なんだか、目上口調になっている。

「あの、私、ずっと、ずっと前から、あなたのことが好きでした、今もこうしてあなたとお話しているこの瞬間も胸がどきどきして・・・。」

待っていました、そのセリフ。(マジきたよ~女の子から告白されるなんて、我が人生はじまって以来の大イベントだよ~)と、まあ、興奮を抑えつつ

「そ、そうなんだ、でも、僕はきみを知らないんだけど。」とちょっと意地悪してみる。

「あ、でも、私を呼ぶ声が聞こえたんです。貴方は私を求めてた。私もあなたを求めてた。それでいいんじゃないんですか?」

意外にまっとうな意見を押し返されて、たじろぐ。

「そ、そうだね、僕を求めてここまできてくれたんだ、ありがと。じゃあ、とりあえず、僕はいまから仕事だから、あ、これ、俺の携帯の番号、あとで連絡してね、話しはそっからだよ。」とそそくさに、その場をあとにする。

 

 仕事が終わり、携帯を見る。しかし、彼女からの連絡はない。どうしたのだろうか、やっぱりだめだったんだろうか。そのまま、帰路につく。アパートの玄関先につくと、あの少女がたっていた。

「あれ?どうしたの?」と話しかける。少女はゆっくりとした口調で話しかける。

「あの、私、携帯持ってなくて、連絡できないんです。」

そう、まだ、高校生くらいの彼女。でも、今日び、女子高生が自分の携帯を持っていないことはまずないと思っていた自分が甘かった。

「そっか、ごめん、勝手に携帯あるもんだと思ってた。もしかして、ずっと待ってたの?」

少女は頷く。

 

 「まあ、とにかく、部屋に入りなよ。あ、ちょっと待って片付けるから。」と先に部屋に入る。散らかった洗濯物やゴミを押入れにいれた。布団をたたみ、部屋の隅にしまう。乱雑に置かれた皿を戸棚に無理やりしまいこんで、ようやく人様をいれれる最低限の環境を整えた。

 

 「ちょっと、ちらかってるけど、ごめんね。」

「いえ、おかまいなく。これが、憧れの祐介さんの部屋。わー、男性の空気がする。いい気持ち。」と、予想外の返答に少し、うれしかった。しかし、問題はここからだ。なにを話していいやらわからない。女の子が喜びそうなものはない。しばし、沈黙が続く。とりあえず僕は彼女に自分のどこがいいのかを聞いてみることにした。

「あの、僕は君を見るのはこないだが初めてなような気がするんだ。君はどこで僕を見たの?どうして僕なんかを好きになったの?」

 

  「えっと、私、はユキっていいます。私はずっと、仕事をしてた祐介さんのことを見ていました。好きなところは優しいところです。その他にもいろいろとあるんですけど、とにかく私の好みのタイプだったんです。だから、毎日いろんな想像とかしちゃって、きゃ、ごめんなさい。悪気とかはなかったんです。でも、心の中で留めて置けなくなって、悪いとは思ったんですけど、尾行とかしちゃって、ストーカーまがい、てゆーかストーカーまんま、みたいな、でも、私はそれだけ祐介さんのことが好きなんです。こんな、私じゃだめですか?」

 

 僕は彼女のことがぐっと、好きになってしまった。なんていい子なんだ。僕のタイプ、僕が待ち望んだ子、理想の集大成がここにいる。

「わかった、ありがと、そんなにまで想っててくれたなんて、気がついてあげられなくてごめん。これから仲良くやっていこうよ。よろしくねユキちゃん。」

 

 「あの、ユキって呼び捨てでおねがいします。私、そっちのほうが、祐介さんの彼女っていう感じだし、誰かの所有物であるみたいな感じが好きなんです。私は祐介さんのものなんです。すごくうれしい。」

 

そんな調子で僕とユキは恋人という関係になる。ユキはまだ学生らしいので、授業が終わったら、僕とデートとのため僕のアパートにやってくる。ユキはいまどきの女子高生にしてはめずらしく携帯電話を持っていない。なのでプリペイドの携帯電話をユキに持たせることにした。もちろんメールだってできる。週末はお泊りが最近の日課となっている。

 

「あ、もしもし、祐介さん、今からいくんですけど、大丈夫ですか?夕飯は私が作ります。なんか買っていきますけど、なにがいいですか?」

こんな新婚夫婦のような会話もしている。ユキは料理がうまいし、作る料理もおいしい。まだ若いのにすごいと思う。

「うーん、今日はユキの特製カレーライスが食べたいな。」

「わかりました、材料は買ってきます。もうちょっと待っててくださいね。」

 

ユキが部屋にやってきた。

「おかえり、いつもわるいね。」

「いえ、いいんです。私の料理を食べてくれるのは祐介さんだけですから、うれしくてうれしくて。さ、準備しますよ。祐介さんも手伝ってください。祐介さんはご飯係りでお願いします。お米をといで炊飯器に入れてください。」

 

食卓にカレーができた。

「いただきます。」と二人で挨拶して一緒に食べる。

「うーん、いつ食べても、ユキの作ったカレーはおいしいな~。」

「ええ、そうですか、ありがとうございます。」

そんな楽しい会話をしながら食事は終わった。テレビを見ると、ユキは使い終わった食器を流し台に運んで洗い始めた。

「あ、ごめん、なんか俺、ユキにさせてばっかだな、手伝おうか?」

「いえ、いいですよ。これは女の仕事だと私は思ってますから。祐介さんはそこでゆっくりテレビでも見ててください。すぐ終わりますから。」

 

僕はそのままテレビの野球中継を見る。しばらくしてユキが傍に寄ってきた。香水をつけているのだろうか、とても甘い匂いだ。学生服のまま、季節は秋、少し肌寒くなってきたこともあり、ユキは黒い長袖のカーディガンを着ている。あとはスカートと黒いハイソックスだ。

「そんなとこにいないで、こっちにおいで。」と声をかける。

「はい。」とユキを自分の胸元にだきよせる。髪の毛からはシャンプーのほのかな匂いがする。

女の匂いを満喫しながら、「ユキはかわいいな~ずっとずっと、こうして抱きしめていたいよ。」

「ありがとう、私も祐介さんにずっとずっと、こうしていてもらいたい。」

 

「キスしようか・・・?」とふいに声をかけてみる。

「え?・・・あ、はい。」

そのまま、僕はユキの柔らく潤んだ唇に自分の顔を近づける。そのままキスをする。やわらかく小さな唇はあまい味がした。

 

そんな生活が約半年ほど続いた。僕はユキには内緒で小型ビデオカメラを買った。1週間後はユキの誕生日なので、どっきりカメラでちょっとしたいたずらをしてみようと思っていた。誕生日プレゼントにしては最悪だと思う。しかし、カメラテストをかねて、土日にカメラを部屋の見つからないとこに隠して録画状態にしておいた。

月曜になって、この日は僕は休みなので、土日の二人の活動をみようと録画したビデオを確認することにした。

 

土曜日の朝にユキは部屋にやってきた。土曜は、僕は仕事なので、部屋にユキを残して仕事にでかける。ユキはその後どうしているのか、たぶん部屋を片付けて夕飯を作ってくれているはず、いつもそうだから、でも、この日は違っていたのだ。

 

 僕を送り出したあと、ユキは、いきなり自分の服をすべて脱ぎはじめた。この日はタートルネックのピンクのシャツとスカートブーツだった。靴下も履いている。服をぬぎ、スカートをはずして、靴下を脱ぐ。下着だけの状態になる。しかし、まあ、スタイルはいい。ユキはそのまま、ブラジャーとショーツを脱ぐ。全裸状態になった、驚愕の事実はここからだ。いきなり、髪の毛を額から後ろに引きずりおろした。あのセミロングの髪はかつらだったのだ。スキンヘッドのユキがたっていた。口に手をいれると、入れ歯を口から出す。消毒液の入ったコップに入れ歯を入れる。

 

 もう、なんだかわからない。目の前で、彼女が彼女じゃなくなっていく事実を、ただ呆然と見ているだけの自分。ユキはスキンヘッド、全裸で今度は自分の後頭部に両手をもっていき、一気に左右に引き剥がす。いままでなかった割れ目がジッパーをあけるようにあらわれ、縦に割れていく。背中のちょっと下まできたところで停止した。そのまま顔をめくり、中から男性の頭らしき影があらわれた。僕の膝はがくがく震えていた。それはそうだ。いとしの彼女から見たこともない男が現れたからだ。

 

 男はそのまま、腕をはずし、背中から脱皮するように、ユキの皮を脱いでいく。完全にユキの皮を脱ぎきって、皮は布団に置く。背はユキと同じ細い男だ。胸と股間になにか特殊なパットが装着されていた。胸を形成させるための特殊パットなのだろうか。股間は男性の象徴を消し去る特殊パットのようだ。

 

 男はその特殊パットも脱ぎ、中身の汚物をビニールにまとめるとゴミ箱に捨てた。そのまま、男は風呂に入っていく。それを撮影されているとも知らずに。しかし、見ている僕は、もうどうしていいか判らなかった。まさか、まさか、あのユキが着ぐるみのようなもので、しかも、中には同じ男性が入っていて、いままで僕をだまし、彼女に化けていたなんて。絶望もいいとこだ。男が風呂から上がってきた。そのまま、布団にもぐりこんで2時間ほど仮眠をとっているようだ。午後1時ごろにふいに起きて、バックから男性の下着を出して着替える。服は僕のものを勝手に借用している。

 

 髪を整髪して、歯を磨いて、そのまま、部屋をでてしましまった。2時間ほどして彼が帰ってきた。なにかを買ってきたのだろうか。夕飯の支度をはじめた。ハンバーグのようだ。手際よく肉をまるめている。そこでは焼かずにラップをまいて冷蔵庫に保存しておくつもりらしい。

 

 午後4時、彼はふたたび全裸になり、特殊パットを胸と股間にあてがい固定する。ユキの皮をとると、脱いだのと逆の手順でユキに入っていく。足を通し、腰まで皮をもちあげる。両手をいれて、顔をかぶる。最後に両手を後ろのジッパーのような割れ目をおさえると自然と割れ目は肌と同化してわからなくなった。除菌していた入れ歯を口にいれて、かつらをかぶると全裸のユキが立っていた。そのまま、バックから、下着と服をとりだして、ブラジャー、ショーツ、今度は黒いタイツを出してそれに履き替える。その上から、タートルネックのシャツとスカートはく、鏡でスタイルを整えて、髪をとく。かつらにしてはよくできている。なにか特殊なもので固定されているかのように櫛でといてもずり落ちることはないのだ。

 

 午後5時30分、僕が部屋に帰ってきた。何事もなかったかのように僕を出迎える彼女ユキ。僕にうれしそうにジャレて抱きついてキスまでしている。事実を知ってしまった僕はもう泣きそうになっていた。あのユキが実は男が化けている架空の少女だったなんて、そうだよな~話しがうますぎると今頃気がついた。しばらく、呆然となる。そこにユキからのメールが届く。

「ゆうすけさん、今から行きます。」

そんな内容のメールだった。

「わかったよ、待ってる。」と返信した。

 

 1週間後、今日はユキの誕生日。僕はユキに内緒でプレゼントやケーキを用意して、ユキが来るのを待った。しかし、その日、ユキは家にこなかった。携帯に何回も連絡を入れてみたが電話にも出ず、メールも返信がない。どうしたのだろうか。不安といらだちがたかまってくる。気がつくと朝になっていた。手つかずのケーキと部屋の飾りつけ。その日は仕事は休みだったのでよかったのだが、なにもする気にはなれなかった。

 

 3日後の夕方にやっとユキと連絡がついた。

「もしもし、あ、ユキ、どうしたんだ。4日も、心配してたんだぞ。どうしてなにも連絡くれなかったんだ?」

少しいらだちがあったのか口調が乱暴だった。

「、ご、ごめんなさい、ちょっと家の事情でいけなくて。」といいわけする。

「家の事情って、4日も連絡とれなかったんだぞ、俺はお前のために・・・。」

「ごめんなさい、ごめんなさい。」

ただひたすら細い声であやまるユキ、なんだか泣きそうな勢いだ。

「とにかく、今日あってくれ、部屋でまってるから。」と勝手に切ってしまった。

 

 しかし、その日はとうとうユキは部屋にこなかった。自分が少し強くいいすぎたことも原因であるとは思う。行き辛いのも判る。でも、なんで?

仕事もろくに手につかないまま、さらに3日がすぎていった。土曜日の夕方に部屋の前にユキが立っていた。もう1週間近く会ってなかった。うれしいのやら悔しいのやらわからないけど、そのときはうれしかったのだろう。思わず駆け寄ってユキを抱きしめる。

「ユキ、どうしたんだ。いままで、すごい心配したんだぞ。」

こみ上げる感情を抑えることができなかった。

 

 そんなある日、僕はふとユキにこんなことを話してみた。

「こないだ、駅前の商店街でうさぎの着ぐるみをみたんだ。子供とかに風船配ってて、とてもかわいかったな~。」と、まあ、遠まわしで着ぐるみの話題に切り込んだ。

「そうですね、私も何回か見たことあるけど、かわいいし、一緒に写真とりたいな~。」といってきた。

まるでまだ自分が着ぐるみであることを知られているとも知らずに。

 

 「でもさ、ああゆうのって、中、とっても暑いんだろうな~。」と少しずつ確信をついていく。

「どうなんでしょう。私はあんなのやったことないからわかんない。」と、あくまでわかっていないふりをするユキ。

「そっか、まあ、もし今度、二人でデートしてる時に会ったら写真撮ろうね。」と言ってみる。

「うん、とっても楽しみ」

 

 その後、僕はユキがいない時は、あの録画ビデオを見ている。ユキには見つからないように常に自分の鞄にいれて持ち歩いている。もし、ユキがこの事実を知ってしまったら、今の幸せな生活が消えてしまいそうで怖かったのだ。そう、僕は心の底からユキのことを愛してしまったのだ。たとえそれが偽りの愛だとしても、今の僕にはユキなしでは暮らせない。

 

 それにしても、ユキを内部で演じている男性は一体誰なんだ。どうして僕ところに来たんだ。どういう目的で・・・謎は深まるばかりである。ビデオでも後頭部しか映っておらず顔はわからないままなのだ。日々、僕と接して、エッチなことまでして、彼はどうゆう人物なのだろうか。興味がわいていきた。

 

 僕は悪いと思いつつも再び部屋に隠しカメラを取り付けて、わざとユキを部屋に残し、出かけた。10時間ほど留守にしておいて、その日の夜に帰ってきた。ユキはいつもと同じ笑顔で僕の帰りを待ってくれていた。夕飯の支度もしてくれていたようだ。二人で楽しく会話して、その日はユキは家に帰っていった。ユキが出て行って、部屋の鍵をかけて、カーテンを閉めて、早速、録画していたビデオを確認する。

 

 僕が出て行った後、しばらくユキは掃除と洗濯をしていた。一通り片付いて、一休みするところなのだろう。カーテンを閉めて、部屋に鍵をかけて、そこからまた、おもむろに着衣を脱ぎ、全裸になった。かつらをはずし、入れ歯をはずして、脱皮するように、ユキの皮を脱ぎ取る男性が映っていた。2回目だけど、このシーンはかなり興奮する。なんせ、17歳の少女から20歳前後の男性が現れるのだから、彼は特殊パットをはずして風呂に入る。出てきた。一瞬カメラの方向を見る。バレてないとは思うが少しどきどきする。このときはじめて顔が見えた。

 

 前にどっかで会ったような顔。でも、はっきりとは思い出せない。彼はなにごともなかったかのように、パジャマに着替えて仮眠をとる。2時間ほどして、起きて僕の服を着る。どこにでもいる若い男という感じだ。するとこんどは部屋を物色しはじめたではないか。どういうことなのだろうか。箪笥や押入れの中を探す。通帳と印鑑を発見したようだ。

「ど、泥棒?マジで。そういえば最近、知らないうちに預金が引き出されてたっけ。僕のお金をこいつが勝手に使っていたのか。くっそ~、最初から金目当てか。でも待てよ。それならもっと金のありそうな奴のところに行ったほうがいいじゃないか?どういうことなんだ?」

 

 そんなことを考えているうちに、彼はそのまま外出してしまった。

(ま、まさか、ユキが泥棒だったなんて。違う、ユキが泥棒なんかじゃないんだ。ユキを操っていた奴が泥棒なだけだ)と必死にユキを心の中で正当化させる。

「まて、こういうときはどうしたらいいんだ。まず、警察に通報するのか。いや、とにかくもう一回通帳と印鑑を持ち出していたら、通報することにしよう。」

 

 ビデオをそこで見るのを止めて、今後の対応を考えることにした。とりあえず、通帳などの隠し場所を変更することだと、とりあえず隠し場所をかえて、これでユキがどういう反応を返してくるか、とりあえず様子を見ることにした。もう一回ビデオをつけ、さっきの続きを見ることにした。

 

 2時間ほどして帰宅した彼はなにやら買い物をしてきたらしい。それも全部、女性ものの服と下着。こいつは僕の金を使って、自分の服を買っていたのだ。とんでもないやつだ。だんだん怒りが込み上げて来る。彼はそのまま、ユキになりすまして、買ってきた服を試着している。これは、ほとんど女の子に近い、ってゆーか、女の子なんだけど。

 

 なんにせよ。今、ユキを裏であやつっている奴はまぎれもない泥棒なのだ。

「くっそ~、あいつからユキを取り返すにはどうやったらいいんだ。そうだ、ちょっと汚いやりかたかもしれないけど、睡眠薬をまぜた飲み物でユキを眠らせた後に、泥棒からユキを分離させればいいんだ。でも、そんなにうまくいくかな・・・でも、やらないと。」

 

 かくして、僕のユキ奪還作戦が始まったのだ。とにかくユキに感づかれないように極秘で行動する。ユキの好きなオレンジジュースに混ぜる計画をたてて、睡眠薬を購入。今度の土曜日が決行の日だ。それまであやしまれずにいられるだろうか。

 

 とりあえず、いろんな買い物が必要だと感じた僕は、薬局やなんかにいろいろ買出しにいった。その帰り、自分のアパートの隣の部屋から引越し業者がせこせこ働いていた。

「そうか、お隣さん引っ越すんだ、あれ?どんな人だったかな?」とまあ、こんな感じだが、そのときは気にもとめなかった。

 

 「ゆうすけさん、こんにちわ。」といつものように、なにも知らずに、部屋に入ってくるユキ。学校があったのか、学生服と黒のタイツだった。そのまま靴を脱いで部屋に上がる。

「あらら、また散らかってますね。だめですよ、ちゃんとお掃除しないと。」とかるく説教する。

「ああ、ごめん、最近仕事忙しくて、なかなできなかった。」

 

 一仕事終えたユキは、居間に来てテーブルの前に座り込んだ。

「あ、ユキ、ありがと、喉かわいてない?」

「あ、そうですね、今、なんかだしましょう。」といってくる。ここでユキに準備されたら計画が台無しだ。

「ああ、ユキはさっき掃除してくれただろ。僕がやるよ。ユキ、オレンジジュースでいいだろ?」

「はい、じゃあ、お願いします。」

 

 といって台所にいき、冷蔵庫をあける。2リットルのペットボトルがある。

「おーい、ユキ、どっちがいい?1本はE県産のオレンジジュース、もう一本はW県産のオレンジースがあるんだけど。」

わざと2本用意して、ユキに選ばせる。

「え~、なんで2本もあるんですか~あやしいな~、睡眠薬でも入ってるんじゃないですか?」

いきなり図星をつかれて動揺する。

「な、なにいってるんだよ、そんなの入ってる訳ないじゃないか。」とあわてる。

「じゃあ、ゆうすけさんと同じやつでいいです。」と答える。

(くっそ~、こいつ、考えたな~、同じやつだったら、俺も飲まないといけないじゃないか、どうする・・・)

 

 コップにジュースをつぎ、ユキのもとに持ってくる。

「もう、ユキがへんなこと言うから、ちょっとこぼしちゃったじゃないか。」

「えへへ、ごめんなちゃい、そうですよね、ゆうすけさんがそんなことするわけないですよね、疑ってごめんなさい、乾杯して、一緒に飲みましょう。」と言う。

(くっそ~、こうなったら、どっちかが先になるかだな。たとえ失敗しても、次にもっといい作戦を考えてやれば)と諦めモードで乾杯して、ジュースを飲む。5分ほど経過したとき、ユキが寝てしまったようだ。

「やった、あっちが先に効いたんだ、よし、この隙に奴からユキを分離させる。」

 

 とはりきって、やっていたが、着衣は脱がせられたが、肝心のスーツとなる皮膚はどうやっていいのかわからない。おたおたしているうちに、ここでようやく自分にも睡眠効果がききはじめた。目の前がぐるぐるまわって、まぶたが重くなってきた。倒れる瞬間。耳元でだれかがささやたような気がした。

 

 僕が倒れると同時にユキが目をさましたのだ。そう、彼女はすべて知っていたのだ。ジュースも飲んだふりをしていただけである。先に眠ったふりをして祐介をだましたのだ。

「ばーか、あんたの考えなんてとっくに知ってるのよ。残念でした。さ、取るモンとって、こことはおさらばね。あ、そうだ。この皮はあんたにあげるわ。私にはもう必要ないからね。いとしのユキちゃんと一緒に暮らしていくんだね。」

 

 といって、ユキを脱ぎすてる。

「俺は金はとっても命はとらない。まあ、その皮はお前の好きにするがいいさ。着てもよし、誰かに着せてもよし。今回は稼ぎ少なかったな。まあ、こんな貧乏男じゃこんなもんか・・・、俺がなぜ、あんたの夢をしっているかだって?簡単なことさ。俺はあんたの隣の部屋の住人だからね。といっても、もう明日には引越してるけどな。ちなみに、俺はあんたの行動は隣の部屋からいろいろな方法で聞かせてもらったし、あんたが隠しカメラを仕掛けているのも知っていたのさ。少しの間だったが楽しい恋人生活を満喫させてもらったよ。」

 

 よく朝、なにもわからずに目が覚める。

「ぼ、僕は一体・・・そうだ、オレンジジュースをのんで、ん?」とテーブルの上に置手紙があった。

「えっと、拝啓 祐介様、短い間でしたが楽しい恋人生活をおくれて楽しかったです。知ってのとおり私は偽者です。あなたが私を盗撮していたこともしっていました。あなたが夜な夜な神様にお願いしていたことも、私はそんなあなたのささやかな願い事をかなえるためにやってきました。御代はいただきましたので、失礼します。あ、あと、私はそこの箱の中にいます。あとはあなたの自由です。ありがとう、そして、さようなら。。。。ユキより」

 

 なにやら、箱がある。開けると、そこにはユキの抜け殻が折りたたまれて収納されていた。

「ユキ・・・ユキー、だめなんだ。他のだれかがユキでもだめなんだ。キミがユキじゃないと・・・。」

僕はユキの手紙と箱そして、録画したビデオテープをもって、焼却炉に立っていた。

「さよなら、ユキ・・・キミはもう存在していない。こうすることが一番なんだと思う。さよならユキ、ありがとう。」

 

 僕は火のついた焼却炉に箱と手紙を投げ入れた。パチパチと音をたてて燃えていった。秋の寒空に煙がのぼる。

 

終わり

 

 

 

この作品は作者の空想から生まれたフィクションであり、実際の人物、団体名とは一切関係ありません