サクラ

 

 僕の名前は川崎竜助、今年、大学を卒業した新卒だ。晴れて就職希望だった電話通信のIT関連会社に無事就職が決まった。僕は両親と離れ都会で一人暮らしをしていた。学費はバイトと奨学金でまかなっていた。社会人になってから、ばりばり働いて両親にいい思いをさせてあげたいと思っていたんだけど・・・。

 

 ふとしたきっかけではじめたギャンブル。いままでやったことなかったけど、案外楽に大金がはいってきた。それを元手にもう一回、もう一回と重ねるうちに借金が膨らんでしまった。自分で言うのもなんが、かなりギャンブル狂なのだ。親孝行するつもりが、どんどんいけないところに足を踏み入れてしまった。もうだめだ。借金で首が回らなくなっていた。いっそ、自殺でもすればこの現実から逃げることができるのでは・・・。

だめだ。今、僕が死んでも家族に迷惑がかかるだけだし、死ぬ勇気なんてない・・・、どうしたらいいんだろう。

 

 会社の業務もままならない、そんなとき、ある同僚がこんな話をもちかけてきた。うちの会社の裏事業で一人欠員がでたから、よかったらやってみないかと言うこと。どう事業なのか、そのときの僕にはそんなことを疑問視できる余裕はなかった。しかも、時給は今の3倍ある。藁をもすがる思いでその同僚に連れられて、会社の秘密事業部に連れてこられた。

 

 川崎「こ、こんな部屋があったんだ。いままで気がつかなかった。」

 男「まあな、普通の社員では下手したら、一生知らないさ。お前、運がいいよ。ここの事業は、はまる奴にははまる。俺もここと総務を兼任してるが、ほとんどここで仕事してる。しかも、楽だし、金もいい。お前、金に困ってんだろ?」

川崎「な、なぜ、それを?」

 男「そんなの、お前の顔に書いてあるからな。金がありません、助けてくださいって。」

川崎「そ、そんな・・・。」

 男「まあ、だまされたと思ってやってみろよ。部長には俺が話しつけといてやってるから。」

 

 部屋に入ると、10人ほどの男性社員らしき人たちが、パソコンに向かっていた。それぞれには、囲いがあり、3畳ほどの空間が設備されていた。隅には観葉植物や、喫煙所、自動販売機、リラクゼーションのマットまである。ここは特別な人間にしか入ることができない空間なのだと認識できる。

 

 男「さ、とりあえず、部長に話ししないとな。こっちだ、ついてきな。」

 

僕は彼についていく間、周りの様子を伺う。みな、こっちのことなど、関心もないのか、必死にパソコンを打っている。

 

男「田村です。例の人物をつれてきました。」

男「入れ。」

田村「はい、失礼します。」

 

空調がきいた暖かい部屋。床は高そうな絨毯がしかれていた。書棚や骨董品などが並べられている。

 

男「きみが、新任の川崎くんかね?」

川崎「え?あ・・はい。」

男「そんなに緊張になくてもいいではない。これから一緒にやっていく仲間なんだから。」

川崎「仲間?ここは一体どうゆう仕事をしているんですか?」

男「それは、田村くんから説明してもらってくれ。紹介が遅れたが、私がここの責任者で部長に斉藤だ、よろしく。では、田村くん、よろしく頼む。」

 

田村「はい。簡単にいえば、ネットサイトの出会い系サイトのさくら事業だ。」

川崎「そ、それって、いけないことじゃないっすか。」

田村「そうだな、世間ではそういわれているな。だが、うちは違う。」

川崎「どうかどう違うんですか?」

田村「本来、担当する人間は、ここでは10人。まあ、俺とお前で12人なんだが、ここでは、それぞれサイトで知り合った男性に会うところまでいける。」

川崎「は?意味わかんないんですけど?」

田村「直接、メールでやりとりしている男性と出会い、食事をして、やるときはやる。そうゆうことだ。」

川崎「は?やるときはやるって?」

田村「みなまで言わせるな。ここは独自のラインがある。メールで仲良くなるとこっちが女性であることを認識させるために写真を送るんだ。」

川崎「はあ・・。」

田村「その前に相手の男性の好みをいろいろ聞いて、データを収集する。たとえば、タレントの誰ちゃんに似いるとか、幼い顔が好きだとか、眼鏡っ娘がいいだとか、そっから、もっとも最良な顔をプロファイリングして、顔を作る。それをうちの会社の別のセクションで立体造形する。最近の携帯は、テレビ電話は当然できるだろ。そして、出来たマスクを担当の人間が被り、写真を撮影する。それを送るわけだ。」

 

なんだろう、この胸の高鳴りは・・・いままでにない、感情の高まりを感じる。

 

田村「どうだ、面白そうだろ。つまりだな、相手の男を騙すために、好み子のマスクを被って、お前が女の子に化けるんだ。実際に会うということになれば、全身スーツを製造するが、これはかなりコストがかかる。もちろん支払うのは要求してきた客なんだがな。そうなったら、お前は特殊スーツに着替え、女になりすまして、男性と会う。食事をしたり話したり、まあ、その後もあるかもな。まあ、そういうことだ。どうだ?やってみないか?」

 

僕の中でもう答えは決まっていた。

 

川崎「はい、やらせてください。」

 

斉藤「元気があっていいね。そのかわり、この仕事はハードワークだ。1週間家に帰れないこともあるぞ。あと、この事業に関しては極秘だ。誰にも言うな。親、兄弟、友達、恋人、誰にもだ。もし、やぶってしまったら、きみの未来はないと思ってもらっていい。だが、最低限の生活に支援は約束しよう。給料も今までもらったのの3倍からスタートだ。成績次第でもっと伸びることもあるから、がんばってくれたまえ。」

 

斉藤「川崎くんの担当は田村くんだ。わからないことがあったら、なんでも彼にききたまえ。彼はここのチームでも一番成績の優秀な男だ。私も信頼できる。彼に習えばきっときみも優秀な人間になるろう。それに私は田村くんのやる女の子が好きだ。」

田村「ありがとうございます。」

斉藤「きみのデスクはもう用意してある。あとは田村くんに一任してあるから。では、検討を祈る。」

 

そういって、部屋から出た。すると、いままで見慣れなかったグラマーな女性が立っている。こっちに気がつくと笑顔で手をふってくれた。彼女はそのまま部屋を出て行った。

川崎「すごい、美人だ。でもなんで、も、もしかして、あれって、さっきいってた?」

田村「ああ、そうだ。彼女はれっきとした男性だ。そしてあれがこれからのきみの仕事なんだ。」

 

自分のデスクに案内された。正方形の空間には、デスクトップパソコンと電話、ノート、筆記用具などが並べられている。

田村「今日から、ここがキミの仕事場だ。この仕事にとくに勤務時間の縛りはない。普通に朝きて、なにもなければ5時で帰ってもらってもかまわない。朝礼などはない。勝手に仕事を始めてくれ。これがここのカードキーだ。一応、本人認証のため、暗礁番号と指紋データ、声紋データ、網膜データなどをとらせてもらう。それはここのフロアのメディカルルームでやってくれ。パソコンもきみのものだ。指紋データがなければ起動できないようになっている。」

川崎「はあ、でも、なんか、すごい、夢のようです。こんな仕事が僕なんかに。」

田村「きみはまだ、自分に眠っている本当の力に気がついていないだけなんだ。入社テストにさりげなく適正テストもまぜておいたんだ。きみはそれにうまく適合できたとゆうわけだよ。最初のなれないうちはあんまり多くの顧客をかかえないこと。自分の仕事のペースでやればいい。」

川崎「はい、がんばります。」

田村「あと、メディカルルームでは、きみの身体データをとるよ。マスクやスーツを作るときの参考にしなければいけないからね。」

川崎「はい。」

田村「まあ、今日はさわり程度だ。まず、これからメディカルルームにいってくれ。話はしてあるから、すぐに始めるはずだ。終わったらlここに帰ってきてくれ。俺に終了報告をすませたら、帰ってもらっていい。」

 

その日は一日、身体測定についやした。終わったので一旦、デスクにもどり、コーヒーを飲んで田村のところにいく。

川崎「終わりました。」

田村「おう、お疲れ。ああ、それと今日からきみはここでの名前はLだ。」

川崎「L?・・・それはどうしてですか?」

田村「いろいろやばい事業なんで、本名や写真はみな一切残していない。俺の名前ももう忘れろ、ここではKと呼べ。じゃあ、もう今日は帰っていいぞ。お疲れ様。」

川崎「はい、お先失礼します。お疲れ様でした。た、いやK。」

 

翌日

もらった特殊なカードキーで部屋に入る。一般の社員とは違ったルートでたどりつく。セキュリティーロックも、指紋、声紋、網膜スキャンなどをする。

川崎「おはようございます。」

しかし、誰一人として挨拶をかえしてくることはなかった。仕方ないので、自分のデスクに向かう。昨日までなかったLというプレートが壁にかかっている。鞄を置いてKのもとに向かう。

川崎「おはようございます。」

K「おはよう。今日がいろんな意味でのスタートだから、じゃあ、とりあえず業務内容を教える。L、きみのパソコンに本社が受け付けた顧客リストがあるから、それを開いてまず、誰でもいいから一人にメールを送れ。もちろん女の子としてだ。ボロはだすな。あっちは、いろいろ詮索してくるはずだ。年、血液型、出身地、最寄り駅、仕事、一応そういうのを簡潔にまとめたファイルもあるから、そこを参考に会話を組み立ててくれ。実際、こっちのサイトに登録ができればわかる仕組みになっている。ひとり入れたらそれだけ1ポイントだ。10ポイント上げられれば10%増しの特別手当が支払われる。」

川崎「はい。」

K「まあ、最初はつかみ程度でやればいい。初めてなんだから、休憩は自由にとってくれていい。ああ、あと、顧客と電話などになる場合がある。」

川崎「それはどうするんですか?」

K「別室で対応してくれ。電話ルームが個別で用意されている。こちらの音声は自動的に女性の声に変わる仕組みになっている。ただ、それには顧客から収集したデータが必要だ。年齢によって声のサンプルが違う。書類を提出してからの対応だ。だから、安易に電話などの約束は持ち込むな。自分が困るぞ。会社もだが。」

川崎「はい。」

K「マスクの製作は依頼より5日はかかる。そこまでのプロセスはお前が組み立てろ。ボディスーツはさらに5日はかかる。今度、研修があるから、お前はそれに参加しろ。そこでは女性としての会話の構成や、マスク、ボディスーツの着用などの研修を行う。そこで一通り習ってくれ。実践はけっこうすぐにあるぞ。ただし、マスクもボディイスーツもコストがかかる。マスクは3ポイント、スーツは5ポイント自分のポイントから引かれる。新任のお前には最初から5ポイントある。今後のとりくみしだいでポイントは増減を繰り返すだろ。うまく使って自分の仕事を効率よく進めろ。」

川崎「はい。」

K「この仕事はやりだしたら面白い。おっと、俺もそろそろデートの時間だ。これから食事に誘われてるんだ。着替えていかないと、がんばれよ。」

と、Kは席を離れ、別室に向かった。僕は自分のデスクに帰り、パソコンを起動する指紋照合を行う。パソコンにはいろいろな顧客のデータがある。みな男性、その中から自分好みの一人とメール交換するわけだ。いろいろありすぎてよくわからない。

少女「こんにちは、Lさん。」

川崎「き、きみは誰?どうしてこんなところにいるの?・・・・も、もしかしてKさん?」

少女は頷く。

川崎「すげ〜、普通にかわいい女子高生だ。本物みたい。」

女「きゃ、うれしい、ありがと〜。じゃあ、いってくるね。」

そういうと、彼、いや彼女は部屋をでていった。女の子になったKさんを部長が好きだというのも頷ける話だ。

 

川崎「さてと、とりあえず、一人に返事だしてみるかな。え〜と、どれがいいかな。」

リストをみて適当な人を選定する。大体は仲良くなろう、メールしてねとかだ。どれも似たり寄ったりの文章、探すのも面倒になってきた。なので、一番上の人にしぼってメールを返す。パソコンからだけど、あっちの携帯には、いかにも携帯電話から返信されたかのような痕跡が残るため、あっちも信用するとゆうわけだ。

 

「こんには、はじめまして、ハタチのミユキっていいます。よろしくね。あなたのこともっと知りたいな。簡単なプロフつけてね。」

 

すると10分もしないうちにレスがきた。そうとう暇だったんだろう。

「はじめまして、メールありがとう、ミユキちゃんっていうんだ。可愛い名前だね。俺はケンイチ、年は23だよ。もっとミユキちゃんのことしりたいな。」

 

「メールくれてありがと〜、うれしいです。私、年上の男の人好きなんです。よかったら、これからもメールしてください。」

 

川崎「ケンイチ・・・どんな奴なんだろう。もっとさぐりを入れてみるか。」

 

「ケンイチさんは、どんな趣味をもってるんですか〜?私は料理です。仲良くなったら作ってあげます。自慢はシチューかな〜。」

「そうなんだ・・・俺はスノボーかな。」

 

川崎「でたー、女の子にもてそうな趣味上位ランクのスノボーだ〜。嘘くせ〜。」

 

「え〜そうなんですか〜かっこいいな〜。今度、よかったら一緒にゲレンデにいきましょう。ケンイチさんのかっこいいスノボー姿みたいな〜。」

「ん・・うん、そうだね。話しはかわるけど、ミユキちゃんはなんの仕事してるの?」

 

川崎「ははは、できないから、話題を変えたなw仕事は・・・雑貨店がいいな。」

 

「私は雑貨店でお仕事してます。人と接するのがすきなんです。」

「へ〜、どこの雑貨店?」

「ごめんなさい、まだ、教えられないの・・シクシク。」

「ご、ごめん、疑ってるわけじゃないんだ。俺も雑貨とか好きでよくいったりするし、もしかしたらどっかであってたりするかな〜ってさ(汗」

 

川崎「なるほど、女の子と同じ趣味で気持ちを共有させる作戦か・・・。」

 

「わかってます。ケンイチさんはそんなことするような人じゃないし、悪いのは私なんです。」

「いやいや、ミユキちゃんは悪くないよ。」

 

「ケンイチさんは、どんな女の子がタイプなんですか?」

「そうだね、ミユキちゃんかな(笑」

「うれしいです。でも、本当のことききたいな〜」

 

この作品は作者の空想から生まれたフィクションです、実際の人物、団体とは一切関係ございません。

 

続く