ネオ・バンパイア
ロックの野望
インタビュアー・よしおか
「あなた、XXXを知っている?」
彼女は突然有名な女性の名前を口にした。その女性は、日本人なら知らぬ人が少ないだろうといえるほど有名な人だった。その優しく温かい笑顔の美女を嫌う人も少ないほどだった。
「はい、知ってますが?」
「じゃあ、△△△は?」
その女性も有名な人だった。
「はい、知ってます。」
「それじゃあ、・・・・・」
彼女は続けざまに数名の女性の名前を告げた。彼女たちは有名な人物で、みな、美女としても有名な人たちだった。
「知ってますが、それが・・・」
「そうよね。有名な人たちだから。彼女たちが実は、男性だということも知っているわよね。」
「はあ?」
わたしは、ロックの突然の問いに言葉を失った。彼女たちが男?そんなばかな。ロックが今言った女性たちの中には、最近出産した人もいるのだ。
「どうしたの?知らないの。彼女たちが男・・・いえ、元・男だったってことを・・・」
「そんなばかなことはありませんよ。彼女たちの中には、出産した人もいるのですから。」
「あら、男が出産したらおかしいかしら?」
「おかしいですよ。男は出産できません。」
「そうかしら・・・」
そう言うと彼女はわたしに、一枚のコピーを差し出した。そこには、男性でも出産可能と書かれた記事が載っていた。
「うぐ・・・でも、それとこれとは・・・」
「話しが別?でも、彼女たちがわたしの、配下の者だとしたらどうかしら?」
この有名な女性たちと、ロックとの係わり合い。いくら、彼女があのロックだとしても信じられなかった。
「あら、信じられないって顔つきね。でもいいわ。本当のことだから。」
そういいきる彼女の言葉にわたしは、寒いものを感じた。もしこのことが本当だったら・・・この国は、どうなるのだろうか。そして、あのみなに愛されているあの子の本当の親は、誰なんだろうか。
「うふ、信じる気になったみたいね。それでいいのよ。でも、この続きを聞きたい。聞いたら、今までのあなたではいられなくなってしまうわよ。」
わたしは、頷くまいと思いながら、身体が勝手に動いてしまった。
「そう、それならば聞かせてあげるわ。手塚さんが描きかけてやめた、ウェコ計画の真の姿を・・・」
ここで、少し説明しなければなるまい。それは、ロックの言う「ウェコ計画」についてだ。この計画は、あの「バンパイア革命」が失敗に終わり、ロックは、命からがら台湾へと逃れた。そこで、「バンパイア」とは逆に、人間に化ける動物と出会う。それが、「ウェコ」だ。彼はこの動物を使って、世界の要人たちを自分の支配下にある「ウェコ」と入れかえて、世界を支配しようと考え、手始めに、日本の資産家の息子をウェコと入れかえる。だが、ウェコに反抗によって失敗しそうになる。ところで、手塚氏は、筆をおき、その後を伝えることなくこの世を去った。だが、このウェコ計画にもモデルがあるというのだ。わたしは、ロックの言葉に戦慄を覚えた。
「もともと、ウェコなんていないの。でも、あの計画は手塚さんが描こうとした通りよ。ただ、細かいところは違うけど・・・
ねえ、あなた。わたしの変装どう思う?」
突然、ロックは、わたしにそう聞いてきた。
「どうって、いわれても・・・」
「これだけの変装技術信じられる?」
「それは・・・でも、実際あなたは変装しているのですから・・・」
「そう。これは、ごく薄い人工皮膚を、顔にも身体にもつけているだけなのに、本当のわたしとはかけ離れた女性の姿にしてくれている。こんなことが個人の力だけで出来ると思う?」
わたしは、ロックの問いかけに意味が分からず、なんといって答えたらいいのか、分からなかった。
「あなたは、『バンパイア』を良くご存知のようだからお分かりだと思うけど、あの中で、わたしは、マスク変装をしたことがあったかしら。治虫さんを秋吉台で殺そうとしたとき意外に・・・」
そういわれると、確かにロックは、メイクはしても、あの場面以外では、マスク変装はしていなかった。
「ですが、バンパイア第2部では・・・」
「うふ、あの時からウェコ計画までの間に精巧なマスクを手に入れたとは思わない?」
「それは・・・」
「そうなのよ。わたしはある組織と知り合いになった。そして、その組織の技術を使ってある計画を立てたの。それがウェコ計画なのよ。でも、治虫さんはその計画がすでに実行されていることに気づき、沈黙することにしたのよ。」
「そ、そんな。知らせるべきでしょう。」
「全世界が崩壊しても・・・彼はそれを別の作品で描いているわ。それは、『地球を呑む』よ。」
「でも、あれは・・・」
「あの中で大富豪の偽者が出てくるわね。デルモイドZで・・・そして、あれと、金による世界経済と人間関係の崩壊。違った?」
「そうです。でもこれと、ロックさんの計画の関係は・・・」
「わからない?信頼している人が別人だったらどうかしら?」
「まさか、あなたの計画とは、要人の入れ替え・・・」
「うふふ、近いけど違うわ。ウェコ計画の真の姿は、要人の入れ替え計画じゃないわよ。要人なんて警戒が厳しくって難しいじゃないの。それよりも、もっといいものがあるわよ。」
「それは?」
「あら気づいてないの。さっきから言っているのに。」
「え?」
わたしは、今までの会話を思い出した。そして、あることを思い出した。だがそんなことが・・・
「気づいたみたいね。そうよ。家族を入れ替えるの。それも、妻や恋人、娘とかをね。男は、意外と身近な異性が変わっても気づかないものなのよ。もし気づいたとしたら、そのときは、本物を人質にしたらいいことだわ。」
「そんなに簡単にいきますかね。」
わたしは、彼女の言葉が信じられなかった。そう簡単にいくとは思えないし、いったとしても、どうするというのだ。
「うふ、まだ気づかないみたいね。家族を入れ替えて、気づかれずに要人を洗脳するのよ。そうすれば、本人だから怪しまれないわ。それに、出来た子供は、わたしの分身だしね。」
わたしは、さっき、この計画を聞いたときの寒気の訳がわかった。われわれは知らないうちにロックに踊らされているのだ。
「さてと、ここまで話したんだけど、まだ信じられないでしょうから、これから計画の一部を実行するところを見せてあげるわ。実はこの計画はかなり前から実行されていて、もし、この計画をばらしたら、この国どころか、世界が崩壊することを忘れないでね。それでは、一緒にいらっしゃい。」
そういうとロックは席を立ち、出口へと歩いていった。その後姿はどう見ても女性だった。わたしは、その姿に見とれていたが、ふと、われに返るとあわてて、そのあとを追った。
これは、ロックの目を盗んで、メール化したインタビューの記録である。綾奴に送るから、後は任せたよ。これを信じるもよし、物語の一部として掲載するもよし。
とにかく、わたしは、ロックの誘いに乗ることにする。無事であったなら、彼女の、いや、彼の「ウェコ計画」についてリポートできるだろう。それでは、お元気で、今まで、いろいろとありがとう。さようなら。
PS.姉やによろしく。
わたしが、綾奴にメールを送った瞬間。ロックは、わたしのほうを振り向いて、微笑んだ。だが、すぐに前を向くと、そのまま店を出て行った。