春うらら

 

毎年、満開のサクラでにぎわう小高い丘の上の公園で、今年も花見の宴が、あちらこちらで模様されていた。
 盛り上がった席の間を一陣の風が通り過ぎ、風に舞った花びらが、酒の杯に一片落ちた。
 「サクラの花とは風流な。」
 思わぬサクラの贈り物に、あちらこちらの席で、桜酒を楽しむ人たちがいた。
 と、その酒を飲んだ人たちの様子が変わった。
 「なんじゃこりゃ。む、胸が、膨らんでる。」
 「なに、わたしは、こんなに出腹じゃないわ。」
 「こ、声が、なななない〜〜〜。」
 あちらこちらにあがる悲鳴と感嘆の声。
 桜酒を飲んだ人たちの間で、入替りが起こったのだ。思いもよらない桜の贈り物に、桜の花びらを入れた酒を綺麗な女性に無理やりのませようとする奴とか、逃げ惑う美女、自分の身体を探し回る人、変わった身体を観察しに、いそいそとその場を立ち去る人、犬とネコになめさせる奴とか、解らずに騒ぐおっさん、花見の席は大パニックになっていた。
 桜はそんな人間達を静かに見守っていた。
 
 それは、うららかな春の日の午後の出来事だった。