テレビショッキング
ある晴れた休日の午後、どこから舞って来るのか桜の花びらが、風と戯れていた。
寝飽きた僕は、テレビのスイッチを入れた。
『チャイニーズてれびしょっぴんぐ』
休日の午後にやっている番組がテレビから流れてきた。
『休日の午後、いかがおすごしでしょうか。
司会の稲盛純一です。
アシスタントの三輪淳子です。
そして、皆様に素敵な商品をご紹介してくれるのは、ご存知、陳老人(チンラオジン)です。』
じゃ〜〜〜〜んとドラの音が響いた。
とここで、いつもなら、あやしげなどじょうヒゲを生やした変な中国人が出てくるのだが、今日は、青いチャイナドレスを身にまとった美少女が出てきた。
体育系ならきっとこう言うだろう。
『かわいいス。ほんとかわいいス。まじっす。うそじゃないっす。ほんとうっす。』
司会者は、出てくるはずの人物の変わりに似ても似つかない美少女が出てきたので、戸惑ってしまった。
『あの、きみ、本番中なんだけど。関係者以外立ち入り禁止なんだけど。』
そんな事はお構いなしに、彼女は、どんどんカメラの前に向かっていった。そして、カメラに向かって微笑んだ。
カメラを覗き込んでいたカメラマンはおろか、その場にいた男性スタッフ全員。彼女の笑顔にめろめろになった。
『どうあるか、この商品の威力は。』
そのかわいい姿に比例したかわいい声で、彼女が言った。
『ん?まだ気づかないあるか。わたしある。陳老人(チンラウジン)あるよ。』
その笑えない、ジョークにその場はしらけた。
『アイヤ〜〜信じてないあるね。わたし自ら今日紹介する商品を試したある。』
そういうと、紫のシーツをかけてあったテーブルの上のものを見せた。それは白磁の壷に入ったお酒だった。
『これは、中国4千年の歴史の中でもっとも過酷な修行場、呪泉郷。そこの、娘的呪泉で作った名酒「娘老酒」(ニャンラオチュウ)あるよ。
これを一口飲めば、どんな男でもわたしのようにかわいい娘娘(ニャンニャン)になれるのことよ。稲盛さん、試してみるあるか。』
『え、わたしですか。』
『あいや〜〜〜。だめあるね。稲盛さん、淳子ちゃんより数段かわいくなったら、淳子ちゃん、困るある。』
そう言って、辺りを見回すと、一人のスタッフを連れてきた。転がったほうが早そうな体格だった。
『あんた、呑むある。』
『え、僕ですか。』
『そうある。好きな女の子のことを考えるある。そうすると、そのこになれるあるよ。』
そういうと、チャイナの美少女は、彼に酒を飲ませた。
すると、彼の身体は、変化しだした。
『即効の効き目が売りある。』
彼の膨らんだ身体はちぢみ、小さくなっていった。髪は伸び、色が、茶から、まばゆいばかりの金髪に変わっていった。そして、変化が終わると、人気番組「サクラ大戦」のヒロインの一人、アイリス嬢が、だぶだぶの服に包まって立っていた。
『あの〜〜、どうしたの。』
声もあの愛くるしい声に変わっていた。
それを見ていたスタッフや、サクラの観客は、「娘老酒」にたかって、われさきにのみ出した。
あとらでも、こちらでも、美少女が誕生していった。
『どうあるか、この酒の威力は。いまは、花見に季節ある。いやな上司や、嫌いな同僚をかわいい女の子に変えてみないあるか。いまなら、呪泉郷を、世界に広めた「らんまハーフ」のヒロイン・天道アカネになれる茜的呪泉で作った「茜老酒」500ml入りを一本つけて、なんと、3890円ある。200本限定あるから、早い者勝ちあるよ。』
僕は、受話器を手に取り、迷わずに、ダイヤルをプッシュした。
そとには、春風にサクラの花が、舞い踊っていた。