第一章
私のママは他のママとはちょっと違う。
ううん。全然、違う。
ママは私より先に起きません。
朝ごはんはいつも一斤のパンだけです。
でも、パンが置いてある日は良いほうです。
三日に一回買っていません。
でも、そういう時は我慢して学校に行きます。
だってこの前、そうしなさいって言われました。
その日も、パンは置いてありませんでした。
でもいつもこの曜日の日は、午前中に体育の授業があってお腹が空くんです。
先週もパンがなく仕方なく学校に行ったら案の定、お腹が減って「グー」って鳴ってしまいました。
そのことが頭を過ぎりました。
また恥ずかしい思いは、したくないよ。
だから、言ったんです。
昨日も遅く帰ってきて、パジャマにも着替えずに下着だけで、息がお酒臭いママに。
「ママ、パンがないよ」
でも、ママは起きてくれません。
仕方なく、何度も揺さぶってみました。
「もうなによ!無いなら仕方ないでしょ。どうして、あんたは疲れてる私をそんな事で起こすのよ。あんたみたい子は、早く学校に行きなさいよ」
「ごめんなさい」
だから、置いてなくても私は学校に行きます。
大好きな学校に。
学校は大好きです。
学校には友達も、そして何よりも私の大好きな本だって図書室にはいっぱいあります。
でも、そんな図書館の本を見るたびに考えてしまうのが辛いです。
どうして、本の主人公のママはこうも私のママと違うのかと。
本に出てくるママはとっても優しいです。
主人公が落ち込んで悩んでいるときは、元気のでるような魔法のような言葉を与えてくれる。
主人公が苦しく寂しくって涙を流しているときは、黙ってそっと抱きしめてくれる。
でも、私のママは・・・・
明日は運動会です。
みんな楽しみを隠し切れずに、うずうずしているのに一人私だけ不安でいっぱいです。
―どうしようお弁当。ママに作ってといようかな?でも・・・・
いつもなら、ママが帰ってくる前に私は寝てしまいます。
でも、今日はそうはいきません。
そんな私の思いと逆に、時計の針だけがあざ笑うかのように進んでいきます。
「ガチャ」
あっママが帰ってきた。
「ママ」
玄関に向かうと、顔が赤いママの隣には知らないおじさんが立っていました。
「あんたまだ起きてたの!早く寝なさいよ!」
「ママ、あのね。あした・・・」
「おい、茜。何だ、このガキは?」
「私の娘よ。もうまったく」
私は、腕を掴まれ布団まで引きずられて、無理やり布団を被されました。
それでも、私は言わないといけません。
「明日、運動会で。おべん・・・」
「おとなしく寝な」
ママは喋る私の口を手で押さえ、そういいました。
そして、こう言いながらあのおじさんのいる方へと帰っていきました。
「邪魔だわ」
私は、邪魔?ママは私を邪魔だと思っている。
―苦しいよ。寂しいよ。悲しいよ。ママは私のことが好きじゃない。私はママが・・・
そう叫ぶ代わりに、涙という代弁者が溢れてきた。
明日は、クリスマスです。
友達がクリスマスのプレずんとのことで盛り上がっているのに私だけはその話に入れずにいました。
クリスマス。
一年の中で特別な日の一つ。
でも、私には関係がありません。
街が明るくキラキラ輝くのに私は一人、あることに悩んで家路へと歩いていました。
今日、偶然耳に入ってきた言葉。
「好きな人は」という質問に「お母さん」と胸を張って答えていた友達。
うらやましかった。
私もそう答えたい。
でも・・・
ママは、いつもよりか早い時間に帰ってきました。
もしかしたら・・・そんなことは無いと頭で考えていても勝手に目は、ママの手を見ていました。
ケーキを買ってきてくれるかもしれない。
もしかしたら、私に初めてクリスマスプレゼントを買ってきてくれるかもしれない。
でも、ママの手は男の人の手を握って帰ってきました。
この前。来た男の人とは違う人でした。
寝ているとある声で私は起きてしまいました。
「あ、あぁっ・・・」
ママの声?ママの方を見ると裸になってるママとその上には家に来ていたおじさんが抱き合っていました。
おじさんは上下に体を動かして、ママはさっきと同じような声を叫びます。
「ああー・・・い、い・・」
ママは苦しんでるんだ。助けなきゃ。
「ママ、大丈夫?」
私は布団から起きてそう尋ねました。
「えっ」
私の勘違いだったらしいです。
ママは真っ赤になって私を叱りました。
おじさんもママのことを怒鳴っています。
「おい。どうしてくれるんだよ。サメたじゃねえかよ。まったくよ」
「ごめんなさい」
「なんだよ。このガキは。邪魔だな」
「私もそう思うけど、仕方ないのよ。あんな子ほっといて。ね、続きしようよ。」
今日はクリスマス。
もし子供の願いを少しでも、聞いてくださる日なら私の願いを聞いてください。
第二章
この体も、もう限界。
このままだと、この体は死を迎える。
それは即ち私の死を意味する。
他の人間の体を奪わなければ私は死ぬ。
誰でも成り代われるというわけではない。
人間は血液型が違うと輸血できないと同じように、合った「型」でなければならない。
といってもそれは科学的には証明できない「型」である。
誰もが持っている「型」は人間自身は感じ取ることはできないらしい。
私にとっても感覚で感じ取るものでありそれがどういう意味で存在しているのかも分からなかった。でもその「型」が同じでなければその人物の肉体を奪うことはできない。
でも、もういいのかもしれない・・・・もう私は生きなくても私には名前はない。
この体にはもちろん名前がある。
でも本来の私には名前というものはない。
私はいつ生まれたのかも、私が何者かもわからない。
人類の歴史という長い道のりを私は死ぬことなく生きてきた。
それが何百年、何千年からなのか・・・・
私は人間ではない。
それは分かる。
だが、では私という存在は何なのだろう。
人を殺し生きる私も、この宇宙が許した生命なのだろうか。
いくつもの時代をいくつもの人物になりすまして生きてきた。
家に忍び込み、美しい少女を殺し、その者に姿を変え、
その者が着ていた着物を奪い、記憶を奪い、愛するものを奪い、家族を奪った。
ある時は、赤子の前でその母親を殺し、その者に成り代わって赤子を育てたこともあった。
またある時は仏の道を歩む尼僧を殺したこともある。
恋をしている少女にも、子を愛し夫を愛する母親にも、高貴な者にも、貧しい者にも、数え切れない人間を殺しなりすましてきた。
それも、私が生きるため。
そう思って生きてきた。
だけど・・・・・私はもう・・・
「お母さん、来たよ」
その声のする方へ目線を向けると一人の女性が立っていた。
この体の人物が産んだ娘だ。
「萌、もうまた来たの?雄太は?家は平気なの?」
「雄太はまだ学校よ。大丈夫、直ぐ帰るから」
萌は心配ないというように手を宙に振りながら、ベッド横の椅子へと座り込む。
私はそんな彼女の姿を愛しい目で見ながら、この体を、つまり萌の母親を殺したときの事を思い出していた。
25年前
当時、私は60歳をもうすぐ迎える老人の女性だった。
体は健康そのものだが年齢的には本来なら、もう新しい体に代える時期だった。
なかなか「型」の合う者が見つからずただ時だけが過ぎていた。
だが、この日やっと「型」の合う女性を見つけたことで気分は晴れていた。
綾瀬茜。20台の彼女は、まずまずの容姿だった。
茶髪の長い髪にミニスカートをはいて胸を強調した派手な服。
この女性が一児の母親だとは思えないが、現に彼女のアパートには一人の女の子がいた。
朝、アパートからもランドセルを背負った子供が出てきた。
「いってきます」という返事なき言葉を言いながら、その子を見て私は驚いた。
あまりにも体が痩せ細っていたからだ。
その日、私は母親を殺すことができなかった。
彼女の子供が私の脳裏に焼きついたこともある。
でも、彼女の家にずっと男がいて何もできなかったからだ。
ずっと身を潜め、男がいなくなるのを待っていたのだが、男が出てくると彼女も一緒に出てきて二人してアパートからいなくなったからだ。
あたりは薄暗くなり始めていた。
「出直そう」
帰る最中、あの子に出会った。
夕日が眩しく光る中、あの子は一人で遊んでいた。
公園のブランコに乗る彼女は、遊んで楽しそうではなかった。
むしろ悲しみを必死に押さえ込もうとしていた。
「お嬢ちゃん、もう暗いよ。家に帰らないとママが心配するよ」
私の声に驚いたのか、彼女の揺らしていたブランコは複雑な動きをしてとまった。
「・・・居ないから平気」
目線を下に向き、右手は上着の端を握っていた。
汚れを隠すためだろう。
彼女が着ていた服は、そこたら中が汚れていた。
「もう夕飯の時間じゃない」
「ないもん」
そうか、母親は彼女をネグレクトしてるんだ。だから彼女はこんなにやせ細っているんだ。
「そう。じゃあ、おばちゃんがこれあげるよ」
私の差し出したお饅頭を彼女は遠慮したが、
強引に彼女の小さな手に押し込めた。
「ママ、好き?」
私の質問は、彼女と私の間で沈黙を作った。
「・・・好き。でもお母さんは萌のこと嫌いみたい。萌ね。クリスマスにお願いしたの。ママが萌のこと好きになってください。ママを変えてくださいって」
子供がこんなことを自分の母親に思うことはない。
親にとって自分の産んだ子に偽りも見返りもない愛情を注ぐのは当たり前のことだ。
こんなことは子供が望むことではない。
私は、怒りを覚えた。
だが、だったら今までの私はどうだ?
そんな愛情で結ばれた親も子供も私は殺し続けた。
そんな私は、この子の母親以上に・・・
「大丈夫。ママは変わるよ」
私はそう彼女に言い、その場を離れていった。
次の日
私は彼女と母親の暮らしているアパートの中にいた。
そして私の足元には息絶えた茜が横たわっている。
ショーツにTシャツだけの姿の彼女から身に付けたすべてを剥ぎ取って全裸にさせる。
私もまた着ていたものすべてを脱ぐ。
彼女の張った胸とは違い、私の胸は垂れ下がり、お腹周りは太く、くびれはない。
お尻は垂れ下がっている。
第一、肌が違う。
「さぁて」
私は、彼女の唇を噛み、そして彼女の血を吸った。
「あーあぁー!!」
体が熱を持ち始め、骨が折れる音がして同時に激しい痛みを感じる。
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鏡に自分を映すと私は、全てが若返っていた。
「・・・・」
この瞬間はなんともいえない。
手は細くなり、胸は大きくなり、出ていたお腹は引き締まり、脹脛や太もものふくらみは小さくなり脚は細くて長い。
短かった髪が肩まで伸び顔もまあまぁだ。
陰毛の生え方も、横に倒れている彼女とそっくり。
頭からつま先までまったく彼女と同じだ。
私は彼女が身に付けていたショーツを手に取って自分の新しい股へ穿いていく。
あとがき
ごめんなさい。自分でも、ちょっと物足りない感じもあるんですけど^^;
許してください。
そのかわり、彼女の秘密を教えちゃいます。
たぶん彼女は体内のDNAを全て変身するんですよ。
それでどうして記憶まで奪えるのか?
それは・・・私には分からないです(笑
最後まで読んでくださってありがとうございました。
今までありがとうございました。