しりたいことしましょ!

 

「ラーメンと半ライス。」

「大将、ラーメンと半ライス。入ります。」

「あいよ。ラーメンと半ライスね。」

カウンターの奥で、しわがれた男の声が返って来た。

ここはいつもの店が閉まっていたので、通りすがりに見つけて入ったラーメン屋だった。

けっこう込んでいた割には、味は普通だった。注文したラーメンと半チャンが来たので、さあ食べようとした時、俺の目の前に、いつの間にか一人の少女が座っていた。白いワイシャツに、チェックのリボンタイプのネクタイ。けっこうかわいいが、何処かの中学生だろう。こんな昼間に、あ、夏休みか。などと、つまらぬことを考えていると、俺をじっと見つめていることに気がついた。

そして、その視線の先をよく見ると、俺が今食べかけていたラーメンに行き着いた。ラーメンをつまんだ箸の動く通りに、奴の視線は動いていた。

面白いから、俺はからかってやる事にした。ラーメンを大きな口を開けて食べかけるのだ。そのときの奴の一喜一憂を見ているとけっこう楽しかった。

だが、やがて、奴はそっぽを向くようになった。そこで俺は、チャーシューをつまんで奴の目の前をうろつかせた。奴は、わざと、目をそらした。俺が、ちょっと油断した隙に、チャーシューに齧り付いた。と、奴は思っただろうが、こっちの方が一枚上手だ。わざと油断したフリをして。奴が齧り付く寸前に、俺の口の中に放り込んだ。勢い込んで噛んだので、ついでに自分の舌もかんだみたいだった。

「ほに、あふま。」

「なに言ってやんでい。人の食事を邪魔したのは誰だよ。」

奴は泣き出したが、そんなことにはかまってなどいられない。俺はめしをかき込むと席を立とうとした。が、奴が、席を立とうとする俺の袖を掴んではなさなかった。

「お腹すいた。」

泣きそうな顔を俺に向けてそう訴えた。俺は、飲み残しのラーメンのスープを奴の方に差し出すと、うなずいて見せた。奴は、おあずけをとかれた犬のように、その飲み残しのスープを一気に飲み干した。

「俺が、店主に言っといてやるから、好きなものを食べな。」

そう言うと、レジで、連れが払うからといって店を出て行った。当然だ。俺のめしの邪魔をしたのだから、俺の分ぐらい払いやがれ。

俺は、店を出ると、アパートへと帰った。

腹もいっぱいになり、部屋でゴロンとしていたが、今日は、大学もバイトもないから暇なものだ。奴のおかげでめし代が浮いたからそれでパチンコにでも行こうと思ったとき、どこから入ってきたのか、奴が血相を変えて俺のほうにやって来た。

「ひどいじゃないですか。無銭飲食で捕まりそうになったのですよ。」

「でも捕まってはいないだろう。」

「ええ、ちょっと魔力で誤魔化して来ましたから・・て、また課長に怒られてしまうどうしよう。」

まったく、きゃんきゃんうるさい奴だ。

「うまく誤魔化してきたのだろう。それならいいじゃないか。」

「いいえ、自分のために、魔力は使ってはいけないのです。あ〜、これでまたお給料がへらされる〜〜〜。」

何者かは知らないが、けっこうシビアな事になっているようだ。

「そうか、それじゃあな。」

俺は奴に背中を向けて、ゴロンと横になった。これでも俺はけっこう読書家で、コンビニに並んでいる本は片っ端から読んでいる。ジャンプ、マガジン、サンデー、マーガレット、花とゆめ、少女コミック、ジャンボ、ヤングジャンプ、ヤングマガジン、ポプリ、みくだり半劇場、ヤングヒップ・・・・など、書いているだけでページが埋まっちまう。それだけの知識があればこれからのことは予想がつく。

「あの〜?」

「だめだ。」

「でも。」

「却下。」

「わたしはなにも〜〜〜。」

「言わんとすることはわかっている。だから、却下。」

「でも〜。」

「デモもストもない。却下。だから帰れ。」

「ただでも?」

「ただより高いものはない。」

「これを成し遂げないとわたし首になるのです。」

「お前の首は知った事ではない。厄介ごとに巻き込まれたくないだけだ。」

「そうですか。望みはないのですね。」

「ない。」

「じゃあ、帰ります。せっかく女子更衣室や女風呂に入り放題になれたのに。」

「な、なに。」

俺は出て行きかけた奴を止めた。

「今なんて言った。」

「何でもありません。あなたは望みがないのでしょう。」

「いや待て。話によっては聞いてやらんでもない。」

「本当ですか。」

「本当だ。だからさっきの話の続きを・・・」

「ええ、いいですよ。あなたの望みを一つだけかなえてあげます。それが、わたしの昇格試験の課題ですから。」

「昇格試験?なんの?」

「それは見ていただければわかるでしょう。」

うむ、天使か何かの昇格試験なのだろう。俺は、さっきの言葉が耳に残っていた。

「さっき言っていたよな。女子更衣室がどうとか。」

「ええいいました。それがなにか。」

「それなら、ちょっと考えてもいいかな、と思ってな。」

「ありがとうございます。助かります。」

「うむ、ところで、ただなんだな。あとで金や魂を請求するとかは・・・」

「ありません。無償です。ただ、お望みをかなえるのは一度きりです。2度はございません。」

「そうか、それでは、無数の望みをかなえてくれというのは・・・」

「ダメです。一度だけというのに反しますから。それに、お望みをかなえた時点でわたしは、あなた様の前から消えますので、無理です。」

やっぱりそうか。でも、あれがかなうのなら、金は何とかなるだろう。俺は、望みを言う事にした。

「お前がさっき言っていた奴を頼む。」

「え、なにを言いましたでしょうか。」

「ええい、わからん奴だな。男の望みといったら、ばれずに女子更衣室や、女風呂を覗く事だろうが、このわからんちんが!」

「ああ、あれですか。あれで本当にいいのですか。」

「いい、ただし、ばれないが、見えないというのは困るぞ。」

「ハイ、それでは行きます。」

そう言うと何か呪文のようなものを唱え始めた。透明人間になるのだから、決してばれる事はないだろうが・・・しまったもとにもどれるようにしてなかった。

「おい、俺の姿は元に戻れるようにしといてくれ・・・・?」

俺は自分の声が妙に甲高いのに気づいた。

「どうしたんだ。声がおかしいぞ。それに、胸が妙に重いし・・・げ。」

俺の胸はメロンjのように膨らんでいた。慌てて股を探るとそこにはあれは、なかった。

「おい、これはどうしたことなのだ。俺は女になってしまったぞ。」

「はい、だから、女子更衣室や女風呂に入っても怪しまれません。」

「透明人間ではなかったのか。」

「透明人間では、ばれる可能性がありますが、その姿ならけっしてばれません。それに、意識も完全に女性になりますから、怪しまれる事もありません。」

「なに、それでは、何の楽しみもないではないか。」

「お顔も元のままですから、生活には支障ありませんわ。」

「そ、そんな〜。元に戻してよ〜〜〜。」

言葉つきが女になってきた。俺の顔は、ゴリラとあだ名されるいかつい顔だ。そんな女ではこの先は・・・・闇。

徐々に意識も女に変わって行っている。女が女の裸を見てなにが楽しいの。こんなのいや。

「もう、完璧に変化されたみたいですね。それではわたしは失礼いたします。」

そう言うと、彼女は背中からこうもりのような羽を広げて、鏡の中に飛び込んでいった。

わたしは、一人取り残されて、呆然とするしかなかった。

彼女が入っていった鏡に向かって、一言呟いた。

「悪魔。」

 

 

 

あとがき

これは、イワナさんからの、「ラーメンと半ライス」の注文から書き始め、「悪い事しましょ。」の題名をぱろって完成させました。

なぜ、「ラーメンと半ライス」がこのような話になったのかは、永遠の謎です。誰か教えて?