君の住む町に新しいファミリーレストランが出来たなら、行ってみるがいい。

そこに入ると、君好みの女の子が出迎えてくれるだろう。

「おタバコはお吸いですか?TSはいかがなさいます?」

このとき君が、迷わずに「TSお願いします。」と答えれば、君は新しい世界への扉を開くことになるだろう。

2度とは戻れない世界への・・・

「いらっしゃいませ。ファミリー・レストラン“Terry’S”へ」

 

お帰りは美少女で・・・

 

久しぶりにアシスタントの仕事から解放された日の朝。俺は、仕事疲れのストレス解消に、外食することにした。ここのところ、缶詰状態で部屋に閉じこもっていたので、差し入れられるコンビニ弁当や、インスタント食品、それにまずい手作り料理ばかりだったので、見慣れた人間以外の人がいるところで、食事がしてみたいという思いが強くなっていたのだ。ちょっと贅沢にも思えるが、金は天下の回転木魚。でも、締め切りを守らない漫画家のアシスタントなんてするもんじゃないな。

俺は、いつの間にかできていた真新しいファミレスの中へと入っていった。入り口の二重になっているドアを開け、中にはいろうとすると、ぽっちゃりとしたやさしそうな笑顔をしたウェイトレスが、いつの間にか、俺の前に立っていた。

「いらっしゃいませ。ようこそ、本日はTerry’Sへ、お越しくださいました。お一人でございましょうか?」

見れば判るものを、何でこういうところは、テキストどおりにしゃべるのだろう。おれは、そんなことをふと思った。

「ああ。」

「おタバコは、お吸いでしょうか?」

「いや。」

腹が減っているんだから、さっさと入れてくれよ。俺は、そう叫びたかったが、目の前の女性を見ていると、そう強いことは言えなくなっていた。

「それでは、本日は、一般とTS。どちらになさいますか?」

TSと一般?どう違うんだ?俺が、それを聞こうとしたとき、いつの間にそばに来ていたのか、髪を金髪に染め、派手目の化粧したウェイトレスが、立っていた。そして、有無を言わさず、俺の腕をとると、入り口から隠れた奥のほうへと引っ張った。

「TSでしょ。さ、こっちですよ。」

「湯神さん。なにをなさるの?お客様は、まだ何も・・・」

「じゃまなのよ。ここに立っていられると。さ、こっちよ。」

もう一人のウェイトレスが、止めるのも聞かずに、俺を、奥の部屋へと連れて行った。

「湯神さん。もう、あの子にも困ったものです。店長。」

彼女に悟られないように、こっそりと、近づいていた長身で茶髪の美女は、その動きを止めた。

「今日こそは、絶対だと思ったのに・・・・」

そっと、つぶやく声に、そのウェイトレスは、答えた。

「まだまだですわ、渡瀬店長。それよりも、湯神さんを・・・」

「いいのよ、今月のTSノルマに、あと少し足りなかったから。あのお客様には、TSしていただきましょう。お客様に、その後もご満足頂くのが、わたしたちの仕事よ。赤井さん。」

「は、はい。」

納得がいかない顔をしていたが、赤井と呼ばれたウェイトレスは、店長の渡瀬に、返事だけはした。

「さあ、新しいお客様よ。赤井さん。よろしくね。」

そういうと、渡瀬店長は、その場を去っていった。残された赤井は、まだ、納得のいかない顔をしていたが、新しい客への応対に専念することにした。

 

奥の部屋に案内された俺は、窓際のテーブルに座らされた。

「なんになさいます。月見ハンバーグステーキセットなどお勧めですが・・・」

ウェイトレスは、熱心に俺に勧めた。キャンペーン中なのだろう。

「そうだなぁ。じゃあ、それ頼む。それと、ライスで、大盛りを・・・」

「はい、かしこまりました。」

そういうと、その、ウェイトレスは、下がっていった。

スタッフルームが近いのか。従業員の声が聞こえていた。

『やべ、やべ。遅刻するところだった。』

元気な男の子の声が、響いてきた。

『ミー。ちょっと、遅すぎるわよ。』

『お、ケイか。今日は、すっかりなりきっているな。うんうん、胸もしっかり女してる。』

バチ〜〜ン。ものすごい音がした。だが、客は、誰も動じるものはいなかった。いつものことなのだろう。

『いて〜な〜。そんなことでは、あの人に、告ることはできないぞ。』

『そんなことを言うなら、真希ちゃんのときの・・・・』

『や、やめてくれ。俺が悪かった。だからそれだけは・・・』

『それじゃあ、早く着替えてよ。行くわよ。』

しばらくして、男の子の声がした。

『いつでもいいぞ。』

ごい〜〜ん。鈍い音がした。

『いて〜な〜、もう。俺も変えようかな。これ。』

女の子のかわいい声がしてきた。

『無理ね。あなたの体質には、これが合っているんだから。さあ、お客様にこれをお出しして。』

『へいへい、でも、今日も、この胸を・・・ぐふふふふ。揉みほ〜だいだ〜〜〜!』

『さっさと行け!』

トレイに料理をのせたショートカットの元気そうなかわいいウェイトレスが、右頬に赤いもみじを咲かせて、現れた。

そして、俺のテーブルに、上に目玉焼きをのせたハンバーグステーキと、盛りの少し高いライスを置くと、マニュアル通りに言った。

「ご注文は、以上でしょうか。ごゆっくりお召し上がりください。」

そういうと、去りかけながら、赤い頬を押さえて、顔をしかめていた。

「ダメじゃない。セットのスープを忘れては・・・」

そういいながら、セミロングのおとなしそうな美少女が、スープをトレイにのせて運んできて、俺の前にスープの入った皿を置いた。

「申し訳ございませんでした。どうぞゆっくりお召し上がりください。」

やさしく微笑むと、去っていった。

『ケイ、すまん。』

『ミー、わたし、あなたの後始末じゃないんだからね。しっかりしてよ。』

そんな会話を聞きながら、俺は、ハンバーグを食べ始めた。さすがに進めるだけはある。ジューシーでやわらかくおいしかった。だが、目玉焼きがダメな俺は、それを皿の端にどかした。あの子があまりにも熱心に言うので、頼んだだけだった。

あまりにおいしいので、さっきはろくに見ていなかったメニューを、見て見た。ハンバーグの説明には、[やわらかい子牝牛の肉を使ったジューシーなハンバーグステーキです。マッチしたソースとの味のハーモニーをお楽しみください]と書かれていた。確かに、絶妙なハーモニーだった。俺は、夢中でそのハンバーグを食べた。

 

あまりのおいしさに、夢中で食べていたわたしは、いつの間にか、お皿が空になっているのに気がついた。ただ、なぜか、いつもなら、ぺろりと平らげているライスが残っていたけど、どうしても、食べることができなかった。仕方ないので、スープだけ頂いて、席を立った。そして、レシートを持って、レジへと歩きかけたとき、バランスがとりにくく、ふらつきながら歩いている自分に気がついた。

「あれ、どうしたのかしら。妙にふらつくけど・・・」

胸が妙に重く、バランスがとりにくいのだ。わたしは、下を向いた。そこには、肌色の大きなふくらみが、二つあり、足元が見えなかった。

「?」

なんで、男のわたしの、足元が見えないの?妙に胸が大きいし・・・胸が大きい!わたしは、胸に手を当てた。そこには、バスケットボール大のふくらみがあった。

「いやぁ、何で、男の私の胸にこんなのがあるの?」

すぐには気づかなかったが、声や話し方もおかしくなっていた。

「いや、いや、いや。」

わたしが、ぐずっていると、わたしをテーブルに案内したウェイトレスが、やって来た。

「なにを騒いでいるんだい。念願の女になれたんだからいいだろう。でも、本女のわたしには、かなわないだろうけどね。いくら綺麗にTSしたって、元は、男だものね。」

TS、綺麗、いったい何のことだろう。わたしが、不思議な顔をしていると、彼女は、わたしの襟首をつかんで、トイレの中へと連れて行った。そして、洗面台の鏡の前に立たせた。鏡の中を覗くと、そこには、美しく輝く金髪を肩まで垂らした色白の北欧系の顔立ちの整った白人の美少女が、映っていました。わたしが、微笑むと、彼女も微笑み。顔をしかめると、彼女もしかめます。手を上げると、彼女もその通りに・・・

彼女は・・・・わたし?

「いやぁ、なんで?」

「ふむ。たしか、本部からの達しには、国内産を使うように言ってあったはずだが・・・これは、チェックだな。」

いつのまに、後ろに立っていたのか、スリムで動作が気障な若い男が立っていた。そして、内ポケットから超小型のポケットパソコンらしきものを取り出すと、何かを記録して、わたしの姿を、内蔵したデジカメで、撮りだした。一通り撮り終えると、こう言い残して去って言った。

「お嬢さん、綺麗ですよ。」

わたしは、お嬢さんじゃない。でも、確かに鏡に映る姿は、美しかった。思わず頬に手を当てて、わたしはつぶやいた。

「これが、わたし・・・・」

わたしは、その美しい自分に、見とれてしまった。

「あたらしい生活の始まりね。」

わたしは、これからのことに思いをはせた。

 

数日後、わたしは、警察に捕まり、北欧の国に、強制送還された。容疑は、不法入国。

「わたしは、日本人の男よ〜〜〜。」

 

数年後、世界的な美少女モデルが、日本に来日した。そして、あちらこちらを観光して、去って行った。その、美しい金髪の北欧の妖精が、Terry'S夫妻櫃店を、訪れたかどうかは、報道されなかった。