T S 病 院 物 語

 

 まあ、あなたが新しい先生。ちゅっ。これは挨拶代わりよ。あら、まあ、先生なにを・・・あ、あ、あ、あ〜〜〜〜。まあ、先生ったら大胆ね、いきなり抱きしめて、唇を奪うなって、もうわたし、おかしくなっちゃいそうだわ。いきなりあんな事するから唇切っちゃった。あら、先生なめてくれるの。ありがとう。

 う、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、わははははは。なんてね、俺も久しぶりに激しいキスをされたものだから、すっかりおかしくなってしまったよ。おや、先生どうしたんだい。変な顔をして、こんな美少女が俺って言ったらおかしいかい。先生もうすうす気がついているのだろう。この病院のからくりをさ。

 それとも、いままでの奴のように知らん振りを決め込むつもりかい。それでもいいけどさ。先生、これから俺が話すことは真剣に聞いといたほうがいいぜ。あんたのためになる事だからさ。

 いまは、こんな姿をしているが俺は、男だ。名前は、あさぎり武雄。こう見えても一流のあき巣だったのさ。俺は金持ちの家しか狙わないし、盗んだものの半分は、寄付していた。罪悪感とかじゃねえ。平成のねずみ小僧を気取ったわけでもねえ。ただ、あぶく銭を長くもたねえことにしていただけさ。だから、あぶく銭のまともな使い道として寄付していただけだ。

 だが、俺はたった一度だけどじを踏んでサツに捕まっちまった。そして刑務所に入れられたが、俺はその刑務所を脱走しようとして大怪我をしちまった。そして、医療刑務所に送られ、そこで出会ったのが、あの

第四話「肉体服を脱ぐ男」

なのさ。

 俺は、刑務所の塀をよじ登ろうとして手を滑らせ落っこちた。その時、塀のそばの花壇に身体をしたたか打ち付け、全身打撲と内臓殴打で重症を負った。だが、俺の血液は特殊なもので容易には手配できなかった。だが運良くあいつが、俺と同じ血液型だったので、あいつから輸血をしてもらって手術をする事になった。そして、手術は無事成功し、俺は助かった。    

その時以来、俺は模範囚になった。死ぬ思いをして脱走するよりも真面目にお勤めをして早く娑婆に出たほうが利口だと考えるようになったからだ。脱走の罪もあったが、真面目にしていた俺は、思ったよりも早く出ることができた。

 娑婆に出た俺が真っ先に何をしたと思う。仕事だよ。仕事。俺はこれが俺の天職だと思っているのでね。そうやすやすと止められるかよ。俺は、綿密に計画を立て、十分に下調べをして、ある金持ちの家に忍び込んだ。あらかた仕事を終え、さあ帰ろうとした時、表で車の止まる音がした。帰ってくる予定のない家の者が帰ってきやがったのだ。俺は焦った。どこかに隠れなきゃ。そう思ったが、あまりにも綿密に計画を立てすぎて、どう動いたらいいかをすぐには思いつかなかった。その時、応接間の暖炉の上に立ててあるフォトスタンドに目が行った。前髪をたらし、髪を後に流した若い美人が映っていた。俺はその女に見とれたその時、俺の身体にあの衝撃が走った。それは、後でも経験するのだが、言いようのないものだ。何か、剥がれるような感触。背中の皮の破れる音。俺は、脱皮した。

 信じてねえな。もう少ししたら見せてやるよ。あの感触が着始めたからな。それまでの間、俺のむかしばなしにつき合ってもらおうか。

 俺はその時何が起こったのか、すぐにはわからなかった。

 「いったいどうしたというのだ。何が起こったのだ。」

 俺は服が脱げ、すっぽんぽんになっていた。そして、服といっしょに薄いなにかが脱げ落ちていた。

 俺の身体は汗でぐっしょりと濡れ、身体中の力が抜けていた。俺は開き直り、シャワーを浴びる事にした。最後ぐらいはさっぱりして捕まりたいじゃねえか。俺はバスルームに入るとシャワーの下に立っち、蛇口をひねって温度調節をして、シャワーを浴びた。

 気持ちがよかったねえ。あんなに気持ちのいいシャワーはこれまでに浴びた事がねえよ。俺は身体をここちよく叩くシャワーの水で身体中の汗を流した。久しぶりのシャワーのせいか、いつもより肌触りがよかった。そして、前を洗い流しはじめた時、俺の手が止まった。何かが違う。いつもとなにかが・・・

 すぐにはわからなかった。いや、理解できなかった。だってよう。男の俺の胸に丸いふくらみが二つと、あそこには、あるべきはずの息子がないのだぜ。すぐに信じられるかよ。

 俺は、シャワーを冷水にして、頭をよく冷やして身体をよく観察しようと頭を下に向けると長い髪が水を含んだまま垂れさがってきた。

「いったいどうしちまったのだ。俺のあれ、自慢のあれはどこにいっちまったのだ。」

下を向いた俺の視線の先には、たわわに膨らんだ形のいいおっぱいと、ぺったんこになった腹、そして、女の茂みがあった。俺は女になっていた。どうしたらいいのかわからない俺は、呆然となってしまった。なりたくてなったのだったら戸惑う事もないのだろうが、何の前触れもなく突然なってしまったのだからどうしたらいいのかわからなかった。

 呆然としていても仕方がない、もうすぐしたらこの家の者が帰ってきてしまう。俺はとにかく、鏡をみる事にした。どんな姿になったのか確認しようと思ったのだ。どんな化け物になったとしてもこれからずっと付き合うことになる姿だからだ。俺は覚悟を決めると、バスルームに備え付けてある鏡の前に立ち、鏡の中を覗き込んだ。

 覚悟を決めたとはいえ、俺のまま女になったときのことを考えると、ゾッとした。三人七化け(さんひとしちばけ)と言う言葉があるが、俺が女になったとしたら、二人、いや、一人九化け(いちひとくばけ)だ。そして、40数年間、男をやっていた奴が、突然化け物のような女になって、どうやっていけばいいのだろう。そんな不安感も重なり、なかなか鏡が見られなかった。だが、思い切って目を開けて鏡を見た俺は、思わず声を上げた。

「ふぁ〜〜〜〜〜。」

「誰かいるの。」

いつの間にか、家の者が、いつの間にか家の中に入ってきていた。もう万事休すだ。俺は、全ての事をあきらめた。

足音がして、バスルームのドアに人影が映った。そして、バスルームのドアが開いた。

「だれ、そこにいるのは?なんだ、明美帰っていたの。早くあがってきなさい。わたしは忘れ物を取りに来ただけだから、留守番を頼んだわよ。」

そいつは、俺のことを家の者と思ったようだ。そう、俺の今の姿はあのフォトスタンドに写っていた若い女の姿になっていたのだ。

俺は、バスローブを纏い、濡れた髪を拭きながら、家の者のいるところへと出て行った。

「明美どうしたの。変な声なんか上げて、母さんはまた出かけますから、美由紀が帰ってきたらこれで一緒に食事に行ってね。」

そう言うと、バッグから取り出した3万円を俺に渡すと、その女はまたドタバタと家を出て行った。俺は、何とかこの場をしのぐ事が出来た。とはいっても、長居は無用だ。俺は、金目のものと、女の服や下着を頂くと、それをトラベルバッグに詰め、堂々と玄関から出て行った。長年空き巣をやっているが、白昼堂々、仕事場から玄関を出て行くのは初めての経験だ。

どうやら、あの輸血から俺は、「肉体服を脱ぐ男」の体質を受け継いだようだ。それから、俺は仕事のパターンを変えた。俺はこの体質を使ってもっとも楽な方法で仕事を始める事にした。

どうやったと思う。わからねえ、少しは考えなよ、せんせい。まあいいか。俺はこの姿で、金持ちばかりの女子大のキャンパスに行くと、金のありそうな新入生を見つけ言葉巧みに近づき、その新入生と親しくなり、そいつの部屋にあがりこみ、間取りなどを調べると盗みに入った。空き巣なんて間取さえわかれば後は楽勝さ。それからは、入れ食い状態だ。俺は、仕事をやりまくった。

ばれそうになると脱皮すればいいのだから簡単だ。それから、俺は何回か脱皮を繰り返しているうちに、コントロールはできないが、なりたい奴になれるようになり、脱皮するタイミングもわかるようになった。だから、俺は初めてのときのようなドジはしなくなった。

せっかく手に入れた能力?だから、俺は楽しませてもらった。え、男には戻らないのかって、いやと言うほど男をやってきたのだ。なにを好き好んで男に戻らなきゃならないのだ。俺は女を楽しむ事にした。

仕事も順調に行き、かなりの金がたまった俺は、レディースマンションを買ってそこを根城にすることにした。やっぱり女の一人暮らしは物騒だからな。

それから、俺は楽しみのために、まずは手始めに、女子校と思っただろう。そうではなくて、この姿で長年の夢だったチャイナを着ることにした。

俺は、赤い胸の谷間が見えるチャイナを着て、鏡の前に座った。

鏡には、髪を両側で束ね、まだ幼さを残しながらも、ナイスバディで横座りした女が写っていた。その胸や太ももが、我ながら色っぽかった。俺は、自分の姿に萌えた。調子付いた俺は次に、両側で束ねた髪を白いリボンの付いた髪隠しで包み、胸を赤いチャイニーズブラで抑え、(下は内緒)鏡に向かって微笑んだ。その姿にもまたそそられた。もうたまらん。俺は気持ちが赴くままにファッション・ショーを楽しんだ。それにつれて、俺は脱皮し、姿をいろいろと変えた。

「女ってなんて楽しいのだ。もう男なんかに戻りたくない。」

俺は知らず知らずのうちにそう思うようになっていた。

そして、俺はついに男の最大にして決してなしえない夢の実現をすることにした。それは・・・・・女子校に忍びこむ事。

まずは、俺は女子校に下見に行く事にした。俺は、また新しく脱皮すると、黒のワンピースにゴールドリングのベルトとネックレスをして、何校か下調べをした。女子校に行ったら、おどおどしてはいけない。堂々としていれば相手が勝手に生徒の関係者か、新任の教師と思ってくれるからだ。そして、その中から一つの学校を選び、忍び込んだ。でもこのままでは怪しまれるから、誰か適当な人間になる必要があった。そろそろ、脱皮しそうだったので、俺は、通りすがりの女教師を捕まえることにした。俺が、学校に忍び込んで、廊下に隠れているとグッドタイミングに栗毛のロングで、ブルーのスーツを着たメガネのけっこう美人の教師が通りかかった。俺は、後から近寄るとクスリを嗅がせ、気を失わせると、階段の下の物置に連れ込み、その女を裸にして、じっと見つめた。いつものあの感触が全身に広がった。俺はすぐに着ていたものを下着まで全て脱いだ。そうしないと、脱皮したとき、服が破れるからだ。背中裂け、皮がたるんでくると、俺は着ぐるみを脱ぐように皮を脱ぐと、背中から新しい姿で抜き出た。

俺は持っていたポシェットからコンパクトを取り出すと、新しい姿を確認した。俺の姿は、そこに転がっている女教師に瓜二つになっていた。栗毛だったのが黒くなったぐらいで後は異常なかった。俺は、気を失っている女教師の着ていた物を全て着込んだ。そして、この間から気になっていることを試してみた。

それは、脱いだ皮を他の者に着せるとどうなるかと言う事だ。脱いだばかりのせいか内側に残っていた粘り気が彼女の身体にぴったりと引っ付いて、彼女の姿を、さっきまでの俺の姿に変えた。だが、裂けたところは渇きが早かったのかくっつかなかった。

俺は彼女に俺が脱いだものを着せると、縛り上げ、猿轡を噛ませた。これでしばらくは大丈夫だろう。気がついても、この姿では怪しまれるだけだ。俺はこの新しい姿で、女子校探索に出かけた。

あちらこちらみて回っているうちに、俺は、好みの女の子を見つけた。グリーンのブレザーに、ブラウンのスカート、それに赤いリボンタイをしたショートカットの女の子だ。俺は後ろから胸へ手を回すとそれをもみながら耳元でささやいた。

「あら、まあ、まだ子供なのにこんなにそだって・・・」

その子は、顔を赤らめ、突然の事にどうしていいかわからないようだった。俺は調子に乗ってさらに、彼女の胸を揉み解した。

「あら、感じるの。こんなかわいい顔しているのにいやらしい子ねえ。彼氏は優しくしてくれる。それより、俺といいことしねえか。」

その言葉に彼女は驚き、振り向きざまに俺を突き飛ばした。油断していたのと、彼女の力が予想以上に強かったので、俺は簡単に突き飛ばされ、後ろにあった窓ガラスを突き破り、2階から落ちてしまった。そしてこの病院に入院したって訳さ。

う、う、う、ううううう。ついにはじまったようだ。

俺は胸を両手で抑え、くるしんだ。背中が裂け、俺はいままできていた皮を脱いだ。

 

 「と、肝っ玉の小さな先生だなあ。気絶してらあ。」

 「武雄君。また、新任の先生をからかったわね。だめじゃない。それにそのボディスーツは、リハビリセンターのナースコスチュームでしょう。どうしたのそれ。」

 「え、これ、これは、この写真見せて轟さんに借りたんだ。」

 中学生ぐらいのまだ声変わり前の少年は、巡回にきていた看護婦に1枚の写真を差し出した。それは、マッスルマンが、ピンクのユニフォームを着たボディスーツを無理矢理着ようとしているところだった。

 「あなたこれで脅したわね。でも、これ更衣室よねえ。あなた盗撮したのね。黙っていて上げるから、そのボディスーツと、この写真とチップを寄越しなさい。」

 「え、ネガじゃないの。」

 「これデジカメでしょう。もしこのことが外部にちょっとでも漏れたら、わかっているわよね。」

 「ちえ、美鈴さんにはかなわないや。」

 少年は観念するとその写真とチップを差し出した。

 「コピーはないわね。」

 「ないよ。美鈴さんを怒らすと怖いから、本当にないよ。」

 少年は、写真とチップを渡すと、いつもの優しいナースの顔に戻った彼女にそっと聞いた。

 「ねえ、僕の手術はまだ。」

 「来週よ。そんなに待ち遠しいの。」

 「そりゃそうさ。美鈴さんたちみたいな綺麗な人に早くなりたいもの。」

 「まあ、おせいじを言って。でも、そんなに女の子になりたいの。」

 「うん。」

 少年は迷うことなく答えた。

 美鈴は、この少年くらいの時の事を思い出した。これくらいの時は、何も考えずにただ塾に通っていた。そして、まさか自分が女になり、美人看護婦になるとは考えてもいなかった。そして、今の自分には決して後悔はしていなかった。

 「さて、この先生どうしようかしら。」

 「この先生もそろそろでしょう。」

 「そうね。事務長に相談しなくては・・・」

 「僕のことを言うの。」

 「いえ、リハビリセンターのナースの更衣室を覗いて気を失ったとでも言っておくわ。さあ、あなたは、来週の手術に備えて、新しい姿をどうするか考えなさい。しばらくはその姿で暮らすことになるのだから。」

 「いつまで?」

 「再手術が可能になるのは18歳ぐらい以上になってよ。まだ、5年もあるわ。」

 「は〜い。」

 少年は、元気よく返事をすると、アイドルの写真集を、ベッドの下から取り出すと眺め始めた。

 美鈴はそんな少年の姿に微笑むと、気を失っている戸田恵一を軽々とピンクの制服の肩の上に担ぐと、病室を出て行った。

 

 1週間後、ピンクの制服を着て、大きな注射器を抱え、空ろな目をした若いナースの姿が、この病院の婦人科で見受けられた。

 「戸田先生。その格好は止めて下さい。」

 「あらどうして、小さなころからの夢だった看護婦さんの格好が似合うようになったのに、いいでしょう。」

 「患者さんが怯えます。それに、その注射器はなんですか。」

 「今日は、私をこんなにした武雄君の定期検診の日でしょう。彼に復讐をしようと思って・・・」

 「本当は先生の夢だったのでしょう。さあ、注射器をこっちにください。どこからそんなボディスーツ見つけてきたのです。」

 「あらこれ、皮膚科の神府榛名先生に借りたのよ。どう、似合う。」

 「ジッパー先生にも困ったものだわ。とにかくこの注射器だけは預かります。」

 戸田と呼ばれた若い看護婦は、横に立って、戸田をにらみつけた看護婦にその注射器を渡すと、静かに婦人科診察室の医師用の椅子に座った。この看護婦こそ恵子と名前を変えた戸田恵一の姿だった。

 「最初の患者さんどうぞ。」

 

 天使が丘病院の一日はこうして始まった。

 

 

あとがき

 TS病院シリーズの第一部を終わります。恵一の夢って、看護婦になることだったのですね。まずはおめでとう。

 さて、第二部ですが、いよいよこの病院の内部に迫ります。でも、見たい人いるのかなあ?いたら、そのうちに・・・

  それでは、また。