トワイライト・シアター

<剥がれる>
提供・よしおか


 ある朝、洗面所で顔を洗い、ひげを剃ろうと、顔を上げて前の鏡を見たとき、昨日まではなかった一筋の線が、首と胴の中間辺りに、横真一文字に入っているのに気づいた。

 恐る恐る触ってみると、それは、切れ目で、肉の弾力で、その切れ目に指が差し込めることがわかった。俺は、その中に指を差し込んでみた。浮き上がった皮の下にも肌らしき感触があった。俺は、その浮き上がった皮を引き上げかけて、あわててやめた。少し引き上げて出来た隙間からもうひとつの肌が見えたからだ。もしこのまま引き上げたとしたら、その下から現れるのは・・・・

 俺は、少しずれた皮を戻して、何もなかったように、ひげを剃り、身支度を整えた。
そして、いつもよりはハイネックのワイシャツを着て、会社へと出て行った。出勤途中の電車の中でもあの切れ目のことが気になり無意識に触っていた。これを剥いだら・・・
そんな、思いを抑えながら、何とか会社へと着いた。

 その日はいつになく忙しく。朝のことは、忘れてしまっていた。というよりも気にしている時間がなかったのだ。帰宅途中で駅のトイレで、何気なくアレを見てみると、きれいに消えていた。俺は安心して、家路を急いだ。

 あのことがあってから、数日、俺はあのことを忘れた。起き出して直ぐの夢だと自分に言い聞かせていたのだ。その日は休みで、することもなく、ぶらぶらと出て行った街中で、昼飯を食べに入った喫茶店で、頼んだものが出来るまでの時間つぶしに手に取った漫画を読んでいると、そこにある作品が載っていた。

 それは、ある男が見知らぬものに追いかけられる。やがて、彼らに捕まってしまる。
彼を捕らえたのは、ある星の侵略隊で彼は尖兵隊の一人で、ある事故で記憶を失っていると言うのだ。彼は、彼らの話を笑い飛ばすが彼の前で彼らは自分の顔の皮をはがしだした。

人の顔の下から現れたのは、崩れて肉玉になった顔だった。彼は、狂ったように否定した。
自分は人間だと叫びながら・・・

だが、その出来事は実は、いたずら好きな人たちの冗談だった。彼らの崩れた顔をめくると、人の顔が現れた。彼らは笑いながら、彼に近づいていった。

 だが、まだこれが冗談だと気づかない彼は、必死に叫んでいる。だが、やがて、彼の顔  が・・・


風呂に入りながら、昼間読んだ漫画のことを思い出しながら、湯船につかり、体を包む湯の温かさを味わっていると、ぷかりと浮かんできたものがあった。それは・・・足の爪だった。
痛みもなく、剥がれる感覚もなく取れるなんて。

俺は、あわてて湯船から飛び出すと爪の剥がれた足の指を見た。右足の親指の爪は剥がれ、少し白くふやけていた。さわっても、何の感触もなかった。あまり触ると皮がむけそうで怖くなってしまった。

とにかく俺は、消毒薬を振りかけると、その親指に包帯を巻いた。いつもなら、飛び上がるくらい沁みる消毒薬なのになにも感じなかった。だが、そのときは、そのことにあまり気には留めなかった。爪が剥がれたことで、頭がいっぱいだったのだ。だが、それは、始まりでしかなかった・・・

翌朝、医者に行くつもりだったが、仕事が忙しく行きそびれてしまった。だが爪が剥がれた足の指は、痛くも痒くもなかった。家に帰り、風呂に入るときに、昨日巻いた包帯を取ると、親指は、真っ白にふやけ、ぶよぶよになっていた。

恐る恐る触ると親指の皮がずるっと剥けた。
そして、その下からは、一回り小さな親指が現れた。

「ぎゃ、どうしたことだ。皮がむけてその下から新しい指が出てきた・・・」

皮がむけたあとは、さか剥けていた。それをつまみ引っ張ってみると、皮がぺりぺりと剥けた。だが皮がむけても痛くも痒くもなかった。

この皮を引っ張ると身体中の皮が剥けてしまいそうだった。俺は、恐ろしくなって、剥けてきた皮を切り整えると、そこに包帯を巻いた。そのことに俺は怖くなってきた。皮がこんなに簡単に剥がれだすなんて、そして、もし、皮がむけてしまったら俺はどうなるのだろう。

 だが、このときから、俺の身体のあちこちの皮がむけだし、俺は、そのときから表へ出れなくなった。

 又ある朝、俺が床から身体を起こすと今度は身体中の皮がずるりっと剥けた。俺の剥けた皮は、人型にどろりと残った。ついに、俺は脱皮してしまった。剥がれた皮はどうしようもない。俺は、恐る恐る洗面所に向かった。

 のろのろと洗面所の前に立ったが、顔を上げられなかった。
だが、ついに決心して鏡の前に顔を上げた。鏡に映ったその顔は・・・・

「うわ〜〜〜〜〜〜。」


この後、この男性の顔は?つづきが気になるラストには、続編があるって言う予告なんですよね、、、、なんですよね!
この作品はよしおかさんが管理人のバースティプレゼントにと、書き下ろしてくれたモノです。言の葉のマジシャンMrよしおか、最高のプレゼントありがとう!
(だから 続き よろしく〜!)