トワイライト・シアター

鏡占い

語り部・よしおか

 

鏡占いて知ってます?未来の結婚相手を知ることが出来る占いだそうなんですけど。

やり方は簡単で、真夜中で、たった一人。真っ暗の部屋で、ろうそくの明かりだけを灯して、水を一杯に満たした洗面器の中に小さな鏡を沈め、剃刀を口に加えて、水を張った洗面器の底に沈んだ鏡を覗き込むと、将来の結婚相手の顔が見られるそうなのです。ですが、決して咥えている剃刀を、口から放してはいけないといいます。もし放したら・・・

 

誰もが寝静まった真夜中。住宅街の一角にある建売住宅の二階から足音を忍ばせて降りて来る者がいた。その足音は、階段を下りると家の者を起こさない様に気を配りながら廊下を歩いていた。一階の奥まったところに来ると、その部屋のドアを音が立たないように気をつけながら開けた。そして部屋の中で何かを探すような音がした。

「あ、あった」

すこし甲高く可愛い声が暗闇の中でした。そして、蛇口をひねる音がして、水が何かに溜まる音がした。

「これでよし」

その声と共に蛇口を閉め、水の入った何かを持ち上げる音がその部屋の中に静かにこだました。

「タップン、タップン」

さっきよりは重い足音が、物音を立てないように静かに廊下を渡り、階段を上がって行った。そして、二階の部屋のドアが開き、足音はその中へと消えた。

「ふう、おも〜い」

何かの上に重いものを置く音がして、カチッという小さな音と共に強い光が部屋を照らし出した。

「あとはこれに鏡を沈めて。剃刀は、ママのレザーでいいわね」

そう言いながら、スタンドの点いた机の引き出しを開けて中から小さなスタンドミラーを取り出すと、机の上に置いた水を満杯に満たしたプラスチック製の洗面器の中に沈めた。

「これで、愛しいだんな様がわかるわ」

洗面器に沈めた鏡を覗きこむその顔は、まだ幼さがあるが、顔立ちの整った美少女だった。机の前から離れると、ヌイグルミや可愛いグッズが飾られた女の子らしい部屋を横切ると部屋のドアを静かに閉めて、また机の前に戻った。

「さて、時間は・・よしっと。あとはロウソクね」

机の横の壁の上のほうに備え付けられた丸型の壁がけ時計で時間を確認すると、さっき鏡を取り出した机の引き出しからテディベアのキャラクターロウソクと眉カット用のレザーを取り出すと洗面器の横に置き、これも引き出しから取り出したライターで火をつけた。そして、レザーを掴むと開いて刃の背中の所を咥えるとスタンドを消した。部屋の中はゆらゆらと灯るろうそくの炎に照らされた。

洗面器の中の鏡を覗き込むと、淡い光に照らされた少女の顔が映し出されていた。

『どんな人だろう?』

少女は、レザーを咥えながら期待と不安で胸が膨らむのを感じながら、じっと鏡を見つめた。壁の時計が午前二時を告げた。

淡い光で少女を映し出していた水の中の鏡に変化が起こった。

鏡に映った少女の顔に、別の誰かの顔がダブって映りだしたのだ。

「あっ」

思わず少女は、小さな声をあげ、口を開いて、レザーを洗面器の中に落としてしまった。鏡の中の映像は、ロールダウンして、その姿を映し出していた。そして、彼女の落としたレザーは、まさに腰の辺りを映し出していた鏡の上に横たわった。

「キャッ」

レザーが鏡の上に横たわった時、レザーの刃があたった鏡の表面から赤い靄みたいなものが湧き出してきたのだ。

少女は、思わず大きな叫び声を出してしまった。その声に彼女の両親が部屋の中に入ってきた時には、彼女は、机の前の床の上に気を失って倒れていた。彼女の机の上には鏡の上にレザーを横に置いた洗面器が、澄んだ水を溢れんばかりに湛えていた。

 

数年後、少女は、誰もが見とれてしまうほどの美女になった。そして、将来を誓う彼氏も出来ていた。毎日のように会っていた二人だが、ここ数日、彼は彼女に会おうとしなかった。携帯にかけても、出ようとはしないので、時間を作って彼のところに行く事にした。

「光二さんいます?どうなさったの、光二さん」

彼の住むマンションのドアの前で彼女が呼びかけても、入り口のドアは開こうとはしなかった。何度か部屋の中に呼びかけたが反応はなかった。身体の中から熱いものがこみ上げてきて、彼女の瞳は涙で溢れていた。とめどなく溢れ流れる涙とこみ上げてくる悲しみを堪えながら戻りかけた時、入り口のドアが開いた。開いたドアの影から現れたのは、彼の服を着た見も知らない若い女性だった。だが、彼女は、どこかで彼女に会った時があるような気がした。だが、それが何処でなのかはわからなかった。

「あなたはどなたですか?光二さんは、いるのですか」

彼女の問いに、女性は顔を背けて黙っているだけだった。彼女は、ドアの影に立つ女性を押しのけて、部屋の中に入って行った。そして、マンションの部屋の中を探し回ったが、彼の姿はなかった。その間、その女性は、黙って彼女のあとを付いて来た。最後の部屋を見て、彼がいないことを確かめた彼女は、女性に掴みかからんばかりに詰め寄った。

「彼は、光二さんは何処なの?」

彼女の怖ろしいほどの剣幕に顔を背けていた女性は、何かを決心したかのように彼女のほうに顔を向けた。真剣な目で彼女を見つめながら女性は言った。

「久美子。僕だよ。光二だよ」

「光二さん?」

彼女は、女性の顔をじっと見つめた。そして、その顔の中に愛する男性の面影を見出した。だが、そのあまりにも変わり果てた姿に戸惑ってしまった。

「うそ。彼はもっと背が高いし、身体つきだって・・・こ、こんなに華奢じゃないわ。それに女なんかじゃ・・・」

女性の言葉を信じたわけではないのだが、どうしても、この女性が彼に思えてきて、また、何だがあふれて来た。

「な、なんで?あなたが女性になんかなるの。どうして?」

「それは、ボクもわからないんだ。数日前に変な夢を見て、朝起きたら女になっていたんだ」

「変な夢?」

「ああ、それは、こんな夢なんだ」

口調はたしかに愛する彼だった。だが、その声はどう聞いても若い女性のものだった。

「ボクは、どこかプールの水の中みたいなところで、ぷかぷか漂っているんだ。水の中なんだけど苦しくはないんだ。ふと水面を見るとまだ中学生ぐらいの顔立ちの綺麗な少女が水の上から覗いていたんだ。彼女は何か口に咥えていたんだけど、何かつぶやくと咥えていたものを落としたんだ。そては、刃物で、それはボクの大事なものをザクッと。そして、朝、目覚めたらボクはこんな姿に・・・」

彼女は、何か引っかかるものがあったので、彼に聞いてみた。

「光二さん。その少女の顔を覚えてる?」

「ああ」

「それは誰だった?」

「それは・・・お前だ!

 

 

 

あとがき

HP「現代奇談」さまの、「真・都市伝説 第二十七夜 未来の夫」を参考にさせていただきました。この場で失礼かとは思いますが、御礼申し上げます。