トワイライト・シアター

後部座席の影

語り部・よしおか

 

この間バスを待っていたときのことなんですけどね。
バス停で、バスを待っていると目の前の道路を何台も車が通って行くんです。
そのころはもうあたりが薄暗くなってきていました。でもあまりバスが来ないのでタクシーで帰ろうかと思ったときです。

ふと見ると、一台のタクシーが走ってきたのです。そこで私はそのタクシーを止めようと思い、サインを出そうと思ってやめました。そのタクシーが私のそばを通り過ぎるときにタクシーの運転手が怒って私を睨み付けているのが見えました。私を冷やかしだと思ったのでしょう。
でもそのタクシー。「空車」の赤いサインが出ていたのですが、そのタクシーの後部座席に若くて髪の長いきれいな女性が乗っていたのです。私は、そのタクシーの運転手は「賃走」の青いサインにするのを忘れているのだろうと思ったのです。でもその運転手は、私を、客を乗せている車を止めようとした不届き者とでも思ったのでしょう。私はしかたなく遅れているバスをおとなしく待つことにしました。
私はまたぼんやりと目の前を通り過ぎている車を見ていました。と、私はある事に気づきました。
違うんだ。そうじゃないんだ。あのタクシーは空車だったんだ。今は薄暗くて、昼間みたいに暗い後部座席の客の顔までは見えないんです。男か女かのシルエットはわかっても顔まではっきりとわからないんです。だから、あの運転手は空車なのに、タクシーを止めようとしてやめた私の行動に怒っていたのです。
では、あのタクシーの後部座席に座っていた女性は何だったのでしょう。あのタクシー、今でも彼女を乗せたまま、走っているのでしょうか・・・