山 童

作・うずら

 

妖怪は生まれたときから妖怪だった。
ふと気づいたときには、大木の根の間から空を見上げていた。
ならば、自分はきっとこの大樹の精霊なんだ。
理由もなく、根拠もなく。
ただ感覚だけでそう思った。
正しくても正しくなくても、妖怪にとってはどうでもいい話だ。

妖怪はうろうろと、周辺を出歩くようになった。
色々な生き物を見かけた。
自分の仲間はいないか、としだいに遠くまででかけるようにもなった。
山奥から少し降りると、自分と同じような姿の生き物を見かけることもあった。
妖怪はその生き物を驚かして遊ぶようになった。
後に知ったことだが、その生き物はニンゲン、と呼ぶらしい。
そのニンゲンの中で、ただ斧を持った男だけは逃げなかった。
それどころか、木でつくった玩具まで与えてくれた。
妖怪は恩返しに、と果物などを男に渡すようになった。
会話はなかったが、男と妖怪は昔からの友人であるかのように、穏やかな日をすごしていた。

だが、男が妖怪の木を見つけてしまった。
太くて立派な木だ。
樵を生業としていた男にとっては、またとないほど魅力的だった。
男は斧を振りかぶり、木を切り始めた。
妖怪は慌てた。
慌てすぎたばかりに、その太く毛の生えた腕で男の首をへし折ってしまった。
もろく、あまりにももろく、男は崩れ落ちた。

そのにおいは温かかった。
撫でてくれた手は優しかった。

だけど、もう、動かない。
妖怪が嫌いな鉄のにおいがする。
温かさもかけらもない、赤い鉄のにおい。
指を掴んで持ち上げてみるその手は、ずしりと重い。
殺したことに罪悪感を覚えることはない。
自分の身を守るためには、当然だ。
ただ、遊んでくれる人がいなくなってしまう。
それだけが嫌だった。
なんとかしないといけない。
妖怪は必死になって、男から抜け落ちようとしている三魂七魄をかきあつめた。
これが欠けてしまっては、男は存在できなくなってしまう。
どうにか集めたそれを持って、山を駆け下りた。
山の中腹にある山道を旅装をした女が一人、歩いていた。
ああ、こいつでいい。
妖怪の姿を見て、女は口を大きく開けた。
そこへ、妖怪は男の魂を持った手を突っ込んだ。
そうすれば、なぜか男は女の中に居つく。そういう自信があった。
数瞬後、妖怪の予想通りの結果となった。
戸惑う男をよそに、妖怪は小躍りした。
これで一緒にいられる。
この細い腕なら、自分の木を切られる事もない。
山奥に連れて行かれる間、ひたすら男は泣き叫んでいた。
妖怪にとっては、そんなことはおかまいなしだった。
ずっと一緒にいられる。
ただ、それだけが嬉しかった。

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えーっと。
続きません。一発ネタです。これで終わりです。
後悔は……ちょっとしてますw
いやー。
難しかったです。はい。