「秀明は・・・」

 

秀明は、家路を急いでいた。新婚の彼にとっては最愛の妻のそばがなによりなのである。一瞬もそばを離れたくないというほどの大恋愛の末に結ばれた二人にとっては、彼が会社に行っている間が最大の不幸だった。
秀明は、ドアを壊さんばかりにあけると、近所中に聞こえよというほどの大声で叫んだ。
「ただいま〜〜〜。」
いつもなら飛んででて来て、抱きついてキスで出迎えてくれるはずの妻が一向に出て来るような気配は無かった。
秀明はまた大声で叫んだ。だが、妻のいるはずの奥の部屋から帰ってきたのは、おしとやかな妻の声ではなく、男のようなどなり声だった。
「うるせ〜んだよ。近所迷惑だろうが、帰ってきたんなら、さっさとあがって来い。」
その声に戸惑いながらも秀明は家に上がっていった。
「ただいま〜。」
そう呟きながら声のしたリビングの中を覗くとそこには、ソファの上で胡座を組んでウイスキーをラッパ飲みしながら、AVビデオをニヤつきながら見ている妻の姿があった。
「小百合。一体どうしたんだ。それにお前、酒は・・・」
「うるせえんだよ、お前は。そりゃあ、最愛の妻のところに帰ってきたんだからはしゃぎたい気持ちはわかるぜ。さあ、そんなところにぼけっとおっ立ってないで、ここにすわんな。この女いい乳しているじゃねえか。」
そこにいるのは最愛の妻の姿をした脂ぎった中年の親爺だった。
「小百合。お前、まさかあのヴィルスに犯されてしまったのか。」
「おう、恐れていたが、なってみるとこんないいことはねえな。女の体は障り放題。仲間はあちらこちらにいるから、遣り放題。けっこう楽しいぜ。」
「そ、そんな〜。」
「秀明。お前を愛しているのは変わりないぜ。ただ、男としてだがな。」
その夜、秀明は小百合の言ったことをイヤというほど思い知らされることになった。秀明との交わりを拒否し、自分の体を触りまくり悶える新妻の横で、その声に悩まされながらも眠りにつく秀明の姿があった。こうして彼の甘い新婚生活は1年で崩壊してしまった。