「ウィルスその後2

 

俺達の中で、一番このウィルスの進行度合いのひどかった奈保美がいた。俺達の中で一番の美人だったが、感染からわずか30分で男性化し、人前で乳を揉み、あそこをこね回し、オナニーをやりだしてはどうしようもなかった。翌日から、彼女の姿は俺達の前から消えていた。その彼女が、綺麗にメイクし、胸を強調したイブニングドレスを着て俺達の前に現れたのだ。その姿は、俺達の前から消えるとき以上の美しさだった。
「奈保美。治ったのか?」
俺は思わず彼女にそう聞いた。決して治る事のないはずの病気なのに、彼女は発病以前よりも女らしく綺麗になっているからだ。
「うふん。それよりも、何の相談。私にも聞かせて欲しいな。」
奈保美は色っぽく俺達に迫った。俺のあそこは彼女の色っぽさにジュンとなった。
「まさか、男になろうとか言うんじゃないでしょうね。ま・さ・み・ちゃん。」
耳の側で奈保美に囁かれて、正志は顔を赤らめていた。彼も俺と同じようにジュンとなっているのだろう。
「あの、奈保美さん。こちらの方たちは?」
いつの間にか、俺達の後ろに、若い男達が立っていた。彼らは身なりもよく、何処かの良家の子息なのだろう。奈保美が俺たちと親しく話しているので、心配になったのだろう。見ようによっては、俺達は優男に見えなくもないからだ。
「この人たちはわたしのお友達よ。柴田光江さんに、戸畑正美さん。ウィルスに感染しているけど、女の子よ。美人でしょう。」
男達は、ほかに人たちがするように一瞬たじろいだ。そしてそのうちのひとりが、保奈美の側に近づいてささやいた。
「保奈美さんにも移りますよ。」
「私はだいじょうぶ。免疫が出来ているから、この人たちとちょっとお話があるから、大人しくあっちで待っててくれる。オ・ネ・ガ・イ。」
保奈美にそう言われて男達は少し離れたテーブルへと移った。そして、心配そうにちらちらとこっちを見ていた。
「正美ちゃん。貴方は真面目だったから、男になろうとしているんじゃないの。克君とはきっと別れたんでしょう。ウィルスに感染したから。」
保奈美は何気なく、真実を言い当てた。正志には、克という恋人がいたが、このウィルスに感染してから、彼とは別れていた。正志の自棄酒に付き合って二日酔いをしたのが昨日の事のようだ。
「だめよ。男になってもこのウィルスからは逃れられないわ。それに、男になっても一層自分が男ではないことを自覚するだけよ。」
「それは、治ったから言える事ですよ。奈保美さんは、治ったからそういえるんです。まだ進行中の僕たちにはこれしかないんです。」
「男になるしか?うふふふふ、誰が治ったっていった?」
「だって、私には免疫があるって。それにその格好は・・・」
「ククククク・・・」
保奈美は顔を伏せ、苦しそうに笑いを殺した。そして、顔を上げたときの彼女の目は、あの感染した時の奈緒美の目だった。
「お前さんたち。今の自分に萌えるかい。あれほどのいい女だったのに、男の格好をして、化粧気もなく、色気もないこんな自分に。俺なら萌えないね。そんな、自分も萌えないような奴を相手にするやつはいるもんか。」
その口調。そこには、ウィルスに冒されて男性化した頃の奈保美がいた。
「誰が治ったっていったよ。誰も治ってなんかいないよ。俺はあの時の俺のままさ。」
「じゃあ、その格好は、それにさっきまでの言葉遣いは・・・」
俺は絶句してしまった。奈緒美は治っていなかったのだ。それなのにあの態度はどういうことなのだ。
「男になって、そろそろ自分の女の身体に飽きが来たんじゃないかい。正美ちゃん。」
「そ、それは・・・」
「フフフ、わかるよ。俺もそうだった。そして、俺は急激になったものだからそれが激しかった。男なのに女の身体。最初はいいが、このジレンマが俺を苦しめた。やられる事は出来ても、やることは出来ないんだものな。それに、俺は糞ガキどもにやられちまったしな。こちらも求めているのならいいさ。だか、無理矢理と言うのは、屈辱しかのこらねえ。それで、俺も男になろうと思った。そんな俺を救ってくれたのは、ゲイ・バーのママさ。」

「フ〜ン、あんた、男になりたいの。女になりたい男もいりゃ、女になりたい私みたいな男もいる。ところで、あんた。精神は男だってね。」
「そうさ、俺は男だ。身体も男だったらあんなやつらには負けなかったのに・・・クソッ。」
「じゃあ、さあ。うちで働かないかい。ニューハーフとしてさ。」
「ニューハーフ?」
「そう、気持ちは男で、身体は女なんだろう。男ってやつは、一度は異性にあこがれるものさ。あんたは、手術なんかしなくても異性に成れたんだから。それを楽しまなくちゃ。」

「ムチャクチャな理論とは思ったが、言われてみると、女を異性として見ている自分がいたのに気がついた。そこで、俺は、女装をしてみることにした。元々が女だから、肉体も男のやつらよりは綺麗になれるし、男に意識で、女装をする女と言う設定は、なかなか倒錯的でおもしろかった。俺は段々とそのニューハーフとしての生活にはまっていった。そして、日に日に女らしく綺麗になっていく自分に萌える自分に気がついた。そして、気がついたときには、店一番の売れっ子になっていた。意識は男だから、男に気持ちはわかるし、身体は女だから、男達に触られて、今まで以上に感じるし、最高だよ。わかるかい、この気持ち。」
俺と正志は、ただ黙って保奈美を見つめるだけだった。
「それから、やはり店にいづらくなった俺は店を出て、自分の店をもつ事にした。もちろん、世話になったママには筋を通したさ。そして、俺と同じようにウィルスに冒され、自暴破棄になった女達を集めて店をやってるんだ。よかったら来ないか。お前さんたちならすぐに客はつくぜ。俺が保証するよ。」
「ホナミサ〜〜〜ン。」
「おっと、お呼びだ。それじゃ、気持ちが決まったらお店に来てね。これが私の名刺。それじゃあね。」
それだけいうと、保奈美は、手に持っていたバックから2枚の名刺を取り出すと、テーブルに残して男達のところへと去っていった。
モンローウォークをしながら、香水の残り香を漂わせる保奈美の後姿に、俺は欲情していた。
「女装か・・・」
正志は、テーブルの上の名刺を一枚手にとるとそう呟いた。その名刺からは、保奈美のつけていた香水の香りがほのかにしていた。