ウィルスに対するある考察
ある大学の研究室にて、二人の若い男性が、雑談をしていた。
A「麻美。だめだったのか。」
B「ああ、完全に冒されていたよ。いまでは、中年おやじだよ。」
A「あの、麻美がなぁ。大学一の美人で、おしとやかだった子なのに・・・」
B「ああ。」
A「でも、このウィルスって、いったい何なのだろう。」
B「さあな。世界中の医学関係者が、調べているが、いまだに結論は出ていないしな。ウィルスとは言っているが、それも仮にそう言っているだけだし。」
A「原因となるウィルスを発見したって言う医学者がいたじゃないか。」
B「でも、なぞの失踪をして、いまだ、真意は不明だ。」
A「そうだったな。」
そこで、二人の会話は止まり、沈黙が流れた。その重苦しい空気を壊したのは、一人の初老の人物だった。
男「こうは考えられないかね。」
A・B「先生。」
男「A君。人と他の生物の違いは何かね。」
A「社会構成により行動を行っていることです。」
男「だが、蟻でも社会を作っているぞ。他の動物たちにもそれは見られる。B君は?」
B「は、はい。自己認識が・・・でもないなぁ。」
男「他の動物と、人の違いは、メスが、オスを選んでいることじゃよ。」
A・B「メスが、オスを選ぶ?」
男「そうだ。いいかね。人間ほど、メスが、着飾ってオスを引きつけようとする種族はいない。それはなぜか。古代は、男も着飾っておった。ところが、近代、現代になるにつれて、男のファッションから、派手さが消えた。それはなぜかね。」
A・B「さあ?」
男「それは、選ぶ対象が、変ったからだ。女から、男へとな。男は選ばれる対象から、選ぶ対象になったからだ。」
A「それは、なぜです。」
男「ふむ、いい質問だ。それはな、近代の戦争にある。」
A「戦争?」
男「そうだ。近代の戦争は、消耗戦だ。そのため、男の消耗が、激しくなり・・・つまり、需要と供給の問題だな。」
B「男が減り、女性に選択肢がなくなってきた代わりに、男性が、選択権を得たと?」
男「そのために、女性は、自分が選ばれんがために、着飾りだしたというわけだ。」
B「それが、今回のウィルスとどういう関係が?」
男「仮説じゃが、かなりの消耗を余儀なくされる戦争の終結のよって、男が余りだした。そのため、今度は、他の生物と違っていた選択権が、元に戻りだした結果じゃないかと思うのじゃ。」
B「でも、それでは、女性の男性化が、説明できませんが・・・」
男「わからんかね。女性たちは、元の姿に戻りつつあるのだ。つまり、自分の子孫を残すほど強い、生活力のある姿に。大概の動物は、オスより、メスのほうが、生命力が強いじゃろう。それに、種族を確実に残せるのは、メスのほうだ。」
A・B「それじゃ、あの姿が、本来の女性?」
男「そういうことじゃ。最近では、着飾り、化粧する男たちが増えてきたじゃろう。その傾向の表れじゃよ。と、まあ、仮説じゃがな。」
男の説明を、聞き終わったAとBは、研究室の窓から、キャンパスにたむろする若い学生たちを眺めた。ファッションに気を配り、手入れを怠ることのない若い男子学生と、ウィルスのためにファッションなど気にせず着た切りスズメのような女子学生を・・・
ふたりの頭の中には、さっきの言葉が、リフレインしていた。
『女性たちは、元の姿に戻りつつあるのだ。本来の姿に・・・』