『AKIMIX』
「おや、若旦那。ひさしぶりだねえ。」
「これはご隠居。まだくたばらずにいきていたのかい。しぶといねえ。」
「まったく口の減らない男だよ。近緒ならいないよ。稽古に出てる。」
「いえね。今日はご隠居と無駄話をしようと思ってよらせていただいたのですよ。」
「おや、コワイ。まあ言いからあがりなさい。もう少ししたらあれが来るから茶でもいれさせよう。」
「おやおや、この色ボケ爺。茶のみ友達を作ったね。まったく恥のない人はいやだねえ。」
「ほんとにこの男は、茶も出さないよ。」
「まあまあそう怒らずによいよいになってしまいますよ。」
「ふん。」
それより、あたしの話を聞いてくださいよ。このあいだちょいと「AKIMIX」に寄ったのですがね。あそこはいいねえ。「言の葉亭」の席亭が切り盛りしているミルクホールだが客筋もいいし、従業員の教育も行き届いている。いい店だ。」
「とかいって、コーヒー一杯で、4時間も女給の尻を眺めているものもないわな。」
「2時間だ。あと2時間はお冷を頼んだ。」
「なにをかいわんやだ。」
「そんなことはどうでもいいの。それより、以前からあのミルクホールは何か懐かしい気がしてたんだが、きょうそのわけがわかったんだ。ご隠居、昔やってた子供向けのラジオ番組で、島に乗って漂流する話があったでしょ。あれ、その、ぽっくりいちゃっ島じゃなくて、なんていったっけ。」
「ひょっこりひょうたん島じゃろう。知っててわざと間違いおって、あとで見ておれ。」
「なにかいったかい。」
「いいやなにも・・・」
「そのひょうたん島にそっくりなんだ。」
「どうそっくりだ。」
「登場人物に似ているのではなくて、来るものは拒まず、去るものは負わず。無理矢理去っていくものはその訳をただして、助けてやり、優しさの押し付けもしないし、型にはめようともしない。そして、本当の自分をさらして生きている。
そんなことを考えていたらついこんな唄を口ずさんでいたよ。」
「どんなのだい。」
「丸い地球の水平線に、何かがきっと待っている。苦しい事もあるだろさ。悲しい事もあるだろさ。だけど僕らはくじけない。泣くのはいやだ笑っちゃえ。」
「ひょっこりひょうたん島。ひょっこりひょうたん島。ひょっこりひょうたんじ〜ま〜」どこからともなく声が聞こえてきてデュエットになっていた。
がらりと障子が開きそこに立っていたのは、お茶ののったお盆を持った姉やであった。
「げ、姉や。」
「若旦那。今日という今日は連れて帰りますからね。吉原からの催促状。旦那様に見られてますから。」
「ひえ、あれ、おとっぁんみたの。やばい。あたしは逃げるよ。」
「逃がしません。あ、こら待て〜。」
トムとジェリーのおっかけっこよろしく下町をかけて行く二人でした。
とまあ、こんな感じがします。優しく、人がよく、傷つきやすいけど、涙よりも人の笑顔が大好きな人たちのミルクホール。
これだけほめたのだからあきみさん。今までのつけ、まけて。