ロックと変装
間久部緑郎、通称・ロック。詳しい説明は要らないほどに有名な少年である。
彼を今の地位に上げたのは「バンパイア」の狂気の犯罪者・ロックの役柄だろう。
欲しいものを手に入れるためには、どんな手も使い、そして、執念深く狙った獲物を仕留めるための用意周到さは敬服するほどだ。
悪魔の申し子として有名な彼の特技として広く知れ渡っている物に変装技術がある。ロックといえば、変装の名人という印象が強いのは、わたしだけではないだろう。
変装といえば、マスクによる縦横無尽の変化。老若男女、いかなる者にも完璧に化けてしまい。警察はおろか、親しきものさえもだましてしまうほどのテクニックを思い浮かべる人も多いと思うのだが、さて、ここで質問。ロックは、マスク変装によっていかなる人物に化けただろう?
彼が登場して、変装技術を見せてくれた作品一覧である(ただし、わたしが知る限りだから抜けているのも多々あると思われる)
1)少年探偵ロック・ホーム(彼のデビュー作だ)。この作品の「海流発電」という事件で彼は、海流発電の関係者、ボロー博士の娘に変装しているが、マスクを被ったり、脱いだりするシーンがないので、詳しくは不明だが、このころの手塚作品の少年たちは、化粧だけで少女に化けていたので、メイクによる変装だろう。
2)バンパイア(第一部)彼の変装技術を有名にした作品である。この中で彼は、いろいろと変装を見せてくれるが、マスク変装と確定できるのは「バンパイア革命の巻」で、バンパイア革命を知って、秋芳洞から脱出する手塚を乗せた車のドライバーに変装していたときだけだ。このときはきちんとマスクを剥がすシーンが描きこまれているためだ(わたしの友人の記憶によるとこのシーンは、本来は若い女性で、女性のマスクをとるロックの顔が現れるシーンがあったそうだ。見てみたいなぁ)。
あと、ラストちかくに殺害した親友の西郷風介に変装し、日本から脱出しようとするシーンがあるが、大西ミカや、せむし男に変装した彼のメイク技術から考えるとあれも、メイクによるものと、わたしは思う。
3)バンパイア(第2部)ここでは、彼はマスク変装を見せてくれる。指名手配をされているために禿げあがった男のマスクを被り、日本に現れる。そして、檜山ハヤトという日本有数の資産家の息子を誘拐する為に、彼の車の運転手、田畑にも化けてみせる。だが、この作品は未刊のために、彼の変装シーンはこの二つで終わりだ。
4)アラバスター この作品では、ナルシストのFBI捜査官として登場する。全裸で鏡に映った自分の姿を愛撫するシーンは、有名だ。この作品でも彼はその変装技術で、美女に化けて、われわれにその妖しく美しい姿を見せてくれるが、これもメイクによる変装なのだ。
5)MW(ムウ) 外伝として紹介すると、アダルト版のロックとも言うべき結城美知夫にも触れなければなるまい。良心とか、モラルの欠如した犯罪者・結城美知夫。彼も変装の達人だ。そのメイク技術は、化けた相手の両親さえもだますほどなのだ。
さて、ここで、わたしの知る限りのロックの変装を紹介したのだが、ここまで見られた方は、おかしいと思われるのではないだろうか。
ロックは、変装の名人で彼の変装はマスク変装のはずだと。彼のマスク変装を、自分は見たという人も居られるのではないだろうか?
その疑問に答えは、1968年10月3日より放映された「バンパイア」を見ていただいたほうが早いだろう。この作品でもロックは、その変装テクニックを存分に我々に見せてくれる。その変装方法は、マスクなのだ。最初の頃はメイク技術らしいシーンがあるが、後になるとマスクらしいシーンへと代わっていく。実写版では、メイクによる変装で、あれほど変わるのは、いくらドラマでもおかしいからだろう。
わたしが思うに、ロックのマスク変装は、この実写版「バンパイア」からできたものではないだろうか。
皆さんは、いかに考えられるだろうか。このことからロックは、アニメの世界では、マスク変装をおこなうようになった。
たとえば、映画「メトロポリス」の侍女。それに、今放映中の「鉄腕アトム・アトムとロック」で見せた政治家や遺跡探索をする学者である。アニメでは、メイクではその変装シーンの表現に費やすセルの枚数や、変装をとくシーンでのショッキングさがでにくいからなのだろうか。アニメでは、マスク変装が多いのは確かだ。
これからも、手塚アニメで、ロックが登場した場合、彼のマスク変装が見られることは確かなようだ。
こうして、彼の変装伝説は、実態とは違う伝説が作られていくのである。
参考資料
バンパイア(サンデーコミックス全三巻 秋田書房)
少年探偵ロック・ホーム (手塚治虫漫画全集MT381全一巻 講談社)
アラバスター (手塚治虫漫画全集MT89・90全二巻 講談社)
MW(ムウ) (BIG COMICS全三巻 小学館)