ゼリージュースで、大混乱!?
ある土曜日の午後。ドアが開き、信彦が、コンビニのビニル袋を下げて部屋の中に入ってきた。
「美紀。買ってきたぞ」
そう言うと、信彦は、その袋を部屋の中央に置いてあったテーブルの上に置いた。美紀は、テーブルに近づくと、ビニル袋から、中のものを取り出して、テーブルの上に並べた。それは、色とりどりの5本のゼリージュースだった。
「どうするのだよ。こんなにたくさんのゼリージュース?」
「使うのよ。二人で楽しみましょうよ」
「楽しむ?」
信彦は、そのジャニーズ系の美形な顔に理解できないといった表情を浮かべた。
「そう、信彦に買ってきてもらったゼリージュースは、ただのジュースとは違うの。すごい効果があるのよ」
美紀は、その可愛い顔に笑みを浮かべて、信彦に言った。だが、それが二人を妖しげな世界へといざなうことになろうとは、神をも知るはずがなかった。
「どれからしようかしら?まずはこれかな?」
そう言いながら、美紀は、黄色いゼリージュースを手にとった。それは、二本の同じゼリージュースが、背中合わせにくっついていた。美紀はそれを二つに分けると、一本を信彦に渡した。
「さあ、これを飲んで。パインだから少しすっぱいかもしれないけど、おいしいわよ。そのまえに・・・」
そう言うと、美紀は着ている服を脱ぎだした。そして、下着までも脱いでしまった。裸になった美紀は、シミひとつなく、石膏で作られた裸体像のように、白くきれいだった。
「さあ、あなたも裸になって」
「でも・・・」
「いいからなりなさい」
信彦は、いぶかしげな顔をしながらも、美紀に言われるとおりに、裸になり、そのゼリージュースを飲んだ。美紀も、同じようにそのゼリージュースを飲んだ。確かに美紀が言うように甘酸っぱい感じがしたが、喉越しは、そう悪くもなく、信彦は、一本飲み干してしまった。
「これで言いのかい?」
そう言って、美紀のほうを見たとき、信彦は、言葉を失ってしまった。なぜなら、ゼリージュースを飲み干した美紀の姿は、だんだんと肌色が消えていき、黄色がかった透明な等身大の人形のようになっていったからだ。それはまるで、イエロークリスタルで作られた美少女フィギュア人形のようで、筋肉はおろか、骨も透き通って後ろのほうが見えていた。
「み、みき?君のその姿は・・・」
「あら、信彦君もわたしとおんなじよ」
「え?」
慌てる風もない美紀にそう言われて、信彦は、自分の右手を見た。そこには、今の美紀と同じように透き通ったガラスのように透き通った腕があった。
「こ、これはいったい?」
「さ、そこにじっと立って」
そう言いながら、薄ぼんやりと判る程度の美紀の身体は、信彦の前に立ち、信彦のほうに背を向けていた。
「いい、わたしが合図したら、前に進むのよ。いいわね」
信彦に有無を言わさない美紀の強い態度に、信彦は、頷いた。
「それでは行くわよ。はい」
信彦は、言われるままに、前へと歩みだした。すると身体は、何の抵抗も感じずに、前へと進んで行けた。一方、美紀のほうは、後ろへと下がっていた。信彦は、美紀とぶつかる筈なのだが、なんの接触も感じずに、二人の身体は重なって入れ替わった。
「いいわよ」
その声に、信彦は歩みを止めた。さっきよりも自分の視線が低くなったような感じがした。前に歩んで、美紀と重なった後に、急に視線が変わった感じがしたのだった。歩みを止め、前を見ると、さっきまでいた美紀の姿がなくなっていた。
「みき?みき」
「こっちよ」
すこし低くしゃがれた声が、後ろからした。信彦は、その声のほうに振り向いた。そこには、徐々に肌色を取り戻しつつある信彦が、にこやかな笑顔をして立っていた。
「お、お前はいったい誰だ」
「ボクは、佐倉信彦だよ」
「信彦はボクだ。お前は誰なんだ」
「ボクは信彦だよ。美紀」
「美紀?」
目の前の自分を見つめながら、状況が理解できないでいる信彦の手を握ると、もう一人の信彦は、その手を信彦の胸の上に置いた。何かいつもとは違う感触に、信彦は思わず触ってみた。
「ぷにゅぷにゅ?」
それはやわらかくつき立ての餅の様な感触がした。思わずその感触に触り続けると、そこから熱いものが身体を走った。
「あ、あん」
それは、ありえない感覚。まるで女のように・・・おんな?そう、この胸のふくらみと柔らかさは女性のものそっくりだ。
「な、なんじゃこりゃ?すると・・・まさか」
信彦は、頬をつたう冷や汗を感じながら、そっと手を下へと忍ばせた。そして、絶句した。
「な・・・・ない」
冷たい汗が、噴出し、滝のように顔の上を流れ落ちた。
「やっと気付いたみたいね。美紀ちゃん」
「これはいったい。お前は・・・まさか、美紀?」
「うふ、今はあなたが新條美紀よ。でも、たしかに、元は、私が美紀ね」
「何でこんな事に・・・僕たちどうしたんだ」
「あら、まだわかっていないの?わたし立ち入れ替わったのよ」
「だからなんで?ボクたち元に戻れるのかなぁ」
「うるさいわね。戻れるわよ。わたしが入れ替えたのだから」
「お前が、なんでこんなことをしたのだ」
「だって、男の子になってみたかったのですもの。それに・・・」
「それに?」
「わたし、男の子のHにも興味あったし・・・ね、信彦」
「ね、ってなんだよ。ねって!」
「あなたも女のこの身体に興味あるでしょう」
「それはあるけど・・・なりたくはないよ。それに、男とHだなんていやだ」
「いいじゃないの。男と言っても自分なんだし。それにきれいなわたしになれたんだから」
「いやだ!初めての相手が自分だなんて・・・ん?君は自分とすることになるのだから、これは近親・・・」
「じゃないのよ。身体が入れ替わったわけじゃなくて、姿が変わっただけだから。あなたの男の身体が、女の私そっくりに変わっただけ。だから、いくらやっても大丈夫よ。安心した?」
「安心て・・・そんな問題か。元に戻せよ」
「だから戻れるって。安心してよ。それよりもこの状況を楽しみましょうよ」
そういうと、今は信彦になった美紀が、着ていた服を脱いで、全裸になった。
「さあ、あなたも楽しみましょうよ」
そう言って、信彦の美紀が、信彦に手を差し伸べた。信彦は、その手に、自分の細くしなやかになった白い手を差し伸ばした。
(作者注・これからややっこしくなるので、信彦になった美紀は【信彦(美紀)】、美紀になった信彦は【美紀(信彦)】と表します。あ〜ややっこしい)
「あ、あふふ・・あ、あ、あん」
「お、お、おお〜〜〜」
信彦(美紀)は、ベッドの上でオナニーを、美紀(信彦)は、ベッドに寄りかかりながら、マスをかいていた。
「お、おんなって、こんなによかったのか」
「おとこも・・・い、い、いいわ」
学校でも有名な美男美女で、成績トップの模範生徒であるこの二人がこんなことをしているとは、誰も信じないだろう。そして、さらにそれが推し進められようとしているとは・・・
「ねえ、信彦。そろそろしない?」
「あら、わたしは、美紀よ。信彦はあなたでしょ?」
美紀になった信彦が、微笑んで答えた。
「もう、信彦ったら、もう、のりのりね。う、うん。美紀、いいかい?」
「うん」
美紀(信彦)は、頷いた。
「優しくしてね」
「ああ」
信彦(美紀)が立ち上がると、ベッドの横たわる美紀の隣に座り、その身体を、美紀(信彦)のそばに寄り添おうとした時、玄関のドアが開き、声がした。
「ただいま。美紀いるの?」
その声は、美紀の母親の声だった。だが、もし裸で横たわるふたりの姿を見られたら・・・大事どころの騒ぎではない。信彦(美紀)と美紀(信彦)は慌てた。ふたりはまず、窓を開けて、部屋の中の生臭い臭いを消そうとした。そして、さっき脱いだ服を着ようとしたが、あせっていたので、おたがい、今の身体には、あわない服を着ようとしていた。
「美紀どこなの?」
美紀の母親は、美紀を探し回っているようだった。ふたりはあせった。と、その時、信彦(美紀)が、叫ぶように言った。
「そうだ。その赤いゼリージュースを取って」
その声にあわてた美紀(信彦)は、ベッドから降りるとテーブルに置いていたゼリージュースの一本を取ろうとして、テーブルに足をぶつけ、赤いゼリージュースを床に落としてしまった。そして、よろけた拍子にそれを踏みつけてしまった。
「ぐちゃ」
「あわわ・・・」
「どうするのよ。踏み潰したりして」
「ごめん」
美紀(信彦)は、謝りながらも、しょげ返ってしまった。
「もう、信彦たら・・・でもどうしよう。臭いは何とかなりそうだけど・・・そうだ。これだ」
そういうと、信彦(美紀)は、残っていた青色のゼリージュースを手に取ると、それを一気に飲み干した。すると、信彦(美紀)の体から、さっきのように肌色が薄れて行き、透き通った青っぽいクリスタルなボディになった。そして、プルンプルンとカラダを震わせながら、美紀(信彦)に近寄り、覆いかぶさってきた。
「わ、わぁ〜〜」
美紀(信彦)は、ねっとりとしたものが覆いかぶさってくる感触と共に、気を失ってしまった。
「う、う〜ん。成功ね。変な気分。自分にのり移るなんて」
ベッドに横たわっていた美紀が起き上がると、不思議そうな顔をしながら、体を触りまくった。
「おかしなところはなさそうね。じゃあ、信彦の服をベッドの下に隠して、急いで服を着なくちゃ」
身体はスムーズに、美紀が望むように動いた。何とか服を着終わった時に、ドアをノックする音がした。
「美紀いるの?」
「え、ええ、ママ。いるわよ」
「誰か遊びに着ているの?」
「いえ、誰も着てないわ。わたしひとりよ」
「そう、変な声が聞こえたような気がしたけど」
「気のせいよ」
「そう、ママはまた出かけますから、留守番お願いね」
「はい、ママ」
美紀の母親は、それだけ言うと、ドアを開けることもなく、美紀の部屋の前から去っていった。そして、ドアが開く音がして、家の中は静かになった。
「ふう、何とかごまかせたけど、どうしようかしら?ん?おなかが痛い!」
お腹がグルグルと鳴り出した。
「いやだ。信彦ったら、緊張に弱かったんだわ。いや、お腹が痛い。トイレ、トイレ」
美紀になった信彦にのり移った美紀は、(ややっこしい)トイレの中に駆け込んだ。そして、便器に座るとすぐにそれは来た。
「ふう、もういやになってしまうわ。からだが戻ってしまう」
そして、美紀は、股間に盛り上がってくる感触と、からだが膨れ上がり、胸がひっぱられる感じを味わった。その上、着ていた服もぴっちぴちになり、腰が窮屈になった。
「あ〜あ、戻ってしまった。でも、どうしようかしら。わたしは、ショックを受けると頑固な便秘になるのよね。一週間やそこらでは、直らないのだけど。その間どうしよう」
飲んでいたゼリージュースを体外へ排出したので、信彦は、元の男の姿に戻ってしまった。だが、青色のゼリージュースを飲んでいるのは、美紀なので、彼女は信彦のからだに留まったままだった。信彦(美紀)は、窮屈になった服を脱いで、裸になった。
「どうしよう。わたしが一週間も行方不明になってしまう。もう、あそこがぶらぶらしてて変な気分。う〜ん、あ、そうだ。あのショップに何かいいものがあるかも・・・」
信彦のからだに入った美紀は、机の上のパソコンのスイッチを入れた。そして、ネットに繋ぐとアドレスを打ち込んだ。すると、モニターの画面には、白いバスタオルを捲いて、赤いゼリージュースのビンを持って微笑む美少女のフォトが現れ、
『みらくるゼリージュースショップへようこそ!』と書かれたHPが開いた。そこのリストを開いて、信彦(美紀)は、そこに掲示されたゼリージュースを一種類ごとチェックした。
「赤は・・・変身。でも、これは被写体がいないと駄目だし。青は、憑依だから使えないし。それに、今使っているしね。そして、黄色は、関係ないわね。他には・・・」
だが、リストの画面には、この3種類しかなかった。
「あん、だめじゃないの。あ、そうだ。この画面には裏があるって聞いたことがあるわ。その入り方は・・・確かここよ」
そういうと、信彦(美紀)は、管理人室を押した。すると画面が変わり、パスワードの入力を求められた。
「たしか、ユーザー名は、『ti○a』で、パスワードは『104q』だったわ」
信彦(美紀)がそう打ち込むと画面が変わり、今度は、オトナっぽい美女が、いろんな種類のゼリージュースを差し出すフォトに変わった。
そして、その画面にはこう書かれていた。『まじかるゼリージュースショップへようこそ!』
「なんか、雰囲気がいっしょね。さてと、期待しないで、商品リストをポチッとな」
信彦(美紀)がリストをクリックすると、今度は、さっきとは違って、いろんなゼリージュースが現れた。
「え〜と、これは、変身した姿を固形?でも、これだとあとで信彦がこまるか。わたしはいいけど。これは、飲んだものの皮が出来る。これもちがう。これは、見たものをコピー。これだわ。でも、服などで隠れたところは変身できないのね。それも困るか。う〜〜ん、あれ、これは?」
信彦(美紀)の視線は、濃い紫のゼリージュースのところで止まった。
「ブルーベリーゼリージュース。『乗り移ったり、入れ替わったり、変身するための相手がいないあなた。アイドルになりたいけど、オールヌードの写真が手に入らないあなた。あなたの分身を作ってみませんか?』て、かなり怪しいアイテムね」
信彦(美紀)は、そのコメントに引き込まれるように、商品紹介を読んだ。
「ふ〜ん、もう一人の自分を創るジュースか。それも異性の自分を。誰もが持っている自分の中の異性の部分を、細胞の活性化によって作り出すのか。でも、分身が存在できるのは三日間だけで、それを過ぎると溶けてしまうと。巨峰ゼリーを使うとどんな相手にでもなれるか。これいいかも、買いに行こう!」
信彦(美紀)は、そのジュースの欄をプリントすると、信彦の服を着て、さっきまで着ていた服と、アルバムから選び出した自分の写真を、さっきゼリージュースが入っていたビニル袋に押し込むと、部屋を出た。
「ちょうどよかったこの袋があって。でも、慌てていたから、お洋服がしわくちゃだわ。もう、これも信彦のドジのせいよ。おぼえてらっしゃい」
そういいながら、玄関の鍵を閉めると、門を出て、ゼリージュースを売っている店へと急いだ。
「ふ〜ん、これがそうか」
信彦(美紀)は、信彦の部屋で、着ていた服を脱ぎ、裸になると買ってきたばかりのゼリージュースを取り出して、窓から差し込む陽射しに照らしながら眺めていた。ディープバイオレットのそのビンは、陽射しを通して、きらきらと輝いていた。
「これを飲んで、分身を出して、そいつにこれを(きれいなライトバイオレットをしたビンを取り出して)飲ませて、私の写真を見せればいいのね。では、行きますか」
そういうと、ディープバイオレットのゼリージュースの蓋を開けると、一気に飲み干した。
「あら、意外とおいしいわ。これ」
そのゼリージュースを飲んだ信彦(美紀)の体は、紫色を帯びたクリスタルドールになった。だが、しばらくすると身体の内側から何かが浮き上がってきた。信彦(美紀)の男の平らな胸が盛り上がってきた。そして、それは頭にも言えた。視線が遠近重なって、二重に見えた。それは、奇妙な感覚だった。ぬ〜〜っと、身体から浮かび上がってきたものは、信彦(美紀)の体から抜け出すと、信彦(美紀)の目の前に立った。それは、まるでバイオレットクリスタルで出来た女性の等身大フィギィアのようだった。それは、だんだんと肌色が濃くなってきて、きれいな少女に姿になった。
「あら、女の子になった信彦君、結構かわいいじゃない」
「おい、勘違いするなよな。俺は、信彦じゃないぜ」
その女の子は、姿にあったきれいな女らしい声で、ドスが効いた男みたいな話し方をした。
「あら、あなたは女の子なのになんで、そんな言葉使いをするの」
「ああ、俺は、女らしいな。でも、身体は女でも、気持ちは男なんだよ」
「え?なんで」
「あのゼリージュースを飲んだのは、お前だろう。身体は、男の信彦のものでも、精神は、女のお前だからさ。だから、身体は女でも、心は男なんだよ。男なのに女になるなんて・・・」
信彦の分身は。そのきれいな顔に困惑の色を浮かべていた。
「そうか、でも、あなたにやってもらわないと困るしなぁ」
「わかっているよ。俺はお前の分身なんだからな。さ、写真とゼリージュースをよこしな」
不安を感じながらも、信彦(美紀)は、彼女に、巨峰のゼリージュースと自分の写真を渡した。渡しながら、信彦(美紀)はふと考えた。
『男の心を持ったわたしと、女の心を持った信彦君。これはこれで、面白いかも。これから三日間、楽しめそうね』
すこし微笑ける信彦(美紀)の顔に不思議そうな視線をしながらも、信彦の分身でありながら、美紀の分身でもある少女は、ゼリージュースを飲み干すと、じっと写真を見入った。だが、彼女は気付いてはいなかった。この瞬間から、彼女は、三日間の間、その消滅する時まで逃れられない妖しげな世界へと足を踏み入れたことを・・・