サディスティック・ロマンチカ


 幾度目の絶頂かなんて、数える気もない。
 雲雀は突き上げるたびに泡立ちながら溢れてくる己の白濁を眺めて、ぶるりと身体を震わせた。
 身体の中の一番深い部分にたたき付けられた灼熱の奔流に、ツナは小さく悲鳴をあげて、ほとんど色のない精を放った。

「ふ、ぅー…っ」

 もう勢いのない精は、短くぴゅくぴゅくと断続的に散らばって綱吉の腹と雲雀の腹を汚した。
 快楽を感じるよりも苦しそうな横顔に、しかし雲雀は薄く笑い、細い腰を掴み直すと下から突き上げた。

「ぁ…っ!? も…や、だ…っ」
「まだ意識あるし、大丈夫だろ?」

 力のない抵抗を、雲雀は聞き入れない。綱吉は絶望的な気分になる。
 実を言うと、さっきから何度も意識を飛ばしている。でも、綱吉の瞳が色を失うのを見ると、雲雀が突き上げる腰はそのままに、首筋に加減もなく噛み付いてくるので、せっかく逃げた意識が引き戻されるのだ。
 雲雀もそれは理解しているはずなのに。
 悔しいんだか、苦しいんだか、切ないんだか、綱吉ははらはらと涙を落とした。さっきから、喘ぎすぎて泣いてたから、今更こんな涙を流したところで、この人は気付きやしないのだろう。
 気付いたところで、雲雀には関係ないことかも知れない。
 きゅっと閉じた瞳の端から、落ちる涙を、つと優しく拭うものがあった。
 薄らと目を開けると、近すぎる距離に雲雀の綺麗な顔があった。赤い濡れた舌が、自分の涙を拭っているのだと理解した。

「ひば、り…さ…ん?」

 くすぐったい舌の感触に首を竦めて雲雀を見る。きゅうんと胸を締め付けられた。
 顔を上げた雲雀の表情は少し堅くて。同時にその瞳の奥に消せない炎を見つけて、綱吉は息を飲む。

「そういうふうに泣けなんて、誰も言ってないんだけど?」

 理不尽だ、と罵りたかった口はキスで塞がれた。
 片足を担がれて、繋がった場所を軸にぐるりと回転させられた。
 中が焼き切れるような衝撃に、綱吉は尖った悲鳴を上げる。
 尻だけ高く上げて後ろから雲雀を受け入れるような態勢に、綱吉は羞恥に眉を寄せた。顔も赤くなったが、もともと赤く染まっててたいした変化はない。

「ひ、あ……っうぅ……」
「これで最後にしたかったら、しっかり締めて全部搾り出しなよ?」

 同時に、今までの充分すぎるほど激しかった突き上げが前戯だったのではと疑いたくなるような、深く鋭い突き上げがズンっと襲ってくる。
 ツナは一瞬、声を上げることも忘れ喉を引き攣れさせたが、ずるずると熱く硬い肉棒が体内を犯しながら抜けていく感覚に、悲鳴をあげた。

「ひぃあ、あぁあっ!」

 脳天が貫かれるかと思うほど深くてツナは、髪をぱさぱさと鳴らしながら首を振った。
 思わず前に逃げようとソファーの上を這いずったが、すぐに引き戻されて、動かないように頭を押さえ付けられた。

「力、入らないの? 全部搾れって言ってるだろ?」
「ひんっ!」

 ぶるぶると揺れる肉の薄い尻たぶを、雲雀の平手がバシッと叩く。小さな悲鳴を上げて、ツナの腰が跳ね上がる。
 足を持ち上げられた状態で、そこに力を入れにくいのは承知の上で、なお雲雀はクスクスと笑いながら言った。
 尻がじんじんと痺れた。きゅっと僅かに締まった媚肉に、雲雀はぐっと息を詰める。

「いいね、今の」

 乾いた唇をぺろりと舐めて、熱い吐息をはあっと零す。
 うなじに掛かる、欲情した声に震える綱吉には見えなかった。雲雀が再び手を上げる。
 痛みより、衝撃が先に来た。

「あぅっ!」

 ばしっ、とまた尻を叩かれた。今度は続けて、何度も何度も。
 痛みを感じたかと思うと、次の瞬間には叩かれたところがじんじんと痺れて熱くなる。

「やっ、ヒバリ、さ…いった…っ、いぁ!」

 ぎゅうぅとソファを握りしめ、瞼を引き結ぶ。
 打たれるたびに痛みで身体に力が篭り、内部に打たれた雲雀のものを、ぎちっと締め付けてしまう。そうすると、今度は頭が蕩けそうな快感に襲われて、綱吉の脳みそはパニックに陥った。
 雲雀は腰を屈めて、真っ赤になった尻にがぶりと、容赦なく噛み付いた。

「ひっ、やあぅ…うう……」

 ぶるぶると病気のように震えながら、綱吉の中心はぶしゅうっと蜜を吐き出した。
 色はほとんどないが、あれだけ達しておいて、まだこんなに出るのか、と雲雀は素直に感心してしまう。

「淫乱」

 鼻で笑うのと同じ微笑で囁くと、また腰の動きを再開する。
 しかし、ぐんにゃりした身体は力がなく、ぬぷぬぷと抵抗のまったくない音がする。
 雲雀は眉を寄せて、綱吉の髪を引っつかむと、首をひん曲げてこちらを向かせた。
 気を失ってはいないようだが、もう意識はトンでいるのだろう。
 開けているのも億劫そうにとろんとした瞳は、もはや雲雀を映していない。
 涙と涎れでぐしゃぐしゃの顔は、締まりもなく表情が虚ろだ。

「終わりにしてほしいんじゃないの? 僕はまだ、満足してないんだけど」

 突き上げながら不服そうに問うが、答えはない。恐らく、雲雀の声すら届いていないのだろう。
 ところで雲雀は無抵抗の人間をいたぶる趣味はない。しかもそれが、風紀活動の一貫の粛正ではなく、嗜虐心に煽られた衝動的な暴力であるなら尚更だ。
 たちが悪いのは、雲雀が綱吉を構うとき、綱吉がどれだけ泣こうが怯えようが、本人にはいたぶっているつもりは毛頭ないところである。
 しかし、反応を返さなくなったからといって、雲雀の熱が冷めるわけではない。
 雲雀はひとつため息をついて、無理矢理向かせた綱吉の唇に噛み付くようにキスをすると、肩を押して身体を反転させる。
 軸になった繋がった場所が擦れて、綱吉は相俟ながらも僅かに眉を寄せた。

「ぁ、ん…ぅー」

 赤子が駄々をこねるみたいに小さく呻く。うっすらと焦点が雲雀に合わさるのを感じて、雲雀は猛禽類の眼差しで笑った。
 雲雀の手が、滑るように綱吉の首筋を撫でた。傍目には分からない、触れると僅かに硬い小さな喉仏を摩り、そこに親指をかける。
 ぐ、と力を込める手に躊躇いはなかった。

「ッ! んぐっ、う…うう……っ!」

 ひゅっと息が止まり、綱吉の目が見開かれた。
 一瞬戸惑いにさ迷った瞳が雲雀を捕らえ、信じられないものを見る目で雲雀をじっと見る。
 雲雀の瞳は煌々と熱を孕んでいるのに、綱吉は背筋を震わせるほどの冷たさを感じた。
 殺される、と感じて涙が落ちた。

「ぃ、アぐ……!」

 押さえ付ける手にもう片方の手も添えて、雲雀は腰をゆるゆると動かし始めた。
 内側を抉られる感覚に、声が零れそうに鳴るのに、喉が引き攣って声というよりも音のような呻きしか漏れない。
 強く押されると、かはっと噎せて唾液が唇の端から伝う。

「ぐ、う…ッ、ぃぎっ…ひ…!」

 息苦しさと恐怖に綱吉の身体は瘧のようにガタガタと震え、雲雀の手を必死に引っかく。
 手加減する余裕なんかなくて、雲雀の手には赤い線がいくつも出来た。その痛みは雲雀を止める枷にはならなかった。
 腰を支える腕がないから、あまり激しい律動は出来ないが、強張った身体は、ぎちぎちに雲雀を締め付けてくる。
 持って行かれそうな感覚に、雲雀は息を吐いて踏み止まる。
 踏み止まる理由なんかはないのだが、このままいってしまうのは勿体ない気がした。

「知ってる? 人が死ぬ瞬間の締め付けって、最高らしいよ?」

 その証拠に、こんなに締め付けてる。
 雲雀が綱吉の耳元で、クスクスと笑いながら言う。その声音に、言葉に、瞳に、首を絞める手に、全てに綱吉は死を予感した。
 濡れた音が、ずちゃずちゃと響く。ぎちぎちに締め付けてくるし、綱吉の怯えて息苦しさに喘ぐ顔も雲雀をそそる。
 顔を真っ赤にして、口の端しから泡だった涎を溢れさせる。

「かわいいよ、綱吉」
「…ぐ、うう…んぐっ」

 呼吸を与えないまま、雲雀は人工呼吸みたいにキスをする。くちゃくちゃと舌を絡めて、僅かに零れる細い吐息すらも奪って。
 唇を離して至近距離で視線を交わすと、怯えきった瞳と重なる。その瞳に、雲雀はにこりと笑った。花が咲くみたいな笑顔、でもそれが決して優しくないことを綱吉は知っている。

「っ…!」
「――――…ッッ!!」

 ぐ、と体重を前に傾けて、最奥をぐりゅっとえぐると、綱吉は喉をのけぞらして、声にならない悲鳴をあげた。
 その瞬間、確かにツナは自分の心臓が止まるのを感じた。ほんとに死ぬ瞬間って、こんななんだ。と、混乱と恐怖にどろどろになった脳みその、どこか冷めた部分が思う。
 ドクン、と体内に熱いものを吐き出される感覚に、綱吉もびくびくと震えて達したようだった。
 何も出なかったけれど。
 雲雀はそのままくたりと完全に気を失った綱吉を抱きしめて、余韻に浸った。
 汗で湿る額にキスを落として、うっとりと笑った。





END


良い子はまねしてはいけないプレイ。愛はあります、多分。
久しぶりに手酷いヒバリさんを書けて大満足です。
エロが書きたかっただけシリーズそのいち。

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