オズに寄せて
泣き顔にもそろそろ飽きたなぁ。
雲雀は頬に飛んだ白濁を指で拭い、舌で舐めとった。
事が終わって気絶するように力なく綱吉は、意識こそあったものの、一切を拒絶するかのように雲雀に背を向けて己を抱きしめながら肩を小刻みに震わせている。すすり泣きは未だやまない。
常より細く華奢に見える身体を、ぐいと遠慮なく仰向けに寝かせ、両膝を大きく割った。いつまで経っても消えぬ羞恥と、まだするのかという恐怖にビクリと綱吉の身体が跳ねたが、抵抗は見えない。雲雀が綱吉が抵抗することを許可していないからだ。
ひくひくと痙攣する内腿を無作為に荒々しく、手近なタオルで拭う。拭った後に気づいた。ああ、これタオルじゃない、台布巾だ。雑巾じゃないだけマシと思ってもらおう。
過敏なところも余すところなく綺麗に台布巾で拭ってやると、綱吉が唇を噛み締めた。ことが終わったばかりで未だ熱る身体には、些細な刺激も毒に等しい。雲雀は小さく笑う。
綱吉の恐怖と言う期待に応えてやるのも一興だが、今日はそんな気分ではない。さんざっぱら思うさま、泣かせて鳴かせて啼かせて、綱吉の涙は見飽きた。
腿を掴んでいた手を離してやると、綱吉はすぐに身体を丸めて背を向けた。雲雀は口の端を下げた。瞳が眇められる。
雲雀は元来、思ったことに忠実だ。気に食わなければ気に入るようにするし、それ以前に興味がなければ視界に映しもしない。
思いついたように、雲雀は綱吉の髪を後頭部から鷲づかみにして、ぐったりとした身体を自分のほうへ引っ張り揚げて首をひん曲げた。みぢり、と柔い皮膚が突っ張って悲鳴を上げているのが分かる。
「な、に―――…?」
綱吉は泣きそうな、既に涙で掠れた声で問うた。
その問いに、雲雀は「何だろうね」と無表情で応える。無表情だったのは不機嫌でもポーカーフェイスでもない。ただ、考えていたからだ。
何、と問われたけれど、何ということはない。
泣き顔が飽きて、怒った顔は…まぁ、悪くはないが今あえて見たいわけではない。だからと言って、今すぐに帰りたそうな顔をしている彼をこのまま素直に帰すのも、雲雀的には面白くない。
だから、どうすればいいかな、と本気で考えていた。
涙が乾いて荒れたようにカサつき赤くなった頬を、髪を掴んでいないほうの雲雀の手が滑る。
「そうだ、笑ってみてよ、君」
「え…?」
うん、そうしよう。
泣き顔に飽きた。怒り顔には今のところ興味がない。
だとすれば、笑わせればいい。
きっぱりと淀みなく澄んだ声で言い切って、ほら、と綱吉の頭から手を離して促した。
海色の膜を張ったアーモンドの瞳をぱちくりとさせて、戸惑ったように綱吉が首を傾げる。一度で理解しなよ、とピシャリと雲雀が言うと、綱吉は俯いて謝罪した。
「俯く暇があるなら笑って。ただし、作り笑いは禁止」
「………」
綱吉は雲雀に言われても、俯いた顔を上げることが出来なかった。
目にはまだ涙が溜まっているし、頬は涙で真っ赤に染まってべたべたのかさかさだ。唇は噛みつかれたから、ただでさえサクランボみたいに赤い唇にふつりと更に赤い痕がついている。
身体だって、雲雀が拭ってくれたとはいえ、上半身は自分が放った蜜のせいでまだべたべたするし、内腿や人には言えないような場所には雲雀が放ったものが、たらたらとはしたなく溢れてくる。
屈辱と、悔しさと、僅かな痛みと、それでも快楽を感じてしまった自分への自己嫌悪でいっぱいなのだ。
笑え、と言われてできるものではない。
「何。できないの?」
「だ、って…」
言いわけをすれば怒られる。
でも、雲雀の命令通りのことは出来ない。
出来ないの、と問われれば、言い訳するしかない。
雲雀の眉がぴくりと揺れるのを雰囲気で悟って、内心で焦った。
「楽しいことでも考えてみれば?」
「たのしい、こと…?」
綱吉が雲雀の言うことを反芻すれば、雲雀が「インコじゃないんだから」と呆れたように言った。
視線を揺らして考える。
楽しかったこと。楽しかったこと。頭の中でその単語だけがぐるぐる駆け回っては、映像がちっとも浮かんでこない。
別に楽しかったことがないわけではない。ただ、他のことを考えようとすればするほど、雲雀のことが頭をちらついて、視界の端に映るのだ。
伺うように雲雀の顔を見て、すぐに後悔した。若干、苛々したような顔を見せている雲雀に、綱吉は「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。
雲雀がしゃがみこんで、綱吉に視線を合わせると、綱吉は身体を強張らせた。
命令を聞かなかったときのオシオキは、綱吉の身体に強く染み付いている。それは時には痛くて、時には気持ちよすぎて狂うほどで、時には心をばらばらにさせる。
外から、中から、内側から、綱吉がただの奴隷に成り下がるまで、雲雀は綱吉に折檻をするのだ。
その恐怖が蘇る。
ひたり、と彼の冷たい手が綱吉の頬を包むように触れてきた。
その冷たさに肩を竦めて、この人の、さっきまでのあの熱はどこへ消えてしまったんだろうと頭の片隅で不思議に思った。受け入れた彼の塊は、本当に身体を燃やし尽くすのではないかというほど、熱かったのに。
思い出した途端に顔を赤くして、彼の手が滑る動きに赤くなった顔を一瞬で青く染めた。
「泣かす方法なら、100と思いつくのにな」
ぽそり、と雲雀が呟いた。
綱吉が軽く目を見開く。まだ瞳には怯えを多分に含みながら、それでも無防備にも意外そうな表情で雲雀の言葉の続きを待つ。
「たとえば、君のここ…に」
するり、と頬に触れていた手が首筋を滑る。綺麗に整えられた爪が、つ、と柔らかな皮膚を突付いた。
びくっと震えて綱吉は身を引きそうになるのを、雲雀に片腕で腰を抱えられて制止された。
「思い切り歯を立ててやるとか」
ぐ、と人差し指の先が首筋の窪みに食い込む。
綱吉はぎゅっと目を閉じた。痣が残るのではないかと思うほど押されて、すぐに離れた手が今度は薄い胸板を辿った。真っ白な雪のような肌は、その上に赤い花弁をいくつも散らしていた。
ここに―…と、雲雀がまた呟く。
白いキャンバスに実る、グミのようにふつりとした突起を親指でつぶす。んっ、と小さく綱吉が呻くのを、雲雀が冷ややかに見やる。薄らと開いた目で見たその表情は、どこか嘲笑に似ている。
「たとえば、ピアスでもつけてやるとかね。きっと、泣き喚いてのた打ち回るよ、君」
ただでさえ敏感で、指が滑るだけでピンと立ち上がってしまうそこに、細くて鋭い針が貫通する様を想像して、サーッと顔が蒼ざめる。
いやいやと首を振ると、まるでその恐怖を煽るようにぐにぐにとそこを嬲って揶揄した。
「僕にそういう趣味はないけど」
綱吉を殴るのは好きだし、それによって流れる血も好きだけれど、雲雀にはSMの趣味はない。多少抱き方が荒いのは認めるにしても、雲雀のセックスは至ってノーマルだ。道具も薬も使われたことはない(殴るときのトンファーは除外)。
やろうと思って雲雀に出来ないことは無い。やらないのは即ち「やる気がない」からで、同時に「趣味ではない」からだ。
もし、雲雀が「そういう」道具を「そういう」理由で使うとしたら、それは「趣味だから」ではなく目的が別にある場合である。たとえば、壊したかったり、殺したかったり。
それでなくても、綺麗なものは穢したい欲求だとか、綱吉に対して独占欲や支配欲のようなものだとかは、枯れない泉のように常に雲雀の胸の奥にあって、その衝動を制御するのに苦労しているのだ。
そうは見えなくても。
でなきゃ、今頃この小動物は死んでいるか壊れているか。
「トンファーを淫乱な下の口に入れて根元をシバってイケないようにした状態で一時間ぐらい放置しても良いし、純粋に目に打ち込むだけでも、生理的に涙は出るよね」
普通に殴るんじゃ、多分君は泣かないと思うけど。独り言のように付け足した。
淡々と、本気とも冗談とも取れない口調で雲雀が言う。
暴力を揮うときの雲雀の目はいつも高揚しているけれど、今はそれも見えない。けれど安心材料ではない。彼には暴力という行為に対する罪悪も後ろめたさも何もないのだ。
趣味ではない、と言っても「やる」といえばやるだろう。それが綱吉の知る雲雀だ。
いや、いや…とうわ言のように、引き攣った声から、蚊の泣くような声が零れる。
「ほら、こんなたとえ話ですぐに泣く」
涙を拭うわけでもなく、ただ、指で新たに濡れた頬を弾く。
綱吉は慌てて涙を拭った。
雲雀が笑う。
「こんなにも君を泣かすのは簡単だ。君だけじゃない。泣かそうと思えば、僕は誰だって泣かせる」
とは言っても、涙なんて大抵は、人の―ただでさえ美しいと思えぬ造形を、子供の粘度細工みたいな目も当てられぬ姿に変えるだけだから、雲雀はあえて泣かすようなことはしないけれど。
泣くより先に降伏と気絶を与える。
不細工だな、と思いつつも身体の奥底から興奮できる泣き顔は、綱吉だけだ。
両頬を両手で包んで顔を上げさせると、怯える表情を舐めまわすように見おろして、今にも咬み付きそうな顔をした。
「けれど、僕は生まれてから一度だって、人の笑顔を見たいなんて思ったことはないんだ」
自分の笑顔ですら。
人の笑顔は、幸せは、雲雀には毒だ。
別段それが妬ましいわけではない。雲雀はそんなに不幸ではないし、今以上のものが欲しいわけでもない。
しかし、誰かの笑顔の隣には別の誰かがいて、それは雲雀にはとても疎ましい。早く壊さなければ、今すぐ排除しなければ、と血が騒ぐのだ。
「君の笑顔だって、僕は大嫌いだ。君が笑うとき、隣には野球馬鹿がいる、あるいはあの歩く校則違反がいる。それでなくても、妙なチビどもが、ちんくしゃの女が」
群れている。
すぅ、と細められた瞳に、綱吉はギクリと肩を揺らした。
この人は群れが嫌いだ。アリが群がってセミの屍骸を解体する姿すら踏みつけるほどに、群れが嫌いだ。
殴られる、と思った。
しかし、降って来たのは拳でも堅い鉄の棒でもない。雲雀の唇。
「僕の知らないところでも、誰かの前で笑ってるんだろ?」
唇が触れている。
キスともいえぬ触れ方で、雲雀が喋ると綱吉の唇に振動が伝わる程度に、唇同士が触れ合っている。
綱吉は目を見開いた。
目を見開いて、雲雀の顔を凝視したのに、あまりに近すぎる距離に視界がぼやけて雲雀がどんな表情をしているのか分からなかった。
それが安堵のような、残念のような、複雑な感じ。
雲雀が綱吉の唇に歯を立てた。ちくり、とした痛みにもならない負荷を感じた場所には、その前に雲雀につけられた咬み傷が付いている。
上唇を上下の歯で挟んで、滑り降りてきた唇が下唇に上の歯を立て、最後は顎に歯を立てられた。痛くはないのに、息が詰まりそう。
「ねえ、僕はムカついてるんだよ、分かってる?」
分かってないんだろうなぁ、と雲雀は思いつつ、責めるような口調で言った。
雲雀が苛付いていることくらいは、いくら綱吉でも分かる。
けれども、何に苛付いているのか分からない。
笑えといわれたのに、笑えない自分に苛立っているのだろうか。それにしては、論点がズレている気がする。
「ねえ、君を笑わす魔法を僕に頂戴」
薬でもいい。
きっと、その薬は雲雀が苦々しく眉を顰めるほどには、甘ったるいに違いない。
泣かせる魔法なら、いくらでもあるから、そのひとつでもいい。それを笑わす魔法に変えて欲しい。
「世界中の誰の笑顔を、どれだけ奪ってもいい」
ぐ、と腰を抱き寄せられた。
下から押し上げるように力を込められた腕につられて、綱吉の腰が少し浮く。ますます雲雀の顔が近づいた。
「君の笑顔が、欲しい」
ゆっくりと、雲雀の唇が動く。
「―――…っ」
一瞬、心臓が止まった―――ような、気がした。その直後に、思い出したかのように、けれども加減を忘れたかのように、皮膚をぶち破るほど激しく高鳴る鼓動。
綱吉の大きなアーモンドアイズに、雲雀の鋭く細い瞳だけが大きく映し出された。
紅い猛禽類の瞳の奥に、自分の間抜けに戸惑った顔が映っているのが、酷く不思議な気分だ。こんな柘榴石のように綺麗な瞳が、俺みたいな石ころを映している。
そして、そこに映る自分の瞳の奥には雲雀がいて、その奥にまた自分がいる。永遠ルゥプ。
「ヒバリ…さ、ん……」
かろうじて絞り出した声は、震えてひどく掠れていた。綺麗に音にすらならない。でも、これは恐怖ではない。
確かに、心臓はばくばくと五月蠅くて、ヒバリさんが殴るときとか怖い思いをするときと一緒なんだけど。
手が震えるのも、呼吸が止まりそうなのも、同じなんだけど。
でも、それでもこれは違う。と綱吉は胸元を押さえた。
雲雀は明らかな不機嫌に顔を歪めて、綱吉の身体を軽く突き離して、ふいっとそっぽを向いた。床に散らばった綱吉の制服を彼に向けて投げ渡す。
綱吉はぼうっとしていたものだから、それを受け取れなくて、ばさりと頭に被った。
ぼうっとしていなくても、ただでさえ綱吉はダメツナなのだから、どの道、取れなかっただろうけれど。
しわくちゃになったカッターシャツに、のろのろと袖を通す。雲雀はそれを横目に見ていた。
「いいけどね、別に…」
雲雀は自分の言葉を濁すように投げやりに言って、けれども負け惜しみに聞こえてしまったことが酷くムカついて舌打ちをした。
チッと雲雀の舌が弾かれる音を何と受け取ったのか、綱吉がびくりと怯えた表情をする。
別に綱吉が怯えるようなことは何もないのだが、雲雀はそれをわざわざ訂正してやる優しさなど持ち合わせてはいない。
綱吉の身体を拭った台布巾を拾って、部屋を出て行こうとすると、はっと息を飲む音がした。
扉に手を当てた瞬間、背中にトン…っという軽い衝撃と、腰をきゅっと力なく締め付けられる感覚。
「何」
べったりと背中に小動物が張り付いている。
雲雀は振り返らずに、一言訊ねた。眉間に小さな皺。優柔不断で意見のあまりはっきりしない彼のために暫く返答を待ってやったが、何も言わないし考えている気配もないので、雲雀は首だけ少し捻って見下ろしてやる。
きゅうきゅうと自分を抱きしめる小動物は、表情を隠すように雲雀の背に顔を埋めていた。
茶けた髪の隙間から貝殻みたいな形を垣間見せる皮膚が、真っ赤に染まっているのを見つけて、雲雀は瞬いた。
その耳に触れてみたら酷く熱い。そっと触れた手に力を込めて、ぎゅっと摘まんだ。
痛い、というようにぷるぷると首を振るのに、顔は上げないし離れようともしない。雲雀はため息をついた。
「……勘違いしないでくれる?」
腰を捩って、摘まんだ耳に唇を寄せる。
噛み付くみたいな声。
「僕は嫉妬なんかしてないし、君の笑顔が見たいと言ってるわけでもない」
僕はね、ただ。
トーンが落ちて、ゆるりと囁かれる。
綱吉はその声をじっと聞いていた。そのまま耳に歯を立てられても、噛み千切られても、この腕だけは離すまいと心に誓う。
ああ、こんな光景、何かで見たな。カブトムシが木に引っ付くのに似てるんだ。雲雀はそんな下らないことを考えて、ふっと鼻先で笑った。
「どうせ笑うんだったら、僕の前だけにして欲しいんだよ。泣くのも笑うのも怒るのも呼吸するのも、全部、全部――…」
綱吉はぎゅと雲雀の回した手で腹の前で服を握る。
雲雀の手が、ぐっ、と綱吉の後頭部を鷲づかみにして、持ち上げた。べりっと音でもしそうな勢いで引き剥がされた。加減のないそれのせいで、綱吉のかかとが持ち上がる。
真っ赤になりつつも痛みに歪めた綱吉の顔と、緩く笑みを浮かべた氷の剣みたいな鋭く冷たい雲雀の顔が向かい合う。
「僕の傍じゃなきゃ、君は、心臓を動かす権利すらない」
綱吉が大きく目を見開いた。泣きそうに眉を寄せて、ぎゅっと唇を引き結ぶ。
持ち上げたまま、ぱっと掌を開いて綱吉の頭を離すと、足に力を入れてなかった綱吉は、どたりと尻から床に落ちた。
ぺったりと床にしゃがみこんで、俯く。
「返事は?」
雲雀が幼子を叱る母親のように、ピシャリと言う。
綱吉は唇を戦慄かせた。
ゆっくりと顔を上げて、泣きすぎたせいで真っ赤になった瞳をふにゃりと緩めて、涙のせいでこれまた真っ赤になった頬と同じくらい耳まで染めて、口元に綺麗な弧を描く。
「は、い…っ」
こくこく、と何度も頷く。
水飲み鳥の人形にこんな動きをするものがいた。
雲雀は軽く目を見開いた。
首を上下に動かすたびに、ぽたぽたと涙が落ちている。泣いてるんだか笑ってるんだか分かりやしない。ぐしゃぐしゃだ。
「何が可笑しいの。何が悲しいの」
一瞬は面食らった雲雀が、すぐにため息をついて呆れた口調で問う。綱吉は今度は首を横に振った。
首を振って、顔を両手で覆う。
目元を手で隠して、隙間から見える唇が「うれしいんです」と声なき声で言った。
心臓を動かすための居場所が、呼吸するための居場所が、用意されている。それは決して優しくはないけれど。
まるで、一生を約束されたようで。幸せは約束されなかったけれど、それだけで幸せな命令だ。
「ヒバリさん、好きです」
綱吉が顔を上げて、はんなりと笑った。
雲雀はキスをしたい衝動に駆られて、けれども綱吉の笑顔にそれを行動に移すことを忘れていたら、綱吉に腕を引かれた。
目の前で綱吉の笑顔を見た。
勇気が欲しかったライオンは勇気を手にしていた。命のないカカシは命を持っていた。心のないブリキの木こりは心を持っていた。
魔法を持たなかった雲雀は、魔法を持っていた。
「綱吉」
名前を呼んでみた。
滅多に声に乗せない響きに、綱吉が瞳を輝かせて首を傾げた。
雲雀は「好きだ」といいかけてやめた。
代わりに、口元に柔らかな弧を描いて、瞳を伏せる。
「……君は、可哀想な子だね」
僕なんかに愛されて、さ。
愛を知らなかった一人の風紀委員は、愛を知っていた。
END
【YELLOW YELLOW HAPPY】
“あなた泣かせる力があれば 笑わす力もあると 信じているのよ”
珍しくラブラブかもしれません。
でも、私が書きたい「ラブラブ」は、こーいうんじゃないんだ…_│ ̄│○
こんな饒舌な恭弥、私知らない。(…)
誰か返品・交換してください。
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