注意

語り手はオリジナルキャラクターです。卍解したはいいけれど、一瞬で藍染に斬られてしまった日番谷。その後の出来事を水無月的に妄想補填してみました。

 

 

 

 

 

 

 

兵どもが夢の跡BAD END ver.)

 

 

 

 

 

 今、尸魂界[ここ]で何が起こっているんだ!?

 

 

 俺は自分の体が押し潰れてしまいそうなくらい、嫌な予感に苛まれていた。あちこちで巨大な霊圧が衝突している。その中には重ジイや春水おじさん、それから十四郎おじさんの霊圧もあって・・・。周囲から押し寄せてくる波動で三半規管がおかしくなりそうだ。

「な、何だよこれ・・・。」

一体どうなってるんだよ!早急すぎる朽木ルキアの処刑、旅禍の侵入、隊長・副隊長格の連中が倒されて、何もかも分からないことだらけだ。

「畜生・・・。」

重ジイはつかまらないし、姉貴は内職の方で現世に出ちまってる。誰かに相談したくてもできなくて、それでも現在の状況を捕握しようと瀞霊廷内を駆け回っていた。

「!?」

 思ったより近くで、巨大な霊圧が開放された。この気配は・・・氷輪丸か!しかも卍解!?日番谷隊長の身に何かあったのか!!?

「一体・・・どういうことだ!」

俺は先程霊圧を感知した場所に急いだ。何が起こっているのかはわからない。だが、ものすごく嫌な予感がしたんだ。

(・・・月読を解放した方がいいかもしれないな。)

漠然とそう思った。ああ、こんな時にあいつが側にいればいいのに・・・。

 

 

 

 現場に辿り着いた俺が見たものは、血まみれになった日番谷隊長と、三番隊隊長の市丸ギン、そして死んだはずの五番隊隊長藍染惣右介だった。

「な・・・んで・・・・・・。」

(ヒツ!?氷の字!?)

俺の声は馬鹿みたいにかすれていて、酷く混乱していたと思う。だから見逃した。・・・市丸が俺に近づいてきたことに。

「射殺せ、神鎗。」

気がついたら、刺し貫かれていた。

「え・・・?」

刀を抜く暇すらなかった。口内に広がる鉄錆に似た味。俺はコフリと血を吐いた。頭痛がする。視界が霞む。そして見てしまった。市丸と藍染の顔。笑っているのに、瞳の色は酷く残酷で、薄気味が悪い。生理的に受け付けられないと感じられた。よく、今までこの本質を隠してこれたものだと、場違いにも俺は感心してしまった。

(そうか、そういうことか・・・。)

市丸の斬魄刀から情報が伝わってくる。他人の刀と会話し、その刀から持ち主の記憶を読み取る能力がこんな形で生かされるとは夢にも思わなかった。俺は今、何が起こっているのかを理解した。

 斬魄刀が体から引き抜かれる。俺の体が崩れ落ちていくのがわかった。こりゃ、普通なら助からないな。何となくそんなことを思った。地面に倒れる直前、一人の人物が脳裏をよぎった。それは俺の双子の片割れの顔だった。

――――――――――初日。お前は今、どうしてる・・・?

 

 

 

 

 

 

 

「マツ・・・?」

 声が聞こえた気がして、私は振り返った。でも、後ろには誰もいない。そもそもあの子がここにいるはずないのに。あの声は、私の双子の弟日末のもの。まさか、何かあった・・・?私と日末はいつもどこかで繋がっていた。何故なら私達は全てを分かち合って生まれてきたからだ。魂も、能力も、そして斬魄刀でさえも。お互いが誰よりも近しい存在のはずだった。

(何だか・・・胸の中心が痛い。)

酷く熱くて苦しい気がする。どうしてだろう。分からない。分からないけれど・・・急いで戻らなければいけない。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 藍染と市丸の霊圧が遠ざかり、俺はようやく目を開けた。止めは刺されなかった。下位席官の小物と思われていたのが幸いしたらしい。くそったれ。

「く・・・。」

俺は虫の息と言ってもよかったが、それでも何とか身を起こした。ヒツを助けてやらないと。四番隊の連中が使う、あの方法なら何とかなるかもしれない。そして、刀を杖代わりに立ち上がった俺は、ようやく気づいたんだ。ヒツの向こうでやはり倒れている雛森さんの存在に。

「ひ、雛森・・・さん?」

彼女もまた血まみれで赤く染まっていた。黒の死神装束と彼女の髪が血液の赤とのコントラストで妙に鮮やかだった。重い体を引きずって倒れた彼らに出来るだけ近づく。

「ヒツ・・・雛森さん・・・。」

 何でこんなことになってしまったんだろう。何で俺は気づかなかったんだろう。こういったことは、本来俺が処理しなければいけないはずだったのに。

「・・・ごめんな、ヒツ。」

小さく呟いた。血まみれになった体。赤く染まった白銀の髪。瞳は硬く閉じたままで、微動だにしない。突如フラッシュバックする過去の記憶。

 

 

「日番谷君は少し無理が過ぎるよ。いつも真っ先に突っ込んでいってさ。敵が複数だったらどうするのさ。」

 統学院時代、クラスメイトの一人に言われた言葉だった。俺とヒツは大抵一緒に戦闘訓練を受けていたけれど、その日は三人一組で訓練をして、いつもとは違う奴と組むことになったんだ。ヒツが特攻隊長なのはよく一緒に訓練している連中は知っていたけれど、そいつにとっては初めての経験だったらしく、そう忠告してきた。まあ、言っていることは正論だったがな。

「うるせえな、それくらい返り討ちにしてやるさ。」

「心配しなくてもヒツは強いからな。それに、ヒツの背中は俺が護ってやってるんだから、大丈夫に決まってるだろ。」

「どうだかな。」

「そりゃ、どういう意味だ、ヒ〜ツ〜。」

「冗談だ。頼りにしてるさ。」

「そりゃ、どうも。」

「俺の背中はお前が護ってくれるんだろ?」

「ああ、俺が護ってやるよ。」

 

 

「ごめんな・・・ヒツ。」

 約束守れなくて。一緒に戦ってやれなくて。・・・でも、俺がちゃんと助けてやるから。

「・・・末日より、爆ぜよ、月読。」

斬魄刀を解放する。

「癒せ、十六夜。」

反魂をも可能にする、霊魂の再生と修復を司る能力。これだけは母ではなく父から受け継いだという、姉にも備わっていない力だった。

「くぅ・・・。」

体に信じられないくらい負担が掛かっているのは分かっていた。でも、まずはヒツと雛森さんを助けなければ。その時、月読の声がした。彼は警告を発していた。

「いいんだ、俺はもう充分生きたから・・・。」

遠ざかりそうな意識を必死で引き止めて、俺は答えた。そう、俺は充分すぎるくらいずっと永く生き続けてきたから。それに、そろそろ俺たちの力は一つに還るべきだと思う。結局俺には俺たちが何の為に生まれてきたかはわからなかったけれど。ただ、そうすれば初日を、そして俺たちの大切なものを護るのに有利になることは確かだから。

 バラバラになっていきそうな意識を懸命に掻き集めて、俺は言霊を紡いでいく。視界が光で白く覆いつくされる。腕から力が抜けていき、体が傾いでいくのが分かった。愚かなくらい優しい人たちには幸せになって欲しいから。ヒツたちは・・・生きてくれ。

 

 

 

赤と黒、そして鉄の臭い。

光の果ての静寂。

動かないままの、三つの体・・・。

 

 

 

 夏草や 兵どもが 夢の跡

――――――――――松尾芭蕉『奥の細道』より引用。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<後書き>

 え〜と、2005/03/14のジャンプを見て、思いついた作品です。でも、形にするまでに自分の中に溜まったフラストレーションを上手く消化できなくて、書いたのはその翌日です。

 キャラクターは水無月がノートに書いてあったオリキャラ混じりの小説からとってます。実はタイトルもそうです。内容は「日番谷の過去を捏造してみました」話(笑) 日番谷の統学院時代に友達がいたら・・・みたいな内容で。でもシリアス(爆) 番外編みたいな感じでギャグっぽい話も考えてあるんですが、どうしましょうねえ。結構設定細かく練ってあるので、元ネタもできればアップしたいなあと思っています。実は例の元ネタを作ったばかりの頃、水無月に日番谷呼称「ヒツ」が移ってしまいまして、しばらく元に戻らなかったです(苦笑)

 それにしても、日番谷が!というか雛森が!!久保先生〜!!!とか叫びたくなります、ハイ。頑張って生き延びてくださいよ〜。本当、切実に・・・。

 

 

2005/03/15 完成