初めに(筆者からの注意)

*これはソウル・ソサエティ編が完結する前に大部分を作った話なので、原作とは違う展開になっております。

*そして多分イチルキスト(?)なら一度は思った、『ルキアを現世に連れ帰ってしまえ、というかむしろそうしろ!』という発想の元描かれています。

*一護が詩人っぽくて気持ち悪いかもしれませんが、我慢してください(笑)

 

 

 

 

 

 

 

黄昏の空

 

 

 

 

 

 夕焼けを見ると思い出すことがある。俺がまだ若かった頃。どうしようもなくガキだった頃の話だ。俺の横を歩く背の小さな女。夕方に、川原の土手を歩いて帰ったあの日。あいつは笑って言ったんだ。

「貴様の髪はあの夕焼けの空と同じ色だな。」

紫がかった黒い髪と瞳、それが映えた白い肌もその時はオレンジ色に染まっていて。

「すごく綺麗だ。」

彼女はとても綺麗に微笑んだ。俺はあいつの方が綺麗だと思った。でもそんな事は言えるはずも無くて。俺は目をそらして黙り込むしかなかった。

 雨が降ると思い出すことがある。お袋が死んだ時。そしてその真相を知った時。自分が悔しくて情けなくて憎くて・・・そんな俺を支えてくれたのがあいつだった。そして俺とあいつの運命を変えることになったあの雨の日。敗れて地に伏すことしかできなかった俺を庇って、あいつが言いたくも無かったであろう酷い言葉を、他でもない俺自身が言わせてしまった。あいつが俺の元から去った夏の日、雨が涙を隠してくれた。だから俺はあいつを追いかけることを決めた。あいつの仲間と世界に喧嘩を売りにいったんだ。命懸け・・・いや、魂を懸けて。

 満月を見ると思い出すことがある。俺が初めてあいつに触れたのは月の綺麗な夜だった。強く抱けば壊れてしまいそうな華奢な身体と透き通るような白い肌。艶やかに揺れる髪と瞳の色。紅を引いていないのに鮮やかなその唇。誘われるように堕ちて、俺はただ夢中になっていた。縋り付く様に、ただあいつを求めた。あいつが俺の名を呼び、俺があいつの名を呼ぶ。それだけのことなのに、堪らなく愛しくて。俺はあいつの中に溺れていった。

 

 

 

 

 

 一度目の出会いはある晩突然に。一度目の別れはある雨の日、あいつにとっては多分必然に、俺にとっては突然に。二度目の出会いは俺があいつを追いかけて。結構紆余曲折があったけれど、結果としては俺があいつを掻っ攫う形になってしまった。あいつの幼馴染で一応俺にとっても戦友なあの男には悪いことをしたと思う。まあ、お互い生きて再会できたのだから・・・いや、あの男は死んでるんだが・・・終わり良ければ全て良しだ。この際かつての友人の考え方に順ずることにする。

 あいつを連れて現世に戻ってきた俺達はこれまでと同じように生活するわけにはいかなかった。一応、夜一さんやあいつの上司、それから向こうで知り合った連中の協力の下、お尋ね者として追われるような事態だけは回避された。あいつは下駄帽子の所に厄介になり、それ以外は学校に行って、基本的には前と同じ生活の繰り返し。次第にあいつもこっちの生活に馴染んでいって、その内本性が一部の奴らにバレたりもしたけれど、それなりに楽しく過ごせるようになった。一番変わったのは、俺とあいつの関係を執拗に隠さなくても良くなったことだ。世間一般に準じているとは言えなかったが、それでも恋人同士らしく振舞えるようになった。俺はあいつが好きで、あいつも俺のことを好いてくれていたと思う。

 

 

 

 ああ、今なら確信が持てる。あの頃の俺は幸せだった。例え、馬鹿馬鹿しすぎるくらい騒々しくても。家族が居て、友人がいて、そしてあいつが傍に居た。今でも色鮮やかに思い出せる記憶達。あいつの姿。あいつの声。あいつの顔。あいつの瞳。抱きしめた小さすぎる身体。掴んで力を込めれば折れそうな程に細い腕。初めて触れた肌の温もり。自分の愚かしさが悔やまれる位、愛しい日々。それでもそんな日々は永遠には続かなくて、いつか別れる日がやってくる。あいつはあいつの本来あるべき世界に戻り、俺は俺の世界に取り残されたまま。

 

 

 

 本音を言えば離れたくなかった。ずっと側に居て欲しかった。でも、それはあいつの為にならないと知ってしまったから。いつか巡り逢えるその日を信じて、あの日、あの時、俺達は笑って別れた。その日はかつて共に歩いた土手の道のように、空は黄昏、世界が茜色に染まっていた。そう、まるで今のように。

 思えば、予感があったのかもしれない。長年住み慣れた家の縁側で、俺はきっと待っていたんだ。空は夕暮れ。黄昏の世界。視界を掠めたのは黒揚羽[クロアゲハ]、微かに耳に届く鈴の音の響。静かに静かに目の前に現れた、黒い衣装の少女。

「一護、貴様を迎えに来た。」

 オレンジ色の光の中であいつが綺麗に綺麗に微笑む。ああ、本当はずっと会いたかったんだ。あのまま一緒に逝きたかったんだ。ずっとずっとお前のことが忘れられなくて。でも、やっと会えたんだな。ようやく言える。お前を抱きしめることができるんだ。

「好きだぜ、ルキア。」

「・・・知っておるわ、莫迦者め。」

久々に触れた少し低い体温が堪らなく愛しかった。

 

 

 

 

 

<後書き>

 はい、一護さんご臨終〜。これからはルキアさんとソウル・ソサエティでお幸せに。えーと、詳しく説明しますと、本誌でやってるルキア処刑に関連する事件が解決しまして、とりあえず現世に帰還します。その後十年くらいルキアはこっちにいて、一護と組んで虚退治の日々です。ルキアの力は戻っているのですが、例の事件のせいで一護たちは眼をつけられてしまうんですよ。死んだら死神就職確定ですよ?ルキアは一応お目付け役みたいな感じで現世で暮らします。でも一護たちは一度ソウル・ソサエティに渡ったせいか、歳をとっても霊体の外観は若い・・・つまり高校生のままです。多少は老けるみたいですけど、あまり大差なし。ルキアと一護は現世に戻ってからちゃんとお付き合いし出すのですが、ルキアはやはり霊体ですので、結局ソウル・ソサエティに戻ってしまいます。一護は彼女に操を貫いて・・・というかルキアとは関係があったから童貞じゃないですけど・・・結婚はしませんでした。病院は一応継いだけどね。一護の跡は彼の甥が継いでおります。ルキアがいなくなり死神業もしなくなった一護はやがて老いていき、最期のときを迎えます。そのとき、魂葬にルキアがやってくるんですよ。肉体から離れた一護の魂が死神姿のルキアを抱きしめる。そこでおしまいです。

 

 

2005/07/15 UP