(もし、今夜会えないままルキアの奴が結婚したら・・・二度と会うことなかったかもしれないんだよ
な。)
そう思うとゾッとした。何故なら一護はもう一度ルキアと会いたいと思っていたからである。元服し
て参内するようになって、もしかしたら先に成人したルキアに会えるかもしれないという期待もあった
のだ。まあ、実際はルキアは女だったので一護のように出仕することはなかったのだが。
(通りで会えないわけだよ・・・。)
こっそり捜していた自分のこれまでの努力を思い出して、一護は脱力感に襲われた。
「一護は今日の宴に来ていたのだろう?言っておくが、御簾越しに会っていないことは兄様に
言うなよ。」
「分かってるっての。大体そんなこと言ったら俺がお前の兄貴に睨まれるだろ。」
朽木家の当主である白哉は妹を溺愛していることで有名だ。迂闊に近づこうものなら、恐ろしいことに
なるだろう。
「あ、そういえば、女房は他にいないのか?普通、控えてるもんだろ。」
「ああ、皆は宴の支度に忙しくてな。せっかくなので、人払いをさせてもらった。一人で月を眺めたい
気分でもあったしな。」
「人払いって・・・お前、もし会ったのが俺じゃなかったらどうする気なんだよ!?」
世の中には気に入った女性と無理やり関係を結んでまで手に入れようとする男がいるのだ。一護はそん
なことをする気は欠片も持ち合わせていないし、ルキアの場合家柄が家柄だから、無体なことはしにく
いかもしれないが、いつどうなるか分かったものではない。
「何だ?心配しておるのか。一護は相変わらず優しいな。」
「・・・て、頭を撫でるな!俺はもう子供じゃないんだぞ!?」
「ははは、照れるな照れるな。それにこの私がただの男の良い様にされるとでも思ったか?この装束で
は動きにくいが単だけになれば逃げるはたやすい。」
「そ、それは・・・。」
一護の記憶が確かなら、殿上童をしていた頃、ルキアは酷く身軽だった。それこそ捕まえようとする大
人の脇を擦り抜けて、冬獅郎と一護とルキアの三人は駆け回ったものである。時には見張りの目を出し
抜いて清涼殿に侵入したりもした。見つかった後、しっかり怒られたが。
「まあ、いいではないか。結局今ここにいるのは一護なのだから。」
「お、おう・・・。」
いろいろと納得できない部分もあったが、ルキアの笑顔を見ていると細かいことを気にしても仕方が
ないと思えてくる。
「全く・・・驚いたんだからな。」
「そうか。」
「ずっと男だと思ってたんだぞ。」
「そうか。」
「捜してやったのにちっとも見つからねえし・・・。」
「悪かったな。」
「でも会えて良かったよ。」
「そうか・・・。」
二人は背中合わせになって静かに会話を交わす。
「一護はしばらく見ぬ内に大きくなったな。」
「ルキアは小さいままだな。」
「うるさい。余計なお世話だ。・・・冬獅郎殿はどうだ?」
「あいつは・・・少しは伸びてると思う。」
「そうか・・・。」
静かに静かに言葉を交わす。
「いつか・・・会えるといいな。」
「会えるさ、きっと・・・。」
ルキアの呟きに決して根拠があるわけではなかったけれど、一護は肯定の意を示した。すると少しだけ
ルキアが一護の方に体重を預けてくる。
「ルキア・・・?」
「ありがとう、一護。」
その一言に一護は言葉を詰まらせる。その言葉に込められた感謝の中の寂しさ、諦め、そういったもの
を感じ取ってしまったのだ。こういった些細な部分で相手の心情を読み取ってしまうのが幼馴染の良い
ところでもあり悪いところでもある。しばしの沈黙を挟み、それでも一護は言葉を口にした。自分は彼
女の味方なのだと知らせたくて。
「・・・何かあったら連絡しろよ。俺にできることなら協力するし。」
「・・・そうだな。今度、文でも送る。」
背中越しに温もりを分け合って、一護とルキアは月を見つめていた。時間が許す限り、ずっと。語らず
とも心が伝わっている気がして――――――――――。
<後書き>
実はルキアさんは武芸が達者という設定だったりします。乱闘させたら普通に強いと思いますよ。現
在は姫君生活で多少体が鈍っているかもしれませんがね。
イチルキは多くを語らずとも心が通じ合っているのが魅力の一つなんで、ちょっとそんな感じの演出
もしてみました♪