ブリーチ平安パラレル第五話    
白銀の皇子、琥珀の君
〜宴の前に〜



 都の通りを牛車は静かに進んでいる。主の趣向なのか、華美ではないがよく見れば立派な造りである それは、ある屋敷を目指し進んでいた。その中にいるのは二人の少年。正確には内一人はすでに成人の 儀を済ませているので、大人と子供という区別になるのかもしれない。少年の一人は橙に近い琥珀色の 髪を持つ一護。宮中では『琥珀の君』などと人々から称される人物である。そしてもう一人は後宮の女 房を中心に『白銀の皇子』と噂される冬獅郎。彼らは幼馴染で、現在冬獅郎は宮中生活の息抜きにお忍 びで一護の家に滞在していた。
「なあ、一護。」
「何だ。」
牛車に揺られながら、冬獅郎は隣に座っている一護に話しかける。手持ち無沙汰に扇を開いたり閉じた りしていた一護はあまり気の入っていない声で彼に返事をした。
「今夜は宴なんだよな。」
「ああ。お前の分の参加は手配してあるから遠慮せず参加しろよ。」
「いや、そうじゃなくて。」
「じゃあ何だよ。」
「何でこんな早く出発したんだ?」
都のどこにある屋敷での宴はか知らないが、まだ外は明るい。いくら牛車のスピードが遅いとはいえ、 これでは宴が始まる頃合より早く着いてしまうのではないだろうか。そう思って冬獅郎が尋ねると一護 がニヤリとした笑みを浮かべる。
「何だよ、冬獅郎。お前、そんなこと心配していたのか?」
「別に心配していたわけじゃねえよ。」
「大丈夫だって。一応先方からの要請でな、宴より前に出向いているだけだし。」
「は?何で・・・。もしかして、今日はお前の知り合いの家での宴か?」
親戚や親しい友人の家での宴なら、始まる前に顔を出して向こうの家の者と話をするのはありえないわ けではない。
「・・・まあ、そんなところだな。」
「おい、今の間はなんだ。」
 実は冬獅郎を驚かそうと一部情報を伏せている一護。しかし腹に一物あるのが隠し切れなかったの か、些細な不自然さを冬獅郎が鋭く指摘する。元々冬獅郎自身勘は鋭い方だし、一護とは伊達に幼馴染 をやっていない。
「まあまあ、気にするなって。」
「い〜ち〜ご〜・・・!」
何だかゴゴゴゴゴ・・・という感じの効果音が聞こえてきそうな形相で冬獅郎が一護に迫る。 それに内心焦りつつも笑って誤魔化す一護。本人達にとっては違っても傍目に見れば仲の良くじゃれつ いている(?)ように見える二人だった。

 それから、何とか冬獅郎の追求をかわしていた一護は、牛車の振動が止まったことに気づく。それは 冬獅郎も同様で、一先ず彼らはお互い居住まいを正した。
「一護様、到着いたしました。」
外を歩いていた従者の一人が中にいる一護達に報告する。
「おう。それじゃ、行くぜ。」
「おう。」
そして一護と冬獅郎は車を降りた。そして目の前にそびえる立派な壁と門。黒崎家とは趣向が違うが、 見ただけでそれなりの家柄の屋敷と分かる。
「へえ、でかい屋敷だな。」
「お前がそれを言うか・・・。」
宮中育ちの冬獅郎が言うとある意味皮肉である。一護は何とも言えない顔つきになりつつも、門の前に いる屋敷の者の一人に話しかける。そして何やら会話をした後、一護と話していた門番が門の中へと入 っていった。

 しばらくして、門番の男が別の人間を伴って戻ってくる。その人物は目に鮮やかな赤い髪の持ち主だ った。額に巻かれた手ぬぐいで隠しきれない刺青が眉毛の辺りから続いている。ついでに言えば目つき も悪い。歩き方が粗野で柄も悪そうだ。
「よぉ、性懲りもなくやってきやがったな、一護。」
「げ!?恋次かよ・・・。花太郎はどうした?」
一護は出てきた男に一瞬嫌そうな顔をしたものの、今度は彼に花太郎という者について尋ねる。恐らく それが普段一護の応対をしている相手なのだろう。
「あいつは宴の方の準備で忙しいんだよ。で、そいつは?」
恋次と呼ばれた男は顎をしゃくって冬獅郎を示す。相手は皇子であることを知らないから仕方がないか もしれないが、そうでなくとも恋次の失礼な態度に冬獅郎は眉間に皺寄せた。
「ああ。こいつは俺の親戚の奴で日番谷冬獅郎。あいつが連れて来いって前から言ってたから 今日連れてきた。」
そう言って一護が冬獅郎のことを紹介する。『日番谷』というのは、こうして宮中の外へ出かけた際冬 獅郎が使用している偽名だった。
「全く・・・こいつも宴に参加させるのかよ。あいつ、何考えてるんだ?」
「俺が知るかよ。それで、冬獅郎。コレは阿散井恋次。これから会いに行く奴の幼馴染だとさ。見た目 も態度もこんなんだが、一応悪い奴じゃねえから。」
「誰がコレだ、こら!」
「黙れ面白眉毛。俺らは客だぞ、さっさと案内しろよ。」
「チッ!仕方ねえな。てめえら、付いて来い。」
一護の態度が気に入らないという風体をありありと出しながら、それでも恋次が彼らを案内するために 歩き出す。そして一護達も彼の後に続いた。

「ここから先はそこにいる女房が案内してくれる。」
 屋敷の廊下を途中まで進むと、恋次が足を止めて、少し先に控えている女房を示した。その表情は相 変わらず無愛想なもので、心なしか門で会った時より眉間の皺が増えている気がする。一護も元々愛想 が悪いし、さらに冬獅郎は恋次がいかにも『やれやれ、物を知らない子供が来やがったぜ。』というよ うな目つきで自分を見たのが気に入らなかった。そんな訳で かなり人相の悪い三人組となってしまっている。何だか控えている女房 の肩が震えていないだろうか。確かに気の弱い相手が見たらかなり怖い三人かもしれないが。
「あん?恋次は行かねえのかよ。いつもなら来んなっつっても付いてくるのに・・・。」
「俺だっていろいろと忙しいんだよ。それにあいつの部屋に近づかないように言われているから な・・・。」
「は?何でまた・・・。」
怪訝そうな顔つきになる一護に恋次が声を潜めて告げる。
「あいつが外に出たのを手引きしたのがばれたんだよ。藍染家の桃姫が口裏を合わせてくれたんで助か ったがな。」
「ああ、そういうことか・・・。白哉の奴、過保護すぎだろ。」
「てめえだって、あいつに迂闊に近づいたら俺の二の舞になるからな。」
「俺はそんなヘマはしねーよ。」
 女房に聞かれないようにするためなのか、ヒソヒソと囁く声は側にいる冬獅郎ですら、全部は聞こえ ない。もちろん興味を持って聞き耳を立てていたわけではないので、ほとんど耳に入っていないと言っ た方がいいだろう。冬獅郎は退屈なので庭の様子を眺めていた。空は雲が少なく、このままいけば宴の 時刻には綺麗な月が見えることだろう。
「それじゃあ、白哉の怒りが解けるまであいつは軟禁状態か?」
「いや、あいつは今日で解禁。俺は後二日。全くやってられねえぜ。こういう時に限っててめえみたい な奴が来やがる。」
「一応俺は黒崎家の人間なんでな。でも今回手を回したのはあいつだぜ?」
「自慢かよ。」
「さあ、どうだろうな。」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる恋次に一護は肩を竦める。
「おい、冬獅郎!行くぞ。」
「おう。ようやく話し終わったのか。」
「待たせて悪かったな。」
そして今度は一護と冬獅郎が連れ立って女房の元へ向かう。彼女は一護の声をかけられると、二人に礼 をとってから慇懃[いんぎん]な態度で彼らを廊 下の先へと導いた。恋次は一護達が角を曲がって見えなくなるまでその後姿を見送り、その後踵を返し て本来自分が行うべき役割を果たすためにその場を去るのだった。





<後書き>
 元服前の少年は宴に参加できないような気がしますが、保護者つきなら顔見せ程度にちょこっと参加 することは可能という設定にしておきます。あくまでモドキな世界観ですからね(爆)
 いよいよ恋次が初登場。これからもっとキャラは増えていく・・・はずです。早く日雛に持っていき たいな〜と思います。道のりはかなり遠そうですが。


2007/07/15 UP