ナンチャッテあかずきんちゃん2
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昔々、ある所にルキアという名前の女の子がいました。ルキアちゃんはみんなから『あかずきんちゃん』と呼ばれているとても可愛い娘さんです。 ある日、ルキアちゃんはお母さんに頼まれて、森の奥に住むおばあさんの家へお遣いに行くことになりました。お母さんから渡されたバスケットには病気のおばあさんへのお見舞いの品が入っています。 森にはオオカミがいるという噂もありますが、何はともあれミッションスタートです。
そんなこんなで森の中をルキアちゃんはスタスタ進んでいきます。おばあさんの家は森の道沿いに進んでいけば辿り着けますから、迷子になる心配もありません。そんなルキアちゃんを木の影からこっそり見つめる者がいました。 サラサラの毛並。立派な尻尾。それは眉毛の部分の模様が何とも面白い赤毛の犬・・・おっと、失礼、オオカミでした。 面白眉毛のオオカミは、美人で小さくて格好良いあかずきんちゃんことルキアちゃんから目が離せません。一目惚れでしょうか。ドキドキと胸が高鳴り、勢い余って肋骨を突き破りそうなくらいです・・・物理的に無理ですけど。
「ルキア・・・じゃねえ!あ、あかずきんちゃん・・・な、何て美味しそうな女の子だ。まるでたい焼きみてーじゃねーか。」
初っ端からセリフが噛み噛みで、実にこの先が思いやられます。いろいろと言っていることはおかしいですが、オオカミにはルキアちゃんが甘そうに見えたようです。 とにかくオオカミは赤頭巾ルキアちゃんを獲物として狙いを定めました。 道を行くルキアちゃんを木々の間に身を隠しながら追っていきます。まるでストーカーです。不審者です。この顔にピンときたら110番な勢いです。
「でもどうやって声をかけたらいいんだ・・・?」
しかもこのオオカミ、どうやら相当のヘタレなようです。 ルキアちゃんを見つけた時にバッサバッサと振られていた尻尾がシュンとしています。別に可愛くも何ともありませんがね。 その後もしばらくルキアちゃんをストーキングしていたオオカミでしたが、ようやく意を決して彼女に話しかけることにしました。
「よ、よお・・・あかずきんちゃん。一体どこへ行くんだ?」 「貴様に答える義務はない・・・と言いたいところだが、特別に教えてやろう。おばあさんの家へお見舞いに行くのだ。」
突然近くの茂みから姿を現した赤毛にルキアちゃんは冷静な対応をしました。本当は名も知らぬ不審者として無視しようと思ったのですが、話の途中でピンとしていた尻尾がヘタってしまったので気の毒に感じたのです。 完全に同情されていました。 ルキアちゃんはウサギを筆頭に動物は結構好きな心優しい少女なのです。ペットのライオンっぽい生命体コンに対しては時々DVですが、それも躾の一種です。
「ところで、貴様は何者だ?何故私のことを知っている。」 「俺はオオカミの恋次だ。あかずきんちゃんのことは村でも有名だし、森でも結構評判なんだぞ。」 「そうか。それは知らなかったな。というか、恋次。貴様はオオカミだったのだな。てっきり私は犬かと思っていたぞ。」
何ということでしょう。ルキアちゃんは相手を凶悪なオオカミではなく、大柄な犬だと思っていたのです。まあ、ルキアちゃんに掛かればどちらでも一緒でしょう。相手は所詮恋次ですから。楽勝で瞬殺瞬殺★
「それで、オオカミ。私に何の用だ。」 「い、いや・・・その・・・今から俺とたい焼き食べに行かないか?」
ルキアちゃんの犬発言にガビーンとしていたオオカミですが、向こうから話しかけられた途端我に返りました。実に現金な獣です。 しかもオオカミは余程緊張していたのか、随分と的外れなことを言いました。ナンパをするにしてももっと言い様があるでしょうに・・・。
「貴様、私の話を聞いていたか?私はこれからおばあさんの家に行かなければならないのだ。貴様に付き合っている時間はない。」
当然といえば当然ですが、ルキアちゃんはオオカミの誘いを容赦なく切り捨てました。あっさり振られたオオカミはガッカリとしています。そのまま別れの挨拶をしてルキアちゃんが立ち去りそうになったので、慌ててオオカミは呼び止めました。
「何だ?私は急いでいるのだが・・・。」 「あ〜、その・・・何だ!テメエはこれから婆さんの見舞いにいくんだろう?だったら花束も一つでも持って行った方がいいんじゃねーか?」 「ふむ・・・言われてみればそうかもしれんな。このバスケットの中身だけでは見舞いの品としては華やかさに欠けるかもしれん。やはり特大チャッピーのぬいぐるみを事前に購入しておくべきだったか・・・いや、極彩色わかめ大使も捨てがたい・・・。」
オオカミの言葉に何やら悩み始めるルキアちゃん。華やかさと派手さは似ているようで違います。冒険心は程々にしておきましょう。 お見舞いの品はやはり王道やスタンダードで攻めた方が建設的です。また、定番の花も種類によっては問題があるので気を付けましょう。 え?じゃあどんな花が相応しいかって?? そんなものは自分で調べてください。それが大人のマナーです。 もっともルキアちゃんを溺愛するおばあさんのことですから、多少変な物をプレゼントした所で喜んで受け取ってくれるでしょうけれど。
「な、なあ・・・あかずきんちゃん。森の奥に綺麗な花がたくさん咲いている所があるんだ。よかったら俺と一緒に・・・。」
悩んでいるルキアちゃんにオオカミが提案します。全くこのオオカミ、森の奥に可愛い女の子を連れ込もうとするなんて、どんな邪なことを考えているのでしょう。ルキアちゃん大変、逃ゲテ逃ゲテー。
「ふわぁ!?大変大変!遅刻しちゃうー!!」
そんな時でした。オオカミの誘い文句を遮るようにして、ピンクのウサギが姿を現します。ピョンピョントタトタと走っている様子が何とも可愛らしいウサギさんです。桃色ウサギは梅の花がデザインされた懐中時計を見て、とても焦っているようでした。 普通ウサギはオオカミに自ら近づいたりしないはずですが、もしかしたら慌てすぎて気づいていないのかもしれません。オオカミとルキアちゃんの間を大急ぎで駆け抜けていきました。
「あ、あれはまさかチャッピー!?」
ルキアちゃんが目を輝かせています。
「シロちゃんにまた怒られちゃうよおぉぉぉ・・・!」
ウサギはそんな叫びをドップラー効果で残しつつ、ルキアちゃんの視界からフェードアウト。残念ながらあのウサギは関節技が得意な某ウサギさんではなかったようです。 ただしルキアちゃんにとっては『ウサギ≒チャッピー』の法則が働いている可能性もありますけれど。
「シロちゃん・・・?名前からすると白いチャッピー??それでは向こうにはチャッピーが二匹!?」
腕がピョンと鳴らなくても、ルキアちゃんはウサギが大好きです。目の前にすれば当然テンションも上がるというものです。 ピンクと白のウサギが戯れている光景を想像し、ルキアちゃんの中のトキメキスイッチが入りました。用事がなければすぐに駆け出して間近で見たい所です。 もっともルキアちゃんの頭の中にいるのはデフォルメされたリアル兎型の二匹なのですが。ぜひスケッチブックに描かれた画伯のイラストを想像してみてください。
「お、おい・・・あかずきんちゃん?」
そのおかげかルキアちゃんはすっかりオオカミの存在を忘れてしまっていました。一所懸命オオカミはアピールしますが、ちっとも気づいてくれません。 間違いなく『チャッピー>>越えられない壁>>オオカミ』という式が成立しています。 きっと白玉とキュウリでもこの場に持ってこなければルキアちゃんは相手をしてくれないことでしょう。 けれどもオオカミはひらめきました。
「あかずきんちゃん、森の奥の花畑に行けばウサギがたくさんいるぜ。」 「何んだと!チャッピーがか!?」
オオカミの言葉にルキアちゃんが食いつくように迫ってきます。大きくて紫がかった瞳や艶やかな黒髪が綺麗で、オオカミの心臓はドッキドキのバクバクです。
「お、おう。だから俺と一緒に・・・。」 「おばあさんへの花も用意できて一石二鳥だな。さっそく行かねば!」
思い立ったら即行動。ルキアちゃんは猛ダッシュしました。 その速いこと速いこと、きっと瞬歩でも使っているのでしょう。 因みにオオカミはと言えば、思わずルキアちゃんを抱きしめようとしていたところだったようで、伸ばしかけた手が淋しいことになっていました。というか非常に情けない状態ですね。ヘタレオオカミが調子に乗って図々しいことをするなという神の啓示でしょう。どこの神かは知りませんが。
「あ、あかずきんちゃん・・・。」
そんな訳で、出遅れたオオカミはルキアちゃんをすっかり見失ってしまいました。予想外の展開にオオカミはしばし唖然としてしまっています。 狙った獲物にこうもあっさり逃げられるとは野生動物の肉食獣としては由々しき事態ですね。まあ、この森は普通の自然とちょっと違うルールを取り入れた食物連鎖が成立しているのですが。 身も蓋もないことを言えば、そもそも人間とオオカミの会話が成立している時点でおかしいですからね。捏造上等ファンタジー設定万歳。 とにもかくにもルキアちゃんはオオカミと別れて、一人森の奥の花畑へと向かってしまいました。けれども“目指せヘタレ返上”フェアでも開催しているのかオオカミは諦めません。
「あいつが最終的に向かう先は分かってるんだ。森の奥で花を摘んでいる間に俺はおばあさんの家に先回りしておけばいい。そうだ!ついでにおばあさんの方も食っちまおう。それであかずきんちゃんを待ち伏せて・・・。」
オオカミはルキアちゃんが寄り道をしている間におばあさんの家へ行き、そこで待ち伏せするという悪巧みをしていました。ルキアちゃん&おばあさん、危うし!? ――――――――――というやつですね。 こうして、ルキアちゃんを言葉巧みに森の奥へ誘ったオオカミは、その隙におばあさんの家へ向かったのでした。
続きますわ〜♪(ミス猫かぶり風に)
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2012/01/28 UP