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因みにその頃の村役場――――――――――――――――。
「あ〜、死ぬかと思ったわ・・・。」
キング・ジョーカーはぐったりとした様子で言った。どうやら顎は元に戻ったらしい。
「総帥、お茶が入りました。」
「うむ。」
「ふ〜、生き返りますな〜。」
「そうですねぇ、村長。」
「お茶菓子はまだあったかな。」
「お饅頭の残りなら有りますよ。あとは非常食の乾パン位ですね。」
「いや、乾パンは経理が怒るから止めた方が良いと・・・。」
「すみません、おかわりいただけますか。」
「どうぞどうぞ〜。」
・・・・・・何か和んでいた・・・。
そしてすったもんだともめた挙句の果てに、彼らの論戦は三十分近くに及んでいた。
「全く、まだ折れないんですか。強情な人ですね・・・。」
自分たちのことは棚に上げてポロシャツの少年は言った。
「本当、いい加減にしないと・・・呪い殺しますよ。」
にっこりと、それでいて不気味なオーラを感じさせながら、その少年は言った。空間が凍りついたような静けさがしばしその場を支配する。そしてそのままの笑顔で彼は続けた。
「・・・
「何でよ!?」
隣で指を指されたポニーテールの少女が反論する。
「・・・
「確かに意外だよな。」
「・・・み、
「別に否定はしませんよ、認めてもいませんけど。」
『おい・・・。』
思わずツッコミを入れる他一同。
「さて、冗談はここまでにしておいて・・・。」
「冗談だったのか・・・?」
「僕は改造されたらその力で真っ先に貴方を殺そうと思っているのですがどのような殺され方が良いですか?」
「あの〜、どうも彼、本気みたいなんで観念したほうが良いですよ・・・。」
「・・・・・・。」
すでに静音は気圧されていた。それを見て取ったポニーテールの少女が小さく呟いた。
「さてと、あと一押しって感じね。フェアじゃないけど圧力をかけますか・・・
「う!?」
突然襲った寒気と首を締め付けられるような圧迫感に静音は動揺した。
「ねぇ、
「さあ・・・。」
「じょ、譲歩すれば・・・やってくれるかい?」
とうとう静音は言った。
「よし、ケーキを奢ってやろう!」
「乗った!」
『乗るなー!?』
即答した赤シャツの少年に四人の叫びが唱和した。
結局の所、改造手術をしないこと等を条件に、彼らは静音の依頼を引き受けた。居間のような所に通されて彼らは改めて静音の話を聞く。正確には賄賂のケーキやら何やらを五人が平らげた後であったが、その金額たるやはっきり言って雪代家の家計を圧迫するには十分だった。
(クソッ、今月はただでさえ苦しいのに・・・。)
心の中で悪態をつきながら静音は子供達を眺めていた。
「ぷは〜、食った食った〜。」
赤シャツの少年は満足そうに両手を挙げた。
「では、そろそろいいかな。まず最初に、一応自己紹介をしておこうか。僕の名前は雪代静音。天才
「自分で言ってりゃ世話ないよな。」
少年の一人が律儀にツッコミをいれていたが、それは聞かなかったことにして自己紹介は続けられた。まずはポニーテールの少女が口を開く。
「私は木田緑。小学三年生。」
「僕は
続いてポロシャツの少年が言った。さらに赤シャツの少年が会話を繋げる。
「オレは
「私は桜島桃子です。」
さらに緊張した面持ちで二つ分けの少女が名乗り、最後に白シャツの少年が締めくくった。
「俺は
一度開き直ってしまったせいなのか、彼らは小学生とは思えない程落ち着いていた(単に図太いだけでは?)
「へぇ、奇遇だな。君達は皆名前に色がついている。せっかくだからこれに合わせてあれを微調整・・・。」
静音の言葉は後半が独り言のようで子供達の耳には最後まで届かなかった。何やら自分の世界に入ってしまった静音を引き戻すかのように、緑が尋ねた。
「それで、これからどうするわけ?」
「ああ、ちょっとそこで待っていたまえ。」
そう言って静音が例の物を取ってこようと足を踏み出した瞬間だった。
ズルッ ドターンッ ガキンッ
派手な音と共に静音は滑って転んで後頭部を強打したのである。星がチカチカ瞬きひよこがピヨピヨ頭の周りを飛んでいる。分かりやすい言葉で言うと目を回した状態になったというやつだ。
「バ、バナナの皮・・・。誰だよ、こんな所に置いたのは・・・?」
宙の言葉に武志が控えめに挙手して告白した。
「あ、多分、オレだと思う。さっき食ったから。」
「た〜け〜し〜(怒)」
反省の色すら見せていない武志に半眼でにじり寄る宙。お話には関係ありませんが、ゴミのポイ捨てはいけません。良い子も悪い子もついでに大人も真似しないように!
「この人、タンコブできてる・・・。」
ひっくり返って倒れている静音を恐る恐る覗き込んだ桃子が言った。
「おきるまで放っておけば?」
「でも・・・。」
「大丈夫よ、とりあえず心臓動いてるみたいだし。」
緑は大して興味なさそうにそう言った。
そして、この三時間後(すなわち静音が目を覚ましてから)、ついに皆が待ち望んだ奇跡の
「へ〜、この腕輪で変身するんだ。」
虹色の光沢を放つ腕輪を眺めて宙は言った。他の四人も物珍しげに自分の手首に付けられたそれを観察する。
「それで、使い方なんだが・・・。」
「何かキラキラしてるね。」
「スゲー、これって本物の宝石か!?」
「まさか。カラーストーンか何かでしょ。」
静音が説明をしようとするが、腕輪に夢中で誰も話しを聞いていないようだった。
「・・・話を聞きたまえ!」
『は〜い。』
叱り付けると小学生がするように(というか小学生なのだが)声を揃えて返事をした。
「とにかくこれは試作品で、まあその内様々な機能を付け加えてやるつもりだが、とりあえずはそれで我慢するように。それから腕輪に付いている石がスイッチだ。青がバトルスーツに変身、赤が変身解除。二度押し・同時押しはするなよ、故障の原因になるし、どんな副作用が出るか分からんからな。」
「ちょっと、副作用ってかなり聞き捨てならないんだけど・・・。」
御尤もな緑の意見に静音はこう答えた。
「使い方を誤らなければ問題ないよ。」
「まあまあ、緑。電化製品だって説明書通りに使ってればめったに壊れないわけだし。」
それでもまだ不満のありそうな緑に宙がフォローらしきものを入れる。
「君、この天才たる僕の発明品をそこらの電化製品と一緒にしないでくれたまえ。」
「不良品じゃなかったらね。」
その言葉に同時にツッコミを入れたのは静音と瞬平だった。
「とにかく、二度押しとかしなきゃいいんだろ?やるなよ、武志。」
「オレかよ!?」
宙の言葉に武志が反応した。しかし追い討ちを掛けるように次々と、
「そうね、気をつけなさいよ。」
「気をつけてね、武志君。」
「一番危ない君がやらなければ大丈夫でしょう、きっと。」
緑・桃子・瞬平が言った。
「お、お前ら・・・。」
何やら激しくショックを受けているらしい武志を無視して静音達は説明に戻っていった。
「・・・というわけで、何か質問はあるかい?」
「真ん中の黄色の石は何だ?」
「・・・・・・。」
宙の質問に何故か黙る静音。
「おい・・・?」
「はい、他に質問は〜?」
「無視かよ!?」
「無いですか?無いですね。それじゃあ、僕にはまだ準備が残ってるので、君達は名前でも決めときたまえ。」
そう言うと静音はさっさと部屋を出て行ってしまった。
「何かうまく丸め込まれたような気がするのは俺の気のせいか・・・?」
「多分気のせいじゃないと思うわ・・・。」
宙の言葉に緑が溜息混じりで答えた。
このままボーっとしているのも難なので、彼らは戦隊名を決めることにした。
「それで、どういう名前にします?」
ペンを片手に瞬平が言うと、武志が自慢気に発言した。
「へっへー、オレもう考えてあるんだ〜。“五色戦隊、レインボーマン”さ。」
「レインボーマン〜!?」
すると緑が露骨に嫌そうな声を上げた。
「な、何だよ、緑。」
「レインボーは七色でしょ。」
「英語で虹って意味よね。」
緑の言葉に桃子が付け加える。
「確かに虹は七色だよな〜。」
「欧米では六色という考え方もありますよ。」
さらに宙と瞬平がコメントした。
「要は光の加減とか文化の違いとかの問題なんだろうけど・・・。」
「どの道、数が合わないし。」
「じゃあ、どうするんだよ。」
武志が不貞腐れた様子でいうと、
「それでは、不採用という方向で。」
瞬平はあっさり武志の意見を切り捨てた。
「だー!てっめー、メモくらい取れよ!?」
「煩いですね、分かりましたよ。」
「〔ボツ〕って書くなー!?」
しかし三十分以上経ってもまだ名前は決まらなかった。だんだん煮詰まってきたせいか、五人の顔には疲れが見え始めていた。
「あー、もう!全然決まらないし・・・。」
「実際テレビでやってたヒーロー戦隊モノと名前被らせる訳にはいかないしな。」
「著作権法違反とか言われると作者が困りますし。」
「だからレインボーマン・・・。」
『却下。』
武志の言葉を皆まで言わせず、三人は声を揃えた。すでに締め切り前で徹夜続きの漫画家のように目が据わっている。
「あの、英語のチルドレン(子供達の意)に
そんな中、桃子が恐る恐る発言をした。しばしの沈黙。だがすでにテンパっていた彼らはほとんどすでに正常な判断能力を失っていたようである。
「―――――――ギャグとしては寒いけど・・・。」
「―――――――時間とページの都合もあるし・・・。」
「この際、採用!」
パンパカパンパンパーン(効果音) 名前がチルドレンジャーに決定した
本当にいいのかなぁ・・・。
<NEXT>