第二話後編

 

 

 

 掃除を始めて十数分、次郎はふと、あることに気づいた。

(何か、焦げ臭い・・・?)

キョロキョロと辺りを見回すと、何とデビル・アーマーから煙が立ち昇っている。

「!?」

(消火器!)

慌てて次郎は消火器の安置してある場所に向かった。火災時の初期消火は大切である。しかし・・・。

「総帥!」

ジャックがデビル・アーマーの様子に気づき声を上げる。その頃にはブスブスという音と共に黒煙が噴き上がっていた。

「これは・・・!?」

「まずい!爆発するぞ!!」

 ズゥウウン・・・

白い光が辺りを包む。爆音と衝撃が人々を襲った。炎が悲鳴を呑み込んでいく。それは地獄絵図に似ていた。

「そ、そんな・・・。」

消火器を取りに場を離れていたため無事であった次郎はその惨状に呆然とした。同僚達が血だらけで倒れている。火傷もしているようだ。彼らの嗚咽や呻く声が場を支配する。

(どうしようどうしようどうしよう・・・!?)

次郎はパニックを起こし、叫ばないでいるのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

『・・・・・・。』

 チルドレンジャー達もあまりの事に言葉を失っていた。彼らは戦闘スーツのお陰で無傷であったが、生身の人間はこうはいかない。一部(主にブラック・サンダー幹部)は伏せるなりデスクを盾にするなりして事なきを得たようだが、その他は大なり小なり怪我をしている。中には瀕死の重傷の者もいるかもしれない。

「な、何て事・・・。」

「ひ、酷い・・・!」

「どうしてこんな事に・・・。」

「・・・。」

『さて、君達。早くしたまえ。こういう時こそ僕の発明が輝くのだよ!』

「何寝ぼけたこと言ってるのよ!?」

『グリーン君、僕はいつも本気だよ。それにうまく作動すれば、怪我した人達も助けられるしね、多分。』

『!?』

『どうだい、少しはまともに話を聞く気になったかな?』

「(多分というのがどうも胡散臭いけど)まあ・・・。」

グリーンが渋々といった調子で頷く。

『じゃあ、とりあえずはこの炎を何とかしてみよっか♪』

むやみやたらとどうでもいいくらい無駄にさわやかに静音は言った。その場に居たら怒突き倒したい衝動に彼らが駆られたのは言うまでもない。

 

 

 

「あーらら、引火しちゃってるみたいよ?」

「多分隙間に卵白が入ったせいだな。」

「あー、じゃあ今度防水加工施さなきゃ。」

「それは予算と相談してみないと・・・。」

 とりあえず冷静に状況を分析しているらしいブラック・サンダー幹部達。これぞ悪の本性か!?

 

 

 

『・・・とまあ、こんな感じになるわけだ。追々ジャンルは増やしてあげるつもりだけど、とりあえずは僕の声を復唱する形でたのむよ。』

「わかった。」

静音の言葉に頷くブルー。

「ねえ、副賞って何?」

「副賞じゃなくて復唱よ。繰り返して言うってこと。」

ピンクの言葉を訂正するグリーン。

「何でわかったんですか?」

「・・・。」

さして疑問にも思っていなさそうなブラックの言葉。それにグリーンは沈黙で答えた。

(言霊が違ったから・・・なんて普通はわからないだろうし。)

そんなことを思いつつグリーンはこっそり溜息を吐いた。実はそんな彼女にブラックは気づいていたのだが、それについて彼が触れることはなかった。

(答えないということはあまり言いたくないということでしょうね。)

『それじゃあ、行くよ、ブルー君!』

「はい!」

『能力型検索。』

「パワー・リサーチ。」

『型、聖●士星矢。』

「タイプ・セイ●トセイヤ。」

『発現人物、白鳥座氷●。』

「トレース・キグ●スヒョウガ。」

『ダイヤモンド・ダ●ト。』

「ダ●ヤモンドダスト。」

(え?)

ブルーが静音に導かれるままに言葉を口にした瞬間、自分の腕が青白く輝いている様に感じた。

『ブルー!?』

仲間達の声が遠い。腕が熱かった。頭の芯がしびれるような感覚。ただ、このままではまずいという強迫観念にも似た思いが彼を支配した。本能的な危険感知に任せ拳を突き出す。その先に広がるのは炎と煙。

「あああああああぁぁぁぁぁぁ・・・!」

熱と痛み、そして強烈な光。ブルーに理解できたのはそこまでだった。

 

 

 

 

 

 瞼を開くとそこは一面銀世界であった。そんなフレーズがつい頭に浮かんでしまう程、次郎は混乱していた。突然の光に視界を奪われ反射的に下ろした瞼。状況が理解できず何度も瞬きを繰り返す。とりあえず次郎が思うことは

(さ、寒い・・・。)

この一言に尽きた。実際凍えるような寒さが周囲を支配している。混乱の果てに次郎は全ての出来事を受け流す方向に傾きつつあった。これも立派な現実放棄であるが、彼の精神の安定を考えると一種の自己防衛本能とも言える。

「な、なんじゃあ、こりゃあああぁぁぁぁ!?」

ジョーカーの声が響き渡る。某刑事ドラマの名台詞を思わせる叫びだ。どうやらブラック・サンダー達にも驚きを以って迎えられた事態のようである。炎もデビルアーマーもついでに人々も凍り付いていた。ある意味壮観な光景ではある。

 

 

 

『・・・・・・。』

 一方チルドレンジャー一同も別の意味で凍り付いていた。技を発動させたブルー本人もさることながら、他の四人も硬直したように動かない。そしてブラックにいたっては握り締めた拳がブルブルと震えていた。

「はっはっは、どうやら大成功みたいだね。流石天才♪」

スピーカー越しに聞こえてくるのは静音の自画自賛。しかし彼らの耳には入っていない。呆然と呟くグリーンとピンク、そして・・・。

「な、何これ・・・。」

「ど、どうしちゃったの・・・?」

「すげー・・・。」

『!?』

「・・・レッド、あんたいつの間にこっちに?」

いきなり近くで聞こえた声に驚いて振り返る彼ら。そこには生卵の残骸と戦っていたはずのレッドがいた。

「そんなことより、オレを仲間外れにするなんて酷いじゃないかー!」

「いや、した覚えはないけど・・・。」

突っかかってくるレッドを受け流すグリーン。そして技の反動で座り込んでいたブルーに声をかけたのはピンクだった。

「大丈夫?」

「・・・わからない。」

そうブルーは吐き出した。しかしそれが彼の正直な気持ちでもあった。

(あとすげぇ体がダルイ。)

全力疾走をした後の疲労感に近いものがあった。もちろん口にすればピンクを始めとして仲間に心配をかけるとわかっていたので、彼は口を閉ざしていた。

『・・・じゃあ、そういうことで。君達の健闘を祈っているよ。グッド・ラック!』

ブツンッ ツーツーツー・・・

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?・・・て、もう切れてるし。」

静音からの通信は途絶えた。緑はため息をつくとブラックに声をかける。

「ねえ、これからどうす・・・!?」

言葉は最後まで続かなかった。代わりに喉元にこみ上げてきた悲鳴をグリーンは懸命に押さえ込む。彼女にはブラックから立ち上るドス黒いオーラが見える気がした。

(ひいいいぃぃぃぃ・・・!)

「ふ、古い・・・。」

ブラックが呟いた。その声色は例えるならばトドメ色(?)という感じである。

「・・・古すぎる!」

『ぶ、ブラック・・・?』

彼の様子の変化に気づいたのか、ブルー・ピンク・レッドが恐る恐る声をかける。しかし絶対零度の怒りに晒され即座に凍りついた。精神的にも肉体的にもブリザードに晒される人々。雰囲気に気圧されてか、ブラック・サンダー達も沈黙していた。そんな中ブツブツと何かを唱えながらブラックは進みだした。腕にリングに手を添えて、壮絶なまでの笑みを浮かべる。もしバトルスーツが無く顔が見えていたらこの先の出来事が予想できたかもしれない。しかし天はブラック・サンダーに味方しなかった。

「・・・タイプ・ドラゴンク●スト。トレース・賢者。」

ブラックが手のひらを突き出す。

「ホ●ミ×怪我人分。」

 

 

 

「え・・・?痛みが消えた・・・!?」

「火傷が少しだけど、治ってる・・・?」

 淡い光に包まれた自らの体を呆然と眺める人々。次郎もまたその場に立ち尽くす。まるで神か悪魔を目撃したような面持ちで彼はこう漏らした。

「き、奇跡か・・・?」

それは神でも天使でも悪魔の仕業でもなかったけれど、まるで海を割ったモーゼのように彼には見えた。

 

 

 

「さてと、応急処置は終わりました。いくら悪党でも見殺しにするのは寝覚めが悪いですしね。」

 淡々と述べるブラック。いつもの調子のように見えるがグリーンにはわかった。

(怒ってる怒ってる・・・ていうか、切れ掛かってる!)

出来る事なら即行で逃げ帰りたい。何故彼がここまでキテいるのか彼女には理解不能だったが、このままでは非常に不味い事になる可能性があるのは理解していた。

(切れると一番ヤバイのは瞬平(ヤツ)なのに・・・!)

「何か言いましたか、グリーン?」

「!? な、何でもないですぅぅぅぅぅ!!」

ブラックに声を掛けられグリーンは思わず敬語で叫んでいた。

(私口に出してた!?)

正直心臓が止まるかと思った、と後に彼女は述懐したという。

「では、仕上げと行きましょうか・・・。」

ブラックはジョーカー達の方へ視線を向けた。すると彼らはいまだに唖然としている。

「・・・バ●ルーラ×ブラック・サンダーメンバー分。」

まるで九九の暗唱でもするように機械的にブラックは言葉を紡いだ。

 

 

 

「え・・・?どわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!?」

 急に体が軽くなったと思ったら空中に浮いていた。それを認識するかしないかの内にジョーカーを含むブラック・サンダー一同はお空の彼方に飛ばされお星様になってしまったとさ。めでたしめでたし(?)

 

 

 

 

 

 その後、町役場の人達をチルドレンジャー達は治療して回り何とか支社が出るという最悪の事態は回避された。役場事態は慌しいがようやく落ち着きを取り戻した次郎は唐突に思った。

(そういや、セイン●セイヤって、十年以上前に漫画で見た気が・・・。うん、確かに古いわ。)

「田中君、ちょっと手伝ってー。」

「はい、先輩。」

まずは人命救助が第一である。その内警察や救急車も来るだろう。やはり平和が一番である。そして次郎は本棚の下敷きになってしまった同僚を出しにかかるのだった。

 後日、どこから出たのか町長のズラ疑惑が瞬く間に町内全域に広がるという事件が起こったのだが、依然真相は闇に中である。

 

 

 

 

 

 

 

第三話に続く!

 

 

 

2005/06/04 UP