女神は詠ふ  王の願いを叶える為に
万物の律を書き換える[うた]
律を触れることを許されたのは世界の朋である女神のみ
創成の女神は己が業を継ぐ分身に世界を託し  世界に還る
女神を継ぐ者もまた  世界の朋たる女神なり







『ブラシェリ十のお題』サイドストーリー
女神は詠ふ・10





 視界も思考も焼き尽くすような光が消えて、ガッシュが気がついた時には台の上にあった本はなくな っていた。女神の言ったような痛みはなかったが、酷く身体が疲れていた。今、布団に入って眠れば、 きっとぐっすりと眠れることだろう。いや、布団がなくても眠れるかもしれない。

「お疲れ様、可愛い王様。ところで装置やっぱり一部が焼き切れちゃったみたいなんだけど・・・熱く ないの?」
「・・・あ、熱いのだー!?」

生肉を置けばジュッと好い感じで焼けそうな熱を持った白い台。今更ながらにその熱さに気づき、ガッ シュは本気で飛び跳ねる。熱くて。

「ぬおおおおお・・・!」
「直接律を読み取ってないし・・・千年も経つと魔界も人間界も構成分子変わってそうだしな〜。いく らあたしの充電は済んでいてもシステムはバグ起こしてもおかしくないかもしれない。後で“歪み”の 状態を調べておかないと・・・。」

片や、手をヤケドして叫びのた打ち回る子供、片や、異常発熱した装置を分析しブツブツ呟く少女。何 だか妙にシュールな光景だ。華麗なる新王の歴史の一ページ目として本とかに残されたらかなり嫌であ る。多分笑い話で済みそうにない。

「あうおうあうあう〜・・・。」
「これ放置しといても自動修復するだろうけど、やーっぱり長官さんと寡黙な王様に言っておかないと いけないかなぁ・・・?」

ヤケドのショックで目の幅涙を流すガッシュに後始末を考え苦い顔をする女神。他の誰かに見られたら 魔界先行きが激しく心配になる瞬間だった。

「・・・まー、いいや。いざとなったら人間界での“歪み”チェックするってことにしちゃえば、お小 言聞くこともないでしょ。さてと、可愛い王様。ちょっと、御手を拝借・・・。」

 女神はクルリと装置からガッシュへと向き直ると、彼に近寄った。そしてヤケドした手に彼女は両手 をかざす。そして何か呪文のようなものを唱え始めた。それは歌のようであり詩でもあるようにガッシ ュの耳には聞こえた。

「おおおおお・・・ぉお?」
「はい、おしまい。」

彼女の手元が淡く光を放ったかと思えば、いつの間にやら自分の手の痛みが消えているのである。マジ マジと自分の手の平を見つめれば、痕もなく至って健康な肌がそこにあった。思わずキョトンとしてし まったガッシュである。

「もう痛くはないでしょう?」
「・・・女神殿が治してくれたのか?」

ガッシュは感心したようにまだ自分の手を見つめている。

「言ったでしょう?アフターサービスだって。この程度なら許容範囲だしね。」
「まるでティオみたいだの〜。ティオも・・・その、わたしの友達なのだが、こうした怪我を治す術が 使えるのだ。」
「そうみたいね。」

その後ガッシュによりティオを筆頭とした友達トークが熱く語られたりしたのだが、詳しく描写すると 長くなるので省略する。まあ、敢えて一言付け加えるなら清麿トークが一番熱い内容だったと記してお こう。

「本当、可愛い王様・・・相棒君のこと好きだねぇ・・・。」
「清麿は一番の友達なのだ!」

清麿激ラブビーム(?)とか放出してそうなガッシュの輝かんばかりの笑顔。彼はこの調子で成長した ら恋より友情を優先させるような男に育つかもしれない(笑) そして女心を理解できないまま、ティ オやパティの怒りを買い続ける・・・想像するだに怖い未来図だ。いつか彼に女心について教授してく れるような友達ができることを祈ろう。できないかもしれないけど(オイ)

「ほら、可愛い王様。そろそろ戻った方がいいんじゃない?友達がきっと待ってるよ。」

 やがて女神はガッシュの手を引いて立ち上がらせた。先程まで座り込んで会話をしていたのである。 果たしてこんなのんびりまったり空気でいいのだろうか。とりあえずゼオンが見たら怒るか怒りを通り こして脱力しそうな雰囲気である。

「う、うぬぅ・・・。」
「みんなが新しい王様を待ってるよ?」
「め、女神殿は・・・。」
「何?」
「女神殿は行かぬのか・・・?」

ガッシュは首を傾げた彼女に言う。

「わたしがここを出た後、女神殿は残るのか?それでは女神殿が独りになってしまうのだ。」
「可愛い王様・・・?」
「・・・そうだ!女神殿も一緒に行くのだ!!」
「はい?」

ギュッと彼女の手を強く握り、声を上げたガッシュにますます首を傾げる女神。

「みなに女神殿のことを紹介するのだ。わたしの友達として!」

人類皆兄弟ならぬ会う者皆友達発想。ガッシュの考えに女神は苦笑する。

「ありがとう、可愛い王様。でも、あたしの正体は内緒って約束したよね?」
「う、うぬぅ・・・それは・・・・・・。」
「歴代の王様とラグナの長官は知ってるからまだしも他の子はちょっと・・・ね?」
「うぬぅ・・・では、清麿にも秘密にしなければならぬのだな・・・・・・。」
「うーん、あの相棒君かぁ・・・あの子なら、多分大丈夫、かも?」
「ほ、本当か女神殿!き、清麿には教えていいのだな!?」

しょんぼりしていたガッシュが目を輝かせる。コロコロと変化する彼の表情は子供らしくてとても微笑 ましい。

「他の子は・・・まー、あたしが見極めてから、かな?とりあえずは絶対、秘密。可愛い王様はちゃん と優しい王様になるって約束を守れる子だから、あたしとの約束も守れるよね?」
「うぬ!」

トドメに指きりまでしてしっかり二人は約束した。

「それで、女神殿はわたしと一緒に行かぬのか?」

 そして話は巻き戻る。女神云々は内緒にしておくとしても、やはり彼女をこの場に残していくことに ガッシュは躊躇いを覚えていた。宣誓の間は千年に一度王のみが訪れる場所であるという。ならば彼女 は千年間ずっとここと独り眠り続けていたということになる。そしてまた千年、ここで待つことになる のかもしれない。それを思うと見過ごせなかった。

「う〜ん、別に一緒に行ってもいいんだけど・・・。」

ガッシュの申し出に彼女が口ごもる。まあ、正直に言えば“女神”の力があれば鍵の複製はおろか鍵が なくても創成の間に出入りすることは不可能ではなかったりするのだが、そこら辺の事情はガッシュの 与り知らぬ話なので仕方がない。

「うぬ?それならば一緒に行くのに何の問題もないであろう??」
「いや、そーなんだけどね。何と言うか・・・そうやって誘ってくれた子って初めてだから、ちょっと ・・・どんな反応していいものやら・・・・・・。」

嬉しいような恥ずかしいような照れ臭いような・・・新鮮な経験に少々対応を迷っていたようだ。珍し い人生経験(人間じゃないけど)を迎えた時は誰だって戸惑うものということかもしれない。

「女神殿・・・。」
「うん、でも嬉しいかも。王様ってば可愛いこと言ってくれちゃうから☆」
「う、うぬ・・・?」
「ありがとう、ガッシュ・ベル。」

彼女は満面の笑みと共にガッシュの手をしっかりと握り返した。

「では、女神殿も行くのだな。」
「いいよ。でも友達に紹介はまた今度ね。あたしも行かなきゃいけない所があるから。」
「・・・行かねばならぬ場所?」
「千年振りに顔を合わせるお知り合いとか、まあ、いろいろとねー・・・。」

不思議そうにしているガッシュに女神は含み笑い。

「大丈夫、ちゃんとまた会いにいくから。」
「う、うぬ!約束なのだ。」

 そんな訳で女神は宣誓の間の外までガッシュを見送ることになった。ガッシュも彼女がここでずっと 独りきりになるという訳ではないことが分かり、安心した様子である。無邪気な笑顔と微妙に裏があり そうな笑顔が交差する。

「では、女神殿。わたしは・・・ぬぉおおおおお!?」

入る時は鍵が必要だった扉も出る時は自動ドアの如くあっさりと開いた。そして部屋から一歩踏み出し たガッシュは目の前に広がる果てしない廊下に驚きの声を上げる。嗚呼、悪夢の無限回廊再び。

「どうかしたの、可愛い王様?」

パカンと口を開けて固まってしまったガッシュに彼女はのんびりとした口調で声をかけた。彼女にはガ ッシュが驚いた理由が分かっていないらしい。

「め、女神殿!?入る前に上ってきた階段がなくなっておるのだ!」

その後しどろもどろになりつつ話すガッシュから説明を彼女は受けるのだった。それこそゼオンと別れ てからひたすら廊下を進み、いきなり階段が出現して、宣誓の間に辿り着くまでの過程をつぶさに語ら れたのである。まあ、ガッシュの認識に基づく説明なので、正確性には疑問が残るが。

「へー、今回はそういう仕掛けだったんだー・・・。」

そして彼女がポツリと漏らした言葉。“今回は”ということは、毎回仕様が異なるということなのだろ うか。王への最後の試練か、それとも装置の秘密を守るためか。女神も知らぬ(というか気にしていな い)所を見ると、設定者は別にあるらしい。一体どんな仕掛けだ。責任者出て来い。・・・などと怒鳴 ったりしないのは、やはり当事者がガッシュだからだろう。

「め、女神殿・・・?」
「あー、多分この廊下、ずーっと歩いていけば、入口に戻れると思う。」

やがて彼女が告げたのはフォローとも言い切れない大雑把な説明。ガガーンといった衝撃がガッシュを 襲う。バックにはベタフラッシュが似合いそうだ。少なくとも点描効果は違う気がする(オイ)

「えーと、可愛い王様。が、頑張って・・・みる?」

常識的に考えてみればひたすら廊下を進んでいくのは大変そうだと彼女も分かっているらしい。ちょっ と言いにくそうにガッシュに告げた。

「うぬぅ・・・またあれだけ歩くと思うと、もうお腹が空いて力が出ぬのだ・・・。」

魔物の食欲は半端ではない。中には人間とあまり変わらないタイプもいるようだが、やはり嗜好もそれ ぞれだ。ガッシュはブリが好きだし、シャチが好みだという者もいれば炭が好きだという者もいる。別 にコロッケや焼き魚が好きでなくとも責めはしないが。とにかく、ガッシュの気分は空腹で、やる気が みるみる減退してしまった様子である。というか、お腹が空いて力がでないってすでに懐かしの某アニ メの主人公か?いや、いつの時代も空腹は力を奪うものなのだ。基本的に食欲は生物の本能に基づく欲 求であるし。

「もう・・・仕方ないなー。可愛い王様、捕まって。寡黙な元王様の所まで送っていってあげるから。 特別に報酬は出世払いにしておいてあげよう♪」
「ぬお!?」
「それじゃあ、一気に飛ぶよー。」

女神はガッシュの腕を掴み、最初に見せたものとは違う漆黒の翼を背中に開いた。そしてフワリと浮か び上がる。それと同時にガッシュの身体も足が離れ、宙に浮く形となった。ガッシュは慌てて女神の足 の辺りにしがみ付く。彼女が詠い、そして周囲の景色が陽炎のように歪み始めたのは、そのすぐ後のこ とだった。

「ぬぉおおおおお・・・・!?」

ガッシュの声だけが静かな廊下にこだまし、やがて声と共に彼らの姿も一瞬で消え失せる。残されたの は静寂と、一枚の黒羽根のみ・・・。





 その日、魔界は光に照らされた。城の一角から放たれた光はもう一つの太陽が現れたかの如く、金色 の輝きを世界にもたらした。それに呼応するかのように魔界においていくつもの不可思議な光は発生す る現象が観測された。本当にそれは一瞬の、刹那とも言える光で、気のせいのように思った者も多いと いう。ただ一部の者だけは後に知ることになる。それが王の特権の名の下に、優しい王様が起こした奇 跡であったことを。

「リィエン・・・いよいよガッシュが今日、正式な王になるそうだ。」

魔界某所。ある家の寝室で、ベッドに横たわっていたウォンレイが呟く。語りかけるのは瞼の裏にいる 恋人。今は遠い人間界にいる自分の魔本の持ち主でもあった女性。彼女やその仲間を守る為に、己の身 を犠牲にした。その事に関しては最早悔いはない。ファウードの封印にまつわる事件でリィエンの命を 助けることを優先し、その結果としてガッシュ達の敵に回ることになってしまったことは今も胸に痛い けれど。それでも最後は仲間を守り、ガッシュが王になったことで、次第に穏やかに自分を見れるよう になった。

「きっと、これから千年、魔界はよい方向へと進んでいくのだろう・・・。」

悪しき風習を千年後に持ち込まないようにする為には、ガッシュが王としてどのようにやっていくかが 大切である。魔界を変える。言葉で言うには簡単だが、実際にそれを果たすことは難しいだろう。ガッ シュにどれだけの困難が降りかかるかは分からない。けれども彼が最後まで諦めないでいてくれること を信じたかった。

(ただ心苦しいのは・・・私はもう、ガッシュの力にはなれないということだ。)

魔界へ戻ってきたウォンレイは命こそ助かったものの、ファウード体内魔物の自爆に巻き込まれた影響 で全身ボロボロになっていた。全身複雑骨折、頚椎損傷、そんな診断を下されそうな状態だったのだ。 そして今も後遺症で、彼は起き上がることすらできない体である。唯一の救いは、意識がしっかりとし ていて、言葉も滑舌良好に話せることくらいか。いや、だからこそ残酷だということもある。

(これから王として・・・大変であろうガッシュの為に動くことすらできない。)

もし自分の身体が自由に動くのならば、ガッシュを、彼の優しい王様という理想を守る為に戦うことに 何の異存もない。けれども今の状態ではその身を楯にすることすら叶わないのだ。はっきりと意識があ り、いろいろと考えることができるだけに、何もできない現実が辛かった。

(今のわたしでは王となったガッシュに祝いの言葉すら言いに行くことができない・・・。)

それは友としても辛いことであった。

(いつか・・・もし、いつか・・・この身が動くようになれば、リィエン、わたしは・・・ガッシュの ために・・・・・・。)

ベッドから動けない体で、ウォンレイは静かにそう祈る。その時だった。

「う・・・!?」

 突如己の身体が閃光に包まれる。眩しさにウォンレイは反射的に目を閉じた。鮮烈な光はガッシュの 放つ雷のように金色であったこと、それだけがウォンレイに認識できたことだった。

「今の光は、一体・・・。」

光が治まった後、パチパチと何度も目を瞬かせるウォンレイ。そして彼はふと、己の身体が軽いことに 気づいた。

「何・・・だ・・・?」

鉛のようにずっと重かった体が、動かそうにも動かせなかった体が、突如楽になっていた。

(これは一体・・・。)

無意識の内に腕が動く。緩慢に、けれども久し振りに動いた関節と筋肉。目の前に持ってきた右手を何 度も開き、また閉じた。

「手が・・・動いている・・・。」

ウォンレイは信じられなかった。まるで夢を見ているように思った。手が震える。けれども、それは痺 れや痛みによるものではない。

「身体が・・・動く・・・!」

ゆっくりと、慎重に、ウォンレイは身体を動かしてみた。指を、肘を、腕を、そして膝を。それはスム ーズに動いた。まるでこれまでどんなに努力しても機能しなかったことが嘘のように。

(リィエン・・・ガッシュ・・・みんな・・・・・・!)

そしてとうとうウォンレイは上半身を起こすことに成功した。信じられないことだったが、自分だけの 力で起き上がることができた。違和感すらない。このまま立ち上がることさえできそうな気がする。い や、歩くことさえできそうな予感がした。

「何故・・・。」

理由が分からなかった。ウォンレイにとって、あまりにも突然過ぎる出来事。その真相は後に彼の友人 らから明かされることになるのだが、今の彼にとっては与り知らぬ話。ただ、自然と頬を伝い落ちた雫 により、目頭が熱い理由だけは分かっていた・・・。



 アースは目を覚ますと小川のすぐ側にいた。倒れ伏していた体を起こせば、清らかな水が横を流れて いく。そのせせらぎは酷く穏やかに彼の心に響いた。少し前まで自分は死への恐怖に晒されていたはず なのに、何だかそれは遠い日の出来事のように思える。

「ここは・・・。」

アースはゆっくりと首を動かした。空を、大地をその眼に映す。

「魔界・・・。」

景色に見覚えがある訳ではない。けれども空気で彼には分かった。

[それがし]は・・・本当に、生き返った、 のか?」

最期の時、パートナーであるエリーと約束したことではあったけれど、未だ信じがたいという気持ちが 大きい。けれども現実にアースは肉体を取り戻している。

「ガッシュが・・・やってくれたのか?」

相手の力は不気味であり、巨大。けれどもこうして己が肉体を取り戻したということはガッシュ達がそ の敵に打ち勝ったということ。一瞬もしかしたら王になったのはガッシュではないかもしれないという 考えが頭を過ぎった。希望的観測ばかりを想定できないのは彼の癖と言えば癖である。だが、ガッシュ でなくとも彼の志を受け継ぐ者が王になっているはずだ。それはティオやキャンチョメであるかもしれ ない。

(・・・いや、それでもきっと王になったのはガッシュ・ベルだろう。)

優しい王様になるという、彼の目標をあのバオウの使い手達は果たしたのだろう。

「・・・かたじけない、ガッシュ・ベル。」

溢れる涙を今は止める必要はない。ただ、急いで彼に会いに行こうと思う。

(エリー・・・某は、必ず・・・必ず、この魔界に素晴らしい法を・・・ガッシュが優しき王として君 臨する治世に相応しい法を作り上げてみせます・・・!)

アースは最期まで消え行く彼を叱咤激励した、病とも呪いとも命を懸けて闘い続けたパートナーへ、心 の中で誓いを立てるのだった。



 そして、彼の魔物は森の中で、その深紅の瞳を開いた。覚醒を迎えて程なく彼は、己のいる場所が、 目覚める前にまで居たと思っていた場所とは異なることを悟る。彼もまた気づいたのだ。己を取り巻く 空気が魔界のそれであることに。

「・・・チッ。」

人間界にいる間に癖になってしまったような舌打ち。怒りで沸騰しそうになる頭で、彼は認めざるを得 なかった。己が敗北したことを。最期に彼が対峙した魔物クリア・ノートの術の系統は消滅。彼はクリ アの術により肉体を一度失ったのだろう。

(どこぞのお節介な奴が再生復活してくれたようだが・・・な。)

お節介な魔物というとつい思い浮かんでしまうのが、かつて出会った赤い本の魔物とそのパートナー。 ゾフィスの件でもチョッカイを出されたこともあるだろうが、自ら遺跡に突入し、千年前の魔物達と事 を構えたコンビである。さらにファウードの時もリオウやゼオンと激突。赤の他人相手でも助ける為に 自ら進んで動く、そういう面々だった。

「フン・・・だとしたら、たいした奴だ。」

己の敗北に対し、渦巻く感情はけして鎮まった訳ではない。けれども彼の冷静な部分は状況を見極める 為に確実に動いていた。周囲の様子を確認する為に視線を動かす。空は確認できるが、視界には木々の 緑が目に付く。枝葉、幹、大地に草。軽く見ただけでここが森だと彼は悟った。そしてさらに動かした 視線がある一点で停止する。そこには誰かが倒れていた。

「!?」

彼の眼が驚愕に見開かれ、その一点をひたすら凝視する。見覚えのある白いドレス、そして滑らかな艶 を持つ金の髪。けれどもけしてここにいるはずのない女性。この事実は流石の彼であっても混乱に陥る のに申し分ないものだった。

「―――――――・・・!!」

それでも彼は叫んだ。事実が脳に認識されるよりも速く、彼女の名を呼んだ。それは本当は音にならな い声であったかもしれない。ただ、腕を伸ばし、彼女の元へと駆けた。ただ、求めるが如く、彼女の蒼 玉に己が姿を映される為に・・・。







――――――――――その後予想外の事態の発生に女神も新王もその周囲もドタバタする羽目になるの だが、それはまた別の話である。





To Be Continued・・・?




<後書き>
 今回の話を書くにあたり一番迷ったのは果たして黒本組の描写を入れるかどうかということでした。 いや、本当に・・・。一応サイドストーリーですし、ブラシェリお題との関連性を考えると入れた方が いいかな・・・という思いと、書いたら書いたで路線がズレていきそうな予感がひしめき合って、悩み ました。あと、書かない方が読んだ方もいろいろ想像できて楽しいかな?なんて気持ちもあります。ほ ら、あの二人が魔界でいかなるサバイバルライフを繰り広げたとか・・・ね?(オイオイ)
 ともあれ、このシリーズもこれで一区切りです。話の切りを良くする為に付け加えた蛇足的エピソー ドに終始した割にズルズルと長くなってしまいましたが。というか、締め方自体がすでに微妙(死) ついでに書いている途中で全体の長さに気づき、アースエピソードをちょん切ってやろうかと考えたこ とがあるのは秘密です(笑) 因みに転移した後のガッシュと女神と先代のエピソードは容赦なく切り 落としました。ただでさえ長くなってるのにこれ以上長くできるかっての・・・。そしてアースも先代 も黒本程は悩まなかった辺り、愛の差ですかね〜。



2007/09/15 UP