ザケル【名詞】
魔界の王を決める戦いにおけるガッシュ・ベルの赤い本に書かれた第一の術。威力がそれ程高くない電
撃を放つ。使い手・段階により威力が変わることも。恐らくゼオンの第一の術でもある。
ザケ・ル【動詞】
『ザケる』と表記されることもある。端的に言えばザケルを放つこと。清麿式ツッコミ用法。心の力を
加減し、弱レベルで使用することが推奨される。主にパルコ=フォルゴレやナゾナゾ博士がこのツッコ
ミの餌食となった。対策としては高嶺清麿に対しふざけ過ぎないことが挙げられる。
具体的にイメージしてもらうに当たり、上記の解説を参考にしてもらいたい。
「め、女神殿!急いで帰らねば・・・でもここから動けぬのだ!どうしたらいいのだー!?」
「はいはい、可愛い王様。ちょっと落ち着こうねー?・・・そんな訳で、あたしはこの子を連れて帰り
ますから。あ、ちゃんとテーブルにある紙も一緒に持っていきますんでご心配なく。」
ますます混乱するガッシュを宥めつつ、イセーはブラゴとシェリーに言葉をかける。今度こそガッシ
ュ達は帰るつもりなのだろう。シェリーは疲れを覚えつつも社交界で鍛えた笑みを浮かべ、ブラゴはう
んざりした様子を見せる。
「ごめんなさい。お茶の一杯も出せないで・・・。」
「いえいえ、お構いなくー。」
そして定番社交辞令の一つをシェリーとイセーは交わした。
「二度と来るな。」
「それは無理。」
さらにブラゴの皮肉に笑顔で即答。年の功か、彼女をやり込めるにはブラゴも経験が足りないようであ
る。歳をとっても無理かもしれないけど。
「・・・あまり、ブラゴをからかわないでほしいのだけれど。」
「あはは、反応がある意味素直だから可愛くて、つい・・・。」
「何!?」
「シェリーさん、気を悪くしました?」
「私よりブラゴの方がそう思っているのではないかしら。」
「女神殿はブラゴをからかっておったのか・・・?」
シェリーの言葉にイセーは笑い、ブラゴはますます不機嫌な空気を発して、ガッシュはポカンと首を傾
げる。そしてガッシュは余計な口を挟んだことでブラゴから睨まれ、ビクついた所でシェリーがブラゴ
を窘める。それをイセーは何かを含んだ瞳の色で見守っていた。
「イセーさん、そろそろブラゴ達の拘束を解いてくださる?」
「あっと、そうでしたね。」
シェリーに促されイセーが二度手を打ち鳴らした途端、ガッシュとブラゴは拘束から解放される。ガッ
シュに関しては壁に体重をかけていたせいで、ズベシャと転がる羽目になったが。
「ブラゴ、平気なの?」
「お前は
「でも・・・。」
「俺は人間とは違う。何度も言っているだろうが。」
シェリーがブラゴの頬に手を伸ばす。それをどけるようにブラゴが彼女の手を掴んだ。二人の視線がし
ばし絡み合い、やがてシェリーの肩から力が抜けた。そしてブラゴも彼女から手を離す。
「の、のぉ・・・女神殿。わたしは前から思っておったのだが、時々ブラゴとシェリーは近づき難くな
るのだ。その、怖いからといった意味ではなく、話しかけてはならんような気がして・・・。」
「・・・俗に言う二人の世界?」
「よく分からぬが、先程も邪魔をしてはならぬような気がしたのだ。」
「野菜の甘さみたいに分かりにくいかもねー、あのお兄さんとお姉さんの場合。」
遠巻きに見守る形になったガッシュとイセーの会話。
「それじゃー、帰ろうか、可愛い王様。城に着いて早々ゼオンちゃんにザケられても困るし?」
「う、うぬ。」
ガッシュにとって一番怖いのは鬼の形相の清麿だが(ナオミちゃんと僅差)、ゼオンだって怒らせると
それなりに怖い。人間界の時と違って憎しみを基にした怒りを向けられている訳ではないのだが、寝坊
したからって問答無用でザケルガとかは止めて欲しい。密かにそう思っているガッシュである。
「はい、一気に“飛ぶ”から掴まって。」
「うぬ・・・ぶ、ブラゴ!シェリー!またなのだー!」
ガッシュがイセーの手を握ると、彼女は静かに詠いだした。直前の彼女の言葉からして空間転移の手段
なのだろう。すると次第に彼らの身体が人間界から魔界に転送されていく時のように薄れ出したのであ
る。けれどもガッシュは不安がないのか、ブラゴとシェリーに別れの挨拶をしようと声をかけた。
「ブラゴ、ガッシュ君が・・・。」
「気にするな。どうせ奴の仕業だ。」
手を振るガッシュの消え行く様に目を見張るシェリー。そしてブラゴは気のない素振りでイセーを睨み
やった。彼らの目の前でゆっくりとガッシュ達の姿は薄れていく。さらに時を同じくして館に残された
ボードと紙の束も。やがて全ては光の粒子となって消え去り、ブラゴとシェリーだけが残された。
「帰った・・・ようね。」
「ああ。」
見た目は金髪の男児と黒髪の少女。その実態は魔界の王と伝説にある創成の女神の化身。とてもそう
は見えないが、やはり他者に与える存在感は相当のもののようだ。単に性格や行動がぶっ飛んでいると
いう説もあるけれど。ガッシュとイセーがいなくなりシェリーは場の空気が変わったような気がした。
それをブラゴに告げてみれば、彼は面白くなさそうにイセーの張った結界が解除されたせいではないか
という見解を述べた。ファンタジー的な言い方をするなら大気に含まれたエーテルの流れとでもいうの
だろうか、そういったものが結界が消えたことにより変化を生じても不思議ではない。
「彼女・・・やはり力の強い魔物なのね。」
ブラゴとガッシュの動きを封じた術といい、実力は底が知れない。それに真意も掴みにくい相手だった
ように思う。シェリーはまた溜息をつきたくなってきた。魔界にきてからというもののカルチャーショ
ックの連続だ。
「どうしたシェリー、何もしていないのに疲れたのか?」
「疲れさせたのは貴方達でしょうが!すぐ喧嘩するし、窓やテラスは壊すし・・・。」
そんなシェリーに対して平然としているブラゴに何だか腹が立ち、彼女は久し振りに説教モードに入ろ
うとする。かつては人間界の常識を知らない彼にアレコレ言ったものだが、魔界に来てからは自分がこ
ちらの常識に無知であった為にどちらかといえば自分が聞き役になることが多かったのだ。
「別に壊れたのはお前の家ではないだろう。何故お前が文句を言うんだ。」
「そういう問題じゃないわ!?」
本気でシェリーが説教をしている理由が分かっていないらしいブラゴは、面倒臭そうにしている。
「大体貴方は会った時から乱暴で・・・。」
目を三角にして、人差し指をピンと立てて、言い聞かせるように、けれどもブラゴにとってはクドクド
と、シェリーは彼にお説教する。こんなことができるのは魔界でも人間界でも彼女くらいのものに違い
ない。他の相手なら彼は逆に黙らせるか、適当に話を打ち切って立ち去ることだろう。
「全く、人間界では少しは成長して立派になったと思ったのにこれじゃあ昔と変わって・・・。」
「キャー!?」
なおもシェリーが言い募ろうとした所で、館から女性と思われる悲鳴が上がった。
「シェ、シェリー様のお部屋が・・・!窓が・・・!」
漏れ聞こえてくる声で、シェリーの寝室に使用人が立ち入ったことが分かる。さしずめ、結界がなくな
り、食事の時間になっても姿を現さないシェリーを不審に思って様子を見に来たのだろうか。そして壊
れた窓を見て驚いているに違いない。きっと後でテラスの惨状にも驚かされることだろう。ついでに庭
も。流石に魔界の王様が電撃訪問で大暴れ(?)なんて理由は思いつかないだろうが。
「シェリー様は一体!?これは・・・。」
「チッ・・・騒ぎすぎだ。」
「戻った方がよさそうね。」
舌打ちしたブラゴにシェリーはそう結論付ける。そして彼女は館に向かって歩き出した。ブラゴは無言
でシェリーの後に続く。ブラゴの手を借りれば庭から寝室に戻ることも可能だが、そうでなければ出入
口のある場所まで歩くしかない。そしてシェリーが頼まなければブラゴが自主的にそうすることもない
だろう。
「皆にどうやって説明したらいいのかしら・・・。」
「フン、必要ない。」
「また貴方はそうやって・・・。」
思案顔のシェリーに気のない返事をするブラゴ。けれども相槌を打つだけでも彼にしてみればかなりの
進化であることを忘れてはいけない。館内の気配はますます慌しくなっていく。そのほとんどは悲鳴だ
ろう。角を曲がってからも『ぎゃー!庭がー!?』とか『何だこれは!?』とか、金切り声も混じって
驚く声が聞こえてくる。シェリーは申し訳ないような気分になった。だが、彼女にどうして止められよ
う。ガッシュとブラゴの大喧嘩など。人間界にいる時は術を唱えなければいいのだから、被害はこれ程
広がるまい。それともガッシュのパートナーである清麿がいたなら止められたのだろうか。あるいは清
麿がガッシュを、シェリーがブラゴを相手にすることで止められるのかもしれない。
(今更こんなこと悩んでも仕方がないのかもしれないけれど・・・。)
「・・・何を考えている、シェリー。」
「別に。何だっていいでしょう。」
いつの間にか横を歩いていたブラゴの声に、シェリーは気のない素振りで答えた。
シェリーとブラゴが館内に戻ると予想通りの大騒ぎだった。シェリーの世話係だった女は彼女の無事
を喜んでいたが、何故窓ガラスやテラス、さらには庭が崩壊していたかに関しては、シェリーもブラゴ
も誰が聞いても沈黙を守っていた。いや、ブラゴは元々雄弁ではないが。
「修理に時間がかかるそうね。今日中に終わるかしら・・・。」
二人で遅目の朝食を取りながら、シェリーは溜息をついた。大抵食事はブラゴと一緒に食べるシェリー
である。彼女が憂慮しているのは自分に与えられた部屋のこと。あの状態で天気が崩れようものなら、
どうなっていたことか。
「間に合わないようなら別の部屋を用意させる。」
「べ、別に変えて欲しいって催促してる訳じゃ・・・。」
「それとも・・・俺の部屋に来るか?」
「え?」
ブラゴと申し出にキョトンとするシェリー。
(確かにブラゴの部屋で寝れば命の危険は心配ないわね。今更人間だからって襲ってくる魔物もいない
ような気もするけど・・・。)
彼の申し出を意外に思いつつも彼が傍にいれば安全だろうと彼女は思った。
「ただし・・・安眠は保証せんがな。」
「安眠は保証しないって・・・。」
ブラゴに告げられた言葉をシェリーは
「ま、まさか・・・!」
「何を想像した。」
カァアアッと顔を赤くしていくシェリーにブラゴは余裕の表情を崩さない。
「俺と一緒に寝るんだ・・・楽しませてもらわないとな。」
「あ、朝から何考えてるのよー!?」
堪らずシェリーは椅子から立ち上がり叫んだ。その瞬間、館全体を震動が襲う。
「きゃ!?」
「今の魔力は・・・。」
バランスを崩しかけたシェリーだったが、何とかテーブルに掴まることで倒れることは免れた。そして
ブラゴはどこか遠くを見るように壁を見つめる。それはシェリーの記憶が確かなら王都、そして王城が
ある方角だった。
「どうやら・・・向こうは早速派手にやったらしいな。」
「は?貴方、何を言って・・・まさか!?」
ブラゴの言葉に初めこそ怪訝にしていたが、シェリーはハッと通信機から聞こえてきた少年の言葉とイ
セーの発言を思い出した。
「どうやら雷帝殿は相当お怒りらしい・・・。」
「ガッシュ君・・・無事だといいけれど。」
クツクツと皮肉めいた笑いを漏らすブラゴ。シェリーはそこにいるであろう金髪の少年を心配し、王都
への方角を見つめるのだった。
――――――――――なお、この日王都では城から特大の電撃が迸るのが目撃されたという。