3、ワニの丸焼き定食お待ち





 朝になれば日が昇り、夜になれば月が昇る。一日は二十四時間で一年が三百六十五日という訳ではな いかもしれないけれど。そんな謎が一杯の魔界にもとりあえず人間界でいう所の朝がやってきた。新王 は決定したものの課題は山積み、とりあえず王城では昨日も今日も明日も大忙し。その内生真面目な魔 物がキレて暴れださないことを祈ろう。

 さて、そんな王城から離れたとある魔物の居住地で、シェリーは目を覚ました。彼女はかつて魔本の 持ち主として王を決める戦いに関わったのだが、諸事情により魔界への滞在を余儀なくされていた。そ んな彼女は現在、元パートナーのブラゴの家に居候している身である。他にも彼女以外に魔界の空気を 吸う羽目になってしまった人々が王城にて世話になっていた。それが城に勤める面々が多忙である理由 の一つである。詳しい事情については当お題の五番『強い人弱い人』を参照にしてください。

「ん・・・。」

当初は様々な混乱や葛藤があったものの、いつしかブラゴの家で寝起きすることにも慣れ始めた。一応 ベッドはあるし、食べ物も元が何なのか考えさえしなければ食べられないこともない。野宿で正体不明 の生き物の丸焼きを食べさせられるよりかはマシである。

「・・・あ、さ?」

うっすらと瞼を開けた彼女の声は掠れていた。しかしこれは寝起き特有のそれだろうから、問題ない。 別に風邪を引いたとかいうことではないのである。辛うじて浮上した意識はともすれば再び眠りへと誘 われそうな予感を孕み、身体を動かすには重みを感じた。

(起きなきゃ・・・。)

シェリーは眠気と格闘しながらそう思った。それに惰眠を貪るのは性に合わない。けれども瞼がスッと 開いていかないのは、彼女が疲れているからだろうか。知らない内に魔界にいることがストレスになっ ていたとしても、その可能性は否定できない。そんなぼんやりとした思考がシェリーの頭を支配してい ると、ギシリとベッドのスプリングが鳴るような音がした。

(何の音・・・?)

窓の外とかではなく結構近くで聞こえたような気がしたのだが、それが何なのか普段は聡明な彼女とい えども珍しく寝惚けモードに入っているらしく、反応が鈍い。そして何かが動く気配がした。

「さ・・・む・・・?」

肩から胸元にかけて、急に寒さのようなものを覚える。身体を包んでいた温もりが剥がれ、冷気が滑り 込んできたような感覚だった。

(何・・・?)

 シェリーはゆっくりと、だがしっかりと瞼を上げていく。意識は浮上の一途を辿り、完全に目覚めよ うとしていた。そして彼女の開いた視界に飛び込んできたのはここ最近で見慣れつつあった部屋の天井 ではなく、蠢く黒と灰色だった。ついでに己の上に圧し掛かっている重みを認識する。

「・・・え?」

思わずパッチリと目を開けてしまったシェリー。先程までの眠気もどこへやら。疑問やら羞恥やら様々 なものが脳裏を駆け抜ける。寝起きでいきなり混乱の坩堝に叩き落されそうになった彼女だが、とりあ えずいろいろなことを含んだ第一声だけは上げることができた。それは即ち・・・

「ブラゴ!?」

自分の上に跨っている物体の正体の名前を呼ぶことだった。

「何だ、起きたのか。」
「な、なん、何だっ・・・て・・・!?」

平然としている相手の男に対し、シェリーの言葉は言葉にならない。そうこうしている内に彼は彼女の 寝間着の閉じた前を開こうとする。要はパジャマの前ボタンを外す行為だ。まあ、シェリーが着ている のは前開きのネグリジェとでも言った方がそれっぽい物ではあるけれど。というか朝っぱらから何を仕 出かすつもりだ。そんな感じのツッコミに似た思考がシェリーの頭の中にも浮かんではいたものの、驚 きが先に立ちどうすることもできない。

「ちょ・・・ちょっと!ブラゴ?貴方何でこの部屋にいるのよ!?」
「ノックはしたぞ。」
「しかも何で上にいるのよ!?」
「お前が寝ているからだ。」

しかしながらこのまま放っておくのはまずいことになりそうなので、シェリーは焦りつつも疑問をブラ ゴにぶつけていく。だが、二人の会話は噛み合っているようで噛み合っていない。

「だからって!何脱がそうとしてるのよ!?」
「今から鍛錬に行く。だからお前も付き合うんだ。」
「はあ!?それがどうこの状態に繋がるのよ!!」
「その格好で出かける訳にはいかないだろう。だから着替えを・・・。」
「だったら起こせばいいでしょう!着替えくらい自分でできるわよ!」
「起きろと言っても起きなかったのはそっちだ。」

いくら何でも年頃の女性である彼女が男相手に着替えさせられるなど冗談ではない。下手したら完璧に 剥かれてとんでもないことになる。慌てたシェリーは尚も脱がしにかかるブラゴの手を止めようと抵抗 し始めた。二人の微妙な攻防戦。シチュエーション的には深読みするといろいろ問題ありである。とり あえず一言述べるなら朝の爽やかな空気が台無しだ。

「それに起きなければ俺が着替えさせると言ったはずだ。」
「聞いてないし!知らないし!大体寝てるんだから聞こえるわけないわよ!?」

ごもっともな意見であるが、当のブラゴはシェリーの主張もどこ吹く風である。

「いいから大人しく脱げ。」
「そんなことできるわけないでしょうが!?」
「チッ・・・やけに抵抗するな。」
「舌打ちしないでよ!・・・て、どこまで脱がす気よー!?きゃあああああ!!」

朝から騒々しいことこの上ない。

「分かった!分かったから!!すぐ着替える!自分で着替えるから!だからどいてー!!」
「・・・本当だな。」
「ほ、本当よ・・・!」
「嘘だったら逆に起き上がれなくしてやるからな。」

そう言ってブラゴはすでに露になっていたシェリーの胸元に手を置き、指でツゥッと彼女の鎖骨辺りを なぞった。そして彼女が見たのは彼の何かを含んだようなニヤリとした笑い。シェリー先程脱がされか けていた時とはまた違った羞恥を覚える。そして今度はさらにブラゴの顔が接近し、完全に押し倒され たような体勢となる。

「分かったな。覚悟しておけ・・・。」
「ブラ・・・ゴ・・・・・・きゃ!」

宣告ついでとばかりに、ブラゴは彼女の白い首筋に噛み付くように口付けた。強い痛みを感じた訳では ないが、肌を吸い上げられた感覚に自然と身体が震えてしまう。そして唇が離れればくっきりと残る紅 い痕。さらにブラゴは自らつけたその痕に舌を這わし・・・

「な、何舐めてるのよ!?馬鹿ぁあああああ!!」

シェリーに叫びと共に振り下ろされたフレイルの一撃を受けるのだった。





(何だか・・・魔界にきてからツッコミを身につけたような気がしないでもないわ・・・。)

 ブラゴが術を発動する後姿を眺めながらシェリーは思う。朝の騒動もあり、精神的な疲労が蓄積して いる気がする。事あるごとにツッコミを入れていた清麿の苦労が何となく分かったような気がした。彼 はボケもツッコミも一人でよくこなしていたものである。実は王様になってからもガッシュは見事なま でのボケを発揮しティオに首絞めという名のツッコミを受けていたりするのだが、それはシェリーの与 り知らぬ話である。

「今日もいい天気ね・・・。」

ぼんやりと見上げた空は人間界のような青空だった。何でも場所や時間によってこの色は変化するらし く、一先ずこの時間のこの場所では青い空と白い雲がシェリーの視界に広がっていた。こんな空を見て いると、ここがつい魔界だということを忘れてしまいそうになる。

(もう魔界に来て一ヶ月以上経つのよね・・・その間私達って神隠し扱いだったりするのかしら?人に よっては覚悟の失踪?家に帰っても何て説明する?それにココや爺には・・・。)
『その辺はこっちで適当に辻褄合わせしますんで、問題なくー。』
「はぁ、そうなの・・・て、え!?」

心の疑問に返答があり、尚且つそれに相槌を打ちかけたシェリーは慌てて周囲を見回した。けれども彼 女の近くには誰もおらず、大分離れた場所で暴れているブラゴの姿があるのみである。

(き、気のせい?でも空耳にしては・・・。)

一応ここは魔界であるので、そこら辺の木が急に話し出したりしても驚いてはいけないのかもしれない けれど。

「ブラゴ・・・!」

だからといって単なる空耳と判断するには危険すぎる場所である。シェリーは周囲の気配に気を配りつ つも、ゆっくりとブラゴのいる方へと移動し始めた。あまり彼を距離を置かない方がいいかもしれない と判断したのだ。フレイルを握り締め、周囲に気を張ってから一分、そして二分と時間は経過する。そ して五分程待ってみて何も起こらなかったことで、ようやくシェリーは一息ついた。

(やっぱり気のせいだったか、そうでなくともこちらを襲う意志はなかったってことかしら。)

完全に油断はできないが、それでもシェリーはこっそりと胸を撫で下ろす。一応ブラゴと合流し、この 事を話しておこうと思った。そして程なく彼女は行動に移ることとなる。魔界の空は今もなお、青かっ た。

「シェリー、どうした。」

 シェリーがある程度の距離まで近づくと、振り返りもせずブラゴは彼女に声をかけた。術を使わず、 体術のような鍛錬にいつの間にか切り替えていたのは、彼女の接近を知ってか知らずか。

「いいえ、その・・・何という訳ではないんだけど・・・・・・。」

もしかしたら本当に気のせいだった可能性もあるので、シェリーは言いよどんでしまう。

「腹でも減ったか。」
「貴方と一緒にしないでちょうだい!」

人間の、しかも女性の食欲を魔物と同じにしないでもらいたい。デリカシーの欠片もないブラゴの言葉 に反射的に言い返すシェリー。まあ、ガッシュにしろ、彼にしろデリカシーを求めにくい魔物は確かに いる。そもそも意思の疎通や会話が通じるか疑問の連中もいらっしゃることだし。

「まあ、いい。少し早いが飯にするか。」
「だから違うってば!」

朝と同様シェリーの文句をブラゴは聞く耳持たずな状態だ。

「今から獲物を仕留めてくる。ここで待っていろ。」
「だから、ちょ・・・ブラゴー!?」

そしてブラゴはさっさと森の中へと姿を消してしまう。後にはポツンと一人シェリーが残された。静け さだけが空気に広がっていく。

「本当にまだお腹空いてないんだけど・・・。」

その前に獲物を仕留めてくるって何を狩ってくるつもりなのか。恐ろしく先行き不安になるシェリー。 けれども今更追いかけていってもブラゴに追い付ける自信はない。

(だ、大丈夫よね・・・?)

例の気配なき声やらブラゴの土産やら、いろいろな意味を込めての自問だが、一先ず己を言い聞かすこ とにするシェリー。ひたすらマインドコントロールである。

(ブラゴが私から離れたってことはそれ程危険じゃないってことよね。多分恐らくきっと。本当に何も いないか、いても脅威にならないレベル。もしくは攻撃を仕掛けられてもブラゴが戻ってくるまで私一 人でもたせられるとか・・・。)

グルグルと回る思考は恐らく彼女の不安にも起因しているのだろう。何だかんだ言ってもここま人間界 ではなく魔界なのだ。彼女がここで頼ることができるのはブラゴを含む僅かな魔物達のみである。普段 どれだけ気丈に振舞っていてもやはり心の片隅に不安はあるのだ。

(ブラゴ・・・早く戻ってきなさいよ。)

そして今のシェリーには良くも悪くも頼れる相手はブラゴしかいないわけで。結局思考は彼に関するこ とに落ち着くのだ。

「ブラゴ・・・。」

苛立ちを込めて発したはずの声は思ったより切なさに満ちていた。
 ところが、やがてブラゴが戻ってくるとシェリーの心情にもたらされたものは、安心でも何でもなく て、脱力感と一歩身を引きたくなる感情だった。自分でも笑顔が引きつっているのが分かる。もしかし たら、すでに浮かべている表情は笑顔ではないのかもしれない。そこはかとなく明後日の方向に遠い目 をしたくなるような[ぬる]い心境とでもいう のだろうか。思わずトロンとした目つきでブラゴと彼の持ってきた [ブツ]を見遣ってしまう。

「ぶ、ブラゴ・・・?い、一応、念の為、聞いておくけど、そ、それは・・・・・・?」

正直答えなんぞ知りたくも何ともないが、状況的に聞かなければならない気がして、シェリーは声を搾 り出す。

「ゲタリタだ。」
「はい?」
「ゲタリタだ。味は・・・そうだな、人間界で言う所のワニと似た味だな。」

シェリーの質問に淡々と答えるブラゴ。でもそんな説明をしてもらった所で、嬉しくも何ともない。た だ、不審な物を見る目つきで例の物を凝視する。そう、これはあくまで人間界の生物に例えればの話だ が、それはワニというよりは巨大なイモリである。成体のナイルワニのサイズとでも比較しても見劣り しないのではないだろうか。形はイモリだが、体色は蜘蛛や蛇のように毒々しい斑模様だ。基本のベー スとなっているのは黒と黄色。さらに、赤、紫、白、青、緑といった色まで混じっている。とりあえず 無駄に派手な色合いだ。そして目に痛い配色である。

「こ、これ・・・まさかとは思うけど・・・食べる、の?」
「何を今更・・・ああ、そうか。まだ焼いてなかったな。安心しろ、お前の分はちゃんと焼いてやる。 生で食えとは言わんさ。」
(そんな気遣い要らないー!?)

口に出すと本当に生で渡されそうなのでシェリーは心の中で絶叫した。できることなら両手で頭を抱え て、ついでに現実逃避してしまいたい。切にそう思うシェリーである。見た目もアレだが、焼いた所で 本当に食べれる代物になるのだろうか。ブラゴとジャングルでワニを焼いて食べる羽目になった経験は あるが、魔界でもこのパターンから逃れられないというのか。

「ああ、本当に焼き始めてるし・・・。」

シェリーの嘆きはブラゴには届かない。このままいけば極彩色巨大イモリ・・・もとい、ゲタリタの丸 焼きを口にすることとなるだろう。最早彼女には味はワニだというブラゴの説を信じるしかない。また 食べないで済ますとかこの場から逃亡するという選択肢は最初から存在しないので悪しからず。

(料理の形で加工されてたら、ワニの丸焼き定食お待ち〜って感じね・・・いや、ワニでもイモリでも なくゲタリタっていう生物らしいけど・・・・・・。)

火に焼かれていく例の物体を眺めながら何となく覚悟を決めているシェリー。とりあえず皮の部分はか じりたくないと頭の片隅で思うのだった。



 ゲタリタの丸焼きは幸いなことに何とか口にできる味であった。ただし、シェリーは皮の部分は食べ るのをしっかり遠慮させてもらったが。魚は皮岸が旨い場合もあるけれど、流石に生の色合いを見た後 でそれを食べようとは思えなかった。何と言っても色が毒々しすぎる。

(食べられる時に食べなきゃいけないのはブラゴとのサバイバル生活で慣れさせられたから食べるけど それにしたって・・・。)

生温いテンションが続く中、ちょっと半眼になりつつもブラゴを観察するシェリー。倒れた木に腰掛け ている彼女に対し、ブラゴは地べたに座り込む体勢だった。

「よく、食べるわね・・・。」

以前から彼が大喰らいであることは知っていたが、目の前の相手はガツガツと食料を貪るのに忙しそう だ。毎度のことながら感心できそうな勢いだ・・・ある意味。

(今なら・・・聞けるかしら?)

そんな中、ふとシェリーは思う。ずっと疑問に思っていたことを今なら聞けるかもしれないと思った。 すでに魔本がない今、何故鍛錬にブラゴが彼女を連れて行くのかを。後ろで見ているだけなのに、何度 も連れ回すのかを。世間話のように自然に口に出せるかもしれない、ふとそう思った。

(でも・・・ブラゴは何て答えるのかしら。もし、疎まれているようなことを言われたら・・・私、ど うしていいか分からなくなるかもしれない。ただでさえ、ブラゴに甘えてしまっているのに・・・。だ けどこのままじゃ・・・・・・。)

俯いて葛藤するシェリー。視線は落ち着かず彷徨い続けていた。

(ねえ、ブラゴ・・・。どうして私を修行に付き合わせるの?何故わざわざ私を連れて行くの?何でい つも私なの・・・。)
「どうして貴方は傍にいてくれるの・・・?」
「シェリー・・・!?」
「・・・あ!?」

シェリーは無意識の内に頭の中で考えていたことを口に出してしまっていた。そしてブラゴから向けら れた驚き混じりの表情でそれに気づく。彼女は羞恥心と自己嫌悪で頬を染め、さらに蒼褪めた。なかな か器用な顔色変化だが、その辺のツッコミを入れてくれる相手は幸いなことに誰もいない。シェリーは 唇を震わせ、ブラゴは彼女をの顔を凝視する。

「あ・・・私、その・・・ごめんなさい!何でもないの!何でも、ない・・・の、よ?だから気にしな いでちょうだい、ブラゴ。」

何とかそう言うものの、強張った笑顔は痛々しい以外の何物でもなかった。

「シェリー。」
「あ・・・ブラ・・・ゴ・・・。」

ブラゴが立ち上がり、彼女の側へと近づく。彼の赤い瞳が彼女の視線を絡め取った。舌が乾いてしまっ たのか思うように声が出ない。ただ彼女はブラゴから目を離すことができず身体を固まらせていた。肩 にブラゴの手が触れる。

「分からないか?」
「え?」
「俺が何故お前と共に在ろうとするのか・・・。」
「ブラゴ・・・。」

見つめ合うシェリーとブラゴ。そして彼は彼女の [あご]に手をかけると、そのままゆっくりと 顔を近づけ・・・

「あの〜、お取り込み中の所すみません。ちょっといいですかー?」

唇が触れ合う直前で寸止めする羽目になった。突如現れた第三者の声によって。

「えーと、本当はもっと前から話しかけようと思ってたんですけど、タイミングが掴めなかったという か、やっぱりお二人が揃っている時にした方が警戒されずに素直に聞いてもらえるかなーとか思ったり しちゃいまして・・・。」

 シェリーの前方にしてブラゴの後方。そんな立ち位置にいたのは一人の少女だった。姿形は人間のそ れと相違なく、ここが魔界でなかったら本当に人間と思われていたかもしれない。多少特別変異がある のだろうと思われる程度の。そう、少女は一見すると人間のようだった。髪の色は黒く真っ直ぐでサラ サラとした質感が見て窺える。両サイドの一部を下ろして、残りは後ろでポニーテールの形に結い上げ ていた。目鼻立ちは整っているが、幼さを残した顔の造作だった。人間で言うならば十四、五歳程では ないだろうか。瞳は右が赤く左が青のオッドアイ。小柄な身体はタートルネックのワンピースとでもい うような衣に包まれていた。無地で何の飾り気もない衣装だが、柔らかそうな生地で、色は白。ノース リーブの袖口から覗く腕は象牙色の肌をしている。

「でも・・・やっぱりお邪魔でした?」
「邪魔だ。」
「うわ!本当に言い切りましたよ、この方!」

小首を傾げて伺いを立てた少女の言葉にブラゴは断言した。キッパリと言い切ったブラゴに即座に少女 が口に出したのはツッコミのようなセリフ。誰へ言うのでもない、むしろ一人ボケツッコミ的なニュア ンスが込められているようだったが、ブラゴはいい所を邪魔されて苛立ちを込めた視線を少女に向けて いたし、シェリーは驚きと恥ずかしさのあまりに固まってしまい、一言も声が発せられず、金魚のよう に顔を真っ赤にして、口をパクパクさせるばかりだ。即ち誰も気にしちゃいない。

「えーと、どーしよ・・・。と、とりあえずそちらのお姉さんを驚かせちゃったみたいなんで、ごめん なさい!本当にそんなつもりじゃなかったんですよ?」

少女はペコリと頭を下げてシェリーに詫びる。その仕草や表情はどこか人懐こい印象を受けるものだっ た。彼女は初対面でも相手の懐に易々と入り込み、それでいて警戒心を持たれない、そういったタイプ の少女らしい。彼女の持つ空気は自然と相手を許したくなるものだった。もっともブラゴとシェリーに 関してはタイミングが悪かったせいか、そう簡単に受け入れてくれそうになかったのだけれど。

「あたし、本当にお役所仕事っていうか、調査にきただけなんで、悪意とか殺意とか害意とかなかった んですよ?言い訳に聞こえるかもしれませんけど・・・。」

身振り手振りを交えて主張する様は一所懸命で、確かに敵意のあるようには見えない。ここにきてよう やくシェリーの硬直が解けてきた。見られたことに対する恥ずかしさは消えず、頬は相変わらず染まっ ていたけれど。一方ブラゴは先程からずっと少女を睨みつけている。彼の鋭い視線に晒されているのに 萎縮することなくこんな態度を取れるのは、自分のことで頭がいっぱいなのか、彼の怒気や殺気に当て られても平気な大物なのか。

「うーん、どうしよ・・・できるだけ穏便に済ませてくれって言われているし、下手してあたしの本性 バレたら問題かもしれないし・・・。」

ブラゴ達から目を逸らし、ブツブツと呟く少女。彼女の独り言は小さすぎて至近距離であるのにブラゴ の耳にすらはっきりと聞き取れないものだった。彼は無言で少女の出方を伺い、シェリーもまた心拍数 が落ち着いてくる。やがて少女もまた沈黙し、静けさがしばし空間をした。





To Be Continued・・・




<後書き>
 これは同じお題5の「強い人弱い人」同設定続編に当たる話です。実は二人はすでにそういう関係だ と、前作でもちょっとだけ匂わせてあったりしたんですけど、果たして分かった人はいたんでしょうか ね。書いた本人が言うのも難ですけど、本当に米粒程度でしかも深読みしないと分からないだろうな〜 と思っていたので。そして前回がシリアスぽかった分、今回はコメディぽくに明るくなるよう心がけま した。まあ、ちょっとシリアスっぽい描写もありましたが。
 正直書いていて照れが先行してしまうシーンもありましたが、少しはCPっぽくなったでしょうか。 これまでこの二人の絡みが他のお題では少なかったせいもあり、糖度を間違えてしまったような気がし ないでもありません(苦笑) そして今回はあからさまに続く形となりました。その証拠にラストの英 語は?マークがなしなのです。というか、またオリキャラかよ自分・・・(汗)



2007/04/21 UP