この話は三番目のお題『ワニの丸焼き定食お待ち』にダイレクトに続くエピソードなので、そち らを先に読んでからこちらを読むことをお薦めします。





7、最強の言葉





「まーいいや。あたしが用があるのはこっちのお姉さんだし。ねえ、お姉さんがシェリーっていう名前 の人間さんでいいんですよね?」

 やがて少女はニッコリと笑うとシェリーに目を向けた。何故彼女が己の名前を知っているのか。魔界 では知人がほとんどいないはずの己に一体何の用があるというのか。シェリーは一瞬目を見開くと、警 戒するかのように咄嗟にフレイルへと手を伸ばす。ブラゴもまた彼女を庇うかのように立ち位置を変え た。二人の中に緊張が走る。少し前の人懐こそうな印象が一気に吹っ飛んだ。

「・・・この反応は、正解ってことで判断していいんですかねー。」

左手を頬に当てて少女が言う。少しだけ困ったように見えるのは本気かそれとも演技か。

「何者だ。」
「何者と言われましてもー・・・。ただちょっとそろそろ時間が押している個人的事情がありまして、 できれば早く先程の質問の答えをいただいて、本人確認を済ませたいんですよね。」
『・・・。』

眉を顰めるシェリーに眉間に皺を寄せるブラゴ。二人は無言で少女を見詰める。

「あー、そんなに警戒しなくても・・・えーと、じゃあ、とりあえず目的だけ!あたし、ここにはお仕 事で来てるんです。可愛い王様とラグナの長官の許可もちゃんと取り付けてますから、大丈夫ですよ? これでもあたしはラグナっていう機関に所属してまして、一応そこから派遣されてきたことになってる んですよー。あ、これってある意味、さっきの“何者”かに対する答えかも。」
『ラグナ!?』
「ラグナが魔界でどんな風に捉えられているかはそっちのお兄さんが知ってると思いますんで、気にな るようでしたら後で教えてもらってください。それで今、魔界で再生させちゃった人間界の方々にアン ケート調査みたいなものしてるんですよね。今後のことにも関わってきますし、一応あたしにも責任あ りますし・・・。そんな感じなんでぜひ協力を!」

元黒本コンビの睨みを綺麗に受け流し、力説する少女。なかなかできない芸当である。

「お城にいる人達にはもう聞き出しちゃったんですよー。あの人達ってばすっかり人間不信ならぬ魔物 不信に陥っちゃったみたいで、なかなか大変でしたね。全く誰が生き返らせて尚且つ世話してやってる と思ってるんでしょーね。可愛い王様もこんな人達の報告聞くよりは人間界に使者でも送って相棒さん と文通でもした方が幸せな気分になれるでしょーに。」
「はあ・・・。」

魔界に放り出された人々の気持ちも分からないではないが少女の主張も何となく分かる気がして、曖昧 な返事をするシェリー。ブラゴも相手がラグナ出身と言っているせいか問答無用で術を発動させて邪魔 者排除という訳にもいかず、反応に困っている。

「ともあれ、後はシェリーさんを残すのみ!・・・て、お姉さんがシェリーさんで本当にいいんですよ ね?それでこっちのお兄さんがブラゴ。」
「え、ええ、貴女が言うシェリーは・・・多分私のことだと思うわ。」

 いろいろと疑問に思う点はあるが、とりあえずシェリーは肯定の意を示す。今更隠してもどうにもな らない気がしたし、ここで肯定しておかないと事態が進んでいかないようにも思ったので。そこら辺の 分析の速さは流石と評すべきか。少女の持つテンポは独立していて、そして強い。けしてそうは思えな いのに、全てを絡み取る存在感を持ち合わせている気がした。慎重にならなければいけないかもしれな いと思う。けれどもそうなりきれない予感がする。シェリーは握った手の平が少しだけ汗ばむように感 じた。思考は目まぐるしく動いている。

「そういうわけで、早速調査開始していいですかー?」
「ちょっと待って!その前にこちらからもいくつか確認したいことがあるの。いいかしら?」
「そーですねー。あたしに答えられる範囲でしたら。」

安請け合いとも取られかねないほどあっさりと、少女は答えた。

「・・・そうね。まずは背後関係を知りたいわ。貴女は仕事で私に会いに来たと言ってたけど、それは 新王の命令?それとも貴女が所属する機関としての仕事?」
「・・・うーん、命令というよりは可愛い王様の頼み、でしょうか?でもラグナも全く無関係って訳と は言えないですし。どういう言い方をしていいものやら・・・。でも半分はそーですね。お仕事です。 もう半分はあたし自身が知って、見極めたい部分があるから・・・かな?」
「見極める・・・何を?」
「そーですねー、とりあえず今はシェリーさんを見極めてみたいかな?ついでにそちらから 敵愾心[てきがいしん]を含んでそうな視線を向 けてくださってるお兄さんも♪」
「ブラゴ・・・。」

確かに彼は少女に鋭い視線を向けていた。

「ブラゴ、止めなさい。彼女の含んだような物言いが癇に障ったのかもしれないけど、相手には相手の 事情があるのでしょう?それにまだ話し始めたばかりなのよ。不明な点が多いのは仕方ないことだわ。 笑顔を振りまけなんて言わないから、そんな態度を取らない!」
「わー、凄いですねー。流石、王候補育ての経験者。でも、シェリーさん。お兄さんがあたしを睨んで いたのって、それだけじゃないと思いますよ。」
「え?」
「心配しちゃってるんですよねー?このお姉さんを。」
「な!?」
「私を心配・・・?」

ブラゴの方を向いて少女はニコニコと言い放つ。少女はブラゴの態度の悪さはシェリーを心配する故の ものだと指摘した。しかもブラゴの反応からして図星らしい。それに気づいたシェリーはまた顔を赤く した。

「いーじゃないですか、それも愛。不器用で可愛らしい示し方だと思いますよ?ガッシュちゃんとはま た違った意味で面白い可愛さで。お兄さんが王様になったら不器用可愛い王様って感じですかね、長い けど。」
「止めろ!?」
「そ、それよりさっきから気になっていたんだけど、“可愛い王様”って・・・?」
「んー、知ってると思うけど、ガッシュちゃんのことですよ。だって、あの子可愛いじゃない?いろい ろな意味で。ひょっとしたらこれまでの王様の中で一番可愛いかも・・・だから可愛い王様。」

どこか含みを持たせているような少女の言葉。楽しそうに告げる表情の中で、瞳だけがどこか遠く、懐 かしいものを見ているようで。シェリーは何か、違和感のようなものを覚えた。

(何だか・・・まるで歴代の魔界の王のことを知っているような口振りね。でもそうすると彼女は何千 年も生きているということになるわ。いくら何でもそんなに長生きだなんてことは・・・。)

シェリーはふと頭に浮かんだ疑問を振り払うように軽く首を横に振った。

「千年振りに起きた初仕事だったけど、願いも一所懸命で可愛かったし・・・ちょっと予想してなかっ た事態が発生したのは驚いたけど、何だかんだで“絆”の強さですしねー。うんうん。」

少女は一人納得しているが、彼女の発言は謎が謎を呼ぶ内容だった。しかもそれはこの発言に限ったこ とではない。

「あれ?何か御二方、不審というか警戒した目つきになってません??あたし、ひょっとして怪しい発 言でもしてました?うーん、まだ寝惚けが残ってるとか・・・それともジェネレーションギャップなの かも。むー、そんなにあたしって信用できない感じですかね。せっかく外見だって人間らしくしたのに 効果ゼロだなんて・・・。やっぱり可愛い王様が言った通り、気難しいのかな、このコンビは?」

挙句の果てにシェリー達に話しかけているのかそれとも独り言なのか分からない感じでブツブツと呟き 出す始末。相手の存在や意図が謎過ぎてやっぱり反応に困るブラゴとシェリーだった。

「ともあれ!後の予定が詰まってるので、そろそろ本題いきましょー。次のお仕事になるかもしれない ことをきっちり完遂する為にも、あたしは魔界全土を可及的速やかに漫遊しなければならないのであり ます!というか千年振りに起きて早々よく頑張った!あたし!」

 何気に気になる発言をしていることに本人気づいていないのか、一先ず仕事が片付こうとしているこ とに喜びを示す少女。さらに自画自賛。けれどもシェリー達にとっては問題発言が多すぎた。

「ちょ、ちょっと待って!」
「あれ?ひょっとしてまだ心の準備必要ですか?」
「そ、そうじゃなくて!ちょっと確認しておきたいのだけど、貴女、今、千年振りって言わなかった? しかも眠っていたなんて・・・。ひょっとしてあの石版に封じられていた千年前の魔物の一人ってこと なの!?」

まさかという思いとそうではないかもしれないという疑問、勢いに任せて出てきた言葉はこんなもの。 シェリーのペースが狂っている。そう、最初に危惧していた少女のテンポに絡め取られてしまったよう だ。

「・・・あ、言っておきますけど、あたし、前回の王決定戦に参加してませんよ?ある意味関係者だと 言うのは否定しませんけど。」
「で、では・・・貴女は石版の魔物ではなく・・・。」
「あっはっは★ こんな見た目してるけど、魔界では結構古株なんですよー、あたし。存在している期 間だけなら長老級とでも言いますかー。」

妙に若々しく元気溌剌[はつらつ]に語ってくれ るが言っていることがかなり似合わない。

「その気になれば幼児から老人まで変化できますので、場合によって 人格[タイプ]を変える行為も染み付いてしまっ たといいますか・・・正直どれくらい生きてるかなんて、たまに本人も忘れちゃいそうになりますし。 というか、もう数えるのが面倒臭くなっちゃって、実は数えてないんですよ?」

クスクスと笑う少女。シェリーは呆然とするしかない。もしやとは思ったが、彼女の話の流れからする と、少女はかなりの、それこそ悠久の年月を存在していたことになる。

「まー、あたしの実年齢は気にしないでください。」

気にするなと言われてもかなり気になる発言をされた後ではそれも困るというものだ。

「じゃあ、そろそろ、もう、本当に・・・ね?」
「え、ええ・・・。」

少女は笑顔だった。その口調もけして厳しいものではなかった。けれども有無を言わさぬ威力がそこに あった。彼女は本当に謎が多すぎる。まるで彼女が生きてきた年月のように。その時になってようやく シェリーは少女の名前すら己が知らないことに気づいたのだった。



「えーと、長くお付き合いいただきました。次が最後の質問です。こちらで準備が整ったら晴れて魔界 にいる人間の皆様は送還ということになるのですが、機会があったらまた 魔界[こっち]に来たいと思いますか?」

 少女は手元のクリップボードを見ながら質問文を読み上げる。因みに回答が自動的に用紙へと記録さ れる仕掛けだそうだ。しかも正直に答えないと警告音が鳴る。まるで嘘発見器だ。誤魔化しは通じない が分からなければ分からないと答えることは通じる。どこか奇妙な問答の果てにシェリーは最後の質問 を迎えた。ブラゴは時折顔をしかめるものの余計な口を挟むことはなかった。

(魔界にまた来たいと思うか・・・どう答えるべきなのかしら。)

シェリーはどう答えて良いのか迷っていた。直感とでもいうのだろうか。この質問にはすぐに答えては いけない気がした。それは事務的に言葉を紡いでいた少女が最後の質問にだけ一瞬口の端を上げたのを 目に捉えたからかもしれない。最後の質問だという達成感と解放感によるものなのだろうか。シェリー は何故か違う気がした。

(私は・・・いいえ、今魔界にいる人間は皆イレギュラー的存在だわ。本来ならこうして魔界で・・・ ブラゴと一緒に過ごすなんて有り得ないこと。人間界で本が消えてしまえば永遠に別れることになるは ずだったわ。あの時はすでに覚悟してあったつもりだけど、今は・・・。)

チラリとブラゴへと目を向ける。人間界でずっと一緒に戦ってきた、彼のおかげで親友を救うことがで きた、王にする誓いは果たせなかったけれど最期まで共にいた、魔界に来てからはずっと傍にいてくれ た。恩はある、親しみもある、情も・・・ある。今すぐ離れろと言われれば、きっとすぐには割り切れ ない。

「・・・魔界に、と言われたらどちらとも言えない気がするわ。ただ、また会いたいと思えるような魔 界の者はいる。その相手に会いたいのに会えない状況で、魔界に来れば絶対に会えるというのならば、 私は魔界に来たいと答えるでしょう。」
「シェリー・・・。」
「そう・・・何となく気持ちは分かりました。ではご協力ありがとうございました。」

シェリーの最後の答えに少女はニッコリと笑い、そして綺麗にお辞儀をする。

「では、機会があったらまたお会いしましょう。」
「待って!」

そのまま踵を返そうとした少女にシェリーは咄嗟に声をかけた。

「何ですか?」
「・・・最後に貴女の名前を教えてほしいの。」
「名前?・・・あー、ごめんなさい。本名は言えないや。一応、歴代の王様達だけが知ってるトップ・ シークレット扱いなんですよ。」
『な!?』

一瞬キョトンとした顔になった後、申し訳なさそうに頭を下げた少女。それに驚愕せずにはいられない シェリーとブラゴ。

「だからそちらの好きに呼んでください。イシスでもイヴでもイザナミでも・・・ね。」

憂いを秘めた眼差しで微笑を浮べた少女は先程までとは違い神秘的な雰囲気を纏う。空気が変化した、 そう感じた。その様子にシェリーは思わず息を呑む。けれど頭では別の思考も働いていた。

(イシス・・・イヴ・・・イザナミ・・・。彼女は何故呼称の候補としてこんな名前を挙げたというの ・・・共通点でもあるのかしら?)

 単純に判断するならば三つとも頭文字が『い』である。まずキリスト教文化圏の出身であるシェリー としては引っかかったのが『イヴ』という名前。アダムの骨より生み出された人類最初の女。蛇の誘惑 に導かれ禁断の果実を口にし、楽園を追放された原始の母。そして『イシス』とは古代エジプトの神で ある。理知の女神、太陽神にして王権の父オシリスの妻。歴代の [ファラオ]の祖となったホルス神の母でもあ る。天地創造をしたラーの娘という説もあり、魔術師としての側面もある。古代エジプト語ではアセト と呼ばれナイル川の増水を司り穀物の再生復活の神でもあった。そしてイザナミは日本神話に登場する 最初の夫婦の片割れ。神々と大地を夫のイザナギと共に誕生させた国産みの母。古事記と日本書紀では 若干記述が異なるらしいが、その辺の考証をすると話がややこしくなるので大雑把にいく。キーワード は強いて言うなら始まりの男女、その片割れ。創世記に存在した――――――――――

「・・・原始の母。」
『!?』

シェリーの呟きにブラゴと少女が目を見開く。そして次の瞬間、ブラゴは叫ぶような言葉と共に立ち上 がった。

「まさか・・・創成の女神か!?」

その表情には驚愕の色がありありと窺える。

「あー、そんな風に呼んでくれる子も、いましたねー。」

少女はちょっと困った顔をして頬を人差し指で掻く仕草をした。

「ブラゴ?創成の女神??」

一方シェリーは訳が分からず瞳に不安の色を浮べる。

「創成の女神というのは万物の力を持ち、ありとあらゆるものを創造し、また消滅させることができる とされている伝説上の存在だ。祝福を与えた者に一つだけどんな願いでも叶える神と言われている。子 供でも知っている昔話に登場するんだ。単なる作り話だと思っていたが・・・まさか、実在していたと は・・・・・・。」

ブラゴは努めて冷静になるよう振舞っていたが、声に色には動揺が隠しきれていないようだった。

「万物の力って・・・それじゃあ、まるで本当に神様・・・・・・。」

シェリーもあまりのことについていけず呆然としている。

「やー、あの、昔話は、結構いい加減ですよ?完全に捏造説話もあります、し?どれがそれとは夢がな くなるから秘密にしますけど。」

頼りないように見えるが、もし彼女の正体が本当に創成の女神であるというのなら、相手は途方もない 能力[ちから]を持ち合わせた化け物級の存在で ある。これで恐れを感じるなという方が難しいだろう。

「・・・それに今となっては過去の話ですから。昔は結構好き勝手に魔界や人間界を飛び回ったもので すけど、現在のあたしは万物の力を引き出す端末に過ぎません。限られた機会に限られた願いを実現さ せる、その程度です。」
「あ、あの・・・もしかして、人間界にある神話や伝説の類って、まさか・・・?」
「あっははー★ 一部はそーかもしれません。王を決める戦いで人間界に行った子達の話、後で聞いて 驚きましたから。心当たりがなきにしもあらずで・・・。」

少女は明後日の方向を見て笑って誤魔化すスタンスを取った。シェリーは恐る恐る頭の片隅に過ぎって しまった予想を口に出したあげく肯定されて絶句するしかない。本当に過去に何をやらかしたのか、こ の通称女神さんは。

「でも、あたし、本当に今は非力なもんですよー?多分勝負したら絶対こちらのお兄さんが勝つと思い ますしー。」

そう言って少女がブラゴを手で示すが実年齢が遥か上であろう相手に『お兄さん』と呼ばれるのは甚だ 違和感を生じるものである。そしてブラゴは考え込むのように目を伏せて、やがて何かに気づいたかの 如くバッと顔を上げた。

「おい、聞くが・・・魔界の王を決める戦いで、王となった者が特権で何でも一つだけ望みを叶えられ るはずだったな。それも貴様の仕業か。」
「嫌だなー、仕業だなんて人聞きの悪い。でも、シェリーさんといい、君といい、察しがいいですね。 聡い子は結構好きですよー?だからもうちょっとだけサービスしてあげる♪ さっきの質問の答えは、 一応正解。王様になった子の願いを一つだけ叶えてあげるのが、昔からの約束だから。」

少女は優しく微笑む。

「我は女神にあって女神にあらず。されど古の契約に基づき世界を見守りし者。願いは心のあり方。界 の違いすら是非にならず。紡ぐは最強の言葉。心強き者は王だけにあらず。ゆめゆめ見誤るな、汝らが 共に在ることを望むならば・・・。」

そして預言のような言葉を残し、彼女の姿は空気に溶けるように消えていった。後に残ったのは少女に 完全にペースを掻き回されてしまったブラゴとシェリーのみ。亀の甲より年の功、伊達に長生きしてい る相手を甘く見てはいけないのだ。

「・・・何だか、ドッと疲れた気がするわ。」
「そうだな・・・。」

 人も魔物も驚きすぎると思考も身体も正常に働かなくなるものなのかもしれない。少女が去った後も 彼らは呆然とした面持ちだった。相手は神としての威厳があるけど常にはなくて、何とも形容し難い印 象を残してくれる。一言で言えば計り知れない相手だった。

「魔界って本当に変なことだらけね。」
「俺からすれば人間界も十分変だ。」
「・・・でも、嫌なことばかりではないわ。」
「そうか。」

そして少女の妙なテンポに巻き込まれた影響か、何となくいろいろと悩んでいたのが馬鹿らしくなった 気がした。シェリーは随分と躊躇っていたことが嘘のように言葉が紡ぎ出せる己を感じる。

「魔物にも以前と比べたら親近感が持てるようになったわ。そうじゃない相手もいるけど。」
「俺だって魔界でも人間界でも気に食わん奴は大勢いたさ。」
「今もそう?」
「ああ。だが、気に入った奴もいる。」
「そう・・・。」

シェリーの言葉にブラゴが答える。彼の傍は居心地が良い。いつからこれが当然のことのように思い始 めていたのだろう。

「・・・ありがとう、ブラゴ。ずっと一緒にいてくれて。」

人間界でも魔界でも、気がつけば彼が共にいた。

「もし、魔界にまた来れることがあったなら、きっと、私は貴方に会いに行くわ。」
「シェリー・・・。」
「私の意志で、ブラゴに会いたいから、会いに行くわ・・・。」
「・・・ならば、俺は、もし人間界にまた行くことがあればお前に会いに行く。」
「ブラゴ・・・。」
「ただし、今度逢ったら俺はお前を手放す気はないぞ、シェリー。」

ブラゴはシェリーを見据えて言う。

「嫌だと言われても傍にいてやる。俺がお前と共に在りたいからな。」

彼の宣言にシェリーは大きく目を見開いた後、しばし沈黙。やがて鈴を鳴らすように笑い始めた。

「やだ・・・ブラゴってば、本気?」
「今、心を偽ることに何の意味がある。」
「ふふふ・・・じゃあ、できるだけ早く、また、逢いましょう?私も貴方にババアとは呼ばれたくない しね。」

そして二人は空の色が変わったことに気づくまで他愛のない話をしては共に在り続ける・・・。



例え絵空事だとしても、互いが掛け替えの存在と思うなら、共に在りたいと願うなら、互いの紡ぐ言葉 こそ、何よりも信じられる最強の言葉。





The End?




<後書き>
 実は冒頭の部分は前回の話に入れるつもりで書いていたものです。ただどうしても一回で終わりそう になかったので二つに分けるに到りました。あまり長過ぎてもスクロールが大変になりますしね。そし て何故かまたオリキャラ&捏造設定が幅を利かせてすみません。ラグナについては「シェリーの優雅な お茶会」にチラっと触れた組織を引用。女神とガッシュの絡みとかも考えてあったけど、それまでねじ 込むと収拾がつかなくなるのでなしにしました(苦笑)
 また、いつか捏造設定の辻褄合わせ的な小話でも出せたらいいと思います。



2007/05/05 UP