赤い魔本の持ち主、ガッシュのパートナー清麿は、現在目茶苦茶緊張していた。目の前に座っている
のは金髪の、キツイ印象を感じさせるが美人な女性。彼女の名はシェリー。清麿と同様、黒い本の魔物
ブラゴのパートナーである。清麿は相手が美人だからといって態度を豹変させるような人間ではない
が(戦闘時は多少気を使うけれど)、これまでの印象が印象だけに正直恐ろしい。
「お茶、お口に合わなかったかしら?」
「え゛!?い、いや、大丈夫ですよ!」
シェリーの問いに清麿は慌てて否定する。
「た、ただちょっと高そうなカップだから、ガッシュの奴が割らないかどうか心配で・・・。」
「うぬ?清麿、わたしはコップを割ったりなどしないぞ!」
「え、いや・・・。」
咄嗟にしてしまった清麿の言い訳にすかさずガッシュが反論。
「別にカップ一つ割ったくらいで弁償迫ったりしないわよ。」
「は、はあ・・・。」
さらにシェリーからも平然と返される。
「そんなことでいちいち請求してたら、ブラゴなんてウチに借金だらけになっちゃうわ。」
「おい!いきなり何を言い出すんだ!?」
それに焦ったようなタイミングでブラゴが反論。
「だってそうじゃない。初めの頃は力入り過ぎてスプーンとかへし折るし。貴方、ウチの食器とかどれ
だけ壊したと思ってるのよ?」
「に、人間界の物はいろいろと弱過ぎるんだよ!」
「いいえ、ブラゴの扱い方がいけないのよ。」
「私もブラゴ様の力が強過ぎるからだと思います。」
「シェリー!ジジイ!」
シェリーと御付きの老人にきっぱりと言われるブラゴ。これでは彼の立場がない。
(ぶ、ブラゴにもそんなことがあったんだ・・・。)
清麿は彼らのやり取りに半ば唖然としつつも、物を壊して言い訳するというブラゴの意外な子供らしい
部分に何だか感心してしまう。
(そ、そうだよな〜、ブラゴだって一応“子供”なんだし・・・。)
ありとあらゆる言動が大人と言うことはないのかもしれないと考え直す。どう考えても戦闘時の凄さ
は子供とはとても思えないけれど。ついでに普段の迫力も相当なモノだけれど。それでも少しだけ彼ら
に対する緊張感が和らいだ。
「清麿、ブラゴとシェリーは仲が良いの〜。やはりあの者達も友達なのだろうか。わたしと清麿のよう
に・・・。」
「は?いや、な・・・。ガッシュ、こういうのは友達というか・・・。」
何やら感慨深げに語るガッシュにそれはちょっと違うような気がするものの、何と説明して良いか分か
らない清麿。
「そもそもブラゴ様は・・・。」
「黙れ!ジジイ!!」
「ちょっと、ブラゴ!?爺も煽らないでちょうだい。」
そうしている間にも彼らの間で言い争いは続く。
(俺、フランスまで来て何やってるんだろう・・・。)
清麿は遠い目をしていた。ガッシュは新しく運ばれてきたお菓子に目を奪われている。清麿はこの状況
を生み出したナゾナゾ博士に次に会ったらザケルを叩き込んでやることを密かに決心した。
そもそものきっかけは本に現れた一つのメッセージだった。その内容は突然の戦闘中断を告げるも
の。これまでにも残りの魔物の数が表記されることはあったものの、約一か月の間、戦い本を燃やす行
為を禁止するという不可思議な指示は初めてだった。
「ヒノヤシンオって何だ?」
いくら清麿が天才の部類に入るからと言って分からないものは分からない。ましてや魔界の事象などさ
っぱりだ。しかもパートナーであるガッシュは魔界時代の記憶を失っているから、情報源としては役に
立たない。違反者には罰則を与えると言うような記述も気になった。
「・・・えっとね、もしかしたら違うかもしれないんだけど、魔界にいた頃聞いたことある気がする
わ。」
ヒノヤシンオという言葉について同じく魔物の子であるティオは語った。その後他の知り合いにも尋ね
てみた所、ウォンレイから祭の一種らしいと言う情報が手に入った。それから程なくして、ナゾナゾ博
士から清麿の元に連絡が入る。そして彼らはフランスへと呼び出された訳だが・・・。
(だからって、何でこの二人とお茶会する羽目に・・・。)
清麿は正直嘆きたい気持ちで一杯だった。話があるからガッシュと一緒に来てくれとナゾナゾ博士に
言われ、出向いた先には彼と黒本組の二人が待っていた。確かに彼らと腹を割って話し合うことがで
き、ブラゴにも優しい王様を目指す方向に傾かすことができれば、ゾフィスのような最低の魔物やゼオ
ンと呼ばれているらしい冷酷な魔物が魔界の王になる可能性を少しでも下げることに繋がるだろう。ブ
ラゴに『優しい王様』が似合うかどうかはともかくとして、できるかぎり心ある魔物が王になって欲し
いというのは、清麿だけでなくこれまで共に戦ってきた皆の願いでもあるのだ。もちろん清麿はガッシ
ュに勝たせたいと思っているが、万一の事態も考え、『優しい王様』の志を継ぐ者は多いに越したこと
はない。
(くっそ〜、ナゾナゾ博士め・・・。セッティングするだけしといて自分は一人さっさと逃げやがっ
て・・・!)
清麿の胸の内はナゾナゾ博士への恨み言で溢れていた。
「ぎよ゛ま゛ろ゛〜。ごれ、おいじぐないのだ〜。」
「へ?どうしたんだ、ガッシュ・・・て、ああ、ブランデーが入ってるのか。」
突然ガッシュが泣き言を言ってきたので、何かと思えば彼の食べかけの菓子から洋酒の香りがした。ど
うやらガッシュの味覚には合わなかったらしい。
「ほら、ガッシュ。こっちのは酒の味しないから。」
カレーの時の水のようにゴクゴクとお茶で口の感覚を戻そうとするガッシュに清麿が別の菓子を差し出
す。そしてガッシュは奪うように受け取り、それを口に放り込んだ。
「なあ、オレンジジュースとかってあるか?」
清麿はシェリーに話しかける。老人とブラゴは未だに睨みあっているものの、彼女は意識をお茶会へ
と戻してきたようなので、何とか話しかけることができた。シェリーは無言で清麿を見詰める。その意
図を尋ねるかのように。
「あの・・・さ、ガッシュの奴が、食べたのが、ちょっと酒が効いてたせいか口に合わなかったみたい
なんだ。だから、ちょっと濃い飲み物で舌を誤魔化してやろうかと・・・。」
「あら、そうなの。ごめんなさいね。爺!」
清麿の説明を受けて、シェリーがすぐに老人を呼び寄せる。そしてやってきた彼にいくつか指示を与え
ると、彼は主達に一礼してその場を後にした。
「すまない、いろいろと・・・。」
「いいえ、こちらの不始末だわ。」
謝ろうとした清麿を遮り、反対にシェリーが謝罪を述べる。相変わらず受ける印象は硬質的なものだが
威圧感は少しは薄れているように思えた。以前と比較すればこちらへの敵意がなくなっている証拠だろ
う。
「ぎよまろ〜、まだぐぢのなががエグエグずるのだ〜・・・。」
「ガッシュ・・・。」
「こんな食い物程度で騒ぐな。軟弱な奴め・・・。」
「ブラゴ!」
清麿に訴えるガッシュをブラゴは冷めた目線で見つめ、彼の言葉をシェリーが嗜める。
「そうね、これなんかどうかしら。」
「それは・・・。」
「ミルクチョコレートよ。因みに緑の包みがビターで、銀色のがスィートチョコだったかしら。」
そしてシェリーは赤い包み紙のチョコレートをガッシュに手渡した。
「ありがとう、なのだ。」
「金色のは?」
「ホワイトチョコだったと思うけど・・・。」
「おおお!おいしいのだ〜!」
「ああ、良かったな、ガッシュ。」
ガッシュが騒ぎ、清麿がまめに相手をし、それをシェリーが見つめる中、ブラゴは無言でテーブルに置
かれている菓子を食べ続けていた。
それから一度部屋を出て行った老人がガッシュ用のオレンジジュースと紅茶のお代わりを持って戻っ
てくる。その後、ガッシュとブラゴは気のおもむくままに食べ続け、清麿とシェリーは新しく注ぎ直さ
れたカップの中身に口をつけた。そして、ただ静かに時間は流れる。
(くっそ〜、何話していいのかさっぱり分からないぜ・・・。)
けれどもやっぱり清麿はどうしていいのか思いつかず困っていた。沈黙が痛い。けれども話を切り出す
きっかけも掴めない。
「そういえば、ドクター・ナゾナゾのお話では、私に何か聞きたいことがあるそうね。」
「へ!?あ、いや、その・・・。」
そういった時にシェリーの方から話を振られ、清麿はますます慌てた。しかし、彼もそう何度も動揺し
ずっと混乱して何もできないような人間ではない。一度こうと決めれば彼の頭脳は明晰に回り始める。
清麿はすぐにシェリーへの対応をすべく思考し始めた。
「じゃあ、聞かせてもらうが・・・シェリー、あんたは“ヒノヤシンオ”が何か知っているか?」
突然魔本に浮かんだメッセージ。恐らくは現在が戦闘休止期間となっている理由。それは清麿が最初か
ら疑問に思っていたことだった。ナゾナゾ博士が何か情報を知っていそうだったのだが、彼に詳しい話
を聞く前に逃亡されてしまった為、聞けずじまいであったのだ。
「・・・聞いてどうするの?」
シェリーは清麿に逆に問いかける。何かを見極めようとするかのように。
「俺は・・・いや、俺達は魔界に関する情報が少なすぎる。特にガッシュの奴は記憶喪失だし。まあ、
性格は昔からお人よしだったみたいだけどな。」
清麿はチラリと菓子を口一杯に頬張り続けているガッシュに目を遣った。
「こんなことをあんたの前で言うのも難だが、俺はガッシュの奴をこの戦いに勝たせてやりたいと思っ
ている。あいつが目指している“優しい王様”になれるようにしてやりたい。どうせなら魔界の人々の
多くにとって優しい王にしてやれれば良いと思う。でも魔界の人達がどういう習慣があってどんな組織
があってどんな考え方が主流であるのかも俺は分からない。だから、できる限り魔界に対する情報が欲
しいんだ。あいつがより良い王になる為にも。」
はっきりと清麿はそう告げた。
「・・・。」
「・・・シェリー?」
それに対してシェリーは何も言わない。ガッシュはひたすら食べている。ブラゴはこちらに注意を向け
ているようだが、やはり食べ続けていた。というかこいつら食い気が強すぎである。沈黙の中に緊張の
糸が張り詰めている。清麿はゴクリと喉を鳴らした。
「・・・私も、多くを知るわけではないわ。」
やがて口を開いたのはシェリーだった。風が吹き、彼女の金髪が流れるように揺れる。耳の横で縦に
巻いた髪が振り子のように揺れているのが清麿の視界に映った。開け放たれた窓からは心地よい風と陽
光が部屋に入り込んでいる。
(綺麗だな・・・。)
女性としてというよりは一種の芸術品として。例えるなら女神像か天使像。それも戦いの女神や裁きを
下す天使といった感じだ。もしくは甘さがないフランス人形。清麿はシェリーを見てふとそう思った。
すぐ場違いな感想だと考え直したが。
「ヒノヤシンオについての知識もブラゴから聞いたことの受け売りよ。それでもいいかしら。」
「ああ、構わない。」
本当ならシェリーから聞くよりはブラゴから話を聞きだした方がいいのかもしれない。実際彼は目の前
にいるのだ。けれどもブラゴがパートナーであるシェリーならまだしも清麿に対して素直に質問に答え
てくれる保証はなかったし、上手く会話ができるかどうか自信がなかった。ぶっちゃけ奴と対峙するの
は怖いのだ。因みに清麿個人の見解としてはバリーが相手でも嫌だったりする。これも一種のトラウマ
だろう。ちょっと意味は違うが、ダルタニアン教授が相手でも恐らく腰が引く。
「ヒノヤシンオというのは・・・。」
そしてシェリーは清麿の求めに応じ話し始めた。
「うぬ、お腹一杯食べたのだ。ごちそうさまなのだ!」
たらふく菓子を腹に収めたガッシュは、満足そうに手を合わせる。いつの間にか給仕の役も果たして
いた老人はいなくなっていた。庭に面したテラスに繋がる一室に座しているのはガッシュと彼のパート
ナーである清麿と、この別荘の主であるシェリーと彼女のパートナーであるブラゴだけ。
「・・・つまり、こういうことになると思うの。」
「なるほどな・・・。」
まず清麿に目を遣れば、彼はシェリーと何やら真剣な顔つきで話をしていた。こういう時の清麿は邪魔
しない方がいいだろう。これまでの経験から話の邪魔をするべきではないと、雰囲気でガッシュは察し
た。どうしても我慢できなければ話かけてしまうかもしれないが、一先ずガッシュは彼に相手をしても
らうことを断念する。
(清麿達は一体何を話しているのであろう?)
彼らの話の内容が全く気にならないと言えば嘘になったが。
(早く話を終わらせて遊んでほしいのだ。)
話の邪魔をしてはならないという殊勝な思いはあっても、そうやって考えてしまう辺り、彼もまだまだ
子供である。
(そういえば、ブラゴは何をしておるのだ?)
余程暇なのか、ガッシュは視線を動かしブラゴへと目を遣った。
「!?」
その途端、ガッシュの体は竦み上がる。もし菓子を食べている最中であったらきっと喉を詰まらせてい
たことだろう。それくらいの精神的な衝撃がガッシュを襲っていた。
「あ・・・う・・・。」
ガッシュは言葉にならない声を上げる。その原因は先程目撃してしまったブラゴの様子にあった。黒い
髪、薄黒い肌、赤い瞳。少なくともガッシュよりは魔物のように見える彼は、戦闘時の威圧感に到って
はまさに悪魔。そんな彼がまるで戦っている時のような殺気を感じさせていたのである。
(な、何でなのだ!?)
ガッシュにはさっぱり理由が分からない。けれどもとても怖かった。どうやらガッシュの方にもトラウ
マがあるらしい。まあ、彼の場合、その最たるものがナオミチャンであろう。あのバリーも一度魔物と
間違えたりもしたいろいろと規格外の少女である。
「き、清麿・・・。」
ガッシュは嫌な汗を流しつつ清麿の方を見つめた。しかし彼はそれに気づかずシェリーと話し込んで
いる。同じくシェリーの方も見られていることに気づいていない。しかしガッシュは彼らを見ている。
そしてブラゴもまた・・・見ていたのだ、彼女達を。
(何故ブラゴは清麿達を睨んでおるのだ!?)
ブラゴの視線の先にいるのは清麿とシェリーであることにガッシュは気づいた。それもかなり不機嫌そ
うな様子で。何故ブラゴは清麿達を睨んでいるのか。答えなんて出るはずもないのに、ガッシュの頭の
中ではそれだけがグルグルと回る。
プッツン
とうとう耐え切れなくなったガッシュの中で何かが切れた。結果・・・
「清麿ー!シェリー!ブラゴが怖いのだー!?」
ガッシュは大泣きして彼らに泣きつくことになる。
清麿とシェリーに宥められ、ようやく泣き止んだガッシュは二人の間に挟まれるようにして席に座っ
た。二人の近くにいればブラゴの脅威から離れることができて一安心できるだろうということらしい。
少なくともシェリーがブラゴを止めてくれるだろうという寸法である。
「シェリーの髪は面白いの〜。」
喉元過ぎれば熱さ忘れるという言葉があるが、何となくシェリーの揺れる縦ロールの髪を眺めていたガ
ッシュは隣のイスに座っていた彼女に話しかけた。突然のガッシュの言葉にシェリーはキョトンとし、
清麿はギョッとし、ブラゴはギロリとガッシュを睨んだ。
「一体どういうことなのかしら?赤い本の子。」
「そ、そうだぞガッシュ!いきなりどうしたっていうんだ!?」
純粋に不思議に思っているらしいシェリーに対して、清麿はブラゴの視線に気付き、かなり焦った気持
ちでガッシュに問い掛けていた。
「だってシェリーの髪の毛はお日様の光でキラキラなのだ!すごいのだ!」
「あら、貴方の髪も綺麗よ?」
「・・・そうなのか?」
首を傾げるガッシュにシェリーは微笑む。
「そうよ。同じ金髪だしね。」
シェリーは手をスッと伸ばすと、ガッシュの髪を一房摘んだ。フワフワとした指触りが心地好い。
「それではわたしの髪の毛もシェリーと同じくキラキラなのか!?」
「ええ、そうよ。」
ガッシュがシェリーの髪の縦ロール部分を指差して言う。
「本当に本当か?清麿〜!?」
「あ、ああ・・・。」
「おおお!わたしもキラキラなのだー!!」
万歳をして歓声を上げるガッシュ。何がそんなに嬉しいのか人によっては理解に苦しむ反応かもしれな
い。けれどもガッシュは喜んでいた。
(まあ、元気になったみたいだし、良かったかもな。)
清麿は手を叩いて喜ぶガッシュを見てそう思う。
(それに確かに綺麗な髪だよな、シェリーの髪は・・・。)
ガッシュの金髪はすでに見慣れてしまい最近あまり意識していなかったが、シェリーの髪も改めて見る
と美しいと感じる。しかもガッシュと違って備えついた気品が違う。客観的に見てもやはり美人だと思
わずにはいられない。
(やっぱり魔物も本の持ち主が美人だったりすると嬉しいのか?)
ふとそんなことを思う清麿。
「あの・・・ムッシュー・タカミネ?」
しばらくボーッとしていたため、名前を呼ばれて清麿はハッとなった。ふと気がつけば彼の視界に困惑
した表情のシェリーの顔が映る。彼女にしては珍しい表情だった。
「シェリー・・・?」
「その・・・手が・・・・・・。」
「へ?・・・ぇえええ!?」
彼女の指摘に自分の手を見遣れば清麿はシェリーの髪に触れていることに気づいた。丁度彼女の髪の縦
ロール部分に指を添えている形で。どうも無意識の内に手を伸ばしていたらしい。
(お、俺は何てことを・・・!)
女性の髪に勝手に触れてしまったことに羞恥を覚える。ゴミを取るとか何か不可抗力があって触れるな
らまだしも、相手の許可なく女性の体の一部に触れるという行動を取ってしまうなんて。もしかしたら
ガッシュの頭を無意識に撫でるような癖でもついてしまったのだろうか。
「す、すみません!俺・・・!?」
慌てて手を離したものの焦ってしまい何と弁解していいのか分からない清麿。ついカチカチの敬語さえ
飛び出す。
「え、えと、あの、その・・・!」
「ひょっとして・・・髪に何かついていたかしら?」
「はい!?い、いえ、はい、そうです!葉っぱがついてたんで・・・!!」
パニックを起こしかけながらも清麿は何とか言い訳を口にする。彼は本当に慌てていた。そう、彼を見
つめる剣呑な視線にも気づかず。
「そう、ありがとう。」
「い、いえ、俺も先に断るべきでした。」
シェリーがどこまで察していたかは分からないが、一先ず彼女が礼を述べたことでこの場は収まった。
けれども収まっていない人・・・もとい、魔物がここに一人。
「うぬ・・・何やら後ろで不吉な気配が・・・・・・。」
例えばナオミちゃんがガッシュの背後に迫っているようなプレッシャー・・・ある意味殺気。そんな気
配を感じ取りガッシュは恐る恐る後ろを振り返る。そしてガッシュは見た。鬼のような形相でこちらを
睨みつけているブラゴの姿を。
「あ、あばばばばばばば・・・!?」
ブラゴの前にあるテーブルがミシリミシリと音を立てる。手で端を掴んでいるだけなのにすでにヒビが
入っていた。このままだと圧し折れるのが時間の問題という感じである。
「・・・気に入らねぇ。」
押し殺された呟きと同時にバリンと音がしてブラゴの手の中のグラスが砕けた。はっきり言って怖い。
これで怯えるなという方が無理である。どうやら赤本組の気苦労はまだ終わらないらしい。
<後書き>
何故かブラシェリのお題なのに清麿とガッシュが出張っているお話です。設定としては前回の「シェ
リーの優雅なお茶会」と続いています。水無月は黒本組はもちろん好きですけど、赤本コンビもそれな
りに好きですからね。だって主人公(笑)
余談ですが、清麿関係CPは清恵派です。でもこの話ではちょっと清麿とシェリーの絡みが多いよう
な気もしますが・・・。大丈夫ですよ、この二人はお互い色恋沙汰は対象外ですから!でもブラゴはこ
っそり妬いている・・・そんな感じで(爆)