3、白い炎
「日番谷君って白い炎みたい。」
「ふが?」
護廷十三隊の詰め所が並ぶ建物の廊下で、黒髪の少女がポツリとそう漏らした。少女の名は雛森桃。一見そうは見えないが、五番隊副隊長の女傑である。そんな彼女の呟きに不明瞭な返事をしたのは赤髪の男。彼の名は阿散井恋次。眉毛の刺青が何とも笑いを誘う(?)雛森の学生時代の同級生で元同僚でもある青年だ。現在は十一番隊に所属している。彼の言葉が不明瞭なのは恐らく口一杯に頬張ったタイヤキが原因であろう。タイヤキは恋次の好物だ。因みに彼の幼馴染の好物は胡瓜と白玉餡蜜らしい。そんなことより口に物を含んだまま喋るのは行儀が悪い。良い子は出来れば真似しない方がいいだろう。
そんな恋次の言葉に答えず、雛森は先程から一点を見つめたまま。恋次がその視線の先を辿れば、中庭を挟んだ向かいの廊下を歩く十番隊隊長日番谷冬獅郎と彼の副官である松本乱菊の姿がある。恋次は遠目に彼ら二人を確認して、再び雛森に視線を戻す。どちらかといえば彼女の目は二人というより幼馴染でもある日番谷に注がれているようであった。
「・・・髪型が?」
少し考えた後タイヤキを飲み下してから、恋次は先程の雛森の言葉にそう聞き返した。日番谷は白い髪を逆立てており、その髪が風に煽られる様はどうにか炎を連想できなくもない。それ以外の部分だと、斬魄刀は氷雪系だし、雰囲気と霊圧は近寄りがたく歳相応に見えない。白というのは分かるが炎という比喩は恋次にはあまり連想できなかった。
「違うよ。」
恋次の若干間抜けなツッコミを雛森がやんわりと訂正する。これが恋次の幼馴染相手ならマシンガントークで、当事者の日番谷相手なら一刀両断で馬鹿にされていたことだろう。もっとも雛森は学生時代からの親しい友人だからといってあからさまに他人を馬鹿にするような物言いは性格上言えないが。
「そういう意味じゃないの。」
日番谷を見つめる彼女の眼差しはどこか憂いを秘めたもので、普段の天真爛漫さとのギャップに恋次は複雑な思いを抱く。対面の廊下では歩いていた日番谷と乱菊が立ち止まり、四番隊の卯ノ花烈隊長と何やら話をしていた。因みに卯ノ花の側に居るのはいつもの彼女の副官ではない。恋次は名前を知らないが、それなりの席官であることは確かだろう。
「日番谷君は冷たい人のように見えるけど、本当はそうじゃないの。」
雛森の恋次に話しているというよりは独り言のような呟き。第一、斬魄刀の能力で持ち主の性質まで決まってしまうなら、一番隊隊長でもある山本元柳斎重国総隊長が最も熱くて激しい気性の持ち主になってしまう。
「彼の気性は・・・冷たいけど、火傷しそうな位熱いから。」
「は?」
恋次には彼女の言っていることが理解できない。タイヤキも食べ終わってしまったので手持ち無沙汰だ。彼は流石に二番隊副隊長のように常に食べ物を常備しているわけではない。
「まるでドライアイスみたいだよね。」
今度は恋次の方を向いて雛森は苦笑いを浮かべる。今にも泣き出してしまいそうな無理をした笑い方に恋次は苦しくなった。彼はそんな笑い方をする別の少女を知っている。
(どいつもこいつも下手な笑い方しやがって・・・。)
雛森と彼の幼馴染の姿がだぶって見えて、恋次は鉛を呑み込んでしまったような気分に陥る。こういう時に気の利いた言葉を言ってやれない自分を悔やんだ。
「・・・もしくは液体窒素とか?」
以前聞いた同じ十一番隊の斑目一角が十二番隊の知り合いに教えてもらったという科学知識の話にそんなものがあった気がして、何気なく口に出してみる。
「やだなぁ、阿散井君ってば、それはちょっと酷いよ〜。」
何がどう酷いか恋次には微妙だったが、それでも雛森の表情が緩んだことに安堵する。
「そろそろ戻るか。」
「そうだね。」
お互いいつまでもこの場に居ては他の隊員に迷惑が掛かってしまうだろう。彼らはそれなりの立場にいる者なのだから。そうして雛森は五番隊の区画へ、恋次は十一番隊の区画へと別れていった。帰り際に雛森がもう一度対面を見遣れば、卯ノ花達と日番谷達がすれ違って別れる所だった。
雛森は知っている。日番谷の内に秘めた白い炎、それは触れればこちらが燃え尽きてしまいそうな位に熱い。
(日番谷君は私の前ではそれを隠しているけど・・・。)
彼が本当は激情家であることに、多分自分は気づいている。
彼の本質である白い炎
それに触れてみたいと思うのは間違いですか・・・?
ねえ、日番谷君。
<後書き>
これは・・・日←雛ですね。見た目的には。でもきっと日番谷君は恋次と一緒に居る雛森に気付いて妬いてるんだ〜、そして乱菊さんはそれに気付いてるんだ〜(笑)
あとちょっぴり恋→ルキなイメージも入ってますね。恋次×雛森じゃないですよ。あくまで恋次は雛森さんを友人としてしかみてませんし、雛森さんもそうです。恋次は雛森さんの不器用さに素直になれないルキアさんを重ねてしまっているのです。まあ、恋次がルキアを大切に思っていることに関しては間違いなくオフィシャルですから。CPじゃなくても。命賭けてますから。彼女のために。
2005/06/24 UP