指切りげんまん 嘘ついたら 針千本呑〜ます

 

 

 

 

 

8、からめた小指

 

 

 

 

 

「シロちゃん、待ってよ〜。」

「桃、速くしろ。」

 森の中をシロ(本名日番谷冬獅郎)が駆け抜けていく。軽やかに走っていくシロを追いかけているのは桃(苗字は雛森)。モタモタする彼女を立ち止まり立ち止まり待つシロ。何度かそれを繰り返していたが、とうとうシロは待ちきれずにこう言った。

「もう先に行くぞ。」

「ヤダ!置いてかないで・・・!」

シロの言葉に桃は慌てて足を動かすのだが、森の中で視界が悪い為、少しでも目を離したらシロの後姿を見失ってしまいそうだった。

(何で・・・?)

桃は思う。最近、シロは桃と一緒にいてくれないと感じていた。昔はいつだって桃がシロの手を引いて歩いていたのに、いつの間にか桃はシロの背中を追いかけている。繋いだ手を離してしまったのはいつだったのだろう。

「あ・・・!」

 桃が躓いて転ぶ。正面のシロしか見えていなかったせいで足元が疎かになっていたのだ。地面から出っ張ってした木の根に気付かなかったのだろう。かなり派手に地面に飛び込む形になってしまった。正直言って結構痛い。

「ううう〜・・・。」

慌てて顔を上げるともうすでに桃の視界からシロは消えていた。転んだ痛みと、とうとうシロに置いていかれてしまったのだというショックで、桃の視界が歪む。一気に目頭が熱くなって、涙の堤防は留まる間もなく決壊した。

(シロちゃんシロちゃんシロちゃんシロちゃん・・・!)

声にならない桃の心の悲鳴。きっと桃がどんなに泣き叫んでもシロは帰ってこないのだ。そう考えただけで桃は絶望の世界に突き落とされた心地になった。そんな時である。

「何やってんだよ、泣き虫桃。」

「ふえぇ・・・?」

 すぐ横で声がした。桃が昔から知っている大好きな声だ。失くしてしまったと思った声だ。信じられなくて桃は恐る恐る声のした方向へ首を動かす。

「全く・・・本当ドジだな。」

「し、シロちゃ〜ん・・・えぐっ、ヒック。」

しゃっくりあげる桃にシロの手が差し伸べられる。桃がシロの手を掴むと、彼はその手を引っ張って桃を立ち上がらせた。

「ほら、行くぞ。」

シロは桃と手を繋いだまま歩き出す。先程とは違ってゆっくりとした歩調だ。

「・・・シロ・・・ちゃ、ヒック、えぐえぐっ。」

桃は一向に泣き止まないが、それでもシロの手を離すまいと懸命に握っている。

「転んだくらいで泣くなよな。擦り傷だけだろ。血も出てないし。」

桃の様子に呆れているのか慰めようとしているのか定かではないが、シロは声を掛ける。

「だ、だってぇ・・・。」

潤んだ瞳でシロを見つめる桃。

「し、シロちゃんに置いてかれちゃったと思ったんだもん・・・。」

「だからって泣くことかよ。」

 シロは桃の理由が信じられないらしい。むしろ馬鹿にしているような物言いだ。そのせいか桃はついムキになってしまい、気がついたら叫んでいた。

「だって・・・シロちゃん大好きだから離れたくないんだもん!」

「!?」

まるで愛の告白のような桃の言葉に反射的に頬を赤く染めるシロ。

「お、お前な〜、よくもまあ、恥ずかしげもなく、んな事言うかな・・・。」

口調こそ可愛げの無いものだが、照れているのはその顔を見ればバレバレである。

「何よ、可愛くな〜い!」

桃が唇を尖らせて不満そうな顔になる。

「そう言う事言うとシロちゃんなんかお嫁にもらってあげないんだからね!」

「つーか、俺が嫁にいってどうする。それを言うなら婿だろ、婿。」

桃の大ボケ発言に咄嗟に突っ込み返すシロだった。

「あ、そっか。」

「全く・・・。」

言われてようやく気付いている桃にシロは呆れ顔になる。いつもの事とは言え、シロは相当付き合いが良い。単なるツッコミ体質かもしれないという説もあるが。

 やがて、二人は目的の場所についたのか、足が止まる。森が拓けて、自分達が高台にいることが確認できる、そんな場所だ。

「ほら、見ろよ。」

シロが繋いだのとは逆の手で正面を指差す。そこには、今、まさに昇らんとしている太陽。

「うわぁ・・・!」

「すげえだろ。桃がトロトロしてっから間に合わねえかと思ったけど・・・。」

「トロトロなんてしてないもん・・・。」

「じゃあ、グズグズか?」

「シ〜ロ〜ちゃ〜ん〜。」

シロの言葉に朝日の感動が台無しになったとばかりに桃が言う。それでも繋いだ手は離さない。

「あ、ブス顔。」

「ブスじゃないもん。」

「膨れっ面。」

「シロちゃんの意地悪。」

「でもその方が桃らしくて俺は好き。」

「え!?」

シロにとっては他意の無い発言だったのだが、桃はその言葉に反応し一気に耳まで赤くなった。

(シロちゃんに好きって言われちゃった・・・!)

どうしようもなく嬉しくて照れ臭い気持ちが湧き上がってくる。

「ねえねえ、シロちゃん。」

「ん〜?」

「大きくなってもずっと一緒にいようね。」

 繋いだ手から腕を組むようにしてシロにくっついてくる桃。

「シロちゃん、置いてかないでね。独りにしないでね・・・。」

「しねえよ。」

不安に曇る桃の顔。それに気付いていないのかシロは普段と変わらない声音で返事をする。

「ずっと・・・一緒にいてね。」

桃は少しだけ腕に力を込める。

「・・・じゃあ、お前もちゃんと俺の傍にいろよ。」

照れているのか桃ではなく昇り始めた太陽の方に顔を向けたままシロが言った。

「う、うん・・・!」

桃はシロの言葉に花が咲いたような笑顔を見せる。シロは桃を直視できていないので幸か不幸か見えていない。

「約束だからね。」

「・・・分かった。」

嬉しそうに笑っている桃にシロは肯定で答えた。

「じゃあ、指切りしよう!」

「は?」

「指切りしよ?」

キョトンとするシロを桃が見つめる。桃が小指をシロに差し向けた。

「シロちゃん・・・?」

「・・・ほらよ。」

またもや不安に揺れる桃の瞳を直視し、シロも桃と同じように小指を出した。桃の表情が花がほころぶような笑顔へと変わっていく。

『ゆ〜びき〜りげんまん、うそついたら・・・♪』

二人の絡めた小指から桃とシロの影は繋がって、それはいつまでも変わらない約束の証のように見えた。

 

 

 

小指を繋いで指切りげんまん

絡めた小指は約束の証

君が君が本当に大好きだよ

ずっと一緒にいてね

置いてかないでね

約束ね・・・?

 

 

 

 

 

<後書き>

 シロ桃です。しっとり系を目指してみました。ちょっとある伏線も織り込んでみたりしているのですが、果たしてどれほど効果があるのでしょうか。書いている本人にもさっぱりであります(爆)

 

 

2005/11/29 UP