9、紙風船

 

 

 

トタパタトタパタパタ・・・

 

 

 廊下を軽やかに駆けていく足音が近づいてくる。それ共に感じられる馴染み深い霊圧に日番谷冬獅郎は表情を緩めた。そんな彼を冷やかす副官は、本日は非番な為、留守である。

「見て見て見て見て、ジャーン!懐かしいでしょ、紙風船。」

戸を勢いよく開けて十番隊の隊首室に飛び込んできた雛森桃は開口一番そう言った。断りも無しに室内に入ってきたのは中に居るのが日番谷一人と分かっていたからか、単に浮かれて配慮が到らなかっただけなのか。満面の笑みを浮かべる彼女に日番谷はこっそりと苦笑する。

「どっからそんなもん引っ張り出してきた。」

「ううん、さっきやちるちゃんにもらったの。」

日番谷の問いかけに、雛森が答える。日番谷は十一番隊のチビっ子副隊長の顔を思い浮かべ、今度はあからさまに嘆息した。紙風船なんかで遊ぶ歳でもないだろうに、いつまでも子供っぽさが抜けない草鹿やちると自分の幼馴染でもある雛森に、笑っていいのか呆れるべきなのか日番谷は判断しかねた。

「昔よくこれで遊んだよね〜。」

 雛森は手にした紙風船を手で玩びながら、嬉しそうに言った。その瞳に映っているのは懐かしい過去の思い出だろうか。日番谷にはそれを読み取ることは叶わない。

「ね、日番谷君?」

「あ〜、そう言や、しょっちゅう雛森がどっかやって探すの手伝わされたっけ・・・。」

「もう!日番谷君はそういう変なことばっかり覚えてる!!」

急に相槌を求められ、日番谷が漏らした言葉に、雛森は頬を膨らませた。そんな表情も可愛らしく思えてしまい、日番谷は自分が重症であることを改めて自覚する。

「そんな風にいつまでも膨れてるとブスになるぞ。」

「ブスじゃないもん!」

「ほら、そうやってすぐ泣く。」

「泣いてないもん!」

「泣き虫拗ね虫怒り虫〜。」

「日番谷君の意地悪!馬鹿馬鹿!若年寄り!」

「何!?学院入るまで寝小便が直らなかった奴に言われたくないぜ!」

「そんなことないもん!」

 些細な言い争いを繰り返してもいつの間にか仲直りしてしまうのは、家族として過ごした時間が長いせいだろうか。雛森はクスクスと笑い、日番谷もまたニヤリとした笑みを浮かべる。

「やだぁ、日番谷君ってば〜。」

「そういうお前こそ俺に惚れてるくせに。」

「そんなこと・・・!」

「そんなこと?」

「な・・・ぃあ・・・ある・・・よ?」

真っ赤になって口篭ってしまう雛森。その瞳は恥ずかしさで泣きそうに潤んでいる。昔から涙腺の緩い彼女ではあったけれど(『フランダースの犬』で号泣するタイプ)。そんな彼女の額にそっと唇を寄せて、日番谷は肯定の反応を引き出せたことに満足した。

 

 

 

『シロちゃん、どうしよう・・・。』

 ふと耳に蘇る幼い頃の雛森の声。普段姉貴振るくせに困った時の第一声は大体それだった。そんな彼女の半泣きの顔が可愛かったことと、自分を一番に頼ってくれたことが嬉しかったことは、誰にも言えない日番谷だけの秘密である。

 

 

 

 

 

<後書き>

 何だか随分と日番谷君が子供っぽくなってしまいました。シロちゃんの部分を強く出しすぎたのかもしれませんね。好きな子ほど苛めてしまう男の子。隊長日番谷君よりはお子様シロちゃんの方が書きやすいです。でも原作は隊長日番谷君の方が好きです。だって男前だから!(黒藍染に一閃されちゃったけど)

 因みに雛森がなくしたという紙風船は大抵木の枝に引っ掛かっていたり、部屋の片隅に転がっていたりしていました☆

 

 

2005/06/24 UP