3、夢の続き
小さい頃、眠れない夜はこっそりシロちゃんのお布団に潜り込んだの。シロちゃんは凄く勘が鋭くて、どんなにこっそり這入ろうとしても気づいちゃう。
「・・・またか、桃。」
いつも寝坊助なシロちゃんは、夜中に起こされるといつも不機嫌。本当は朝起きる時もお昼寝から起こす時も不機嫌なんだけど、眠いのが無くなれば治まるからそんなに長続きしないの。でも夜中はシロちゃん以外の人でも眠いものだから、やっぱりシロちゃんも凄く機嫌が悪くなっちゃうの。
「シロちゃん、起こしてごめんね・・・。」
「今度は何だ。また寝小便でもしたか?」
「し、してないよ!シロちゃんの馬鹿!!」
起こしちゃったのは悪いと思うから謝ったのに、シロちゃんは凄く失礼なことを言った。酷いよシロちゃん、私シロちゃんが言う程、そういうことしてないよ。確かにシロちゃんはしたことないみたいだけど。シロちゃんはそうやっていつも私のこと馬鹿にする。本当は優しくて良い子のはずなのに、何で時々いじめっ子みたいなことするのかな。私の方がお姉ちゃんなんだから馬鹿にしちゃいけませんっていつも言ってるのに。悔しいのと悲しいので、ちょっと泣きたい気分になる。
「・・・で、どうしたんだ。怖い夢でも見たのか。」
そんな時、シロちゃんはいつもポンポンって、頭叩くの。痛くないように、軽く、でも優しく。それは凄くシロちゃんらしくて、何だか嬉しくなるの。
「えへへへへ・・・。」
「何だぁ、急にニヤニヤしやがって・・・。」
「何でもないよ。それより、シロちゃん、一緒に寝てもいーい?」
「・・・とか言って、返事する前に入ってきてるじゃねえか。」
「いいのいいの。」
シロちゃんのお布団。お日様の匂いとシロちゃんの匂い。温かくて優しくって、大好き。
「・・・ったく、しゃあねえなぁ。寝小便すんなよ。」
「しないも〜ん。」
お布団の中でシロちゃんの手を握ったら、そっと握り返してくれた。嬉しくてギュッて抱きつきたくなったけど、シロちゃんが寝苦しいって怒りそうだから我慢。
「おやすみなさい、シロちゃん。」
「ああ、おやすみ、桃。」
不思議だね、シロちゃんと一緒なら、怖い夢を見た後も、寂しくて眠れない時もいつだって、ぐっすり夢の世界に行けちゃうよ。だってシロちゃんと一緒なら次に見る夢はきっと幸せいっぱいなんだもん。
「・・・んん。」
桃は簾の間から漏れる光に目を覚ました。どこかで小鳥の鳴く声がしている。きっと今日もいい天気なんだろうなと、そんな想いが頭を掠めた。何となく横を見る。小さい頃とは違う、白くてふかふかのお布団。でも隣には誰もいない。
「夢・・・か。」
小さい頃の、懐かしい夢を見た。でも、自分にとっては大切な思い出だ。布団が持っているのは桃自身の温もりだけで、彼の匂いはもうしない。
「寂しいな・・・。」
桃の胸に切なさが込み上げてくる。彼とはもう一ヶ月まともに顔を合わせていない。彼が忙しいのは分かっているけれど。
「シロちゃん・・・。」
そんな時だった。廊下をパタパタと走る足音が聞こえてきた。軽やかな響きなのは相手に歩き方にも因るが、何よりその人物の体重が軽いことにあるのだろう。
「母さん、朝だよ!もう起きてる?」
そう言って桃の部屋に入ってきたのは黒髪に翠の瞳を持つ、人懐こそうな男児。この子供は桃の息子だった。
「起きてるよ。おはよう、春君。」
「あ、おはよう、母さん。」
得てして、息子は母親に娘は父親に似ると言われているが、桃の息子は顔の造作に関しては母親譲りであった。
「待っててね、今ご飯作るから・・・。」
桃は意識を切り替えて布団から起き上がる。
「そんなことよりもさ、母さん!」
「なあに?」
「父さん、帰ってきたよ。」
布団をたたもうとした桃に対し、息子はにっこりと笑ってそう言った。
「お布団は僕が片付けておくからさ、早く会いに行っておいでよ。ね?」
「・・・ありがとう、春君!」
桃は我が子をギュッと抱きしめると、部屋から一目散に駆け出した。廊下を走って、彼の霊圧を感じ取って、自然と顔が緩んでいくのが止められない。溢れるような嬉しさと愛しさが桃の心を包み込む。勢い良く襖を開けた。目に飛び込んできたのは、日に透けて銀にも見える彼の白い髪。
「おかえりなさいシロちゃん!」
「おう、ただいま、桃。」
桃は躊躇うことなく彼に抱きついた。あの頃とは違い自分より背の高くなった彼の腕が桃の身体を受け止める。
ほらね、シロちゃんと一緒なら夢の中でも夢の続きの現実でも、私は幸せなんだよ。ね、シロちゃん?
<後書き>
日雛十五題の『おはよう』か『おやすみなさい』でも使えそうなネタだったんですが、それ用のネタは以前ネタ帳に作ってあったので没にするのも勿体無いと思い、こちらに持ってきてみました。どうやら五題の方は夫婦日雛で行く模様です。というか春樹君グッジョブ☆
2005/11/22 UP