ある死神による護廷十三隊観察記録2

 

 

 

 今日もソウル・ソサエティはよく晴れている。そして近頃は現世も平和だ。あまり虚も出ていない。よって今日も書類仕事だろう。ああ、お前は誰かって?俺の名前は・・・ここでは一応、ナナシ・マツと名乗っておく。所属は十番隊。一身上の都合により下位席次に甘んじているが、実戦でまるで使えない死神だからではないのは念のため言っておく。どこかで聞いたような名前だ?あー、一応身内が五番隊にいるからそのせいじゃないか、多分。そもそも十番隊と十一番隊は特に物騒な地域を任されるから、比較的血の気の多い戦闘に向いた奴等が集められるのが通例だ。もっとも全部が全部そういったタイプになると事務処理等の面で困るので、そっちもそこそこ出来る奴が配属される。実際十番隊の隊長も副隊長も処理能力は常に生かされているかどうかは別としてかなりのものである。ただ十一番隊は現在事務処理に向いていない上官がかなりいるので下の連中はいろいろ大変らしい。よりによって更木・草鹿・斑目だからなあ・・・。あいつら確かに強いんだけど机仕事には向いてないよな。特に草鹿やちる十一番隊副隊長。

「こっこまでおいで〜、つーるりん☆」

「待ちやがれー!このクソドチビ!!」

ドドドドドドドド・・・

 そんな感じの効果音を立てながら十一番隊の副隊長と第三席が廊下を駆け抜けていく。ああ、言ってる側からこれだよ、あいつら。毎度の事ながらこりないな。その内騒音で苦情が来ても知らないぞ。いや、それより先に器物破損か何かで訴えられて重ジイの雷が落ちそうだな。

「のわあああああぁぁぁ・・・。」

遠くで木霊する斑目の悲鳴。そう言えば三番隊詰め所前の廊下、床が腐りかけてるんだっけ?声が聞こえてきたのも方角的に三番隊区画だし・・・これは床が抜けたかな。暇があったら煽ったのは草鹿の方だとフォローを入れてやるか。今財布の事情がかなり切迫してるって話だし。これ以上減棒されたら流石に気の毒だろ。まあ、気が向いたらだけど。一番隊の詰め所は遠いし。

 おっと、考え事をしていたら危うく執務室を通り過ぎる所だったぜ。ノックをして戸を開く。

「すみません、日番谷隊長。この書類もお願いします・・・て、あれ?」

室内には隊長はおらず、その代わりかどうか知れないが、松本副隊長がキレていた。それを先輩の死神・・・上位席官数人が必死で宥めている。この状況から察するに日番谷隊長が仕事をさぼって逃亡、行方を晦ましたようだ。

「どうしたんですか、先輩。」

一応、声を掛ける。それより大丈夫か、松本副隊長。正直そっちの方が心配な気もするが、先輩の話によればやはり予想通り隊長が姿を消したらしい。しかし、この書類もさることながら、隊長がいないんじゃ、あれの届けようがないな。さて、どうする。とりあえず書類の方を執務机に置いて・・・よし。

「松本副隊長、宜しければ俺が隊長探してきましょうか?」

「ナナシ君・・・?」

俺の提案に暴れかけていた副隊長の動きが止まる。

「副隊長や先輩方が動く訳にもいかないでしょう。」

ただでさえ仕事が溜まっているんだし。これは口にしないが暗黙の了解事項でもある。

「俺みたいな下っ端なら多少動いても平気ですから。任せておいて下さい。」

詰め所に居なくても大した支障はでないはずだ。

「まあ、確かにナナシは隊長見つけるの上手いけど・・・。」

正確には()じゃないんだけどね。

「じゃあ、お願いできるかしら?」

「はい、松本副隊長。」

そう言って俺は執務室を後にした。

 

 

 とある隊舎の屋根の上、風は少なく程よく陽光の当たる、なかなかの休憩場所だ。昼寝にも向いているだろう。屋根の感触が気になる人でなければ。そこに俺はやって来ていた。そしてそこには、予想通り日番谷隊長が横になっていた。仕事をさぼって執務室を出たならば、目的は彼の幼馴染に会うか昼寝のはずである。前者は俺が書類を届ける前に彼女と会っているから違うので、残るは昼寝である。そうとなれば、護廷内の昼寝に向いている場所を虱潰しに探していけばいい。この時期に昼寝に適した条件の揃う場所はそう多くないこともあり、三箇所目で見事に当たった。

「日番谷隊長、見つけましたよ。早く仕事に戻ってください。副隊長が怒っています。」

声を掛けたが反応はない。霊圧はやはり隠れるように抑えられたまま。しかしあの彼が気づいていないはずがないのだ。日番谷冬獅郎という男は。野生の獣のような気風を持つ彼ならば。ナナシ・マツは知らなくとも・・・は知っているはずなのだから。

「隊長、起きているのはわかっています。」

再度声を掛けてみたが日番谷隊長は起きない。いっそのこと殺気を放ってみるのはどうだろうか。いや、それだといろいろ面倒なことになりそうだな。何よりここは一番隊・二番隊の詰め所に近いのだ。規律に煩い彼らの隊長にばれるのはまずい。

「狸寝入りはやめて、いいかげんに起きて下さい。」

まだ動かないつもりか・・・ならば。

「これ以上寝たふりを続けるつもりならば、この場で雛森副隊長から預かった手紙の内容を大声で読み上げます。」

 そう言った所、隊長は文字通り飛び起きた。そしてギロリとこちらを睨みすえてくる。単なる平死神なら恐れる所だろうが、生憎俺には効かないぜ。

「おはようございます、日番谷隊長。やっぱり嘘寝してやがりましたね。」

自分で言うのもなんだが、似非爽やかな笑顔で言えたと思う。

「・・・ナナシか。何でお前がここにいる。」

「そのセリフそっくりそのまま返させていただきますよ。」

俺の言葉に隊長は言葉に窮したようだった。そしてしばし無言で睨みあい。と言っても睨んでるのは隊長だけなんだけど。あ、向こうが先に目を逸らした。はい、この勝負俺の勝ち〜。

「どうしてお前にはすぐ見つかるかな・・・。」

そう言って隊長は溜息をついた。

「何でお前は俺を捜すのが上手い。」

こちらを真っ直ぐに隊長は見る。疑問形なようで疑問形じゃない所が何とも嫌な感じだ。

「俺よりも雛森副隊長の方が見つけるの上手いと思いますよ。」

とりあえず軽く誤魔化してみる。

「答えろ。」

 あっちゃー、やっぱ駄目か。そうだよなー、幼馴染の雛森桃副隊長ならともかく、わざわざ霊圧隠してるのに、俺みたいな下位席官があっさり見つけるんじゃ、疑問に思うはずだよなー。でもこれって何て答えればいいんだろう。まさか本当のことは言えないし、そしたら絶対怒られるし。うーん・・・。

「えーと、野生の勘?」

「何だそれは・・・。」

というか経験なのか?でも本当の意味では違うしな〜。

「とにかく、何となくですよ。」

この人勘が鋭いからあんまり突っ込んで欲しくないんだよね。とりあえずこの場はそれで手を打って欲しい・・・ていうか納得しろ!頼むからこれ以上答えにくい質問してくるんじゃねえ!!

「そんなもんなのか?」

「そ、そういうものです。」

そういうことにしときましょう!お互いのためにも!!

「・・・。」

ああ、この沈黙が痛いです、隊長・・・。

「それで雛森からの手紙って?」

 よし、話題が逸れた!ふ〜、全く思わず心の声まで敬語遣いになっちまったぜ。

「あー、はい、それは・・・あの、その前に執務室戻りません?」

松本副隊長の怒りを鎮める為にも。

「いいんだよ、どうせ戻った所で説教されるんだから。」

それは、まあ、確かに・・・。それにしても予想通り戻るの渋ってきたな。

「じゃあ、隊長。これを・・・。」

俺は懐から例の物を取り出し、彼に手渡した。

「何だこれは・・・。」

「隊長の机からちょろまかしてきた書類です。目を通すだけでもしてください。」

「どういうつもりだ。」

「気分転換に外で仕事してたと言えば、松本副隊長もそう怒れないと思いますよ。」

そうすればお説教されるという時間の無駄が省けるし。

「チッ、仕方ねえ。」

隊長は前頭部をガリガリと掻くと、書類に眼を通し始めた。

 俺何だかんだ言って日番谷隊長のこと結構好きなのかもしれないな〜。こうしてフォロー入れたりとかしてるし。まあ、本人どう思っているか知らないけど、十番隊の奴等は隊長のことかなり気に入ってるみたいだし。天才児と言われても所詮子供に隊長職が務まるのかとかいろいろ陰口叩く奴もいたし、当初は人事に納得してない連中も多かったと思う。でも、今、十番隊隊長日番谷冬獅郎に異存のある奴は、少なくとも俺のいるこの十番隊の中にはいない。彼はそれだけの力があると・・・はわかっていたんだよな。

 

 ああ、もう大分日が傾いてきてる。雲は相変わらず少ない。

 

 

 

 

 

<後書き>

 これも日桃じゃない〜。十番隊の愉快な日常みたいな?

 えーと、一応五番隊のハツと十番隊のマツで対になっているですが、話が繋がっているという訳でもありません。何だか微妙な話ですね。ちょっと日桃以外の別の伏線張りすぎました。次回はもう少し日桃要素を増やしたいです。ただ、今出来ているネタは十番隊寄りの話が多いです。水無月が日番谷の方が好きだから?

 あと雛森嬢からのお手紙はちゃんと日番谷君の手に渡っております。