ある死神による護廷十三隊観察記録3

 

 

 

 皆様、今日は。ナナシ・ハツです。今日の天気は薄曇り。五番隊は最近とても忙しいのですよ。先日、上位席官数名が虚退治の際、負傷されまして、入院生活を余儀なくされてしまったんです。その為、人手不足で、私のような下位の死神もいつもの倍、雑用その他に駆り出される訳であります。

「ナナシさん、これは二番隊、こっちは九番隊、あ、これは六番隊ね。」

「はい!」

矢継ぎ早に書類の束を手渡され、私は詰め所を後にしました。

 えーと、一番近いのは六番隊ですね。朽木隊長の所ですか・・・嫌だな〜。あそこ雰囲気暗いんだもの。時間がないので一気に済ませてしまいましょう。人目がなければ、もっと早く行く方法はいくらでもあるのですが、今は地道に廊下を早歩きです。

 

 そんな訳で、今、現在、六番隊の執務室の前にいるのですが、何故か、どうも、気まずい状況に陥ってしまいました。実は、執務室の前で丁度十番隊の松本副隊長とかち合ってしまったのですが、お互い書類を大量に抱えて手に余裕がない状態なのです。本来なら私が戸を開け、なおかつ松本副隊長に先を譲るべきなのでしょうが、正直、今にも書類の支えている部分が決壊しそうな感じなのです。ひ〜、どうしましょう!

「えーと、お先にどうぞ。」

しかし、私はしがない一死神です。仕方がありません。上官を優先させなければ・・・!

「退いた退いた退いた退いた退いたぁ!」

ドン

『あ。』

 その場に居る者の声が見事に重なり、私は書類を廊下にぶちまけてしまいました。後ろから誰かがぶつかったせいです。油断していました。

「悪い、大丈夫か。」

「阿散井君・・・。」

松本副隊長の言葉によれば私に衝突してきたのは阿散井恋次殿のようです。以前なら問答無用で殴り飛ばしていたかもしれません。しかしそのような事情は彼の知る所でもないですから、私は沈黙は金とばかりに、ただ黙々と書類をかき集めるばかりであります。ああ、念のために各隊に渡す書類ごとクリップで色分けしておいて良かったわ・・・。

「ほらよ、これ。」

「あ、ありがとうございます。」

 阿散井殿は何枚か書類を拾って渡して下さいました。通常私のような下位席官に対しては、書類を拾う所か、捨て置かれ、こちらに非がなくても非を押し付けられることもあるので、阿散井殿は随分と気さくというか親切な部類に当たると思われます。現世においてなら自らの不注意で相手に書類をぶち撒かせてしまった場合拾うのを手伝うのは常識でしょうが。

「阿散井君、急いでるのはわかるけど、もう少し周囲に注意を払いなさいよ。」

「以後気をつけるんで、この場は勘弁してくださいよ、松本さん。・・・それじゃ、あんたも悪かったな。」

そう言って阿散井殿は疾風のように立ち去られました。

「はい、ナナシさん。これも。」

「すみません、松本副隊長。・・・あ、失礼ついでにちょっと宜しいですか?」

「何?」

 松本副隊長に書類を渡されて・・・あ、これ、クリップが外れかけてる。手早くそれを直し、今現在五番隊が火の車な状態の一因について彼女に尋ねることにしました。

「雛森副隊長が十番隊に書類を届けに行ってから一向にお戻りにならないのですが。」

「・・・全く、また隊長ね。」

呆れを滲ませた声。

「私も申し上げたくないのですが、何分、事情が事情ですので・・・。」

他人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて何とやらとは申しますが、このままだと疲労で入院してしまう方が出そうな勢いなので、あまり雛森副隊長を拘束されるのは困るのです。もっと暇な時期なら好きなだけイチャイチャしていただいて結構なのですが。

「わかったわ、その件に関しては責任持って私が何とかする。」

「申し訳ありません、お願いします。」

「兄ら、先からそこで一体何をしている。」

 横から割って入った第三者の声。その声をした方を向けば、執務室の戸が開いて、立っていたのは六番隊隊長でした。出ました来ました、朽木白哉!相変わらずの仏頂面ですね。何だか不機嫌そうです。少々騒がしくしすぎたせいでしょうか。

「いいえ、何でもありませんわ、朽木隊長。これ、今度の合同演習に関する書類です。」

そう言って松本副隊長は朽木隊長に書類を引き渡されました。そして速やかに退場されました。さて、今度は私の番ですね。

「朽木隊長、これらは五番隊からの書類です。こちらは各隊で順に閲覧しているものです。六番隊の分を取って、それから受領の署名をしてから次の隊に回してください。これは今朝間違えて五番隊に混入していた分の書類です。それからこちらが先日六番隊と五番隊の隊員が起こしたトラブルに関する関係者の意見陳述に関するもの。あとは通常業務に関する書類です。」

「うむ。」

「それでは失礼致します。」

書類を渡し、頭を下げて、六番隊執務室を後にしました。あの人との応対は肩がこるので苦手です。さて、次は九番隊です。

 

 これはどうしたことでありましょう。九番隊の隊長室に入ったら二番隊の砕蜂隊長がいらっしゃいました。ああ、空気が、空気が重いです・・・。とりあえず砕蜂殿に会釈をして、東仙隊長の机に前に歩いていきました。

「五番隊からの通常業務関係の書類です。それからこちらの封筒に入っているのは重要書類ですので、副隊長以外には扱わせないようご注意ください。」

「ああ、了解した。」

「それでは失礼します。」

「待て。」

さっさと退出しようと思っていたら、砕蜂殿に呼び止められました。ああ、二番隊へ届ける分は隊長を通さなくてもいい書類だから、この方とは内職[・・]の都合上なるべく関わりたくなかったのに・・・。

「何でしょうか。」

「何故、貴様のような下位席官が、そのような重要書類を扱っている。」

流石に規律に煩い方ですね。

「砕蜂殿、ご存知かどうかは知りませんが、只今、我が隊は、上位十席の内、六名が入院生活を余儀なくされております。書類の運搬くらいは下位の者に任せないと、書類処理が追いつかないのですよ。」

どうやら文句はないようですね。苛立ちのあまり、余計な霊圧を放出しそうになってしまいました。いけない、いけない。こんな所でトラブルは厳禁ですもの。

「それでは、失礼します。」

そう頭を下げて今度こそ部屋を出る。全く二度手間になりました。

 

 さあ、後は二番隊の詰め所に向かうのみ!残りの仕事も頑張りましょう。

 

 

追記

 マツの話によれば、この日の日番谷隊長は不機嫌なようなご機嫌なような微妙な表情をしていらしたそうです。私も見たかったです、日番谷隊長の百面相。

 

 

 

 

 

<あとがき>

 シリーズ第三弾です。今回は日桃本人出てきてません。日番谷君は書類を届けに来た雛森さんを執務室に連れ込んでラブラブして・・・たらいいなあ(願望)

 あと、恋次はまだ六番隊副隊長にはなっていません。