ある死神による護廷十三隊観察記録5
ナナシ・ハツです。先程、現世より戻ってきたばかりであります。今回は十人魂葬致しました。虚も出なかったし、地獄行きな霊もいなかったし、最近仕事楽でいいわ〜。後は詰め所に戻って、報告書を書いて、藍染隊長か雛森副隊長に提出すれば、今日の仕事は完了♪ お給料入ったし、久々にマツと外でご飯食べようかしら。
「あ、ナナシさんも戻ってきたんだ。」
「雛森副隊長。」
「何か、今日はご機嫌だね。良い事でもあったの?」
え!?態度に出てました!??まずいまずい、気をつけないとうっかり地を出しちゃいそうですね。ちゃんと抑えなくては。平常心平常心・・・。
「ナナシさん?」
「あ、すみません。今日、お給料日なので、つい・・・。」
「そっか〜。やっぱりお給料日ってウキウキしちゃうよね。何に使おうかな、とか考えて。」
「雛森副隊長はどうされるおつもりですか?」
「う〜ん、とりあえずは湯呑みかな?」
詰め所に向かう途中で鉢合わせた雛森副隊長と並んで・・・といっても私の方が下位なので少し後ろを歩いているのですが、廊下を行きつつ会話をしている状態です。
「湯呑み・・・ですか?」
「あのね、一昨日お茶入れようとして、日番谷君のお気に入りの湯呑み割っちゃったの。日番谷君は気にしなくていいって言ってくれたけど、やっぱり悪いし。でも給料日前であんまりお金なくて、まだ弁償できてないの。」
そう言えば、昨日は銀行がお休みでしたね。雛森副隊長なら貯金とかしてそうですし、口座からお金が下ろせなくて今日まできたという事情でしょうか。
「でも安物で良ければ手持ちのお金で何とかなったんじゃないですか?」
「駄目だよ!だってその湯呑み、古衣鞠なんだよ。すっごく高いの。」
古衣鞠!?あー、それは確かに高いです。隊長格の給料なら買えない物でもないですけど、それでも買ったらかなりの財政赤字になるはずな代物。京楽隊長も一時期集めてましたよね。今は施都にはまってるらしいですけど。前に山本総隊長お気に入りの古衣鞠割ってマツが吊るし上げられたこともありましたね。懐かしいなあ・・・。それにしても日番谷隊長、渋い好みですね。
「日番谷隊長って、お茶好きなんですか?」
マツの話じゃかなり凝ってるって聞きましたけど。
「そうなんだよ〜、ああ見えて種類とか入れ方とか結構煩いんだよ。だから日番谷君の入れたお茶って美味しいんだ〜v」
それは惚気ですか、雛森副隊長。
「雛森副隊長の入れて下さるお茶も美味しいと思いますよ。」
「え、そうかな?ありがとう。あ、日番谷君が言ってたんだけど、ナナシさんやマツ君もお茶に詳しいんだって?」
マツ〜、あんたまた何か口滑らしたわね・・・!
「え?そ、そんなことないですよ。私なんて足元にも及びません。本当です。」
あの三人と付き合ってると自然と覚えちゃうのよ!伊達に長年生きてないから。
「でもいいなあ・・・。」
「は?何がですか。」
とりあえず誤魔化せたかな、と思ったら雛森副隊長は溜息を吐かれた。
「マツ君。最近日番谷君と凄く仲良いの。この前も一緒に稽古したりして・・・。私なんて日番谷君と手合わせしたことも無いのに・・・・・・。」
一体何をやらかしたの、マツ。隊長と手合わせ?何目立った事しでかしてるのよ、あの馬鹿!これは可及的速やかにあいつを捕まえて吐かせる必要がありそうね。
「そ、それは同じ隊ですし、稽古することはよくあることでは?」
隊長と下位席官の組み合わせは通常ありえないけど、とりあえずフォローを入れておきました。これで納得してくださるといいのですが。因みに下位でも多勢対無勢というパターンで三十人位を隊長・副隊長が相手にするという稽古がない訳ではないのですが、鍛錬の方法は各隊・各隊長の強さ及び方針により異なるので一概には何とも言いがたいのが実情であったりします。
「だって、先週なんか、早くにあがったから、せっかく日番谷君、お夕飯誘おうと思ったのに、今度一緒にご飯食べようねって約束してたのに・・・、マツ君との手合わせ優先させて、しかも一緒にご飯食べにいったんだよ?私だって最近ずっと行ってないのに!」
これは日番谷隊長に約束を破られたことを拗ねているのか、それともマツとの仲を妬いているのかどちらなんでしょうか。
「ほら、やっぱり雛森副隊長怒ってるじゃないですか、日番谷隊長。」
「俺だけのせいかよ?」
「日番谷君!?ナナシ君!?」
横からの声に雛森副隊長は少々驚かれた様子。廊下から見える庭には日番谷隊長とマツ。ようやく来たわね。それにしても・・・。
「何で泥だらけなの!?」
私も雛森副隊長の言葉に同じく。庭にいる二人は見事なまでに泥まみれでした。しかし日番谷隊長は雛森副隊長の言葉にプイッと顔を背けてしまった。こういった仕草は随分と子供っぽいと思うのです。
「日番谷君!」
「・・・・・・。」
「マツ。」
「あ、雛森副隊長俺が説明します。」
「ナナシ!」
「別に黙ってても仕方ないでしょう。下手に沈黙するのは相手を心配させるだけですよ。」
「心配しない人もいるけどね。」
私も基本的には。
「ハツ、話の腰を折らない。まあ、聞くだけ無駄だと思えるようなくだらない理由なんですけど、泥合戦に巻き込まれたんです。」
「泥合戦?」
「はい、実は・・・。」
マツの話を要約するとこういうことになるらしいです。まず十番隊は、今日は少人数による部隊の連携に関する訓練を行ったそうです。その時日番谷隊長とマツは同じチームで、最後に部隊同士の戦闘訓練も行ったとのこと。隊員の大部分が日番谷隊長のチームに倒されてしまったので、片付け要員が足りなくなってしまい、演習場からの撤収に時間がかかってしまったそうです。もちろん日番谷隊長は、片付けといった雑用は通常行いませんが、最終確認は利用者の内、最高責任者が行うのが通例なのです。そして彼らが十番隊区画に戻る途中、十一番隊の演習に遭遇しました。しかし彼らは訓練というよりすでに遊びに入っていたようです。そこでは草鹿副隊長発案の雪合戦ならぬ泥合戦が展開されており、日番谷隊長に泥玉がぶつけられた上(これはやちるがやらかした)、さらに更木隊長が挑発した結果、十番隊(一部)も参戦と相成ったのです。
「それでこんなに泥だらけなんですか。」
「あー、日番谷君!駄目じゃない、羽織が真っ黒だよ。洗わなきゃ。」
「いいだろ、別に。」
「ほらぁ、顔もこんなにして。拭いてあげるよ。」
「だからいいって、雛森。」
日番谷隊長の頬をハンカチで拭こうとする雛森副隊長。微笑ましい光景です。では、この隙に・・・とばかりに私はマツを手招きしました。
「マツ、他の人たちはどうしたの。」
「あー、隊長達の霊圧に当てられて途中抜け。何だかんだ言って残ったの数人だったし。俺は重ジイが近づいてるのに気づいたから適当な理由つけて隊長引っ張ってきた。今頃十一番隊の奴等、お説教食らってるんじゃないか。下手したら減棒だな。」
「呼んでるのもわかったし?」
「まあね。」
小声で少々話し合い。
「じゃあ、もう理由もわかってるわよねえ。」
「う゛」
今日の仕事片付いたらキリキリ締め上げてあげるから覚悟してなさいよ。
「でも、俺はまだ許容範囲内だと思うんだけど・・・。」
「言い訳は後で聞いてあげるわ。」
今夜は家に帰ったら忙しくなりそうです。さ・て・と・・・
「雛森副隊長、私、先に戻ってますね。藍染隊長には言っておきますので、今日は水入らずで過ごされたらどうです?」
「え?」
「せっかくお給料も入られたのですから、お二人でお食事でもなされては?因みに私のお勧めは唐草飯店です。料金の割りに美味しいですし。しかもここは飲茶に力を入れているので、お茶やお菓子も古今東西で豊富だし、持ち帰りも出来るんですよ。」
「な、ナナシさん!?」
私の言葉に顔を赤くする雛森副隊長。
「じゃあ、俺も松本副隊長に頼んでおきますね。今日は日番谷隊長が早くあがれるように。」
「ナナシ!」
『大丈夫ですよ、お二人がデートすると言えば快く承知してくれるはずですから。』
後で聞いた話ですが、この時、私とマツは、セリフの唱和のみならず、表情までそっくりだったそうです。やはり長年双子をやっているからでしょうか。
その後、私とマツは赤くなられた日番谷隊長(一見して非常にわかりにくい)と雛森副隊長(一見して誰の目にも明らか)をその場に残し、お互いの詰め所へ戻っていきました。
<後書き>
古衣鞠は古伊万里、施都は瀬戸焼から名前を取ってます。でも特長とかまで同じとは限りません。自分はあまり焼き物に詳しくないので。響き重視です。
ハツ編にとうとうマツが登場。日桃も頑張ってみました。でも世話焼きお姉ちゃんと腕白だけど意地っ張りな弟な状況に。素直なシロちゃんも見てみたいけど、頑固な日番谷君も好きだ〜!内心、結構萌えてます。水無月、頭の中では萌え妄想たまに炸裂するのに文章化したとたん陳腐な出来になってしまうのです。文才と語彙力が足りない・・・。
因みにマツは詰め所に入る前にちゃんと泥を落としにいってます。
2005/12/13 UP