ある死神による護廷十三隊観察記録6

 

 

 

 俺はナナシ・マツ。十番隊の死神だ。今日の任務は虚退治で、今現在俺達五人は虚の群生ポイントと思われる場所にいる。メンバーは佐藤十席、以下鈴木、橋本、藤原、そして俺だ。因みに席次は鈴木・橋本は俺より上、藤原は下ということになっている。そして佐藤が班長という形だ。もちろん彼らは十番隊の一員だけあり、戦闘能力はかなり高い。ただし、佐藤以外は鬼道が悲しいくらい下手だ。もちろん腐っても死神なので最低限の知識はある。でも破道を放つのに舌噛んだ奴を俺は学院以外で初めて見たぞ、橋本。念の為に言っておくが、俺は隊の中では鬼道が得意な部類として認識されている。人前では鬼道を使った補助的役割をしているのがほとんどだから当然だけどな。本当は刀振るう方が好きなんだけどさ。体動かすのは基本的に得意だし。

 おっと、そんなことを言っている側から出てきた出てきた。やっぱ五人も死神が固まってると霊的密度濃くなるよな。こういう時の虚って、餌に群がる蟻みてぇ。ランクは追加給金もなさそうな奴等ばかりだけど、久々の戦闘でワクワクする。さーて、サクッと済ましてチャカチャカ浄化するぞ〜。

「くるぞ!」

佐藤の声。とりあえず当初の作戦では陣形を崩さずに対応、状況によって臨機応変に散開すること。その場合、仲間と一定の範囲を保つこと。場合のよっては撤退もありというのが基本方針。もちろん救援要請も考慮に入れている。さあ、戦闘の始まりだ。

 

 

 

 

 

 因みにその頃、十番隊の詰め所では遊び(からかい)に来た市丸を乱菊が叩き出していた。執務室では日番谷がイライラしながらも決済の判子を地道に押し続けていた。もちろん吉良は必死で市丸の行方を探している。そして食堂では雛森・阿散井・ルキアが大分遅い昼食を採っていた。

「阿散井君、よく食べるねえ。」

「定食に、天丼、それにきつねうどんか。その内腹を壊すぞ、恋次。」

「んぐんぐ、お前らが少食なんじゃねーのか、はふはふ・・・。」

「多分それは違うと思うよ。」

「貴様が大飯喰らいなのだ。」

実は雛森もルキアも護廷内では結構人気があり、その二人と共に食事をする恋次は両手に花、つまり周囲の羨望の的であったりするのである。なお位置関係は雛森とルキアが隣同士で恋次は彼女達の向かい側に座っていたりする。

「ほうか?」

「阿散井君、お行儀が悪いよ。」

「口に物を入れたまま話すでない、このたわけが。」

因みに女性陣はすでに食事を終えている。

「あと、帰りにタイヤキ買うつもりなんだけど、お前らも要るか?」

「貴様はまだ食う気か?」

「よく言うだろ、甘い物は別腹だって。」

「阿散井君が言うと何か変だよ・・・。」

「そうか?この間なんか、そう言ってルキアの奴、白玉餡蜜二皿も平らげたぜ。」

「何を言い出すか、この莫迦者が!?」

「雛森だって、前に甘味処で日番谷隊長の分まで団子食べてたし。」

「そ、それは日番谷君がもういらないって言ったから・・・!」

実は日番谷が雛森が食べたそうにしているのに気づいて譲ってくれたのだったりする。

「んで、いるのかいらないのか?」

「くれる物は貰っておくぞ。」

「ルキア、素直に欲しいと言えないのかテメエは。」

割と平和な光景が展開されているようである。

 

 

 

 

 

 うわあ、予想以上に虚がゴロゴロいるなあ。ちょっと感心してしまいそうな位の勢いで。いつの間にか他の連中と離されてしまっている。その方が俺としては都合がいいんだけどさ。霊圧を感じるからまだ生きているだろうし。

「オマエ、ウマソウナ、ニオイ、スル。」

この虚、片言?どうでもいいようなことが頭に浮かんでくる。この距離なら虚の霊圧に紛れて少しは本気出せるか。

「クワセロ!」

残念。俺はお前程度に食われるレベルじゃないんだよ。

「いくぞ、葉月。」

斬魄刀が啼いた。

 葉月を振るい、虚の囲みを破る。そのまま体を反転し、後頭部を叩き割った。はい、一匹。おっと、虚も元人だし一人二人で数えた方が良いか?でもこいつら動きが動物っぽいからついつい匹で数えたくなるんだよな。横から来た奴を薙ぎ払って、二匹目。

「オマエ!」

今度は左右からきたか、でも甘い。鬼道で足止めして、一気に斬る。うーん、どうもあの赤い奴がリーダー格みたいだな。じゃあ、こいつから仕留めるか。そう判断した俺は即座に相手との距離を詰める。驚いたらしいそいつは他の虚を盾にした。

「邪魔だ!」

それを切り捨て、肉薄した。キィイインと鋼を弾く音。チッ、鉤爪か。いや、どうやら爪を極度に硬質化したものらしい。てことは・・・

「やっぱり肉体も硬質化できる・・・か。」

なら、これならどうだ。俺は隠し持っていた小瓶を相手に投げつけた。瓶が割れ、中に入っていた液体がかかる。そして何かが焼ける臭いと虚の悲鳴。

「ナ、ナンダ、コレハ!?」

硬質化したはずの肉体が溶けて動揺している。しかしそれに答えてやる義理は無い。俺は動揺して守りが緩くなったそいつの首を切り落とした。それにしても結構効くな、この霊子を溶かす劇薬。四番隊と十二番隊の技術を併せて作り出した、試作品だったんだけど。乾くと無害だが、霊子は何でも溶かすので、うっかり触れるとこっちが溶けてしまうのが玉に瑕。まあ、これはすぐ乾くように改良しておるんだけどさ。ただし、一度かかると皮膚の内面にはじわじわ浸透していくので注意が必要らしい。実験用動物に使ってみた所、エライ事になったという話だ。内緒でこっそり貰ったやつだったんだけど、効き目は後でちゃんと報告しておこう。

『グルオオオオ・・・』

残ったのは烏合の衆。集団で襲い掛かってきた。でも

「無駄だよ。」

あんた達には俺を倒せないから。

 

 

 

 

 

 因みにその頃のソウル・ソサエティ。食堂からの帰り道、タイヤキをほうばりつつ雛森達の会話。

「それでね、今日私も日番谷君も早く仕事終わる予定だから、一緒にお買い物行こうねって約束してあるの。」

嬉しそうに本人無自覚の惚気会話を炸裂させている雛森。

「西流魂街で夜店市か・・・。恋次も暇なら私と行くか?」

「ルキア!?」

ルキアの誘いに照れて赤くなる恋次。

「チャッピーグッツ専門店が出るという話なのだ。」

「それって俺に荷物持ちしろということか・・・?」

「何だ、不満なのか?せっかく何か一品位は奢ってやろうと思っておったのに。」

「ぜひ、行かせていただきます。」

こちらの幼馴染二人は一方が空回り気味らしい。

 

 

 

 

 

「ナナシ、大変だ!」

 俺が周囲にいた虚を片付けた頃、顔面蒼白にして駆け寄ってきたのは藤原だった。見れば深手ではないがかなりの傷を負っている。

「どうした。」

「は、橋本がやられた。」

橋本が?何かヘマしたのか。

「フェア・ルークが出たんだ!」

「フェア・ルーク・・・あの狂犬か!?」

フェア・ルーク、通称狂犬。イカれた過食野郎で、ブラックリストにも載っている厄介な虚だ。こいつは相手が死神だろうが整だろうが同じ虚だろうが、とにかく食いまくる。見境がない。酷い時は霊力の有無に関係なく人間を襲うこともあった。確か死神も何人かやられているはずだ。

「今、佐藤十席が抑えてる。」

「鈴木は?」

「これから伝えに行く。」

「救援要請は?」

「もう出した。」

「ナナシは佐藤十席を助けてくれ。」

「わかった。」

佐藤の霊圧は・・・あっちか。だが、フェア・ルーク相手じゃ撤退は無理かもしれない。せめて月読が使えたら・・・。

「ぐわ!?」

「佐藤!」

 俺が現場に駆けつけると、佐藤の刀が弾かれた所だった。体が振り飛ばされ、手から刀が離れる。まずい。

「させるかぁあああ!!」

俺は佐藤に迫るフェア・ルークに切りかかった。こいつ、思ったより反応が早い。

「早く拾え!」

フェア・ルークから眼を離さず、佐藤に斬魄刀を拾うよう、声を掛ける。この際敬語は構っていられないだろう。

「悪いな。」

佐藤は片手で刀を持ち、フェア・ルークに対峙する。片手・・・?

「あんた、まさか・・・。」

横目で見れば、佐藤の左腕、丁度一の腕の真ん中辺りから下が無くなっている。出血もかなりあるようだ。

「ああ、食われた。」

俺の言葉に佐藤は淡々と答える。手がないということは鬼道の複雑な印は組めないということ。不利だな。

「逃げろ。他の二人を連れて。」

「ナナシ。」

「なら、あいつらの方に先に手を貸してやれ。戦ってるの、わかってるだろ。」

離れた所で鈴木と藤原が戦っているのが感じられる。

「俺なら、大丈夫だ。救援が来るまでなら、もたせられる。」

「だが・・・。」

あんたにも席官としてのプライドとかあるだろうけど、正直言って足手まといだ。

『!』

藤原の霊圧が弱まっている。向こうはかなり危機的状況かもしれない。

「行け!」

「あ、ああ・・・。」

そう言って佐藤は踵を返した。

 

 

 

(何だ、あの霊圧は・・・。)

 佐藤はナナシから漏れ出す濃度の高いそれに戦慄した。とても下位席官のものとは思えない。演習の時、特にナナシと手合わせした時に感じた違和感はこれだったのだろうか。どこか受け流されているというか、真面目に手を抜いている気がする戦い方の意味は。彼はいつだって鬼道を多用し、斬魄刀自身を核に戦ったことを佐藤は見たことがない。稽古でも引き分けやギリギリで負けるという結果が多くて、よく考えてみれば偶然というよりわざとそうしたと考えた方が自然だ。

(一体、あいつは・・・。)

「くっ。」

手荒に止血をしたので傷口が痛んだ。それでも佐藤は二人の仲間の元へ向かった。

 

 

 

 その後、佐藤は鈴木達と合流し、しかし巨大虚の出現で苦戦していた所、駆けつけてきた日番谷隊長と松本副隊長に助けられたらしい。三人ともかなり重傷で、即四番隊員が治療に当たった。佐藤達からフェア・ルークの話を聞いた日番谷隊長はその場を松本副隊長に任せて、俺の助太刀に向かったそうだ。その時の俺はかなり戦闘でハイになっていたようで、日番谷隊長の接近に気づかなかった。自分で言うのもなんだが、俺はかなり有利な立場に立っていて、フェア・ルークを追い詰めていた。

「ナナシ!」

「・・・日番谷隊長?」

名前を呼ばれてようやく彼に気づいた俺は、戦いの基本に反し、フェア・ルークから目を離し、振り返って日番谷隊長の存在を確認してしまった。その隙を逃さず、フェア・ルークは俺の背後から襲いかかってきた。しかし永年染み付いた経験は恐ろしいもので、俺は反射的に斬ってしまった。相手を見もせず、後ろ向き状態で、いかにも無造作に、細切れに。気づいた時にはもう遅かった。並みの死神が簡単に出来るような方法ではないのに、よりによって隊長の目の前でやってしまった。これが京楽隊長や浮竹隊長なら何の問題も無かったのにー!

「ナナシ、お前・・・。」

「ひ、日番谷隊長・・・。」

「何で隠してやがったんだ!そんなに強いのに!」

瞬間的な霊圧の出力でばれたか!?

「そんな芸当が出来るんだったらもっと別の仕事も回してやるのに!そうすれば俺の仕事が減ったはずなんだぞ!?」

・・・て、あんたが楽したいだけかよ!全く、人手が足りないと、上役に皺寄せが来るのはわかるけどさ。

「という訳で、今度、俺が直々にお前の実力を測ってやる。これまでの演習みたいに手を抜けると思うな。絶対、本気出させてやるからな。」

何か、楽しそうだぞ、日番谷隊長。・・・あ、そうだ、この人結構バトルマニアな所あったんだ。忘れてたよ・・・ていうか、思い出すんじゃなかった。

「返事はどうした。」

「はい・・・。」

 

 

 

数日後、俺は日番谷隊長の修行に散々付き合わされることになる。そして、今回の出動で仕事が増えた日番谷隊長は、雛森さんとの約束に支障をきたして、いろいろ大変だったらしい。

 

 

 

 

 

<コメント>

 ついに登場!マツの斬魄刀『葉月』!!でも名前だけ。能力は・・・一応考えてあるけど、まだ秘密ってことで。ただ心配なのは原作で同じ名前の刀が出てこないかと言うことであります。そしたら変えなきゃいけないかも・・・。マツ達の親については、まあ、もう亡くなっていますから、被っていようが何とでも言い訳が立ちますけども。マツの秘密が徐々に明らかになってきております。張りまくった伏線が全て暴露されるのはいつの日のことか・・・(遠い目)

 脇キャラ十番隊員の名前はかなり適当です。よくありそうな苗字を持ってきたつもりなので、深い意味はありません。もし同姓の方で不快に思う方がいらしたらすみません。全然活躍してないですし。何かオリジナル虚も出てきちゃいましたし。バトルシーンばっか・・・日桃はどうしたんだ自分!?あとちょっと恋ルキっぽい気がしてきました、書いてて。

 

 

2005/12/29 UP