ある死神による護廷十三隊観察記録7

 

 

 

 これはナナシ・マツの報告を元にある日の十番隊の光景を再現したものである。

 

 

 

 その日、十番隊の面々は書類仕事に忙殺されていた。これは別に隊長が処理をさぼりまくったとかそういうわけではなくて、単に十番隊担当区域で虚が大量発生した為である。それこそ隊長も平隊員も筆を持つ暇無く斬りまくりな日々が続いた。そうした努力の結果何とか臭いの元を処理して、虚の発生は鎮静化した。ところが詰め所に戻ってきた彼らを待っていたのは、溜まりに溜まった書類仕事の山である。ついでに、倒した虚についても被害状況の報告とか使用した備品の追加要請とかもあり、十番隊は総員てんてこ舞い状態だった。

 そんな中、食事をしに食堂へ行っている時間も惜しいということで、十番隊は詰め所で出前を取ることにした。そして昼食時。

「出前届きましたよ〜。えーと、天丼の人ー。」

「あ、俺です。」

「俺もだ。」

「俺、海老大きいやつ!」

「先輩、ずるいッス!」

「次、カツ丼ー。並べとくんで、取りに来てくださーい。」

「きつねうどんの方はこっちです。あ、この月見そば誰ですか?」

「ああ、それは俺だ。」

「私、おにぎりセットにしたんだけど、ある?」

「はい、これですよね。」

「飲み物配りまーす。お茶の人〜。」

「はい、俺。」

「俺も俺も。」

「アイスウーロン茶の人は?」

「あ、俺です。」

そんな感じでワイワイガヤガヤと配膳をしていた。そして・・・

「えーと、次は・・・牛乳?」

飲み物を配っていた一人がケースから出したそれに戸惑いを覚えた。何故なら、今日の昼食のメニューは皆、丼やうどん・そばといった所謂和食系のラインナップ。サンドイッチといったものを注文した者はいない。他の飲み物も緑茶・烏龍茶といった系統のものばかりだ。その中で唯一つ入り込んだ牛乳瓶。

(注文ミスか?)

そうは思ったが、一応皆に聞いてみることにした。

「すみませーん、牛乳注文した方いますかー?」

「俺だ。」

返ってきた声と、その主を確認して配膳をしていた死神は石化した。それを知ってか知らずか、相手は牛乳を手に、自分の席へと引き返そうとする。

「ひ、日番谷隊長・・・。」

「何だ、松本。」

「それ・・・海鮮丼、牛乳と一緒に食べるんです、か?」

かなり食べ合わせの悪そうな組み合わせに恐る恐る乱菊が尋ねる。

「一緒・・・というか、まあ、食うな。」

『えええええぇぇぇえええええ!?』

日番谷の答えに、十番隊員揃って絶叫。

「本気ですか隊長!?」

「隊長、そんなに趣味悪かったんですか!?」

「ひょっとして味覚音痴!?」

「将来結婚する時困りますよ、それは!」

「食の好みの不一致って充分夫婦の危機を招きますからね。」

「まさか雛森副隊長も!?」

「あ、でもそれなら心配ないですよね。」

「何の話だ、それは・・・。」

口々に言う隊員に眉根にさらに皺を寄せる日番谷。

「隊長、買い置き玄米茶(しかも高いやつ)しかないみたいなんですけど、それ淹れちゃっていいですか?」

そこに、執務室で棚を漁っていた隊員が一人、顔を出す。通常隊長用の執務室と詰め所を区切る為閉めてある襖は開け放ってあるので、本来なら筒抜けのはずの先程の遣り取りに気づいているのかいないのか、その隊員は平然と日番谷に話しかけた。

「おう。」

「あ、隊長、また牛乳飲むんですか?無理しなくても、成長期が来ればその内伸びますよ。」

「いいだろ、別に。俺の勝手だ。」

「まあ、それはそうですけど。」

「ちょ、ちょっと、ナナシ君。」

「何ですか、松本副隊長。」

あっさりと会話を流し、お茶の用意をする少年、ナナシ・マツに乱菊は内心混乱を起こしそうになりながらも話しかけた。

「何でそんな普通にしているのよ。さっきまでの皆の会話聞こえてなかったの?それにまた(・・)ってどういうことなの?」

「はあ、とりあえず、詰め所での会話は聞こえてきた部分で、話半分に。またというのは、俺の知る限り、最近、日番谷隊長は食後にいつも牛乳飲んでいらっしゃるので。」

(まあ、その割には身長伸びてないんだけどさ。)

内心そんなことを思いつつもマツは日番谷の名誉の為に黙っていた。

「心配しなくても、隊長はご飯と一緒に牛乳を食べるほど、味覚センスは堕ちていないから大丈夫ですよ。」

「そりゃどういう意味だ、ナナシ・・・。」

「状況がわかっていない隊長の為にわざわざ説明してあげたんじゃないですか。」

『・・・・・・』

マツと乱菊が話している間にも、日番谷はお茶を受け取る為に接近していた。しかし何気に失礼な発言をしているマツに日番谷は聞き咎める。それに対してケロッとした答えを返すマツ。はっきり言って怖いもの知らずだ。しばしの沈黙、否、睨みあい。そして彼ら以外の者もまた口を閉ざす。そして・・・

ガッ

「やるな、ナナシ。」

「生憎、荷物置いてる暇を含んだ動作でやられるほど、俺、甘くないですから。」

「ちょ、ちょっと!ナナシ君!?隊長も!!何してるんですか!?」

沈黙を破ったのは、刀の鞘と鞘がぶつかり合う音。即ち、日番谷が斬魄刀を抜かずに、切りかかり、同じようにしてマツが受け止めた、そういうことである。荷物を置いた云々は日番谷が手にしていた牛乳瓶と丼をテーブルの上に置いた動作のことを指している。そんな二人の行動に乱菊が彼らを慌てて止めようとする。

「てなわけで、俺もこのお茶飲んでいいですか?」

「いいだろう。」

『はい?』

日番谷とマツの遣り取りに外十番隊一同揃って頭上に?マークを浮かべていた。

「おい、どうでもいいが、さっさと食べないと、不味くなるぞ。特に麺類のやつ。」

マツから湯飲みを受け取りつつ、日番谷は動作が停止している隊員たちに声を掛ける。それに反応してワタワタと机につく一同。マイペースな二人を除いて、慌しく食事が始まった。

 

 

 

 粗方の食事が片付いて、日番谷は湯呑みを空にした後、例の牛乳瓶に手を伸ばした。蓋を外して、口をつける。

「日番谷隊長、カワイイ〜。」

「飲み方が小っちゃい子みたいだよね〜。」

女性隊員の何人かがコソコソと日番谷の様子を盗み見て、小声で黄色い声を上げていた。もし日番谷に気づかれたら氷輪丸を抜かれそうである。

「そういえば、日番谷隊長。」

「ん、何だ松本。」

「どうして牛乳を飲まれるようになったんですか?」

「・・・背を高くしたいから。」

ちょっと赤くなって、乱菊から目を逸らしつつも、日番谷はそう答えた。

「隊長がチビじゃいろいろと格好つかねーだろ。」

【隊長、やっぱり気にしてたんだ!】

その時、十番隊隊員の心は一つになったという。

「それにせめて雛森よりは高くなりてーし・・・。」

ポツリと漏らされた日番谷の少年らしい本音。

「た、隊長・・・。」

「そ、そこまでして・・・。」

「何か、もう、俺、隊長のこと大好きッス・・・。」

「俺もだよ・・・。」

総員目頭が熱くなるのを抑えられなかった。

「・・・て、何でみんなして、目頭押さえてやがる!?」

「た、隊長・・・頑張ってくださいね。」

「松本!?」

「俺、精一杯隊長のこと応援してますから!」

「これ、つまみ用に買った小魚です。ぜひ、食べてください!」

「俺達、隊長のこと大好きです!」

「お前ら一体何なんだー!?」

涙を堪えて、口々に述べる隊員たち。日番谷の叫びに答える者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

<コメント>

 鉄は早い内に打て、ネタは早い内に書け、ということで、水無月の中でBLEACHが熱かった時に書いたシリーズ第七弾です。いや、今も鎮火したって訳ではないですけど。

 今回は前回同様マツ側です。内容は十番隊の日常?日番谷隊長は隊員の皆さんに愛されているのだというお話。ていうか短い。セリフばっかだし。しかもありがちネタ。日番谷君は雛森さんとの身長差を気にしているっていうのは日雛サイトさんの中では定番だと思われます(笑)

 因みに今回彼らが出前を取った店はある一定の数を注文すると飲み物をおまけしてくれるサービスがあります。それにしてもマツと日番谷君、予想以上に仲良しに仕上がってます。何か普通にお友達っぽくなってる。おかしいな〜、設定ではちゃんと線引いてのお付き合いなはずなんですけど・・・。

 メモ代わりに残してあった完成日の日付を見たら、大分前だったので、ちょっと驚きました。

 

 

2006/06/15 UP